第36話 王都アラドネア
グレイブさんの手配した場所に乗り僕らは王都を目指して束の間の休暇を楽しんでいた。シズに至っては、初めての遠出と言うこともあり、あっちを見たりこっちを見たりと忙しない。
「凄い!あの川は何処から流れてるの?」
「あれはウィッチヤードにある山の麓からだ。王都の方へと流れていずれは広大な海に行き着くぞ」
「海!?いつか行ってみたいな!」
グレイブの丁寧な説明にピョンピョンと跳ねるシズに、
「ちょっとシズ!落ち着けって!」
「落ち着いて居られないよ!私町から一歩も出た事が無いんだよ?こんな凄い景色が今まで傍に有ったなんて信じられない!!」
「ふははは!元気で良いじゃないか!俺の妹も城から一歩も出た事が無いんだ。シズの旅の話を聞かせてやってくれないか?」
それってつまり・・・
「王女様!?会ってみたい!」
「おお!是非会ってやってくれ。いつもは俺の冒険の話を待ってるんだが、生憎今回はそんなに時間が取れなくてな。俺の変わりにお願いするよ。良ければサフィやカレラも一緒にな。女同士の方が色々と相談も出来るだろ?」
「私達は構いませんが、その、良いんですか?私達みたいな庶民が王女様に会うなんて?」
「勿論だよ。王女と言っても序列では下の方だし。社交の練習も兼ねてな。残念ながら元気になった分、王族の役目は果たさないと行けないんだ・・・」
そう言って、悲しそうな目をするグレイブ。王族の役目って、そんなに悲しい顔をする事なののだろうか
「グレイブさん?」
「あ、いや、すまんな。いずれ離れ離れになると考えるとついな・・・さあ、あの丘を越えた先に王都が見えるぞ」
馬車は順調に進み丘を越えると、広がる平野に大きな街の姿が見えた。あれが、
「見えたぞ、あれが王都アラドネア、俺の故郷だ!」
「おお〜遠くからでも大きな街ですね!」
「あの奥の白いのがお城ですか?!キャー!凄いよお兄ちゃん!」
「うん、暫くあの街にお世話になるんだ。皆楽しみだな!」
「気に入って貰えたようで良かったよ。さあ、ここからはスピードが上がるぞ!舌を噛まないように座っていろよ?」
グレイブの言う通りスピードが上がった馬車であったが思いのほか揺れずに街道を進んでいく。どうやら土をしっかり踏み固めて頑丈な街道にしている様だ。僕が感心していると、
「気が付いたか?王都に近づく程、石畳の頑丈な道になるし、重要な道も同じ様に整備されているんだ」
「へぇー流石王都だね」
「まあ、王の住む都さ。ある程度見栄を張ってでも綺麗にしとかないとな。他国に舐められても困るのさ」
「以外と王様も大変なんだね。それにしてもグレイブさんは良く冒険者何かになれたね?反対されなかったの?」
「されたさ。でも妹が死ぬかしれなかったんだ。周囲の反対を突っぱねたさ。まあ、唯一父上が、国王が賛成してくれていたからな。最終的には周囲の連中も首を縦に振ったさ」
豪快に笑い飛ばしながらそう話すグレイブ。いくら継承権が無いとはいえ、王子を冒険者に押すなんてうちの王様は意外と子供想いなのかもしれないな。
しばらくみんなの話を聞きながら、揺れていた馬車がとうとう止まると、どうや馬車は王都へと到着したのだった。
外には王都に入ろうとする長い列が出来ており、検問の為にゆっくり、ゆっくりと前に進んでいた。
「少し待っていろ」
グレイブはそう言って外に出ると、近くの兵士を呼びつけ馬車を誘導させた。
「これですぐに王都に入れるからな」
「へぇ、流石王子様だね」
「こういう時には役に立つんだよ」
僕達の馬車は大きな城壁をくぐり街へと入って行った。初めて見た王都は、それはそれは賑やかな街並みだった。
所狭しと店が連なり、人々が活気よく生活している様だ。育った町とは懸け離れた世界に妹のシズは、
「凄い!こんなに沢山人が居るよ!?お店もいっぱい!あー!あのお洋服可愛い!!」
馬車から身を乗り出して目に見える物に興奮していた。サフィやカレラも騒ぎこそしないが同じ様に周囲をつぶさに観察している様だ。
「このまま宿に向かうぞ。今日は俺に付き合って貰うが、明日からは自由にしてくれて構わない」
「ギルドにも?」
「ああ、ウィッチヤード程、魔物のいる森は無いが、その分この王都には此処にしか無いダンジョンがあるぞ」
「ダンジョン?」
「そうだ。王都に来る冒険者はそこで魔物を倒して稼いでいるのさ。試しに行ってみるといい」
僕はワクワクした気持ちで話を聞いていたのだが、突然太ももに強烈な痛みをなさ感じてそちらを見た。
ニャ〜ゴ!
先程まで静かにそこで寝ていたはずのラプラスが、鋭い爪を太ももに食い込ませているのであった。
「ちょっと?、痛いんだけど!?」
ナぁ〜〜ん
爪をにぎにぎしながら、さも痛かろうと、こちらを見るラプラスに構っていると、
「毛並みの良い猫だな。もう長いのか?」
「いや、つい最近うちに良く来るようになってね。今ではこんなに懐いているんだ」
ニャ〜
「私のお見舞いにも良く来てくれたんだよ!お利口でしょ?」
「そうか。王都は広い。くれぐれも迷子にならないようにな」
ニャーン
ラプラスは一鳴きすると再び膝のうえで寝始めた。そんな彼女を撫でながら馬車に揺られると、僕らは拠点となる宿屋へと到着した
「さあ、着いたぞ!ここが当分クロウ達の泊まる宿屋だ」
「凄く立派な宿ですね!」
「まるで貴族の御屋敷の様ですよ」
サフィもカレラも驚いている。それもその筈、僕らの町では見たことが無いような格式高い外装に、中に入って見れば高価なそう調度品で彩られているのだ。
「こんな凄い所を使って良いの?」
「ああ、ここは王家のお得意様様の宿だ。警備もしっかりしているし、もし何かあればすぐに知らせが来るしな」
「わぁ〜綺麗だよお兄ちゃん!こんな所を使えるなんてグレイブさんはすごいね!」
「ハハハッ!気に入ってくれたか。さあ、部屋を案内させよう。支度が出来たらここに集まってくれ」
グレイブが合図すると、メイドが僕らを案内してくれた。僕は1人で、女性陣は3人でそれぞれの部屋に案内された。
僕の部屋は1人にしては広々としていて、ちょっと寂しいが、
「君には私が居るでしょ?それに1人の方がクロウ君には都合が良いよ」
「都合って、何かあるの?」
「ふふふ、王都に来てるからと言って、ウィッチヤードの番人の仕事をサボれる訳じゃ無いよ?」
「え?」
ラプラスは適当なドアに、前脚の肉球をぴとっと当てると、閉じられたドアの隙間から光が洩れた。
「完成〜!さあ、開けてみて?」
「まさか・・・」
ガチャリと開いた扉の先から、新鮮な冷たい空気が流れ込む。何度も嗅いだ森と土の匂いがすると、ドアで隔たれた先に、ウィッチヤードの、ラプラスの庭が現れた。
「ちゃんと繋げておいたから、何時でもお仕事出来るからね」
「相変わらずラプラスの魔法は便利だね」
「えへへ、でしょ?」
ドアを閉めて、支度を済ませるとロビーへと降りる。既にみんな集まっており、
「ゴメン、遅くなりました」
「ああ。大丈夫だ。さぁ仕事だ。王城へと案内しよう」
グレイブは僕らを伴ってそびえ立つ王城へと案内してくれた。道中は様々なお店や行き交う人々を見ながら、賑わう大通りを進んだ。
やがて人通りが疎らになり、目の前には遠くからでも大きく見えた城が聳え立っていた。
グレイブは門兵に近づいて書状を渡すと、ハッと敬礼し城へと続く門を開けた。
「ほら、何ボサッとしてるんだ?ついて来いよ」
「え?あ、はい。いや何だが緊張しちゃって」
「この程度でか?まだ門だぞ。中に入って失神なんてしないでくれよ?」
グレイブは通り過ぎる兵士等に挨拶を交わしつつ、城の中をスイスイと進んだ。そして、大きな応接間に着くと、
「じゃあちょっとここで待機していてくれ」
それだけ言うと、自分は部屋を出て行ってしまった。残された僕たちは、極上のソファに腰掛けて、緊張した面持ちで時を待った。
僕はサフィにだけ聞こえるように、
「サフィはこう言うの慣れているんだろ?」
「私ですか!?私もこんなお城に来るのは初めてですよ!セクレスでは自分のお城でしたが、他国の、それもこんな立派なお城に入るなんて初めてなんですよ」
うちの王女様も緊張していると、シズやカレラに至っては借りてきた猫のように体を固めて大人しい。
僕らが待つ部屋のドアがコンコンと叩かれ、静かにドアが開く。グレイブに続き彼の陰から可愛らしい少女が姿を見せた。雰囲気がグレイブに似ているという事は、
「待たせたな。紹介しよう。これが俺の妹だ」
「皆さん、ようこそ。私がプリシアと申します。この度は私の命を救って頂いたようで、有り難く…」
「プリシア、公の場じゃ無いんだ。普段通りで良いんだぞ?」
「え?、ホント?いや〜堅苦しいのはは嫌いなのよね。改めて、プリシアよ。宜しくね」
「よ、よろしく…元気な妹さんだね?」
「だろ?これが床で伏せってたんだ。信じられないぜ。今じゃこんなお転婆に…」
「何よ?お兄様はあのままの私が良かったって言うの?」
「いや、そんな事は無いぞ!?ただな、もう少しおしとやかでもと思ってな。お、そうだ、紹介がまだだったな。ここに居るクロウがまぼろし茸を取ってきてくれたんだ」
「初めまして。クロウです。こっちが妹のシズ、仲間のサフィに、今回ギルドから護衛に来てるカレラです」
「宜しくね、プリシアちゃん」
「プリシア、ちゃん…?」
「こら、シズ、流石にお姫様にそんな口を利いちゃ駄目だよ?」
「良いわね!シズちゃん?私のお友達になってくれます?」
「お友達?うん!良いよ!」
「ホント?!うれしいわ!お兄様、初めてお友達が出来ました!」
「おぉ、良かったな。シズ。プリシアと、仲良くしてやってくれるか?」
「?うん、勿論!」
「そうか、じゃあ暫く俺とクロウは出掛けるから、女性陣は気楽に過ごしていてくれ」
「気楽にって…ねえ?」
「ふふふ、こんな機会滅多に無いですから、良いじゃありませんか!」
困惑するサフィに対して、カレラはドンと構えている。流石サニーさんが選んだ人だと感心している
と、
「よし!じゃあクロウは俺について来い」
「わかったよ。じゃあみんな、また後で」
「うん!お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
王城の中を二人で歩く。すれ違うのは大抵侍女や兵士だが、クレイブの顔を見て会釈して去っていく。一方で、
「お、グレイブ殿ではありませんか!王城に居るとは珍しい。今度是非、私の領地へ…」
「あ〜済まない。今は所用で忙しいんだ。また今度、領地の酒を飲みに行くよ。それでは!」
「あの、ちょっと…」
声を掛けて来た貴族を軽く躱して歩く彼に、
「良かったの?今の貴族の人でしょ?」
「ああ、偶然出会した相手だ。それに顔を知っている程度さ。あんなのに構っていたら、目的地に着く前に夜が来ちまうぜ」
「は、はぁ…」
「それに、こっちはもっと大切な話をしに行くんだ。相手を持たせるわけにもいかないしな!お、着いたぞ」
目的地に到着したようだが、目の前には大きな両開きの扉があり、厳格な雰囲気だっだ。そんな扉を守る騎士に声をかけると、
「父上は?」
「はっ、グレイブ様をお待ちです。どうぞ此方に」
「ああ」
グレイブの事を確認した騎士らは、左右の扉をゆっくりと開ける。開けた先は大きな広間で、豪華で煌びやかな場所だった。
「父上、お待たせしました」
「ああ、グレイブか、待っておったぞ。して一緒に居るのが?」
「はい。ギルドから保護申請を受けたクロウです。プリシアの恩人でも有ります」
「ほう、聞いてはおったがプリシアと然程変わらんな。お主のお陰で娘も助かった。礼を言う」
「あ、いえ、僕はそんな…」
「グレイブよ。お主もまだまだ精進しないとな」
「ハッ、さそうで、」
その後も王様を交えて短い話をしたが、僕は何を話したか全く覚えいない。謁見を終え、広間を出てグレイブの後を歩いてやっと平静を取り戻したくらいだ。
「ちょっと!王様に会うのなら初めに言ってくれても良かったんじゃない?!」
「ハハハッ、悪かったな。ちょっと時間を押しててな、つい言い忘れちまった。ぁイタッ!?」
イタズラが成功した時の様な無邪気な笑顔で笑うグレイブにイラッとした僕は、後から蹴りを食らわして抗議するのであった。




