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第二十三話 Bランク冒険者

第二十三話 Bランク冒険者


サイド 矢橋 孝太


 次の週、Fランクのダンジョンに父と来ていた。


「別に、ついてこなくてもいいだろう」

「いや、こんなんでも冒険者では先輩だから、万一に備えてついてかないと」

「子供じゃあるまいし……」


 めっちゃ不満そうだ。そりゃあ子供に授業参観の逆やられたら、やりづらいだろうなと思う。

 だが、それでも父からは慢心が見て取れる。まあ、自分もわりと慢心しているほうだが、ここまでではないだろう。なんせ父は講習所以外では初のダンジョンのはずなのだ。

 受付をすませ、ダンジョンに入って使い魔を呼び出す。


「ジャスミン」


 父はエルフのジャスミンのみを召喚した。やはり魔力量的に今は一体が限度だろう。

 こちらは邪魔になってはいけないし、かといって積極的に狩ってはいけないから紅蓮と金剛のみである。

 金剛は今日までに二回ほどならしでDランクダンジョンで戦ってもらったが、かなりのパワーファイターぶりを見せてもらった。頑丈さも紅蓮からお墨付きをもらっているし、速さもレイナ並なので中々のものだ。このランクのダンジョンで護衛として紅蓮と一緒にだすには過剰戦力な気がするが、念には念を入れなければ。

 ジャスミンがぎょっとした顔で紅蓮と金剛をみやる。まあ、威圧感凄いもんね、この二人。


「どうした、ジャスミン」

「いえ、なんでもございません」


 父が疑問符を浮かべてジャスミンに問いかける。なんか距離近くないか?いや使い魔と仲がいいのはいい事なのだが、嫌な予感がする。

 ちなみにジャスミンは銀髪のモデル体型な美女だ。


「じゃあ、早速行くとしよう」


 そういって父がずんずんと進んでいく。慌ててジャスミンがその数歩前を歩く。

 今のはだめだろう。使い魔の前を歩いては不意に物陰からモンスターが出た時どうするのか。

 だが、開幕注意するのもどうかと思う。それに息子から指摘されたらいい気はしないだろう。今後も同行するのにへそを曲げられたら困る。

 それに父も自分のミスに気付いたのだろう。以降は常にジャスミンの少し後ろを歩くようになった。

 攻略自体は順調に進んでいく。やはりFランクにCランクのエルフを連れてきた段階でこうなるとは思っていた。なんならフェアリーとリビングアーマーの組み合わせの方が余裕をもっていけたかもしれないが。

 薬草や魔石などのクエストは今日一日でクリアすることができた。ただ、歩き疲れたのだろう、父は肩で息をしている。

 Fランクダンジョンといっても広さは東京ドーム四つ分ぐらいあるのだ。そりゃあ疲れる。

 今日は薬草と魔石の納品だけで終わりとなった。


「ほら、大丈夫だっただろう」


 父が自慢げに言うが、Fランクダンジョンをまだ攻略すらしていないのだ。そこまで胸をはることはないと思うが。


「うん。けど、まあ、一応まだなったばかりだし、次の探索にもついていくよ」

「いや、それは無理だ」

「え?」

「部署が完全にダンジョン部門にかわってな。次はいるときは勤務時間中だろう」


 マジか。そうなると平日の日中だ。流石に学校を休んで見に来るのは父も納得しないだろう。


「なら、今度の土曜か日曜、一緒にEランクダンジョンに行こうよ。一応先輩として見本見せるから」


 焦って先輩風をふかせてしまった。これには父も眉を顰める。

 だが、それも一瞬で少し呆れたようにため息をつく。


「わかった。だが、一緒にダンジョンへ潜るのはそれで最後だ。わかったな?」

「うん。それでいいよ」


 いいはずだ。紅蓮も一回見せれば十分と書いていた。

 そうしてちょっと微妙な空気のまま初めてのダンジョン探索は終わった。


 それからというもの、父の帰りが遅くなった。

 無理な攻略をしているんじゃないかと心配になって聞いてみたが、疲れているからと適当に誤魔化せられる。

 母はそんな父に関心がないかのように、スマホやテレビばかり見ている。一度相談したが、おざなりに『大丈夫でしょう』といって男エルフで結成されたアイドルグループのテレビ中継に視線を戻してしまった。

 紅蓮に聞いてみると、少し考えた後、父の様子を物陰からこっそり観察して、問題ないとボードに書いた。


「問題ないって、この時間までダンジョンに潜るのは流石にまずくない?」


 そう紅蓮に言うと、ちょっと間をおいてからペンを動かし始めた。


『ダンジョンに行った後よるところがあったから遅くなっていると思います』

「よるところ?」

『はい。お父上は社会人なので、報告等色々あるのでしょう。それで疲れているのはないかと』


 少し、嘘が混じった気がする。

 紅蓮の事は誰よりも見てきたと胸を張って言えるし、字を教えたのは自分だ。ぱっと見わからないが、微妙に字が震えている。

 だが、報告とか色々あるのは事実なのだろう。それ以外で遅くなる理由はなんだ?

 考えを巡らせようとしたところで、紅蓮が肩をつついてくる。


「紅蓮?」

『主、久々に将棋でもどうですか?しばらくやっていませんでしたので』

「あ、ああ、うん。そうだね。そういえば最近やってなかった」


 法律が改正しそうで資金集めに焦っていたり、父の件があったりで紅蓮に構う時間が減っていた。

 たまには紅蓮と過ごす時間に集中しなくては。

 少し気になるが、父の帰りが遅い件は紅蓮が大丈夫と言っているなら大丈夫なのだろう。冒険者業に影響があるかないかは今度一緒にダンジョンへ潜った時に見ればいい事だ。

 ちなみに、この後五局戦って全敗したのは言うまでもない。最後は飛車角金銀なしで戦ってもらったのに手も足も出なかった。


 あっという間に時間は過ぎて、土曜日。父と二人でEランクダンジョンへやってきた。

 休日な上にEランクということもあって人は多い。それでもアルミラージとゴブリンのダンジョンなので、これでも人は少ない方だろう。ちなみにEランクで人気なのはレッドウルフだ。


「おい、あれ……」

「まさか、K……?」

「偽物かたまたま似ちゃっただけだろ、本物がこんなとこにいるかよ」


 人目が普段行くランクとは段違いなので、ヘルメットや防弾チョッキはつけていないが、Kの恰好で来ている。身バレは怖い。父は居心地が悪そうだが、我慢してもらうしかない。

 受付を済ませダンジョンに入る。今日も紅蓮と金剛のコンビをだすが、そこに索敵要員としてレイナも召喚していく。Eランクダンジョンは人が多いので、モンスターと出会うにはひたすら奥に潜るかこうして索敵役を用意する必要がある。


「じゃあ、今日は僕が前に出て戦うから。父さんは後ろで見ていて」

「……わかった。だが危ないと思ったら加勢するからな?」

「うん、その時は頼むよ」


 今日は自分が、というか紅蓮がメインで動く。父に上には上がいるというのを実感してもらい、慎重さを取り戻してもらわなければ。


「レイナ、案内をお願い」

「承知しました」


 レイナにダンジョンの地図をわたして道案内を頼む。

 どうでもいいがあいかわらず父とジャスミンの距離が妙に近い。

 まあ、そこまで気にすることでもないだろう。レイナのナビに従ってダンジョンを進んでいく。

 ゴブリンやアルミラージを紅蓮がハルバートで潰しながら奥へと潜っていく。魔石が落ちる頻度が中々渋い。もっといいところを見せたいのだが、そう都合よくはいかないか。

 こんなものかと落胆されてないかと父を振り返ると、困惑した顔でジャスミンと何かを話している。


「どうしたの?何かあった?」


 念のため確認しておく。ないだろうが、それでも万一があるのがダンジョンだ。気になることがあるなら教えてほしい。


「い、いや……紅蓮さんが強いのは知っていたが、こんなに、なのか?」

「まあ、うん。いつも通りだけど」

「そ、そうか……」


 なんとなく元気がない。調子に乗ってしまって天狗になった鼻を折るという目的は果たせただろうか。

 父の視線が紅蓮と金剛を行き来する。父からすれば同種族の金剛も紅蓮と同じぐらい強いと思っているのだろう。まあ実際は毎晩のバフを最近かけ始めたばかりなので、紅蓮ほどのステータスはまだない。

 行き過ぎた自信を無くさせることが目的なので自分から否定するつもりはないし、Cランクの使い魔と比べたら圧倒できるポテンシャルがあるのは事実なので、このまま黙っていよう。

 そのまま黙々と進んでいき、ボス部屋の前まで行ってから、中には入らず入口へと戻っていく。かかった時間はフェリシアに運んでもらっていないので少しかかってしまったが、それでも二時間ジャストで済ますことができた。

 意気消沈した様子の父を伴って魔石と落ちたカード、薬草を納品する。あらかじめ父が受注していた三つのクエストも完了したかたちになるので、次来るときはボスモンスターに挑むことができる。

 正直、父にはあまりEランクダンジョンにいてほしくない。人が多いと争いごとも増える。ネット上の噂だが、パーティー同士で口論になることはよくあるそうだ。

 しかも父は女エルフをつれている。やっかみもあって絡まれやすいだろう。危険には近づいてほしくない。しかし、ランクを上げてもらってDランクのダンジョンに通ってもらった方が、かえって安全だろう。

 ダンジョンを出て帰路につき、途中駅のトイレで普通の服に着替えてから電車に乗る。ここまでかなり視線が痛かった。

 電車に揺られながら、父の様子をうかがう。つり革を力なく握りながら、何か言いたげにこちらを時折見てくる。だが、あらかじめダンジョン関係の事は人目のある所では話さないでほしいと頼んであった。どこにクラスメートがいるかわからないのだ。

痴漢の冤罪対策で二人してつり革をもちながらスマホをいじる。無言の時間がちょっと気まずい。

あ、今ネットニュースで有名芸能人が一人で頻繁に大人なホテルを出入りしているのを撮られたらしい。なんでも女エルフと契約しているから、妊娠中の妻を放置してよろしくやっているのだろうと批判が殺到しているそうだ。


「えーと、どうだった」


 家について、リビングで父と向かい合う。


「なんというか……Cランクの冒険者では、普通なのか?その、今日みたいのは」


 父の言葉に、どう返すか考えるそぶりを見せる。しかし、この問いはあらかじめ紅蓮と返答を考えていた。


「ちょっと待っていて」


 部屋からタブレットを持ってきて、動画を再生する。


『こんにちはこんばんは!画面の前の主殿達、ただの女騎士、略してダキシです!』

「これは?」

「ダキシっていう動画投稿者もやっているCランク冒険者。いや、ボスモンスター倒しているからもうBかな?」


 動画が進んでいく。前に見たのと同じメンツに、いつの間にかもう一体増えたワルキューレ。

 Cランクのダンジョンをまるで散歩でもしているかのように潜っていく。よくみれば元々いた方のワルキューレの右手首に綺麗な腕輪がついている。おそらく装備カードだろう。一撃の威力が前より上がっている気がする。

 最初は胡散臭そうにしながら女騎士や使い魔の体を見ていた父も、気づけば目を見開いて画面を見ていた。

 冒険者になって、Cランクのエルフが戦うところを間近で見てきたから、Bランク以上の使い魔の凄さが分かるようになったのだろう。

 ランクが一つ変われば、その強さは余程相性が良くない限り理不尽なほど変わる。まず同数では勝負にもならない。


「他にもCランクダンジョンで活動していて、その様子を動画にあげている人たちはいるよ」


 他の動画投稿者な冒険者を検索していく。


「いや、もういい……」


 父がそれを止める。どうやらうまく誤魔化せたらしい。

 実際は自分もダキシもCランクの中では頭一つ抜けているだろう。というかランク自体はBだし。動画を投稿している者達も基本他のCランクより強いと思う。なんせ安定して動画を撮れるぐらい余裕があるのだから。

 何はともあれ、これで父は自分やダキシレベルがCランクの普通と思ってくれるだろう。これなら無謀な冒険はしないはずだ。


「父さん。別に僕やダキシが凄いんじゃない。使い魔が強いだけだ。けどそれも父さんも同じなんだ。冒険者は皆そうなんだから、そこまで気を落とさないで」

「ああ、そうだな……」


 タブレットを閉じて、話を進める。こっちとしてもあまり深く聞かれるとボロが出てしまう。


「とりあえず、使い魔は何体まで同時に出せる?」

「ジャスミンとオークなら同時に出せるな」

「じゃあ、Eランクダンジョンのボスに挑むときはその二体で挑んだ方がいい。それなら負けることはないから」


 オークの方に名前がないのは気になるが、使い魔をどう呼ぶかはハンドラー次第だ。どうこうはたから言う事でもあるまい。


「Dランクに上がったら、とりあえず入口付近でしばらくは活動した方がいいよ。それでレベルを上げて、使い魔全員を出せるようにしてから本格的に攻略した方がいいと思う」

「そう、だな」


 父も納得してくれたようだし、さっきまでほど落ち込んでもなさそうだ。これなら、たぶん大丈夫だろう。

 ほっと一息吐いていると、母が帰宅してきた。そういえばどこに行っていたのだろう。買い物なら昨日行ったはずだが。


「ただいま。あら、二人ともどうしたの」

「おかえり」

「お帰りなさい。いや、ちょっとダンジョンについて話していて」

「そう……」


 母がそういって少し考え込む。どうしたのだろうか。やはり父の事が心配なのだろうか。


「あのね、私も冒険者になろうかと思うんだけど……」

「……ふぁっ!?」


 何故に?

 混乱しているなか、こんなタイミングでスマホがなった。画面を見てみると、そこには小沢さんが表示されていた。


 なんでこんな時に!?

 



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― 新着の感想 ―
[一言] 「……ふぁっ!?」 という奇声が何度か出てきますが、正直ひきます。 このネタを知ってる人もほとんどいないでしょうし、何かオタクが使う奇声だから使ってるみたいな感じ、なろう小説で使われてま…
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