第九十四話 日本海防衛戦 2
第九十四話 日本海防衛戦 2
サイド 矢橋 孝太
会議室に集められたハンドラー達は、指揮を担当する自衛官の説明を聞いて愕然とした。
衛星と無人偵察機による画像から、モンスターはおよそ三千以上。そのうえランクとしては最低でもBランク。確認されている最高クラスはA+である。
巨大な影も確認されており、おそらくそれもモンスターだろうとされている。
現在海自による迎撃作戦が行われているが、およそ一時間後に突破されると予測されている。
会議室が一気に騒がしくなる。
「おい、こんなの聞いたないぞ!」
「ふざけんな!どうしろってんだ!」
「お、俺は帰るぞ!事前に受け取った報酬は返金する!それでいいいだろ!?」
混乱するハンドラー達を自衛官は大声で鎮めようとするが、元々烏合の衆だ。そう簡単に制御できるはずもなく、気づいたら半数近くが基地から強引に脱出してしまった。
「正樹さん、いやに静かですね」
「あん?」
黙って成り行きを見守っていた正樹さんに聞いてみると、疑問符を浮かべられた。
「いや、てっきり『上等だこのやろー勝つぞこのやろーバカヤロー』ぐらい言うと思っていたので」
「え、待って俺そういうイメージなの?」
だいたいこんな感じである。天岩戸作戦の時も覚悟がどうたら集まっていた反対派に言っていたし。
「別に、戦いたくない奴まで強制する気はねえよ。覚悟がないならさがってりゃいい」
「なるほど」
「兄様、本音の所は?」
「ぶっちゃけやたら絡んできていた奴らが帰ったからちょうどいいかなって少し思った」
おおう……食堂で絡んできていた人達か。天岩戸作戦の時もいたイケメン二人に加えて、更に二人ぐらい変なイケメンが追加されていた。この人どこでフラグを建設しているのだろうか。
「で、お前らはいいのか、逃げなくて」
「兄様を放っておくと何が起きるかわかりませんので」
「ああ……確かに」
「なに?お前らの中で本当にどういうイメージなの?」
「「歩く厄介ごと吸引機」」
「孝太ぁ!お前は人の事言えないだろぉ!?」
「いやぁ、なんのことやら」
「孝太さんは歩く避雷針です」
「なんて???」
百合がなんか変な事を言った気がする。
「それに、どこに逃げろと言うのですか」
「ここを突破されたら、うちの地元まで山を越えてやってきますよ。日本全国逃げ場なんてないでしょう」
そう。モンスター、それもCランク以上ならそれこそ本州全体を妨害が無ければ一日で横断出来るだろう。そして今回来ているのは空を飛ぶ奴と海を泳げる奴。こんなのが国内にこられたらどうしようもない。
「腹くくりましょう。負けなければいいんですよ」
「……孝太」
「孝太さん……」
二人の視線が自分に注がれる。
「お前めっちゃ足震えてるぞ?」
「目も涙目ですね。冷や汗も凄いです」
「そこはスルーしましょうよ」
本音を言おう。めっっっっちゃっ帰りたい。
だってさ、なにあの数。しかも質も高いとかなに?慢心って言葉を知らないの?大陸のモンスターは。おかしいじゃん。なんでよりによって自分達が守りに当たる時に来るんだよ。せめて高橋由紀子がいる時に来いよ。あいつに押し付けるから。
あー、死にたくない。絶対死にたくない。長生きしたい。フェリシア達に甘やかされながら長生きしたい。まだ途中のゲームがある。録画したままのアニメがある。家族ともっと過ごしたい。友達と遊びたい。
「……魔眼で見えたのか、俺達の死が」
正樹さんの問いに、言葉が詰まる。
「……僕が残れば、魔眼は発動しませんでした」
「つまり、ここでお前が帰る選択をとると、俺らは死ぬ可能性が高いのか」
正樹さんがボリボリと頭を掻く。
「ま、じゃあしょうがねえ。お前の力を借りるとするよ」
「そうですね。仕方がありませんから、正樹さんにも頑張ってもらいますよ」
精一杯不敵な笑みを浮かべてみせる。大丈夫、ではない。天岩戸作戦の時も死ぬかもしれないと思いながら参戦した。今回も同じ心持だ。この感覚に慣れる事は、きっとないだろう。
「お二人とも、私をお忘れでは?」
「忘れてねえよ」
正樹さんが百合の頭を乱雑に撫でる。整えられた髪を乱されながらも、百合は満足げな顔をしている。
「頼りにしてるぞ」
「はい。私もお二人を頼らせていただきます」
帰ろうとする者達を引き戻すのを諦めた指揮官が、会議室に戻ってきた。
海岸に集められたハンドラーと使い魔達。そしてお腹を押さえてうめく自分。
「おおう……」
「大丈夫ですか孝太さん」
別に緊張から倒れそうになっているのではない。ポーションの飲み過ぎだ。
集められた使い魔約百二十体全てに『ブーステッドツリー・ロングディスタンスランナー』をかけたのだ。当然魔力量が足りるはずもなく、ポーションを飲みながらだった。ぶっちゃけて言おう。吐きそう。スキルがなかったら絶対にお腹壊してる。
とりあえず吐きそうになっている自分のお腹を押そうとしてきた正樹さんは絶対に後でしめる。具体的に言うと正樹さんはロリコンと噂を流してやる。
その正樹さんは地上担当の使い魔達に紛れこんでいる。
今回の防衛戦では、紅蓮や百合の使い魔であるガルーダ、名前は『金江』というらしい。彼らを中心に約二十体が空戦担当として待ち構えている。
次に海の中で待ち構えている海戦担当の使い魔達約三十体。ケルピーやシーサーペントをはじめとした使い魔が揃えられている。
最後に地上担当が七十体。ここに金剛と烈風、正樹さんがいる。他にもガーゴイルやマンティコアなどがいる。そして、ハンドラー達は地上担当のかなり後方で待機している。
はっきり言って、かなりアンバランスだ。出来る限りに海上で迎撃したいのに、空戦と海戦担当が地上担当に比べて少ない。というのも、帰った奴らに空戦が出来る奴が結構いたとか。
まあ、ない物ねだりしても仕方がない。出来る事をしなければ。
耳につけられた無線から、自衛隊の声が聞こえてくる。なんでもモンスター達が射程距離に入ったので、ミサイルの発射と砲撃を始めるらしい。
何か飛んで行ったと思ったら、遅れて轟音が響き渡って耳を抑えて顔をしかめる。遠くの方で光っているので、きっとあれが自衛隊の攻撃だろう。
色々報告が聞こえてくるのだが、何を言っているのかさっぱりだ。同じ日本語のはずなのに、発音やら専門用語のせいでよくわからない。
「どうやら、自衛隊の攻撃でさしたる効果は得られなかったようです」
百合が真っすぐ前を向いたまま教えてくれる。どうやら無線の内容がわかったらしい。
「マジかぁ……ヤバそうですか?」
「倒せてはいないそうですが、それでも動きの阻害ぐらいは出来ているようです。敵の動きに乱れがあります。……それはそうと」
百合がジト目を向けてくる。
「孝太さんは、時々私に対して敬語を使いますね。以前、敬語は不要とお伝えしたはずですが?」
「いや、なんというか、オーラが……」
百合のなんというか、エリートって感じのオーラについ委縮してしまう自分がいる。あと、何故か『鷹に捕まえられているネズミ』みたいな姿を幻視してしまい、若干恐怖が出てくるのも原因である。
「そうですか……これから長い付き合いになるのです。慣れて頂かなければ」
「は、はあ……」
まあ、百合は友人の妹で部活の後輩だ。なんだかんだ顔を合わせる機会も多いのだし、委縮し続けるのもよくないだろう。
「この戦いが終わったら、兄様と遊びに行った翌日に私の荷物持ちをして頂くのです。その時にでも慣れてもらいましょう」
「……なんか死亡フラグっぽいですね」
「問題ありません。そのような物、斬って捨てればいいのです。たかが旗の一本や二本で。私を殺す事は出来ません」
「やだ、イケメン……」
堂々と言い放った百合にちょっとだけ胸がキュンときた。
「そろそろ空と海で使い魔とモンスターが接敵します。我らも身構えておきましょう」
「はい。じゃなかった。わかった」
つい敬語になりそうなのを、慌てて訂正する。一瞬睨まれた目が凄く怖かった。
なんにせよ、ここはかなり後方とは言え、モンスターからしたら大した距離ではない。使い魔と距離が離れれば離れるほど、ハンドラーの消費する魔力は増大する。どれぐらい戦闘が長引くかはわからないが、鎧袖一触とはいかないだろう。
遂に、空と海で戦いの火ぶたが切られた。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
高橋由紀子が大陸にまでアリスとティターニアを飛ばしても大丈夫なのは、頻繁にAランクダンジョンに潜っていた為、レベルの上昇が他の人より激しく、魔力量が膨大だからです。




