第二十九話 それぞれの過ごし方2
第二十九話 それぞれの過ごし方2
サイド 矢橋 孝太
両親の旅行が決まり、旅館の予約とかも済んだ。
カレンダーを見て思ったのだが、ダンジョンが現れてもう二年近く経つのか。その間に世界は大きく変わった。
まず使い魔関係の会社が増えた。使い魔の買い取りと販売は勿論、レンタルもあり、変わったものだと美形の使い魔をモデルや役者に起用するところもあるとか。
医療についてはこの前ポーションが正式に保険適用されたらしい。外傷を治すものから毒や病気を治すものまで様々だが、作り方はスキルで分かっても『なぜそうなるのか』が未だ解明されていない。なのに医療品として認めるのはいかがなものかと議論は続いていると、ニュースで言っていた。
エネルギー問題は紆余曲折の果て、直接電池代わりにするより魔力を流し込むと魔石が発熱するのを利用して水蒸気を発生させるのが一番効率がいいとなった。
これにより地球温暖化に大きく歯止めがかかるうえに、脱原子力の足掛かりにもなると世界中で実用化が進められている。
魔石はエネルギー問題だけでなく、農業にも影響を出していた。粉末状にして肥料代わりに畑にまいて実験した大学があるらしいのだが、従来の肥料を使った場合と変わりない発育が認められたうえに、本来生育に適さない土でも安定して作物を作れるとか。これは、もしかしたら日本の食料自給率を上げるきっかけになるとテレビで大学の教授が熱弁していた。
これら以外にも、ダンジョンで得られた経済的な利益は数多く存在する。ダンジョンバブルと称す人もいる。
だが、逆にダンジョンができて不利益を被った人たちもいる。
ダンジョンが自宅周辺にできてしまったが故に立ち退かなければいけなかった人たち。
魔石によりエネルギー問題が解決するのはいいが、現存する原子力発電所の処理と、それまでの維持にかかる費用と人手。肥料代わりにというのも、元々肥料を扱っている業者からしたらたまったものではない。
建設業や俳優業、その他もろもろ、使い魔とダンジョンに職を追われた人は日本だけでも数知れず。失業率は前年の何倍だったか。
そうして働き先をなくした人たちが、なけなしの貯金を崩して使い魔を購入してダンジョンに潜る。
冒険者が増えれば魔石や使い魔のカードが増えて失業者が増える。
そんなサイクルが、いつの間にか出来上がっていた。
もし、突然ダンジョンに異変が起きてしまったら、いったい社会はどうなってしまうのだろうか。
まあ、そういう難しい事は大人たちに頑張ってもらおう。高校生なうえに選挙権も持っていない自分にはどうしようもない。
経済がどうこう語ったのは、単純に自分が大きな買い物をしたからだ。
「どぉりゃぁぁぁぁあああああ!」
稔が普段ののほほんとした態度からは考えられない雄叫びを上げているが、さすがにもう慣れた。
振り下ろされたメイスと衝突したのは、ゴーレムの巨大な拳だ。
今まででも指をへし折ることができていたその一撃は、なんと拳そのものを砕くことに成功していた。
よろけるゴーレムに、稔が足に横薙ぎの一撃をいれようと迫る。しかし、なんとゴーレムは上に跳んだのだ。
巨体に見合わぬ軽快さ。これがゴーレムが接近戦なら間違いなくCランク上位と言われる所以だ。
あわや落下してくるゴーレムに踏み潰されると見えた稔は、なんと迎撃にうってでた。
「だぁらぁああああああしゃっあああ!」
稔が両手で振り上げたメイスとゴーレムの足の裏が衝突。もう片方の足が地面についたというのに、稔は足元を踏み砕きながらも耐えている。
拮抗は数秒。結果は稔が押し勝ち、ゴーレムの足を跳ね上げた。
完全にバランスを崩したゴーレムは壁に衝突し、しりもちをつく。そこへ稔はゴーレムの体を駆けあがり、頭めがけてメイスを振り下ろした。
「勝ったぁぁぁぁあああ!」
メイスを振り上げて喜ぶ稔の両手には、赤い籠手が装備されている。そう、何を隠そうダンジョン産の魔法の装備だ。
ネットで見つけた時は目をむいた。装備カード自体めったに出品されないのに、効果は装備者の筋力と耐久を一段階上昇とシンプルに強い。一瞬詐欺かと思ったが、政府公式のサイトで今のところ詐欺被害にあったという話は聞いたことがない。
だが、相応に値段が高かった。なんと、一千万もしたのだ。サキュバスかなにかかと言いそうになった。
だが、今を逃せばいつ手に入るかわからない。紅蓮に金剛と強力な使い魔を連れている自分に今更必要なのかとも考えたが、紅蓮とレイナの意見からして稔の強化はした方がいいはず。
血を吐くような思いで、カードを落札し、稔に装備させた。今回はその試運転である。
籠手をつけ、自前のスキルと世界樹の加護によるバフによって、稔の筋力は一時的に紅蓮なみとなった。上がったのが腕力だけなのか相変わらず足は遅いが、前衛の火力と防御力が上がったのはでかい。
ちなみに、自分は後方で待機し、護衛としてフェリシアとレイナ、金剛に守られている。紅蓮は、音につられてやってきたゴーレム達を相手に無双していた。
背後からまで来られては対処しきれないと袋小路で戦ったのだが、これ逆に自分から逃げ場なくしていないだろうか。
その日は結局、紅蓮がゴーレムを百体切りするまで帰れなかった。おかげでゴーレムのカードが三枚も手に入ったのだが、二度とやらないと誓った。
ちなみに、ゴーレムはまだ売らないことにした。というのも、ゴーレムのカードは重機代わりに使えると人気なので、もう少し待ったらもっといい値で売れるかもしれないと思ったからだ。
「クリア」
レイナがそうつぶやいて、素早く部屋に入っていく。
自分達は今、グールのダンジョンに来ていた。理由はレイナがまたリアルゾンビゲーがしたいと言い出したからだ。
だが、今回はレイナだけではない。
「警部、弾薬がそろそろ心もとないです」
「くっ、私のマグナムもあと四発しかない……!」
茶番に付き合っているのは、なんとフェリシアだ。なんでも、ゾンビゲー限定でよく二人で協力プレイをしているらしく、その会話の流れで今回一緒に脱出ごっこをする事になったとか。
ちなみに、使い魔は自分の服を念じただけで変えることができる。流石にメイド服では場にそぐわないと、別の格好だ。
ただし、何故か巫女服である。いや本当になんでだ。似合うけども。
ちなみにレイナは赤いキャップに緑のタンクトップ。紺のホットパンツだ。ぶっちゃけエロい。
今回もKの恰好で紅蓮を傍に控えさせながら武器屋をやっているのだが、これ必要なんだろうか。
「ひっひっひっ、お困りのようだね、特殊部隊の隊長さん」
いかにも物陰から出てきましたという感じで登場する。どうでもいいけどこの笑い方妙にしっくりくるな。
「お前は……!?」
「そう警戒しなさんな、隊長さん。あっしはただの武器屋。金さえ払ってくれるなら誰にだって武器を売るさ。政府の犬にも、テロリストにもねぇ」
「くっ、貴様、『組織』の情報をどこまで知っている!」
「さて、あいにく情報は商品にしていないのさ。銃弾を買うか、買わないか、どっちにするんだい?」
苦虫を噛んだような顔でレイナとフェリシアがこっちを見てくる。どうしよう、普通に傷つくんだけど。
「隊長……」
「やむえん。大義の為だ」
「ひひ、毎度あり」
「この蛆虫め……!」
「いずれ報いを受けさせるぞ、俗物」
本心じゃないよね?お願いだから本心じゃないよね?
かなり不安になったが、その日の夜は二人がかりで甘やかしてくれたので、大丈夫だろう。決して自分はちょろくない。
金剛は最近、木彫りにはまっている。
DIYのテレビ番組に興味を持っていたので、店で人の頭ぐらいある木材とごつい彫刻刀みたいな道具を買ってきて与えてみたら、嬉々として彫り始めたのだ。
最初は別に買ってきた本に書いてある初心者用のものを作っていたのだが、あっという間に上達して今ではかなり凝った人形を作るようになった。
躍動感のあるドラゴンやユニコーン。この前はチェス盤から駒までかなり出来のいいものを彫っていた。
そのチェス盤と駒を使って使い魔達とチェス大会をしたのだが、当然のように一位は紅蓮。次に金剛とレイナが熾烈な二位争いをし、その次にフェリシア。自分と稔は最下位争いをしているのだが、若干押されている気がする。
君ら本当に接待プレイとかしないね。いやいいんだけど。
ちなみに、金剛には夜に字を覚えさせるため絵本の読み聞かせをやっているのだが、何故か紅蓮も一緒になって聞いている。たまに金剛にドヤ顔(っぽい雰囲気)で字を書いて見せたりしているのだが、あれは弟か妹に対する感情なのだろうか。一人っ子なのでわからない。
その紅蓮はというと、趣味で将棋やチェス、囲碁をやっているのはいつものことなのだが、武術の訓練もするようになった。
訓練と言っても、ネットで見た武術家の動きをなぞるのだけなのだが、これが試してみると難しい。
隣で少しだけやってみたのだが、全然イメージした通りに体が動かず最終的に足をもつれさせてこけた。
対して、紅蓮はあっさりと動きを完璧にトレースしていた。ただし、あくまで型を覚えるのに集中しているのか、ものすごくゆっくりハルバートを振っていた。
だが、まだ本人は満足していないらしく、『自分の体格と武器にあったものに仕上げるにはかなりかかりそうです』とボードに書いていた。
ぶっちゃけ自分には全然わからない。空手とか柔道とか習ったら少しはわかるのだろうか。
学校の昼休み、中庭の端で弁当を食べながら、二人に使い魔を普段どういうふうに過ごしているのか聞いてみた。
「使い魔との過ごし方?」
「休みの日とか?」
二人は不思議そうに首を傾げた後、声をそろえて言い放った。
「「朝から夜まで空いた時間があったらS●X」」
「ごめん、ちょっと想像したくない」
ただでさえ友人の性事情とか聞きたくないのに、こいつらの使い魔はマリー先生とリザだ。特殊すぎる。
聞いておいてなんだが、食欲が失せるのでやめて欲しい。
「なんだよ、じゃあお前はしてないのかよ」
「いや、そりゃあ夜とかはするけど……こう、一緒にゲームしたりとか」
「うーん、うちのリザは爪があれだからあんまり趣味を見つけづらいんだよなぁ……」
「ああ、俺のマリーは編み物が好きらしいな。よく何か編んでるぞ」
なるほど、編み物は凄く想像しやすい。というか、そうか。リザはリザードマンなので人間が考える娯楽の類は難しいかもしれない。
「なにか見つけてやりたいんだがなぁ……」
「確かに、なにがあるかな……」
「ちょっと浮かばないな……」
三人そろえば文殊の知恵というが、残念ながらこの三人では文殊に届かなかったらしい。まあ、そのうちなにか見つかるだろう。
「あ、そういえばこの前あった井沢さんにいいバイト紹介してもらったんだよ」
「井沢さんに?」
「え、誰それ」
そういえば、事情を説明した時、やけに滝沢について聞かれた気がする。
「そうそう。なんでも『鑑定』もちは少ないらしくてさ。ドロップアイテムや魔石の鑑定をやってみないかって誘われたんだよ」
「マジか。けどそういうのってかなりブラックってきいたけど」
「ねえ、だから井沢さんって誰」
あくまでネット上の噂だが、『鑑定』スキルもちによってダンジョン産のアイテムが本物か、またどういう効果をもっているのか調べているらしいのだが、その業務時間がかなりきついらしい。
時給のよさにほいほいつられたら給料を使う暇がないぐらいブラック業務が続き、残業地獄からの三徹とかざらにあると言われている。
「俺もそういう噂きいて敬遠していたんだけどさ、きちんとした業務時間のとこ紹介してもらえたんだよ」
「だから誰だよ」
「マジか」
「これでDランクカードどころかCランクのカードだって買えるかもしれないぜ」
滝沢が自慢げに胸をはる。
「お前ら、わざとか?」
「「気づいたか」」
「おう泣くぞこら」
佐藤が肩パンしてくるが甘んじて受ける。フハハ、スキルのおかげでマッチョになった自分には対して効かん。
「井沢さんはまあ、ダンジョン関係の政府の人?みたいな」
「矢橋から紹介されたけど、その経緯は話せん」
「え、なにそれ怖い」
例のごとく例の様に東条選手の一件は他言無用とされてしまった。契約書も書かされたので、詳しく話すわけにはいかない。
「それより佐藤、すまん。お前とダンジョンに潜る時間減るかも」
「あー、だよなぁ」
正直、噂できいた『鑑定』スキルもちの時給を考えると、普通にEランクダンジョンを潜るより儲かるかもしれない。
「まあ、しょうがないさ。俺も次の休みに新しい使い魔買いに行く予定だから、お前のいない日でも潜れる」
「え、どんな使い魔なんだ?」
「ふっふっふ、きいて驚け、山姥だ」
ああ、そういえば前に買いたいって言ってたな……マジで買うのか。
「性癖に正直すぎる……」
「なんだよ、いいだろうが、どうせそろえるならハーレムだろ」
言いたいことはわかるが、どうにもその性癖は理解できそうになかった。




