第六話 能力②
今回も地の文多いです。
努力が報われる能力。ミラが転生前に神に望んだ力だ。
これは文字通り、努力すれば手に入り、怠れば手に入らないということではないか?
今回は努力を怠っても、脳本来の学習能力で乗り切ることができたが、他の技能についてはどうか。
例えば剣術。ただ棒切れを振るのみではなにも身に付きはしない。それでも腕を振る筋肉くらいは付くだろう。ミラの場合も同様だ。〝努力〟しなければ、当然技術は身につかない。筋肉については、やはり実際に体を酷使する以上、肉体は成果を得るだろう。
では、〝努力〟した場合はどうか。
これまでの学習速度から考えて、かなり期待できるのではないだろうか?
それどころか、剣を振ると同時に、〝筋力を鍛える努力〟も並行して行えば、得られる成果は跳ね上がるはず。
この能力は強力だ。なにしろ、デメリットがないと言っても過言ではない。
努力なしでも人並みの学習能力があるのは確認済み。もちろん努力した方が成果は上がるが、すべてが無駄になるわけではないのだから。
(なにより、努力した場合が恐ろしい)
すべては努力なしには手に入れることはできない。この世に努力できないことなど存在しない。
それはつまり、逆説的に言って、努力すればすべてを得られるということだ。
(必要な努力の量と、効果が及ぶ範囲がどのくらいかわからないけど、これは反則だ)
少しだけ後悔した。
これはチートだ。いわゆる一種の成長チート。
己の努力と根性で得られる成果を軽く超越してしまうのではないかと考えたのだ。それは、先輩の教え『精一杯やる』とは矛盾する。
なんでもできる者に限界など存在しない――つまり〝精一杯〟という上限がない。
(実験する必要がある)
ミラは己の力を知る努力を始めた。
結果、以下のことが判明した。
まず一つ目。学習、運動問わず、能力が発現する(と予想される)行動について。これは、努力できるすべての行動についてということ。
つまり、努力し続ける限り、どんなことでも無制限に成長することができる(だろうと思われる。なにしろ現状できることは限られている)。これは予想通り。
二つ目。成長に要する努力の質について。本は集中して読めば一回で丸暗記が可能だった。次に、スクワットをしながら読んでみたら、三分の一ほどしか覚えることができなかった。つまり、一つのことに集中した方が成長効率がいいことになるが、まだまだ研究の余地がある。
三つ目。努力の量について。今度はスクワットだけ、立てなくなる限界までやってみた。二〇回、汗だくになりながらやり切ると、足に激痛が走った。
怪我ではない、痛みは筋肉痛特有のものだ。そのまま動くことができずシェイラに発見されるまで床に寝ていたが、二時間ほどで痛みは引いた。嫌になりながらも再度スクワットをすると、今度は三〇回できた。前回の一・五倍だが、単純に筋肉量が一・五倍になったというわけではないようだ。見た目は少し引き締まったようだが、太くはなっていない。回復にかかる時間も前回と同じだった。
先の二回は体を鍛えようと努力した。次は具体的に、『六〇回以上スクワットをしよう』と努力してみた。今のミラには不可能な数字だが、結果、達成できたのは六一回。明確な目標を定めることで、能力の効果は強力になるらしい。
ちなみに学習に関しては、集中力の多寡によって成果に影響が出るとわかった。眠りに落ちる寸前に読んだ本のページはほとんど覚えていなかったが、集中して読んだページは一言一句どころか余白の染みまで鮮明に記憶できた。量についてはあまり関係ないらしい。
四つ目。努力の上書きについて。ある努力した事柄を、別の努力で打ち消すことができるか確かめたが、結論から言うと可能だった。
努力して覚えた単語を忘れようと努力したのだが、ある瞬間からその意味を理解できなくなったのだ。
そしてそれはまた努力すれば覚えることができた。スクラップアンドビルドができるのは大きなメリットだが、努力を打ち消す努力はかなりの集中を要するので大変だった。
肉体については試していないが、恐らく同じ結果が出るだろう。今のところ使う予定はない。
以上のことから、学力は人並みに集中すれば超人的な記憶力を発揮し、身体能力は具体的にイメージすればその目標を上回れること。努力は別の努力で上書き可能ということがわかった。
やはりチートに違いはないが、なにもかも無制限のやりたい放題でないことがわかってほっとした。やりがいがなくては努力もへったくれもないのだ。
そんなこんなで一〇日がたった。その間一度も教会の外に出してもらえず窮屈だったが、シェイラとシルルのおかげで退屈せずに済んだ。
他にも確かめたいことがある。それはミラの顔だ。この世界(少なくともレンファ村では)の鏡は高級品だ。ガラスもないので自分の姿を見ることができないのだ(窓は木戸で塞いでいる)。水鏡に姿を映したことはあるが、揺れる水面と下を覗き込む体勢のせいで、明瞭とはほど遠い。それでもなんとか確認しようと見つめ続けた結果、自分の顔はかなりいい線いっているのではないかと思えたのだ。
白い肌に彫の深い目元。恐らくブルーの瞳が自分を見返してくるのだ。控えめに言って外人のモデルさんかと思った。幼げな顔立ちが堪らなくキュートである。これは期待せずにはいられない。
しかし自分のことをかわいいかと誰かに聞くのは恥ずかしいので、評価は保留のままだ。いつかの楽しみに取っておくことにして、美容と健康維持に精一杯努力した。成果が楽しみである。
一方、気になることもあるのだ。ミラの髪は絹のように白い。この髪色だけが記憶と違う。以前は輝く金髪だったはずなのだ。
クロイス神父に訊ねると、それは魂送りの儀が原因だと教えてくれた。ミラの魂を豊穣の神に捧げたあれだ。
あの儀式を行うと、祭壇に乗せられた聖体(娘)は魂と体の色を抜かれるのだという。なぜこんなことが起きるのかはまったくの不明だ。
少し気にはなるものの、考えても仕方がないと思い気にしないことにした。白い髪は太陽の下では銀色に輝いて綺麗だし、なんかかっこいいので問題ない。
復活してから一一日目。センパイを背中に乗せひたすら筋トレに励んでいると、コンコンと扉がノックされた。
「本日、王立国教会からお迎えがやって来ます。出立は明日の朝。準備をお願いします」
いきなりそんなことを言われた。問い質すと、クロイス神父は首を傾げた。
「なんと、これは失礼を致しました。シェイラに伝えるよう命じたのですが……申し訳ございません。後できつく言っておきますので」
「その必要はありません」
「お許しくださるのですか?」
「いいえ、わたしが直接あの子に問い質します。この場に呼んでください。今すぐ」
次回、少し物語が進みます。




