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防衛戦隊ディフェンジャー  作者: きり
第1章 普通の(?)の女子高生
20/26

18 不思議な場所

「じゃあ、このテーブルや椅子もそうなの?」

 シロさんに向き直り期待に満ちた眼差しを向ける。

「テーブルや椅子の彫刻に関して言えば、耀稀の一種を使って作られた物ですよ」

 触れてご覧になってみて下さい、と言われテーブルの表面に触れる。

 けれど微かに凹凸がある様に見えていたそれは、全くの平面だった。

 よく見ると彫刻その物は硝子の中に施されている。二枚の硝子を合わせてくっ付けているのかと、側面から見てみてもそんな跡はなく、しかも脚の部分と板部分でさえ継ぎ目すら無かった。

「凄い。じゃあ、テーブルや珈琲が出て来た仕組みも耀稀?」

 私の問いにシロさんは一瞬戸惑った様に答えに詰まった。

「……いえ、違います。それは単なる仕様です」

 はい? 仕様ですと?

「えー、あれです。この建物の造りになっております。壁にある操作盤を使えば誰にでも出来る事ですよ」

 そう言って立ち上がると、壁に向かって歩いて行き、私を手招きした。

「よく見て下さい」

 言われて壁に目を近付ける。そこには遠目からでは全く分からなかったけれど、表面の材質が微妙に違う箇所があった。他と同じ色のモニターがある、そんな感じ。

 丁度三十センチ四方のそれにシロさんが手を当てると、一瞬、微かに光った。と、思う間も無くモニター部分が前方に倒れる様にして壁が開いた。

 そこに現れたのは、棚の様な物で、底面に位置する先程の壁のモニターには、文字の様な物が浮かび上がっていた。

 シロさんがその文字に滑る様に指を走らせると、棚の奥が開き、トレイに載った珈琲が一脚、滑る様に押し出されて来た。

「これでお分かり頂けましたか?」

 珈琲を取り出し私を椅子まで導くと、私が席に着くのを待って、今度は彼自身も席に着いた。

 そして珈琲の香りを楽しむ様に吸い込んだ後、一口啜った。

「こちらに出入りする様になってから、病み付きになりましてね」

 そんな彼の様子を不思議そうに見ていた私達に気付くと、彼はほんのり頬を染めて言い訳する様に言った。

「おや。貴女様は未だお飲みになられていない様ですね」

 そう言ってシロさんは未だ口をつけていない私のカップを見遣った。

「冷めてしまった様ですね。いれ直しましょう」

 立ち上がり掛けたシロの手をお兄ちゃんが掴むと、お兄ちゃんは首を振った。

「すまん。こいつ、珈琲駄目だったんだ」

 すっかり忘れてたいたよ、とお兄ちゃんが言った。

 それに対してシロさんは、『ええっ!?』と巨大な字幕が出そうなくらいのけ反って驚いてみせた。

 ちぇっ。そんなに驚かなくてもいいじゃないか。

「でしたら別の……」

 と言い立ち上がり掛けたシロさんの腕を今度は私が掴む。

 ……え、何?

 掴んだ指先から、何とも言えない感覚が身体に上って来た。何かを思い出しそうな、そんな妙な感覚。

 この人って、いったい……。

「あの、何か?」

 腕を私に掴まれたままのシロさんが、戸惑った様に言った。

「あ、すみません!」

 私は弾かれた様に慌てて手を離した。

「あの、今別に何も欲しく無いですから」

 続けて元々言おうとしていた言葉を告げる。

「でも……」

「もう、ほんっと、お構いなく!」

 力一杯辞退すると、シロさんはそうですか、と言いながら渋々座り直した。

「さて、お前も元気になったみたいだし、そろそろ帰るか」

 珈琲の最後の一口を飲み干したお兄ちゃんがカップをソーサーに戻すと立ち上がった。

「え? もう帰るの?」

 釣られて私も立ち上がりお兄ちゃんに言う。

「お兄ちゃん、ディフェンジャーの皆には会ったの?」

「いや。今日は鏡異人だけで充分だ」

 悪いが出口まで送ってもらえるかな、とシロさんに告げた。

「え!? お兄ちゃん、鏡異人に会ったの!!」

 驚いた声を掛けた私に、お兄ちゃんのみならず、シロさんまでもが、驚いた様に私を振り返った。

 え、え、え? な、何?

「鏡異人になら、お前も会っただろうが。団体で」

 そう言ってお兄ちゃんは私に先程会った数人の男達を思い出させた。

「えーっ!? 嘘ーっ!!」

 皆、外国人的容姿を除けば、皆、普通に街中にいてもおかしくないくらいに人間だった。

「私はてっきり鏡異人はロッカの様な姿をしているとばかり……」

 言いながら、最後は笑ってごまかそうとした。

 お兄ちゃんはそんな私に心底呆れた顔をして見せ、シロさんは口元に引き攣った様な笑みを浮かべていた。

「馬鹿も休み休み言えよ。お前の今目の前にいる彼も、列記とした鏡異人の一人だぞ。失礼じゃないか」

 言われ、慌てて小さく頭を下げると、シロさんは手をヒラヒラと振り、気にしなくていいと言ってくれた。

「自己紹介が未だでしたから、仕方がありませんよ。では、改めまして、リナベル・ドラガナフ・シロッチャと申します。以降、シロとお呼び下さいませ」

 と言って、外国映画でしか見た事の無い踊る様な動きで会釈をした。

「あ、私は、鷺沼将美と言います。よろしくお願いします!」

 私も慌ててそう言うと、華麗に会釈を、と思ったのだけれど、焦ってしまい結果的に外国映画で見る不自然な会釈をしてしまっただけだった。

「こちらこそ」

 声に微かに笑いを滲ませシロさんは答えると、そう言えばと続けた。

「今日、ロッカは連れて来なかったのですか?」

「ロッカは今日はお留守番です」

「妙にこっちに来るのを嫌ってな。仕方が無いから置いて来た」

 そうお兄ちゃんが言うと、シロが面白がる様に言った。

「それは妹君が髪を切った後では無いですか?」

「……切ったと言うか、切られた後ではあったけど」

 私はお母さんに髪を強引に一房切られた事を恨めしく思いながら答えた。

「成る程、逃げましたね」

 シロさんはそう小さく呟くと、何故か楽しそうに声を立てて笑った。

「さて、何時までもお引き止めしちゃ悪いですね。お見送り致します」

 ひとしきり笑った後、シロさんがそう言って私達の前を歩き出した。

「それにしても凄いですね。私、こんなに地下深くに来た事無いですよ」

 帰りのエレベーターに乗り込むと、私はシロさんに話し掛けた。

「中の仕掛けも凄かったんですけど、この建物って、どなたの持ち物なんですか?」

「松山グループの所有する建物だよ」

 シロさんに聞いた筈が、お兄ちゃんから答えが帰って来た。

「松山グループ? 松山グループって、あの松山グループ!?」

 不動産や百貨店、鉄道や銀行、食品、鉄鋼、病院に至るまであらゆる分野を網羅する巨大企業グループだった。

 そんな企業が、何故こんな胡散臭い事にまで手を出しているのだろうかと、自然、眉を顰めた。

「厳密に言えば、あそこは松山グループの持ち物ではありませんよ」

 エレベーターが目的の階に止まると、シロさんが言った。

 扉は何故か閉まったままだった。

「これからお話しする事は、他言しないで頂きたいのですが」

 そう言って、シロさんは私達に向き直った。

 私とお兄ちゃんは、訳も分からず互いの顔を見ると、シロさんに向き直りゆっくりと頷いた。

「ありがとうございます」

 シロさんはそう言って話し出した。

 今まで私達がいた場所は、鏡異界だったのだと彼は言った。

 松山グループがディフェンジャーの秘密基地として提供してくれているのは、地下二階、地上五階の建物で、登記簿上は、治療薬の研究開発の為の物とされている。

 事実、建物の反対側はその様な研究に使われており、秘密基地のカモフラージュとして使われている。

 研究所と基地は互いに行き来する事が出来ない上、基地で働く人間も研究所で働く人間も皆、封神笛に関わる一族の人間を使っているらしい。

 ……と、ここまではディフェンジャーや、基地で働いている一部の人も知っている話らしく、特にディフェンジャーに話しても問題は無いらしい。

 問題はここから。

 私達が行った地下は、実はその存在を鏡異界の一部の人以外、誰も知らないのだという。

 鏡異人ですら、あの塔――とシロさんが言った――の中には、選ばれた一部の鏡異人しか入れないのだ、と。

 そして、私達が今乗っているエレベーターも、地下と行き来する為の物ではなく、次元を越え、鏡異界と行き来する為の物なのだそうだ。

 勿論、建物の所有者に無許可で繋いだシステムらしいから、他言するなというシロさんの気持ちも分からなくもない。

 そう思っていたのだが、シロさんの言い分は違っていた。

 基本的に鏡異界と私達の世界の行き来は禁止されており、今回の件は特例として彼等が私達の所に来ているかららしい。しかもそんなに簡単に行き来出来ると誰かに知られでもしたら、悪意のある第三者に再び押し寄せられるかもしれないというのだ。そう邪衆魔達の様に。

「分かった。心配するな。俺もこいつも他言はしないよ」

 話を聞き終わると、お兄ちゃんは私の頭に手を載せて言った。

「ああ、うん。言いません」

 な、とお兄ちゃんに促され、私は慌てて同意した。

 それを見たシロさんが微かに微笑んでありがとうございます、と小さく会釈した。

「あの、一つだけ教えて貰えますか?」

 扉を開けようとして手を壁につこうとしたシロさんの腕に手を掛けると私は言った。

「何でしょう」

 訝しげに振り返ったシロさんに、私は不思議に思っていた事を尋ねた。

「このエレベーターみたいなのって、ひょっとして耀稀で作った物だったりします? それもシロさんが作った」

 それに対してシロさんは今日一番いい笑顔を見せただけだった。

 廊下に出て、お兄ちゃんが勝手知ったるの調子でズンズンと先を行くのを早足で追い掛けていると、シロさんが小声で尋ねて来た。

「先程の件ですが、どうして私が作ったと思われたんですか?」

「え? あれですか?」

 何と答えればいいのだろう。何となく、先程浴びた海と雰囲気が似ている様な気がした、としか言い様がなかった。上手く言えないけれど、それの醸し出す雰囲気が似ている、とでも言えばいいのだろうか。

 けれど上手くそれを伝えられそうに無かった私は、何となく、と答えるにとどめておいた。

 シロさんはおかしな顔をしたけれどそれ以上は特に追求しては来なかった。

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