第四十七話 部活動
第四十七話 部活動
サイド 矢橋 孝太
正樹さんが転校してきた放課後、彼を含めて定員の十人はあっという間に集まった。むしろ先着順だったので、間に合わなかった人から『どうにかならないか』と聞かれたくらいだ。
彼らには『レンタル用のカードが揃ったらまた募集をかけるので、その時はあらかじめ連絡する』と伝えて帰ってもらった。
そして、入部してくれた人達には加藤先生立会いの下、契約書を書いてもらい、それが済んだら用意していいたカードと契約してもらう。
「おお、これが……」
「すげえ、これで俺もハンドラーだ」
「これで母ちゃんに楽させてやれる……」
皆、思い思いに自分のステータスを見て契約した使い魔を確認している。
「えっと、部長の矢橋です」
部員たちの前に出て口を開く。新入部員の中には正樹さんをはじめ二年生もいるので、一応敬語で話す。
「先ほど契約書を書いていただきましたが、写しをおわたしするので自宅で保存して下さい」
ちなみに、契約書の内容は以下の通りである。
●ロストした場合は申告し、部より回復用のカードを受け取る。回復はその場で行い、もし虚偽によりカードを勝手に売った場合は返済を要求する。
●ダンジョンに入る場合は部員二人以上でいくこと。部員同士であらかじめダンジョンに行く日を申告する。
●ダンジョンは契約している使い魔のランクよりワンランク下までとする。
●ダンジョン内で死亡、または負傷した場合自己責任となる。
というのを難しく書いた。
最後のは教育委員会とかに突っ込まれそうだが、見てもらった教師陣は意外とあっさり許可してくれた。それでいいのか。
どうやら、思った以上に世間のダンジョンに誰か行ってくれという感情は強いらしい。
あのモンスターが街を襲った一件から、冒険者を危険視する一方、戦力として、なにより間引き要員として欲する声は多い。
「契約内容を読み返し、違反することのないようお願いします」
部員たちの様子はまちまちだ。
一応教員の前だから聞いているふりをしている者。ステータスを眺めているのか目が合わない者。逆にやたら熱心にこちらを見てくる者。正樹さんをガン見する者。
「それでは皆さんまだ冒険者のライセンスは持っていないので、各自取得してからダンジョンに潜るとして、今度の土曜日予定がある人はいますか?」
部員たちは疑問符を浮かべるが、特に予定がある人はいないようだ。
「それでは、今度の土曜日―――駅に集合してください。『使い魔フリー』に行きます」
「ふう……」
とりあえず今日は解散となって、荷物をまとめていると部室に残っている人がいた。
「あれ、どうしたんですか?」
上級生だったので、滝沢が敬語で話しかける。
「いえ、部長と東条さんにお話ししたいことがあって」
眼鏡に三つ編みという委員長ルックな女の先輩が答える。横にいる真面目そうな先輩も同じ理由なのか頷いている。
「えっと、どういうご用件でしょうか」
とりあえず話しかけると、女の先輩が嬉しそうに笑顔を浮かべる。何故だろう。笑顔のはずなのにちょっと怖い。
「こ!………ここでお話しするのもなんですから、ちょっと寄り道でもしながらどうでしょうか?」
何故に敬語?
なんというか、この先輩怪しい。滝沢たちの目があるところでは話しづらい内容なのか。もしかして冒険者部の回し者か?
同じ回答に行きついたのか、滝沢と佐藤も警戒した顔に変わる。下山はスマホゲーをしている。暢気すぎない?
「ここで話せないようなことなんですか、先輩方」
佐藤が扉の前に立って問いかける。あ、あの顔は刑事ドラマっぽい事が言えてちょっとテンション上がっている顔だ。
「私としては構わないのですが……」
先輩の目が自分と正樹さんに向く。どういう意味だ?
「正樹さん」
心当たりがあるかという意味で目を向けると、特にないようで首を横に振る。
「なあ、別に構わないからここで話さないか?」
正樹さんの言葉に、先輩は少し迷った後頷いた。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。『聖女様』」
その言葉に、正樹さんがビキリと顔を引きつらせる。ああ、そっち関係の人たちでしたか。ちょっと遠い目をしそうになる。
「この度は聖女様とその腹心の聖人様がお創りになられた部活に入れた栄誉、大変い嬉しく思います」
そういって女の先輩が床に正座して頭を下げてくる、隣の先輩も同じ動きをしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。とりあえず頭を上げてください」
慌てて声をかけると、先輩方はゆっくりと顔を上げる。
「ああ、なんと慈悲深い……。やはりお二人こそ地上に舞い降りた救世主……!」
なんで???
どうしてそうなった。いや、自分や正樹さんを聖人とか聖女とか呼ぶ人がいるのは知っているけど、まさかこうして遭遇してしまうとは。
滝沢と佐藤が説明を求めて視線をよこすが、こっちだって説明してほしい。
「今回この部をお創りになったのは、聖人様に畏れ多くも歯向かう不届き者に対抗するためと聞き及んでおります」
え、待ってどこからその情報仕入れてるの?怖いんだけど。
「井沢という新参者が教団内で発言力を高めております」
いや誰だいざわって………もしかして井沢さん?
「その男は聖人様を思うなら表立って行動せず、密かに見守るべきと他の信者へ声高に言っています」
井沢さんだわ、たぶん。火消しに動いてくれと小沢さんに頼んだが、井沢さんにぶん投げたのか。
「ですが!我ら信者一同、いついかなる時でも聖人様の号令により動ける所存です!」
もっと頑張って井沢さん。あの要請の件は水に流すから超がんばって。
目が怖い。なんというか、こういうのを狂信者というのか。
「あの伊藤とかいう小僧の住所、家族構成、親の勤務先、登下校のルートも把握済みです!」
伊藤よ、逃げろ。わりとまじで命の危機だぞ。
「ま、待ってください。僕の話を聞いてください」
「はい!もちろんでございます!」
「あの、とりあえず、伊藤の件はこちらで対処するので、本当に、大丈夫ですから」
「……よろしいのですか?あの無礼者にいつでも誅を下す準備はできておりますが」
「大丈夫です。お願いだから手は出さないでください」
伊藤は嫌いだが、死ねとか人生がぽしゃれとかまでは思っていない。というかこのままだと伊藤だけに被害が収まるかわからない。
「承知しました。聖人様がそうおっしゃるのであれば……」
一応納得してくれたようなので、ほっと胸をなでる。
「あと、立って話しましょう。床も冷たいでしょうし」
「そんな!?信者として話す以上、そのような不敬をいたすわけには!」
そもそも信者自体やめてほしいんですけど?
顔が引きつるのを抑えながら、援護射撃をしろと正樹さんに視線を送る。
「…………」
あいつ目ぇ逸らしやがった………!
目で『うるせえ俺は心が疲れているんだよ』と言いたげだ。こちらにぶん投げる気か、そうはいかない。
「正樹さんからも何か言ってください。無関係ではないでしょう」
先輩方が同時に正樹さんに首ごと視線を向ける。息が合い過ぎて怖い。
「え、あー。うん。俺も立って話した方がいいと思うぞ。うん」
「聖女様まで……なんとお優しい。では恐縮ですが……」
ようやく立ち上がってくれた。
「聖人、と貴女方は呼んでいますが、自分はそんな存在ではありません。あの治癒力はただのスキルです」
「ちなみに俺があれだけの魔法をブッパ出来たのは孝太がバフ盛ったからだぞ。それもスキルの効果だ」
そう、自分は聖人なんかではない。強力なスキルを持っているだけだ。
命の危機に瀕していて、それを治療してもらった。彼ら彼女らはその時の安堵を神の奇跡からくる癒しの効果とかそんな感じに履き違ているだけだ。吊り橋効果みたいなものだ。
「いいえ、まだ貴方様方に自覚がないだけなのです。あれだけの力をもつスキルが、他にいらっしゃいますか?日本だけでも一億を超える人間がいるのです。同じスキルを持っていないことに、疑問をお持ちではないのですか?」
いや、単純に世界樹の加護持っていたらあまり大ぴらに使わないんじゃ?自分も大会で使ったりはしたけど、詳しい効果は話さなかったし。西園寺選手に使ったのは実験の為。正樹さんに使ったのはやむを得なかったから。避難所もそうだ。
だが、こんな能力を持っていることが広まれば、多くの人が『自分を治療しろ』『治療するだけの存在になれ』と言ってくるだろう。
それが嫌で隠している人も少なくないと思う。
「きっと他にもいますよ、隠れているだけで」
「そのような事はありません!貴女方二人は真にこの世を救う救世主なのです!」
どうしよう、この人会話が成立しない。
というかなんとなく僕よりも正樹さんの方にベクトルが向いている気がするし、そっちで対応してもらえないだろうか。
「俺は」
その時、突然もう一人の先輩が口を開く。
「俺の母親は、あの日、足を食いちぎられて死ぬはずでした」
あの日?避難所に彼もいたのか。いや、よく考えたら信者はほとんど避難所の人だから当たり前か。……いやな当たり前だ。
「それを、貴方に救われました。そして、この部活のおかげで、俺を一人で育ててくれた母ちゃんに楽をさせてやれます」
重い。感謝の感情はありがたいけど重い。そういう事言われると拒絶しづらい。
ちなみに、部活中得られたカードや魔石は本人の物になるので、たぶん中々の儲けになると思う。その辺先生は渋ったが、『冒険者部もそうしているので』で押し切った。
「だから本当にありがとうございます」
「い、いえいえ、そんなお気になさらず」
「そう!彼の母親同様私も死にかけていたところを助けていただきました!腹を抉られ、あと数秒で死ぬところを、御身の奇跡で復活したのです!」
眼鏡の先輩もすごい笑顔で言ってくる。どうしよう、こっちは全力で拒否したい。
「私の父もあの一件で勤め先を失いあわや一家離散でしたが、これで助かります!」
こっちも重かった……!よく考えたらモンスターの襲撃で命以外全て失ったという人もたくさんいるのだ。もしかしてそういう人達が信者化している?
だとしたら本当にやめてほしい。自分に彼らを救う力はない。
「え、というか、補助金とかは」
「………払う、とは言われていますが、まだ振り込まれていません」
嘘やん。
何してんだ日本。いや、そうか、全国で起きたんだったモンスターの襲撃。被災者が多すぎて支援が間に合っていないのか。
頼むから頑張ってくれ織田政権。
「ですから、お二人にはなんと感謝すればいいか……!やはり救世主!」
「救世主じゃないです」
心のよりどころにされても、その、困る。
困惑し続けていると、男子の先輩が眼鏡の先輩の肩を掴む。
「これ以上の長居はお二人の御迷惑になる。伊藤というガキの件を聞けたのなら、もう帰るべきだ」
「あ、それもそうね」
先ほどまでの様子から一変、眼鏡の先輩が落ち着いた表情にもどる。
「それでは聖女様、聖人様。本日はありがとうございました。いついかなる時も我らは貴女様方の声で動けます。どうぞ我らの命、存分にお使いください」
「失礼しました」
そう言って、二人は帰っていった。
「………疲れた」
椅子に座り込み、深いため息を吐く。
「なんというか……なんだあれ」
正樹さんも困惑した顔で扉を見ている。というかもっと喋ってほしかった。おかげで自分がほぼ対応するはめになった。
「なあ、思ったんだけどさ」
そこに、滝沢が話しかけてくる。
「なんだよぉ」
「あの信者の人達に伊藤の事頼めばよかったんじゃないか?」
「絶対にノー」
ありえない。彼らに頼るのは絶対にありえない。
「え、なんでだよ」
佐藤も疑問符を浮かべる。下山も『あ、話し終わりました?』とでも言いたげにスマホから顔を上げている。下山はもっと会話に参加しろ。
「逆に聞くけど、自分を聖人認定してくる新興宗教に関わりたいと思うか?」
「あー……」
「「好みの子がいれば」」
滝沢が察したように目をそらす。佐藤と下山はもうダメかもしれない。
「関わったら、むこうも関わってくる。僕としては何のアクションも仕掛けず、自然消滅してほしいんだ」
正直新興宗教という段階で関わりたくない。しかも聖人扱いとか、胃が死ぬ。
彼らもきっと一過性のものだろう。吊り橋効果だ吊り橋効果。だから放っておけばほとんどが忘れてくれるはずだ。
スキルの事については、まあ井沢さんに頑張ってもらおう。
「自然消滅ねえ……するかな、本当に」
「…………たぶん」
というか、してくれないと困る。変な格好で『我が信徒たちよー』とか言う自分は嫌だ。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想、励みにさせていただいています。
今後ともよろしくお願いいたします。
今回出てきた女の先輩信者は狂信が入っているので言葉遣いも変になっています。読みづらければ申し訳ありません。




