第二十話 世界樹の加護
第二十話 世界樹の加護
サイド 矢橋 孝太
あの後大会は中止となった。
流石に観客に鼓膜が破れるなどの被害がでて、ステージの半分が抉れとんだのに続行はできない。それでも半日あればステージは修復可能な当たり、キキーモラを結構な数動員したのだろう。いまや修理と言ったらキキーモラというぐらい広まっている。
そういえば建設関係の会社は使い魔がひろまってきて次々倒産に追い込まれているとニュースで見た気がする。ダンジョンができて誰もかれもが潤っているわけではないのだ。
人気がなくなった会場で、自分は今Kの恰好で廊下を歩いている。
第二部は明日だが、万が一前回優勝者ということで呼ばれた時に備えて会場近くのロッカーに装備一式をいれてきていたのだ。
向かう先は西園寺の控室。スタッフに止められたが、『Kが来た』と伝えてもらうと、西園寺がOKを出してくれたので通れた。
部屋の前についてノックをすると、力ない声で『どうぞ』とかえされる。
扉をあけると、うつむくように座った西園寺と、机の上に並べられた灰色のカードが三枚あった。
「君か……本当は君にリベンジするためにここまできたんだが……このざまだよ」
陰のある顔で笑う西園寺に胸が痛む。
おそらく、本当ならあの場に立っていたのは自分だ。だが、代わりに立ったのは彼だ。それがとてつもなく申し訳ない。
フェアリーのカードはともかく、他二枚のカードを回復させるのは大変だろう。いくら親が金持ちといっても、限度がある。
それに前回の大会の後ネットニュースで読んだのだが、告白問題で親と大喧嘩したと書かれていた。となると、自力で復活用のカードを用意するしかない。
だが、きっとかなり無理をして装備カードを集めていたのだろう。予備のカードをもっていないのかもしれない。
「単刀直入にいうと、貴方の使い魔を復活させられないか試しにきました」
嘘偽りなく目的を伝える。
罪悪感がある。ならそれを少しでも払拭するにはその原因をどうにかすればいい。
彼の使い魔を復活させることができれば罪悪感は薄れるし、自分のスキルでロストからでも治せると確認できる。一石二鳥だ。
問題はスキルの情報が出回ると面倒なことになりそうなのと、失敗する可能性があるのだ。だって紅蓮が言っていただけで実践は初めてだし。
前者の方は西園寺なら大丈夫だろう。口が堅そうだし、もし言ってもそうそう皆信じない。それぐらいスキルでロストを治せるのは破格だ。自分だって紅蓮が言った事じゃなければ試そうとも思わない。
後者の方は、謝るしかない。その時は復活カードの入手を手伝おう。使い魔を失って意気消沈している相手に付け込んで実験台にするのだ。責任はとらねば。
「復活……?なにを」
「ブーステッドツリー」
説明が面倒だしなんか西園寺の目が怖いので早速スキルを使う。失敗したら土下座しよう。高橋の使い魔を見た時とは別種のプレッシャーを感じる。
だが、その心配は杞憂だったらしい。カードの色がみるみる直っていき、万全の状態になる。
「なっ!?」
西園寺が椅子から音をたてて立ち上がり、カードを穴が開くほど見つめる。
カードが粒子となって西園寺の中に入っていく。なるほど、ああいうふうになるのか。
「ミレイ……」
西園寺がつぶやくと、目の前にフェアリーが召喚される。
「え、ご主人。もうカード手に入れたんですか?」
「ほ、本当に治った……」
フェアリーを指の上に乗せながら、西園寺がこちらを見てくる。こっち見んな。
「今のスキルは」
「ノーコメントで。あとできれば秘密でお願いします」
目をそらしながら答える。西園寺のようなイケメンは基本クラスのカースト上位なので逆らいづらい。
「君は……いや。今言うべき事じゃないな」
フェアリーを机に立たせて、西園寺がこちらに頭を下げてくる。
「ありがとう。おかげで僕の使い魔達は助かった」
「いえ、それほどでも」
なんとなくこちらも頭を下げ返す。
ともあれ、目的は果たした。さっさと帰ろう。これ以上彼といるとボロがでかねない。
「待ってくれ。君には借りが」
「またいずれ、正々堂々戦おう」
流石に罪滅ぼしついでに実験に来ましたとは言えないので、なんか騎士道精神的なもので治しにきましたという体で誤魔化す。
なんか西園寺も驚いた顔をした後爽やかな笑みを浮かべていたので大丈夫そうだ。
トイレでこっそり着替えた後、家に帰る。
帰りの電車で大会のホームページを確認すると、第一部は完全に中止。第二部は日程を変えて行うらしい。
今日見た光景を思い出す。
圧倒的という言葉すら生ぬるい、蹂躙劇。紅蓮ですら常識の範囲内の存在だと分からせられた。
だが、それで今までのスタンスが変わるわけではない。ただし、上には上がいるのだと、調子にのらないよう自分に言い聞かせるだけだ。
今日感じた恐怖を忘れないようにしよう。そして、決して高橋とは敵対しないし、紅蓮でも無理だと感じた相手には近づかない。これを徹底していかなくては。
第一部が中止になってから一週間後、第二部が開催された。
かなりの批判が運営に殺到したらしいが、それでも開催するらしい。正直二部も中止になると考えていたのでかなり驚いた。
だが、開催するというのなら全力で勝ちに行く。無様をさらせば会社に迷惑がかかるし、正直賞品も気になる。
噂では第二部の賞品に第一部の賞品が混ざったと言われており、もしかしたらサキュバスをはじめとした高額カードが手に入るかもしれない。
『さあ始まりました!第三回全国ハンドラー大会第二部!実況はおなじみこの私大林と!』
『……解説の本田がお送りします』
本田さんのテンションが露骨に低い。ついでに会場の空気も微妙だ。というか観客席じたいすかすかだ。
第一部のルールだったら自前の使い魔をかけて戦い、それを失うかもしれないスリルを観客たちは味わうことができる。冒険者からしたらわりと悪趣味だ。
だが第二部のルールだと使い魔は大会側が用意するので、参加者はリスクを負っていない。これだと観客としてはつまらない。
かわりに、このルールなら第二回大会で紅蓮がやったような一方的な試合にはならないだろう。ハンドラーの指揮能力とスキルがものをいう。
もっとも、本田さんがテンション低いのはルールがどうこうというより、高橋の使い魔にショックを受けているのだろう。あれを見て何も思わないハンドラーはいまい。
そうこう考えているうちにルールの説明が終わり、第一試合が始まる。
お互いの使い魔は、大会側から支給されたゴブリンやコボルトといったFランクのカードを三枚ずつ使用している。
試合の様子は、一言で言うと泥仕合だった。
同じランク、低い性能。ハンドラーも指揮をとったりスキルを使用して支援しているが、決定打にはならない。
だが、その泥仕合感が観客に受けている。自分も見ていて楽しくなっていた。
低ランクといっても使い魔は人の身体能力を超えている。その正面からの乱闘はかなり見ごたえがある。
紅蓮とかのレベルになると目で追う事は出来ないが、このランクならアクション映画を見ているような気分だ。
第一試合が終わり、第二、第三と進んでいく。そして第四試合。自分の番だ。
『さあやってまいりました、第四試合!ついに来たぞこの男が!誰がこの大会にでると予想できたか!第二回大会の優勝者、謎の冒険者Kぇぇぇえ!』
スタッフに導かれて入場する。スカスカの観客席とは思えない歓声が聞こえてくる。まさか自分がこんなに人気があるとは。
『第二回大会では圧倒的強さをもつ使い魔の力で優勝しました。その彼が支給されたカードでどのような戦いをするのか、見ものですね』
なんとなく本田さんから棘を感じる。というか歓声もよく聞くと、
「Kぇ、今回はあの鎧はいないなぁ!」
「お前が凄いんじゃなくて使い魔が凄かっただけだからなぁ!」
「今日がお前の終わりだ!」
「ぼっこぼこにされちまえぇ!」
歓声どころかやじだった。つらい。
まあどう考えても使い魔頼りの戦いだった。しかも裏で賭け事をされていたらしく、一番人気の西園寺を倒して優勝したことで恨んでいる人は結構いるのだろう。
まあ、使い魔が本体と思われても仕方ない。だが、それだけと思われても困る。
自分は使い魔だけではない。
「僕の本体は使い魔とスキルだということを教えてやる……!」
僕を馬鹿にするのはいい。だが使い魔とスキルはなめるなよ。
対戦相手の紹介も終わって、互いに使い魔をだす。こちらはゴブリン二体とコボルト一体。向こうはゴブリン三体だ。
『さあ、ではカウント開始です!K選手の戦い方がどうなるのか楽しみですね!』
カウントが始まり、会場のボルテージも上がっていく。Kアンチの人達には申し訳ないが、この戦い、自分の勝ちだ。
『2、1、0!開始です!』
「ブーステッドツリー」
「ストレングス!」
お互いにバフを使い魔にかける。相手がかけたのは一時的に筋力が一段階上昇させる効果をもつ。
強化された使い魔達が正面からぶつかり合う。
今日初めて組んだ即席チームだ。チームワークも何もない。相手も指揮に苦戦している。なら、世界樹の加護が負けることはない。
『ど、どういうことでしょうか。あきらかにK選手の使い魔達が押しています。攻撃力、防御力も勝っていますし、ダメージを受けても瞬時に再生しています。本田さん、これは?』
『おそらくK選手がかけたバフでしょうね。不正は考えづらいでしょうし、いったいどんなスキルなのか……本当に不正じゃないよな?後でスタッフに確認させましょう』
本田さん?僕なにかしました?棘というかもはや中傷では?
試合は危なげもなく勝利し、その後本当にスタッフにチェックされた。
当然なんの不正もなかったのだが、特に大会側から謝罪はなかった。一応実況の大林さんが『不正はなかった』と宣言していたが。
二度とでるかこんな大会。
大会は本当になんの見せ場もなく優勝した。
ほぼ不死身と化した使い魔達が一方的に相手を撲殺し、会場からはブーイングと懐疑の声ばかり。ぶっちゃけ心が折れかけた。
「おめでとう!」
そう大声でいってくれた人もいた。そちらを見てみれば、なんと西園寺だった。
顔だけじゃなく心までイケメンかよ。性別違ったら惚れてたわ。
西園寺に手を振り返し、表彰台にあがる。
無難なコメントをして、賞品のカードを引く。箱の中に番号が書かれた紙が入っており、その番号にあった使い魔がもらえる。
引き当てたのは6番。会場のスクリーンを見てみると、そこにあったのはCランクのマーク。
『おおっ!?これはCランクのカード!このカードは』
スクリーンに映されたのは使い魔の中でも有名なあのカード。力強く大きな体躯。堅牢な毛皮。鋭い牙。Cランク使い魔のなかでも強さでは上位のカード。
『オークのカードだぁ!』
い、いらねぇ……。
できればサキュバスが、そうでなくてもなんか美少女なカードがよかった。
決してオークのカードは外れではない。だが戦力として考えると召喚コストの関係上、オークを召喚するという事はポジション的に稔をださないということである。
それをすると絶対あの子はいじける。戦うことを望んでいるのなら戦わせてあげたい。そうなるとぶっちゃけ戦力としてなら稔の上位互換なこのカード、どうすべきなんだろうか。
大会を終え帰宅する。なんか色々インタビューされたがとにかく無難に答えてやり過ごした。
みんな自分のスキルについて知りたいのかしつこく詳細を聞いてきた。まあ、攻防一体、ついでに特殊にもバフがもれる上に異常な再生能力とデバフ無効状態異常無効にできるスキルだ。だれだってなんじゃそりゃと思う。僕だって自分のスキルじゃなきゃ反則だと叫んでいただろう。
オークのカードについては、悩んだ末売るのではなく父にプレゼントした。
理由は二つ。今月が父の誕生日だったことと、戦力強化だ。
当然父はもらえないと言ってきたが、そこは受け取ってもらった。オークのカードは売ると安いが買うと高い。それに母は基本うちにいるしいざとなったら予知の魔眼で危険がわかるから自分が駆け付けられる。
だが、父は日中外にいるので、自分が、というか紅蓮をすぐに派遣できるかわからない。そのため、いざという時に盾役の使い魔は有用なはずだ。
とりあえず父にはエルフの時同様預かっといてと押し付けた。契約もしてくれたので大丈夫だろう。
大会から二日、そろそろ夕飯だと思ってリビングへ向かう。
その途中、廊下で父の後ろ姿が見えた。
「どうしたの?」
廊下のど真ん中に突っ立ってどうしたのかと思い声をかけると、父が慌てた様子で振り向く。
「あ、いや!これは」
振り向いた父の傍に、母の使い魔のエルフがいる。たしか名前はメルだったか。ショートヘアの美人さんだ。
「孝太様。旦那様がバランスを崩してしまいましたので、私が受け止めていました」
メルがそう言うと、父も勢いよく頷く。
なるほど、床は毎日母の使い魔のドロシーかメルが掃除してくれているから、廊下はピカピカだ。父はスリッパを使わずにうちの中を歩くから、滑ることもあるだろう。
「う、うん。ありがとうメル」
「いえ、当然の事をしたまでです」
メルがそういって一礼し、リビングへ向かっていく。
「こ、孝太は、どうしたんだ?トイレか?」
「いや、もうすぐ晩御飯かなとリビングに」
なんとなく、父との会話がぎこちない
。
「そうか、父さんはちょっとトイレに行ってから向かうよ」
「うん。いや別に報告しなくても」
「そ、そうだな」
苦笑いして父がトイレに向かっていく。その歩き方は滑らないためかぎこちない。
そう、滑らないためだ。そして、さっき見た時、父がメルに抱き着いていたように見えたのは、ただ転ばないようしがみついていただけだ。
リビングにはいると、机にはもう料理が並べられていた。
「母さん、手伝いに来たんだけど」
「ん?」
ソファーでテレビを見ていた母がこっちにやってくる。
「ああ、大丈夫よ、ドロシーがやってくれたから」
最近、料理は全てドロシーがやっている。洗濯もだ。掃除や父の会社へ行く時の準備はメルとドロシーが交代で行う。
「そっか」
母の手料理を最後に食べたのはいつだっただろうか。
ふとそんな事を考える。だが、すぐにその考えは振り払う。
今までずっと家の事は母がやってくれていたのだ。最近休むようになったからといって、とやかく言う事ではない。メルもドロシーも自分から言い出して家事をしているのだし、なおさらだ。
父が来ていないが先に食べ始めて、二十分ぐらいして父もやってきた。家族そろっての食卓。使い魔達は食事を必要としないし、本人たちが一家団欒にはいるのを拒否しているので三人だけの時間だ。
最近、ただテレビの声が聞こえるだけの食事が続く。




