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第四十話 Aランクダンジョン

読んでくださりありがとうございます。

少し長くなってしまったので三十九話と四十話で分割しました。

第四十話 Aランクダンジョン


サイド 矢橋 孝太


 ダンジョンの中は紫色の霧で満ちていた。本来なら呼吸を一つ下だけで肺が腐り落ちる猛毒だ。

 しかし、世界樹の加護のおかげでなんともない。ユニコーン・バイコーンもそのスキルにより毒や呪いの類は受け付けない。

 だが、それでもこのダンジョンは今まで経験したどれよりも危険である事は一目でわかった。


「止まるな!進め!進めぇ!」


 隊長の声が響く。言われるまでもない。こんな危険地帯誰がいたいと思うのか。

 意外なほど広いダンジョンは洞窟のような見た目ながら、縦横共に五十メートル以上ある。だが、それでもせまく感じられた。

 岩肌を隠す『龍』の群れ。銀色に輝く鱗に蛇のような下半身。頭は魚類を連想させるぬめりを持ち、四つに避けて獲物を食らう。

 資料にあったAランクモンスター『ファフニール』。堅牢すぎる鱗に、ただそこにいるだけで吐き出す息は毒をもつ。このダンジョンが毒に満ちている原因だ。

 そんな化け物がダンジョン内に入り口だけで十匹以上いるのだ。たまったものではない。

 突入組は全速力で駆け抜ける。情報にあったボス部屋まで一切速度を緩めることはない。立ち止まれば囲まれて死ぬだけだ。

 ファフニール達がこちらに気づき這いずってくる。巨体に見合わぬ素早さに戦慄するが、こと足の速さにかけてはユニコーンとバイコーンは既存の使い魔のなかでも十指にはいる。一本一本が子供ほどもある牙や爪が届く前に疾風となってその場から離脱する。

 それでも、前方からくる個体は対処しなければならない。


「十一時の方向!数四!」


 自衛隊員の一人が大声をあげる。見れば、斜め前からこちらに突っ込んでくるファフニールが四体もいた。


「迎撃班使い魔を展開!やつらをどかせ!」


 一部のメンバーが己の使い魔を召喚する。それは炎を纏った龍であったり、紅蓮と似たような水を使う騎士であったり、全身に紅い入れ墨を刻んだ黒い毛並みのオークだったり、統一性はない。

 だが、たった一つの共通点。それらは紅蓮と比較してなお『強い』と言わざるえないこと。おそらく、同格の使い魔達。

 迫りくるファフニール達をその使い魔達は強引に殴ってどかす。撃破は考えない。それをするにはあまりにも頑丈過ぎる。

 使い魔に押し出されたファフニール達の隙間を縫って全員突破する。馬なんて乗った事もないため手綱を握って体を小さくしていることしかできないが、通常の馬とは異なるバイコーンは勝手に判断して走ってくれる。


「突破した!迎撃班は使い魔を戻せ!次に備えろ!」


 後方で戦っていた使い魔達が戻されるのが戦闘音でわかる。

 これが戦術ともよべない強引な方法であるが、ダンジョン内を最小限の力で進むため考えられた作戦だ。

 ひたすら逃げる。走る。戦いは最小限。

 自分達の目的はモンスターの狩りではなくボスモンスターの撃破。故にそれだけに注力する。

 恐怖で歯ががちがちとなる。紅蓮に匹敵するモンスターの群れの中を走るのだ、怖がるなという方が無理な話だ。

 それでも絶対に止まれない。止まればその瞬間、死ぬ。


 道中何度も前方からのファフニールに遭遇した。十から先は数えていないが、たぶん五十近くだと思う。

 突入してから一時間、ようやくボスモンスターの前までたどり着いた。

 時速にして二百キロ以上をだすユニコーン達が全力で走ってきてこれだけかかったのだ。いくら道が歪だったとはいえ、ダンジョンの広さがうかがえる。

 使い魔達も疲弊しているが、ハンドラーたちもそれぞれ倒れ伏しているのがほとんどだ。世界樹の加護による再生力がなかったら今頃全員内ももと尻が大変なことになっている。

 立って最後の会議をしている自衛隊の特殊部隊がおかしいのだ。ただ馬に乗るより遥かに負担があったはずなのに、どういう体しているんだ。


「大丈夫か、孝太」


 いや、自衛隊以外にも平気そうな顔をしている人がいた。東条選手だ。

 うっすら汗をかいているがそれだけで、息も乱れていない。


「少し、休めば、大丈夫になります………」


 幸い、ボス部屋の前にファフニール達はいない。ゆっくり休めるだろう。


「それにしても、変なところだな、ダンジョンってやつは」

「そうですね。まああんなのがうようよいるのが普通だったら生きていけませんけど」


 だが、もしこの作戦が失敗したら地上にファフニールのようなモンスターが出てくる可能性もあるのか。

 とてもじゃないが人類の生存圏は残らないだろう。戦車砲でも傷つきそうにない頑丈さに広範囲の毒の息。生物というよりもはや兵器だ。


「まあ、思ったより明るくて安心したよ」

「そうですね、暗がりでってなったら絶望しましたよ」


 このダンジョンの中は昼間ほどではないが視界を確保できるぐらいには明るい。

 というのも、壁に金銀宝石が埋め込まれ、それが怪しい光を放っているのだ。比喩ではなく物理的に光っている。

 自衛隊の資料ではこの光はトラップの一種で幻惑の力があるらしい。世界樹の加護などで対策をしていないとこの財宝に吸い寄せられてしまう呪いがある。

 財宝に目がくらんで足が止まったところをファフニールがガブリ、というダンジョンだ。シンプルだけどえぐい。

 毒対策だけでは財宝にやられ、呪い対策だけでは猛毒で肺が腐る。状態異常対策だけやっても純粋にファフニールの力と数に潰される。このダンジョンを考えた奴は絶対に性格が悪い。というか毒の強さを考えると踏破させる気がないようにしか思えない。


「ま、お前のおかげだよ、ここまで来れたのは」

「僕のスキルだけじゃありませんよ、迎撃班と隊長の指示があったからです」


 謙遜でもなく事実だ。迎撃班が魔力を消費してファフニールをどかし続けなければどこかで死んでいたし、隊長がファフニールが迫りルート変更を余儀なくされても冷静かつ的確に道を指示してくれなければ、ここまでたどり着けなかった。


「だな。ボス戦では俺も働かせてもらうよ」

「めちゃくちゃ期待していますので死なない範囲で頑張ってください」

「おう」


 東条選手の話が本当なら、彼の能力はこの部隊のエースと言っても過言ではないかもしれない。

 国内でもトップクラスの使い魔達が揃っている中最強候補が一応人間とは、とんでもない話である。まあ種族的には人間扱いで正解か微妙だが。


「皆、そのまま聞いてくれ」


 作戦会議が終わったのか、隊長が話をはじめる。


「諸君らは、間違いなく我が国の最高戦力だ。我が国の至宝だ。我が国の誇りだとも。ここまで誰一人としてかけることなくたどり着けたのは、ひとえに君たちの優秀さゆえだ」


 隊長が拳を握り、それを掲げる。


「だからこそ、勝って帰るぞ。我らに敗北はありえない。ここにいる一人一人の双肩に日本が、一億を超える民の命がかかっている!」


 突入班はある者は誇らしげに、ある者は緊張した面持ちで隊長をみる。


「この奥に控える化け物の首を手に!勝利の凱旋を行う!同胞たちよ、戦の時だ!」

「おおお!」

「お、おお!」

「しゃぁあああああ!」


 隊長が拳を突き上げるのと同時に、隊員たちも叫ぶ。一般組も少し遅れながらも雄叫びを上げる。自分も、その一人だ。

 別に演説に感動したわけではない。ただ、叫びたかったのだ。

 これから行くのは先ほどまでの死地とはまた別の危険地帯。こんどこそ死ぬかもしれない。

 だから叫ぶのだ。恐怖を誤魔化すために。隊長もそれが狙いで演説をしたのだろう。


「では行くぞ。各員、準備はいいな!」

「「「はい!」」」

「だ、大丈夫です」

「たぶん、はい」

「いけます」


 声をそろえて返す隊員たちと違い、一般組はそれぞれ返事をする。自分も装備のチェックをしておく。うん、たぶん大丈夫だ。

 それら一つ一つに耳を傾けた後、隊長が門の前に立ち、使い魔とともに扉をあける。


「紅蓮」


 それに合わせて全員が使い魔を召喚する。

 先ほどまで叫ばないとやっていられないぐらい緊張していたのに、目の間に紅蓮の背中があるだけで安心する。

 こいつとなら、絶対に生きて帰れる。そんな確信がある。


 扉を開けた先、東京ドームほどの広さがある空間に、そいつはいた。

 ゴーレムを上回る巨体。それを覆う氷の鎧は分厚く、強度はきっとファフニールのそれに匹敵する。

 手に持つは斧と槌。どちらも巨体に見合った大きさを持ち、一撃で大地を粉砕するだろう。

 青い皮膚に白銀の髪と髭。吐く息は氷となってダイヤモンドダストになっている。

 荘厳にして強烈。ただそこにいるだけで見も心も凍てつかせる氷の巨人。たった一人で地上を氷河期に返すであろう、巨人の王。

 霜の巨人、スリュム。北欧神話に語られる自然の具現。それが今、目の前に試練として立ちふさがっていた。




祝!ブックマークが百件をこえました。本当にありがとうございます。とても励みになります。今後もよろしくお願いいたします。

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