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第三十六話 その後

第三十六話 その後


サイド 矢橋 孝太


『現場の吉田です。―――市では未だ行方不明者の捜索が行われており、自衛隊も参加しての救助活動が行われています』

『今回のモンスターがダンジョンからあふれ出してきた事件について、未だ各国政府から正式な発表はありません。与党の官僚からは神の裁きという声もあり』

『現在確認されている国内の死者は五万二百八十二人です。行方不明者は三万人をこえているらしく、捜索が行われています。名前は―――』

『空からさ、でかい鎧が降ってきたんだよ。そしたら炎があたりを包んでさ、ああ、これは死んだなって思ったら化け物だけ焼けていて、その鎧もいなくなっていたんだ。ありゃいったい』

『国会の前には多くの市民が総理にこの事態について説明を求めて集まっています。今川総理には一刻も早い説明と、事態の収拾。なによりも負傷者や行方不明者の救助が求められます』


 自宅のテレビを消して、ため息をつく。当然ながら、金崎大臣の孫を先に救助したとかについてはやっていない。というかその件について自分は調べられていない。その余裕がなかった。

 あの事件からもうすぐ二週間がたとうとしている。うちは被害がなかったし、電気も一週間前に復旧した。

 被害のひどかった場所では自衛隊や無事だった街からの応援が多数駆け付け、復興や行方不明者の捜索の為頑張っている。父も一時間前まで手伝っていたところだ。自分は病院の方に行っていた。

 というか、魔力切れで倦怠感がすごい。あとポーションの飲みすぎでお腹も辛い。なにより、精神的にきつい。

 避難所の一件で近所の人に自分が破格の性能をもった回復系スキルの使い手と知られてしまい、ここ最近めちゃくちゃ酷使されていた。

 野戦病院みたいになった病院の前でひたすらスキルで手足を失ったり内臓がなくなっている人を治療し続けた。

 医師免許をもっているわけでもない高校生が治療を行っている。しかもスキルを勝手に使ってだ。本来ならすぐに補導されるだろう。

 だが、警察にはそんな余裕ないし、そもそもそんなことをしたら負傷者やその家族に殺される。

 自分のスキルはそれだけの力を持っている。だが、それでも死人までは救えない。

 自分のところにくるまでに既にこと切れている母親を背負ってきた若者。首のない父親を揺らして起こそうとする小さな子供。腹から下のない妻の手を握って動かない老人。

 今思い出しただけでも吐き気がする。責めるような視線がつらい。いや、責められていると勝手に思っているだけではないか?自分が悪いのか?

 ぐるぐると何度も同じことを考える。また、大きなため息をついた。


「その……大丈夫か、孝太」

「父さん……」


 よかったことといえば、両親が昔の様に戻ってくれたことだ。

 吊り橋効果、といえばいいのか。紅蓮がやってくるまで使い魔たちと一緒に懸命に生き残ろうと戦っていたらしい。

 だが多勢に無勢と次々使い魔が倒れ、二人は死を覚悟したらしい。それでもお互いをかばい合って、その愛を思い出したとか。ちなみにその直後紅蓮が到着して周囲のグールを一掃したとか。

 なんというか、両親の仲が良くなったのはいいのだが、時々小指を絡め合ったり、意味深に見つめ合うのはやめてくれ。

 今はご近所さんが家を失ったり行方不明だったりで『そういう』空気は自重しているようだが、これは落ち着いたらたいへんな事になるかもしれない。

 大変なことになると思う理由は、二人が使い魔を返そうとしてきたことだ。


「孝太、本当にすまない。お前に預けてもらっていた使い魔を、自分の力だと思っていた」「私も、間違っていたわ。何よりも家族が大事だなんて当たり前の事を忘れているなんて………」

「いいや、そうしてしまったのは私のせいだ。私の態度が、君をそうさせてしまった」

「違うの。貴方は悪くないわ………」

「違う、私が」

「いいえ、私が」


 という一幕があった。途中からじっと見つめ合っていて気まずかった。この年で両親のそういうのはきつい。しかも見た目普通の中年である。

 あと、使い魔の返却は拒否した。契約を一度解除してしまったら再契約しても記憶も人格も別物になってしまう。なにより、そもそも両親の護衛としてわたしたのだ。今こそ必要なときだろう。

 そう説得して『ブーステッドツリー』でロストから回復させて、有事の際には迷わず召喚するよう伝えておいた。

 閑話休題。


「その、気にするな………って言っても無理なんだろうが」

「大丈夫だよ。慣れはしないけど、今日でもう来なくていいって言ってもらえたから」


 こちらを呼び止める声は多数あったが、現代医療でどうにもならない人の治療は終わらせた。病院のお医者さんから、今までありがとうと頭を下げられて帰ってきたのだ。


「もう少し休んだら、友達とあう約束をしてるんだ」

「それなら、いいんだが。すまない、力になってやれなくて」

「そんなことはないよ」


 昨日は父も一緒に病院に来てくれたのだが、『なぜ治してくれないんだ』と軽症の人が掴みかかってきたのを父が止めてくれたのだ。

 まあ、父は見た目通り普通の会社員なので体格のいい相手に怪我をしてしまうと心配したのだが、どこからともなく他の人たちが間に入ってくれて事なきをえた。

 なんか、『我らが聖人に』とか聞こえたがきっと幻聴だろう。

 だが、かばおうとしてくれた父にも、こちらの行動に感謝してくれている人がいることも、たまらなく嬉しかった。


 いつもの公園はなくなってしまったので、別の公園に集まった。普段なら他の利用者もいるかもしれないが、今は自分達以外誰もいない。


「よっす。無事だったか」

「いや、電話で無事は確認してたろ」

「まあ、実際会わないとちょっと不安なのはわかる」


 どうやら到着したのは自分が最後だったらしい。


「それはそれとして、矢橋、本当にありがとう」

「ああ、お前のおかげで助かった。本当にありがとう」

「ちょ」


 突然二人が頭をさげてきて対応に困る。まあ、何かしたのは事実だが、壁とゴーレムをわたす以外できていないというのも事実だ。


「顔を上げてくれ。本当はもっと戦力を送るべきだったのに、僕は両親を優先したんだ」


 そう、自分の最高戦力である紅蓮は、両親のもとに送ったのだ。そこまで感謝されるのは寝覚めが悪い。


「いや、お前が考えている以上に、助けられたよ」

「ゴーレムと金剛が作ってくれた壁がなかったら、俺も家族も死んでいた」


 だが、二人とも顔を上げてくれない。そこまで恩に感じてくれているのか。

 これがジュースをおごったとかそういうので感謝されるならともかく、命をどうこうというのは、なんというか、重い。


「わかった、わかったから頭を上げてくれ。逆にいづらくなる」

「そういう、ことなら」


 二人ともどうにか顔を上げてくれた。ほっと息をつく。


「それと、ゴーレムをロストさせたことも謝らないと」

「だから、出世払いでいいって。利子はなしにしとくから」

「すまない、助かる」


 佐藤に手をひらひらさせて気にするなと伝える。


「というか、お前の家大丈夫だったのか?テレビ見た感じキラーアント達の進行方向だったみたいだけど」

「どうにかな。使い魔達が頑張ってくれたよ」


 あれはマジで危なかった。紅蓮無しだとここまできついのかと。まあ、それでも皆頑張ってくれたが。

 こういう時、攻撃系のスキルをもたない自分がもどかしい。いや、まあ人間の使う攻撃魔法なんてたかがしれているが、ついそう思ってしまう。


「そういえば、避難所で大活躍したみたいだな」

「は?」


 滝沢の言葉に疑問符をうかべる。なんでこいつがその事を知っているんだ?特に周りには避難所に救助しに行ったとは言っていないはずだ。


「あ、お前、ネットでやばい事になっているぞ」

「え、ネット?なに、なにがおきてるの?」


 佐藤がスマホを見せてくる。

 そこには、東条選手と一緒に壁の上に立っているところが写されていた。


『避難所の救世主たち!』

『救助が来るまで避難所を守った聖女とその仲間』

『謎の冒険者Kの正体』


 そんな見出しがついたネットニュースがちらほらと。


「………うそやん」

「残念だったな。事実だ」

「すごいぞ、なんかお前を聖人認定してあがめている集団もあるって噂になってる」

「うそやん」


 もう、それしか言えなかった。


 あの後帰ってから色々調べてみたのだが、マジで噂になっていた。今のところ名前まではばれていないが、地域と顔が特定されているのだ。完全に把握されるのは時間の問題だろう。


「ど、どうしよう」


 功名心がないと言えばうそになる。誰だって称賛されたいし有名になりたいはずだ。

 だが、今この時はまずい。

 学校が再開すれば、たちまち自分がKであることが広まるだろう。そして、生徒の中には『自分が助けなかった、助けられなかった生徒』もいるはずだ。

 そういう人たちが自分を恨む可能性があるし、それに便乗して出る杭は潰すというのもいるかもしれない。

 あと、伊藤をはじめとしたAグループに絶対目を付けられる。いや、目を付けられるだけならいいが、いじめの標的にでもされたらたまらない。

 学校という狭い社会では、冒険者のランクとか使い魔の強さはカーストを決める一要素でしかない。自分にAグループ相手に立ち回る能力なんてない。

 感謝してくれるのはありがたいが、できればひっそりと、でも自分にだけ伝わる感じにしてほしい。

 そう思いながら頭を抱えていると、部屋がノックされる。


「はい?」

「孝太、すぐにリビングにきてくれ!」


 父の焦った声に、つい警戒してしまう。急いでリビングに向かうと、両親ともテレビを食い入るように見ていた。


『これより、政府から今回のモンスター事件について説明があります。知りうる全ての情報を開示するという話で、先進七カ国同時に発表するとのことです』


 マジか。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゴーレムのロストはなぜ回復しないのか?
[一言] 「功名心がないと言えばうそになる。誰だって称賛されたいし有名になりたいはずだ。」 治療で功名心あげても、こき使われるだけのように思えるよ。
[良い点] 人間の醜い自己中が良く描かれていて、いるいるどうしようもない奴がと共感できた。 細かい背景や他県等気になるところは多いものの、読みやすいと思います。
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