第十九話 第三回全国ハンドラー大会
第十九話 第三回全国ハンドラー大会
サイド 矢橋 孝太
『矢橋さん?どうしましたか?』
「っ!?」
金山さんの声で現実に引き戻された。
今のはなんだ?紅蓮が負けた?この紅蓮が?
思わず紅蓮が無事か視線を向けると、不思議そうに首を傾げていて、安心する。
「失礼しました。ちょっとぼうっとしてしまって。それより、前回の大会からまだそれほどたっていないはずですが?」
『それが、前回別の番組に視聴率を根こそぎとられたことに大会のスポンサーが焦ったのと、お怒りになって暴走している方がいまして』
「そ、それでこんな短期間で第三回が」
『それに、有力選手の大半は前回で使い魔をロストしていませんので、参加できると判断したようです。矢橋さんにもKとして参加いただけないかと』
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
きっぱりと断る。普段ひたすら頭を下げながら断っている自分には珍しい事なので、金山さんも電話越しに驚いているのが伝わってくる。
だが今回ばかりは受けられない。紅蓮たちを失うなど、あってはならないことだ。スキルで復活が可能かもしれないが、実験もしていない方法に頼る気はない。
というか復活できるのが分かっていても紅蓮たちを死なせたくない。ここだけは譲れない。
『え、えっと理由をうかがっても?』
「あー、えっと……少々お待ちください」
電話を保留にして紅蓮をみやる。
「ど、どうしよう、第三回全国ハンドラー大会があるんだけど出たくない。どう断ればいいかな?」
理由も何も伝えずに早口で言う。それに、紅蓮は迷うことなくペンを動かした。
「お待たせしました。すいません、部屋にGがでまして」
『ああ、いえお構いなく』
「それで、理由の件なのですが、手の内をこれ以上晒して対策されたくないのと、賞品についてです」
紅蓮のカンペを見ながら口を動かしていく。疑うわけではないが、この内容で大丈夫なのだろうか?
「手の内の件ですが、私も今後冒険者をしていればこういった大会に出ることも増えるでしょう。そして、こうも短い期間で戦うとなれば手の内が暴かれ対策手段が確立されかねません。私の敗北は会社にも不利益になってしまう以上、おいそれと出場するわけにはいきません」
『な、なるほど』
あ、意外と効いてる。さすが紅蓮。
「もう一つが賞品についてです。これだけ短い期間での開催となると、リスクに見合った賞品が用意されているのか疑問があります」
『あ、賞品に関しましては、なんとサキュバスがでるそうです。なんでもスポンサーが今回の目玉にするとか言って』
「サキュバス!?」
まさかの高額賞品に大声がでる。すぐに紅蓮をみやる。どうしよう、これ断るの不自然じゃない?健全な高校生だよ?普通断らないよ?僕だって予知がなかったら即答でOKしてたよ?
使い魔にしたいランキングで常に二位を勝ち取っているカードだ。誰だってほしい。ちなみに一位は女エルフ。どっちか持っている奴は勝ち組とまで言われている。
サラサラと書かれたカンペを見て、固まる。え、それいうの?
『矢橋さん?』
「そのー、なんといいますか、すでにキキーモラとエルフ、それに美少女の姿で出てきた鬼女と契約してまして、その、毎晩、はい。なのでサキュバスを増やすと体が……」
言っていて耳まで熱くなってきた。
事実ではある。だってロリ巨乳と美巨乳と爆乳だよ?全員タイプの違う美少女だよ?そりゃあ健全な男なら手を出しちゃうよ毎晩。
ただなんでそれを夜中に四十過ぎのおっさんに言わなきゃいけないんだ。
『そ、そうですか。手の内を晒したくない、という事でしたら第二部はどうでしょう』
「第二部?」
『はい。通常通りのものが先ほど話した第一部でして、第二部は全く新しいルールとなっています』
「はあ」
『第二部では大会側が用意したゴブリンなどの使い魔と一時的に契約していただき、それで戦うルールになっています』
「なるほど」
それならバトルスタイルが普段と全然違うから手の内を晒すことにはならない。
何より、第一部の方に参加すると考えるといまだに槍の雨が予知されるが、第二部の方はそういうのはでない。なにより、現金な話だがそのルールなら紅蓮達が死ぬことは万に一つもない。
「わかりました。では第二部の方でしたら出させていただきます」
『よかった。すみません無理を言って』
「いえ、こちらこそすみません」
こちらが未成年で正式に契約していないから断れるが、それでも一方的な都合で仕事を断るのは罪悪感が凄い。これといった支援を受けたこともないが、それはそれとして申し訳ないのだ。
「ちなみに、賞品ってなんですか?」
『くじ引きで決めるそうです』
「くじ引き?」
『はい。FからCランクまでのカードが用意され、それを一位から三位までが引くそうです。順番は一位から順にとのことです』
なんというか、微妙だ。Cランクと言ってもピンからキリまであるし、ひかれなかったら次の賞品にするか予算にするため売るかしそうだ。サキュバスで予算が尽きたのだろう。
だが、今回は賞品がどうこうというより会社の為という意味合いが大きい。
「わかりました。では、またエントリーなどよろしくお願いします」
『はい。このような時間にすみませんでした。日時などはおって連絡させていただきます』
電話を切り、大きく息を吐く。
なんだったのだ、あの予知は。
圧倒的だった。紅蓮以外は反応すらできずに串刺しにされ、紅蓮も瀕死だった。相対していたのは、よく覚えていないが同じデザインの白い騎士達。全員が光の槍と妖精のような翅をもっていた。
それ以上はわからない。だが、きっと全員Bランクかそれ以上だった。それがトーナメントに出場する?ありえない。だが、予知で見た。それを信じるとなると、
「使い魔が、召喚した?」
使い魔の中には別のモンスターを召喚して使役するタイプもいる。だが、あれは自分より下のランクしか呼び出せないはずだ。
だがそうとしか説明がつかない。大会のルールが前回と同じなら使い魔は三体までのはず。そうでなくても一人でBランクを複数使役して召喚するなど、魔力がもたないはずだ。
「今回の大会、無事終わるのかなぁ……」
紅蓮とレイナが、そろって首を傾げた。
「本当に、もう狙われないのか?」
翌日の昼休み、登校していた滝沢と佐藤に昨日紅蓮とレイナがたてた仮説を聞かせていた。
「あくまでその可能性が高いってだけだ。まだ油断はするなってさ」
「油断するなって、いつまでだよ」
「え、そりゃあ、犯人が捕まるまで、とか?」
「そっか……」
佐藤と滝沢がそろってため息をつく。
不安なのは当たり前だろう。自分だって不安なのだ。だが、予知と紅蓮があるのだから、そうそう死にはしないだろうと楽観もしている。
「それはそうと、今度全国ハンドラー大会が開くんだけどさ」
「え、もう開くんだ?」
「なに、お前また参加すんの?」
二人も話題を変えたかったのだろう、すぐに乗ってきた。
「第一部と二部に分かれているらしいんだけど、一部の方にとんでもないのがでるかも」
「とんでもないって、どんぐらい」
「紅蓮がぼっこぼこにされるぐらい」
「「はっ?」」
口をあんぐりとあける二人に、やっぱそうなるよなと頷く。友人たちは紅蓮の凄さを目の前で何度も見てきたのだ。最強とも思える紅蓮が負ける姿など、想像もできないだろう。
「気持ちはわかるけど、予知で見たんだ。だから一部には参加しないで二部に絞ることにした」
「ま、まじで言ってんの?」
「冗談でも紅蓮が負けるなんて言うわけないだろ。マジだよ」
「つうか二部は大丈夫なんだ?」
「二部は大会側が用意した使い魔と一時的に契約してそれで戦うらしいから、とんでもないのは出てこないし、もし出てきても紅蓮達が死ぬことはない」
そんなこんな話しながら休み時間を過ごした。
よかった、二人とも不安ではあるが、日常生活には問題なさそうだ。
後は警察が犯人たちを捕まえてくれるのを祈るばかりだ。
『さあ、始まりました第三回全国ハンドラー大会!実況は前回に引き続き大林と!』
『元自衛官で冒険者をやらせてもらっています。解説の本田です』
ついに大会が開催された。といっても第一部の方だが。
今自分は私服姿で観客席にいる。チケットが地味に高かったが、必要経費だ。
紅蓮を上回る存在がこの大会に出場する。その姿と能力をきちんと確かめなければならない。
これといって敵対する理由もないが、上には上がいるということを知っておくのにいい機会だ。あと好奇心。
ルールの説明が終わり、第一試合に移る。ルール内容は事前にネットで確認した通り使い魔は三体まで。基本的に前回と変わらない。
ならば、あの予知で見たのはやはり召喚スキルによるものだ。
『第一試合からこの男が出場だ!前大会ベスト4の実力者にして第一回大会のチャンピオン!西園寺公彦選手の登場だぁ!』
また第一試合から西園寺だ。まあ華があるし実力もあるからだろう。
相変わらず爽やかな笑顔を観客席に送っているが例の告白騒ぎはどうなったのだろう。
『対するは初出場のこの少女!冒険者歴なんと一カ月のルーキー!北海道からやってきた可憐な乙女の入場だ!高橋由紀子選手ぅ!』
反対側から出てきたのは、明らかに緊張した様子の少女。小柄な体躯に黒髪をボブカットにした美少女だ。
『本田さん。どうみますかこの試合』
『どうもなにも、高橋選手がどこまで食い下がれるかでしょうね。いくら抽選で決まったといえこの組み合わせは酷すぎる』
抽選だったのか。それが本当ならどういうクジ運しているんだ西園寺。
『くれぐれも怪我のないようお願いしたいですね。それでは、両選手使い魔を出して用意してください』
西園寺の召喚する使い魔は前回と同じメンツだ。しかし、ワイバーンが鎧を着ていたりフェアリーが杖を持っていたり戦力の強化が見て取れる。
まあそれでも紅蓮なら圧勝だろうが。
高橋の方は、なんというか、ものすごい美女と美少女が出てきた。
片方は不思議の国のアリスにうさ耳と小さなシルクハットをかぶせた美少女。もう片方は腰まで伸びたプラチナブロンドに妖精の翅をはやした優し気な美女だ。
何故だろう。見た目だけなら西園寺の使い魔の方が強そうなのに高橋の使い魔たちのプレッシャーが凄い。試合前だというのに和やかに話している様子の彼女らが怖くてたまらない。
『高橋選手の使いは二体だけですね。どちらもたいへん美しいですが、その実力はどうみます本田さん。本田さん?』
実況がふっても解説の本田さんが答えない。無言の時間が少し流れ、焦った様子で実況が進める。
『えー、では!記念すべき第一試合!カウントを始めます!』
西園寺が笑みを消して高橋の使い魔を睨みつける。その頬から汗がつたっているあたり、彼もプレッシャーを感じ取ったのだろう。彼女の使い魔たちは、危険だ。
『2、1、0!開始です!』
ゴングと同時にワイバーンが飛び上がり、リザードマンが前に出る。フェアリーがスキルを発動させようとする。
その全てが、無意味に終わる。
妖精の女性が手を一振りした瞬間、両選手の間に三十体の騎士が現れる。
それぞれが妖精の翅をもち、手には光の槍が握られている。
同じだ。予知でみたそのままの光景が広がっている。
上空からワイバーンが火を吹き、フェアリーの魔法が放たれる。しかし、それは騎士達の鎧にあっさりと阻まれ汚れすら付けられない。
騎士たちは槍を逆手に持ち、振りかぶった。
次の瞬間、すさまじい轟音と土煙、衝撃波が会場を包む。魔眼のおかげで予知できていたから耳を閉じて口をあけながら頭を足の間にいれることができた。
そして、どうなったかも予知でみていたが、それでも顔をあげてステージを見やる。
西園寺が立ちすくんでいる円の周り以外、大きくえぐれてなくなっていた。もちろん、彼の使い魔もろとも。
あれでもきっと手加減したのだろう。そうでなければ会場が吹き飛んでいた。紅蓮を出すか本気で検討したぐらいだ。
『し、試合終了ぉ!か、勝ったのは高橋選手だぁ!』
実況が勝者の名を叫ぶが、会場はいまだ混乱している。轟音で耳をやられたのか叫んでいる人。パニックになって叫んでいる人。わけもわからず泣き叫んでいる子供。
会場中がパニックだ。一部のうつむいて震えているのは自分の様に予知系の能力者か、鑑定のスキル持ちだろう。
ちなみに自分も震えている。
高橋の使い魔が何なのかなんとなく察した。
片方は、おそらく『不思議の国のアリス』。
そして、もう一方のこの惨状をつくったのは『妖精女王ティターニア』。
ぽかんとする高橋に、お淑やかに笑いかけるティターニア。混乱の渦に叩き込まれた観客席を愉快そうに眺めるアリス。
出場しなくて本当によかった。心の底からそう思った。




