第十三話 ひも付き
第十三話 ひも付き
サイド 矢橋 孝太
父から会社の話をされてから次の休日、父と会社の上司に会いに行く。
あの後色々調べてみたが、会社専属の冒険者というのはその会社の作った防具を身に着けてダンジョンに潜ったり、ドロップした魔石やカードをその会社に『のみ』納品する存在らしい。
それだけなら普通の冒険者と大差ないが、ボーナスはともかく給料は決まっていてどれだけカードや魔石を集めてもボーナス以外反映されないし、そのボーナスだってカードを売った方が高いだろう。
EランクやDランクの冒険者はそれでも会社に属していた方が安定するしメリットの方が大きいだろうが、Cランクになるとデメリットの方が大きい。高ランクの冒険者が中々企業と契約しない理由である。
「一見抜けてみえる人だが、気を抜くなよ。結構長くあの人の部下をやってきたが、油断ならない人だ」
そう言われた人物との待ち合わせは、駅前のちょっとこじゃれたカフェだった。
「やぁ、矢橋君。こっちこっち」
店についてすぐに、窓際の席から声がかかる。そちらを見ると、ラフな格好をしたどこにでもいそうなおじさんが座っていた。
「部長、お待たせしました」
席に向かっていき頭を下げる。自分も父の後について行って頭を下げた。
「いいよ、そんな堅苦しくしなくて。むしろ休日にすまなかったね、二人とも。さ、座って座って」
「失礼します」
「し、失礼します」
席つつくと、部長がメニューをこちら側に開いて渡してくる。
「まあ、好きなもの頼んでよ、おごるからさ」
「恐縮です」
「ありがとうございます」
店員さんがやってくると、部長と父がコーヒーを、自分はオレンジジュースを頼んだ。
「そちらの息子さんは初対面だし、まず自己紹介からかな?私は渡辺正義だ。よろしく」
「矢橋孝太です。いつも父がお世話になっています」
「いやぁ、中々礼儀正しい息子さんじゃないか。うちの下の娘は最近反抗期で辛くってね」
コーヒーを一口啜った後、渡辺さんが、しまったと呟いてポケットから名刺入れをだす。
「ごめんごめん、名刺をだすのを忘れていたよ。休みの日だからって気が抜けすぎてたね」
「部長、息子には別に名刺を渡さなくても」
「いやいや、これは渡さないと。今から『ライセンス』を見せてもらうんだから」
「っ!」
ライセンスには自身のランクと使い魔の最大ランクが記されている。それを見られればもう言い逃れはできない。
かといって、今更見せないという選択肢もない。この場に呼び出された時点で手遅れだが、名刺を出されてしまった以上完全に断れない流れだ。
「これが、僕のライセンスです」
そう言って渡辺さんに冒険者ライセンスを差し出す。受け取った渡辺さんがランクを見て驚いた顔をした。
「へえ!強い使い魔を連れているとは聞いていたが、まさかここまでとはね」
そう言ってにこやかに笑いながらライセンスを返してくれる。正直、この人がすでに怖くなってきた。終始お人よしそうな笑みを浮かべていて、逆に信用できない。
「さて、せっかくの休みなのにあまり時間をとらせても悪いから、本題に入ろうか」
きた。どう返せばいいのか父と色々考えたが、結局いい案は浮かばなかった。父はいざとなったら会社をやめて転職するといっていたが、もう四十の半ばだ。ろくな転職先はないだろうと止めておいた。
「結論からいうと、孝太君と我が社で契約することは今のところない」
「「えっ」」
予想していた言葉と違い、父と二人で疑問符を浮かべる。
「何を驚いているんだい?孝太君は未成年だよ?なのに専属冒険者として契約しちゃったら、ほら、体面がね」
言われると、確かにその通りだ。けど、会社の方針を決めちゃうぐらいアグレッシブな人だと思っていたから、予想外だった。
「ただ、孝太君にお願いがないわけじゃない」
やはり、ただの顔合わせではなかったらしい。最初に気を抜かせて後から言うことを聞かせやすくするとかそういう手だろうか。
「組合からクエストだっけ?それが出されて冒険者は受注するんだったね。君には、そんな感じでうちの会社がだすクエストを受けるって形をとってほしいんだ」
「クエスト、ですか」
「うん。うちの会社も入っているギルドがあってね。基本そこから出されるんだが、Dランク以上のカードは中々仕入れられなくてね。売ってくれる冒険者を探していたんだ」
「なるほど……」
「もちろん、カードの買値は組合のものを基準にしているから、ぼったりしないよ。安心してくれ」
それなら、今までの活動とほとんど変わらない。ただカードの売り先が組合からギルドに移るだけだ。
「それだけ、でしょうか」
「うん。それだけさ。なんか色々警戒させちゃったみたいでごめんね。けど私は君が別の会社と契約したり、組合を優先してくれても気にしないよ?」
その言葉を信じることはできなかった。あと『私は』って所が気になる。
だが、そういう事なら問題ないだろう。話を受諾することにした。
「わかりました。では、それで」
「孝太……」
父が何か言いたげだが、頷いて答える。正直、この人と駆け引きして小市民二人に勝ち目はない気がする。
「いやぁ、助かるよ。詳細は後日君のお父さんに伝えるから。二人とも休日にありがとね。ここの代金は置いておくから」
そういって渡辺さんは一万円札を置いて、店を出て行った。その背中を見送って、二人してどっと息をつく。
「緊張したね……」
「ああ。あの人笑顔なのに妙に威圧感あるんだ……」
二人でぬるくなった飲み物を飲みながら、一息つく。
「すまなかったな。冒険者、続けさせて……」
「いいよ。まあ、これも社会勉強の一つって事で」
「もし、本当にやばいと思ったら自分の命を優先してくれ」
父がいつになく真剣な顔でこちらを見てくる。その目を見返しながら、はっきりと頷く。
「調子のいいことを言っていると思うが、すまない。頼むから無事でいてくれ」
「うん。必ず毎回生きて帰るよ」
この後、飲み物代のおつりでガッツリラーメンを食べに行った。
早速、会社が入っているギルドからクエストが来た。内容は『キキーモラのカードを三枚納品せよ』だ。期間は一カ月以内。
正直、ちょっと期間が短い気がするが、致し方ない。一応不可能ではないはずだ。
前に行ったキキーモラとフェアリーのダンジョンへ向かう。相変わらず人は多いが、その間をすり抜けて更衣室に向かう。
受けつけを済ませて使い魔を召喚した後、ダンジョンに入りしばらく進んでからフェリシアに運んでもらって移動する。流石にこの姿を人に見られるのは恥ずかしい。
さっさと深い階層に潜り、そこでひたすら紅蓮に暴れてもらう。罠は多いが、それも魔眼のおかげで場所と内容がわかる。紅蓮かフェリシアに破壊してもらいながら移動を続けた。
二時間の探索で魔石十七個にフェアリーのカードが一枚。キキーモラのカードこそなかったが、悪くない結果だ。
フェアリーのカードは少し迷った後、会社の人に聞いてみることにした。電話で父から担当と言われた金山という人に電話する。
「あ、お世話になります、矢橋孝太です。今お時間よろしいでしょうか」
「こちら金山です。こちらこそお世話になります。はい。どういったご用件でしょうか」
直接はあった事はないが、金山さんは四十過ぎのおじさんだとのことだ。
「フェアリーのカードを手に入れたんですが、クエストにはなかったカードなので、どうすればいいでしょうか?」
「そうですね……目的のカードではありませんが、Ⅾランクのカードですので、こちらに売っていただけませんか?手順はクエストの納品と同じです」
「父に渡して持って行ってもらうか、自分で直接会社まで届ける、ですよね」
「はい。申し訳ありませんが、郵送でのカードのやり取りは危険ですので」
カード一枚で数十万の値がつく。郵送だと不安があるのはわかる。何カ月か前に郵送でカードを送ろうとしたら郵便局員が勝手に契約してしまったという話を聞いたことがある。ちなみにそのカードはキキーモラだったらしい。
かつて買い物をしたカードショップも、今では郵送による受け渡しをやめているとか。
「わかりました。では父に持って行ってもらいます」
「ありがとうございます。カードを確認しましたら入金させていただきます」
「お忙しい中ありがとうございました。では、失礼します」
「いえ、今後ともよろしくお願いします」
そう言って電話を切ってから、ため息をつく。やはり知らない人、しかも目上の人と話すのは緊張する。別に自分の上司でもないし父よりも役職は下だが、だからと言って年上にフランクに話せるほどの度胸はない。
「帰りにラーメン屋によろ……」
そんなこんなで二週間ダンジョンに通い、無事キキーモラ三枚とフェアリー四枚を納品した。金額も組合に売った時と変わらなかったので、ちょっと面倒になった以外以前までと変わらない。ただ、なんとなく気分が楽だ。やはり自分は誰かの下について動く方が性に合っている。
ただし、完全に従うというわけではなく、クエストの受注を拒否した事もある。Cランクの人型モンスターカードの収集である。
エルフや雪女などの人気カードの納品を求められたが、拒否した。理由としては、精神的に無理だと思ったからだ。向こうから襲ってきたならともかく、見た目人間と変わらないエルフや雪女を自分から『狩り』に行くとかトラウマになる可能性がある。
使い魔として欲しがっているくせにと自分でも思うが、無理なものは無理なのだ。電話越しに金山さんに何度も頭を下げながら断ると、向こうも申し訳なさそうに引き下がってくれた。
しばらくして、会社からある依頼が来た。内容は『第二回全国ハンドラー大会に会社の用意した防具を身に着けて参加せよ』だった。
頭を抱えた。マジでか。




