1 退院
「シオリおねーちゃん、タイインするんだって」
仲良しの看護師さんに聞いたと、フタバが泣きそうな顔で告げると、イチローもミツキも「ええっ」と驚いた。
シオリおねーちゃんは、もう何年も前から入院している人だった。天気の良い日はたいてい病院の庭に出ていて、ひなたぼっこをしている。とてもお話が上手で、三人が遊びに行くといつもワクワクするお話を聞かせてくれた。
「そういえば、最近、看護師さんじゃない人が、よくいっしょにいたね」
シオリおねーちゃんよりも少し年上の、おひげがよく似合う男の人だった。とても仲が良さそうで、少しおませなミツキは「おねーちゃんの恋人かな」なんて言いながら、目をキラキラさせていた。
「おねーちゃんいなくなっちゃうの? やだあ」
フタバはすでにベソをかき始めていた。三人の中でフタバが一番シオリおねーちゃんと仲良しだった。だけどイチローとミツキも気持ちは同じで、もし一人だったら泣いていたかもしれない。
「ばか、そんなこと言っちゃダメだ」
イチローはぐっと涙をこらえ、ベソをかくフタバの頭をなでた。
「おねーちゃんは、元気になって退院するんだぞ? いいことなんだぞ!」
「でもぉ……」
「……さびしくなっちゃうよね」
ミツキも泣きそうなのを我慢している顔になった。そんな二人を見ていたら、イチローも我慢しきれず泣いてしまいそうになった。
だけど、とイチローは歯を食いしばって、我慢した。
「僕たちが泣いていたら、おねーちゃん、悲しくなっちゃうだろ」
シオリおねーちゃんが何の病気だったかは知らない。だけど、元気になって退院するのだから泣いてはいけない。笑って、元気に見送ってあげないといけない、とイチローは思った。
「そうだ! みんなで、シオリおねーちゃんに退院のお祝いをあげようぜ!」
「お祝い?」
「おねーちゃんに?」
フタバとミツキは首をかしげながら顔を見合わせた。そんな二人に、イチローは続ける。
「素敵なお祝いをあげて、それで、僕たちのこと忘れないでね、て言おう。そしたら、きっと忘れないでいてくれるよ」
「……ほんとに?」
「ほんとだって。だから……ほら、もう泣くな、フタバ」
それから三人は、シオリおねーちゃんへのプレゼントは何がいいかを考えた。
だけど、すぐに結論は出ず、明日までにそれぞれ考えてこよう、ということで解散となった。




