第35話 Aランク冒険者
借金を完済した僕はこれまでと変わらない生活を続けていた。
ウィッチヤードの森のゴミ掃除に始まり、魔物の討伐をしてはブリオに捌いてもらう。溜まった貢献度をメーテルに使い身体機能を向上させた。
未だに新たなスキルの獲得には至っていないが、貯まる貢献度を消費する先は今のところメーテルしか無いのだ。
「マスター、今日もお疲れさまでした。サフィさんとの連携もとても良い感じですね」
「ハイ!ありがとうございます。メーテルさんの訓練のお陰で守護者として成長を感じます」
サフィも僕の余った貢献度を使って訓練に励んでいる。彼女の目的であるエグゼクレス奪還には、セクレスで暗躍するジャックを倒さなければならない。
ジャックの影響でエグゼクレスとの繋がりが希薄になっている彼女は、自らを強化して『守護者』のチカラを底上げするしか無い。
それは僕も同じだ。ウィッチヤードの外では『番人』のチカラは全く使えないのだ。この前はエグゼクレスのお陰で一瞬だけ木の中から抜け出す事が出来たが、
「チカラが使えない分、自分を強くするしか無いもんな」
「そうですね。私はガーディアンの中に入る事が出来ますが、完全かと言えばまだまだですから」
「そうですね。今は知恵と技術で補う他無いでしょう。ですが、いずれは・・・」
「チカラを完璧に使えるようになる?」
「ええ、貴方達2人ならあらゆる困難を乗り越えられるでしょう」
メーテルの言葉に僕もサフィも俄然やる気が出た。メーテルの特製お昼を平らげると、それから日が暮れるまでメーテルの特訓を受けた。
暫くそんな穏やかな日が流れた。僕は森の仕事を行いつつ町でギルトの依頼や魔草ダソナの仕入などを行って自分の家に帰ってきた。
家で荷物の整理を行って居ると、 ドンドンドン!ドンドンドン!と、けたたましい音を立てて家の扉が叩かれた。
何だ何だ!?もうクロスヘルドからの催促は無いんだぞ?
鳴りやまない扉を叩く音に、扉を壊されては困ると、ゆっくりと扉を開けるとそこには何時ぞやのセクレスギルドの御一行が居た。どうやら僕の家を取り囲んで居る様で、
「逃げ場はないぞ。お前がクロウだな。私はセクレスからお前を捕縛しに来たものだ。大人しくしろ!」
「セクレス?急に何ですか?僕が一体何をしたって言うんです?!」
代表者らしい初老の男が蔑んだ目で僕を見ると、
「ふん!いいか?お前には王女誘拐の嫌疑でセクレスから指名手配が出ている。私達は王女の身の安全と、その犯人を取り押さえに来たのだ!」
「お、王女誘拐?そんな事出来る訳無いですよ?それに誘拐したっていう王女様は何処に居るんですか?」
「ふん!白々しい!此処に居なくともどこか別の場所に監禁でもしているのだろう。それについてはお前を尋問してでも必ず吐かせてやるから覚悟して置け!」
がらんとした室内をアピールしながら、僕は必死に無実を訴えるが、相手はそんなのお構いなしの様だ。逃げ場の無い状況・・・一か八か正面突破か、それともウィッチヤードの庭へ逃げ込むか・・・僕がこの状況をどう突破しようかと考えていると、
「おい!そこの者たち、アラド王国の者ではないな。その少年をどうするつもりだ!返答によっては容赦しない!」
「な!?何だお前達は、私が誰だか知らんのか?」
「ふん!生憎お前の様な者は五万と居てな。生憎貴方が誰だか私にはさっぱり分からんのだが、名乗って貰っても良いか?」
「な、何だと!私はセクレス宗教国、ギルドマスターのディランである。そういう貴様はどこの誰だ!?」
傍から見ても貴族の様な振る舞いで助け舟を出してくれた人物は、
「そうか、ギルドマスターともあろう人物を態々寄越すとは、セクレスは余程アラドと戦争をしたいようだな。良いだろう、私はアラド王国よりその少年の保護を依頼されたAランク冒険者のグレイブ・アラドだ。これ以上、事を荒げたくなければ大人しく引き下がって貰おうか!」
「ぐッ・・・グレイブ・アラド?!なぜ王族の端くれが冒険者なんか酔狂な事をしていると聞いているが、よりによって王国からの依頼だと?その少年に一体何の価値があるといううのだ?!」
「申し訳ないが、それはお前達に話す理由は無い。ここはアラド国内だ。もし力尽くでと言うのであれば、こちらも全力で対処させて頂こう」
僕そっちのけで繰り広げられるセクレスとアラドのバチバチを家の中から見物していると、セクレス側が折れた様で、
「チッ!良いだろう。今回は一旦引き下がるとしよう。しかし、こちらも王女様を誘拐させたのだ。諦める訳にはいかん。セクレスから直接アラドへ書状を送らせて頂くとしよう」
「ああ、そうしてくれ」
「ぼさっとするな、引き上げるぞ!」
顔を赤くして仲間に怒号を飛ばし引き上げていくセクレス一行と入れ違いで、呆れた顔をして、僕の前にやって来たグレイブは、
「全く、君も災難だな」
「は、はあ・・・あ、助けて頂き有難うございます。グレイブ様」
「ああ、私の事はグレイブと呼んでくれ。同じ冒険者だ。堅苦しいのは止してくれクロウ君」
「ええっと、はい分かりましたグレイブさん。ですが、なんで王国が僕なんかを?」
「ん?ああ、これは王家内でも極秘案件なんだが、どうやら君はまぼろし茸を王家の為に命からがら取り戻してくれたそうだね。取引先の商人が君の功績を称えていたそうだ。お陰で私の妹も病から持ち直した。お礼を言うのはこちらだよ」
ん?まぼろし茸、王家の為、商人・・・はて、さっぱり分からないが何故だろう、朧げに暗躍しているブリオの事を幻視してしまう。
「そうでしたか、妹さんが元気になって良かったです。しかし、何故僕なんかを保護してくれるんですか?」
「ん?ああ、先日サイラス殿から打診があったんだ。セクレスの不届き者が君を指名手配にしているとね。君はこれまで発見が殆ど確認されなかったまぼろし茸を2度も発見している。」
2度・・・1度目は貴族と取引で、2度目は僕の妹のシズに。確かにそうだけど、
「ぐ、偶然ですよ。運が良かっただけで」
「いや、これは運だけでどうにかなる問題ではない。君の様にウィッチヤードに詳しい人材をみすみすセクレスに奪われては困るからね。それに、」
「それに?」
「かくゆう私が冒険者になったのも私の妹の病を治す為だったからな。各地を冒険しAランクまで上り詰めたが、結局私自身は妹を助ける手段にたどり着けなかった」
「そうでしたか。お役に立てて良かったです」
「ああ、だから私は君に貸しが有るんだ。サイラス殿からの知らせを聞いて、こうやって駆け付けた訳だ。間に合って良かったよ」
「はい、お陰で妹と離れ離れにならなくて良かったです。これからギルドの方に行こうと思うんですが、グレイブさんはどうしますか?」
「私も行こう。その前に、腹が減ったんだがうまい飯が食える所は有るか?」
ぐぐ〜っとなる腹を押さえて、気まずそうに訴える笑う彼を連れ、朝でも賑わう酒場へと連れ添った。
「美味い、美味いなコレ!」
「だよね。僕も好きなんだよ」
庶民の味方、角うさぎの分厚いステーキをペロリと平らげると、エールを流し込んだグレイブは、メニューを見ながら、次は何を食べに来ようかと思案していた。
王族の冒険者だが、何処かセトさんに似た雰囲気のグレイブさんは、気さくに僕に話しかけてくれる。
この町やウィッチヤードの事にとても興味があるようだ。
「なるほどな。やはりウィッチヤードの奥地でまぼろし茸を見つけたのか。クロウ、お前ってやつは見掛けによらずかなりの実力がある様だな?」
「そうかな?いい仲間に恵まれたってのも大きいと思うよ」
「仲間か・・・なあ、もし俺と一緒に王都に行こうと言ったら、お前はどうする?」
突然の提案に目を白黒させていると、
「お前に是非見てほしい物が有るんだ。どうだ王都に来てみないか?何ならお前の仲間や妹さんも一緒でも良いぞ。どうだ?」
「急な提案だね。返事は皆と相談してからでも良いのなら・・・」
「ああ、勿論だよ。無理にとは言わないが、損はさせないからな。良く考えてくれ」
そう言うと、席をたったグレイブさんを追いかけて、僕もギルドへと向かって歩いた。
ギルドに到着するとギルドマスターのサイラスさんが出迎えてくれた。どうやら僕達が来るのを待っていた様で、
「おお!無事で良かった。予定よりも遅いから何かあったのかと心配していたんだ。大丈夫だったか?」
予定って、ちょっとグレイブさん?!あ、目を逸らした。飯を食べるのを優先してすっかり忘れたなこの人・・・
「遅くなりました。グレイブさんのお陰で無事に済みましたよ。サイラスさんもありがとうございます」
「いやはやb、アイツの悔しそうな顔を拝めなかったのが残念だったがな。ハハハハッ」
「当面はあいつ等も手を出す事は無いだろうが、今度はどんな手を使ってくるか分からないぞ。と言う訳で、俺はこいつを王都へ避難させようかと考えているんだ」
「おいおい、王都へか?確かに此処よりはセクレスの奴らも手が出し難いだろうが・・・ここを離れるのか?」
何だかちょっと寂しそうに呟くサイラスさんが可笑しかったが、
「行くとしても一時的にですよ。僕もこの町が好きですし、なによりウィッチヤードの森から離れるのは嫌ですから」
「おお!そうか、そうだな。それならほとぼりが冷めるまでは此処を離れて安全に暮らすのも良いかもしれん。よし!、もし王都に行くのであれば私から王都へ連絡を入れておこう。向こうでも君の活躍が見れるかもしれんからな」
「そんな大げさにしないで良いですからね?!」
「ハハハハッ、あのサイラス殿にこうも気に入られているとは、クロウ良かったな」
「もーグレイブさんまで・・・それにまた行くと決まった訳じゃ・・・」
僕らがギルドの中で話をしていると、聞きなれた僕を呼ぶ声が聞こえた。
「あれ?お兄ちゃん?」
「ん?シズか、お前こそギルドなんかで何をしているんだ?それに、サフィもカレラさんも」
「えへへ、実は、私も冒険者になったの!見て見てF級だよ」
「な?!冒険者だって?!」
「夢だったの!元気になったらお兄ちゃんと冒険に行くって。それにずっと前に約束したでしょ?」
ううっ・・・そう言えばシズが病に臥せっている時にそんな事を言っていた気がする・・・
「お!この子がクロウの妹さんか?俺はグライブだ、宜しくな!」
「あ、始めましてシズって言います。お兄ちゃんのお友達ですか?」
「ああ、そうだ。それとな君達にも王都に来て欲しいとクロウにお願いしていた所なんだ」
「「「王都~?!」」」
王都という魅力的な言葉にシズは勿論、サフィやカレラさんまで驚いていた。先手打たれた僕は、
「ちょっと!ずるく無い?」
「ハハハっ!女性を味方に付けるのがこの世の理さ!」
「ぐぬぬ・・・」
「私行ってみたい!」
「シズ・・・」
「だってお兄ちゃんのお陰でこんなに元気になったんだもん。色んな場所にも行ってみたいし、色んな事をしてみたいの。ねえ良いでしょお兄ちゃん?」
「私も行ってみたいです」
「ついでに私も良いですか?ね、シズちゃんの護衛ですから!ね、ギルマス?」
「全く・・・サニーにどやされても知らんぞ?」
「やったー!あ、いえ、謹んで警護に当たります!」
こうして僕の心配はどこへやら、外堀を埋められた僕は、
「はぁ・・・じゃあ、グレイブさん。王都まで連れて行って貰らってもいいですか?」
「はははっ、お安い御用さ!準備が出来次第出発しよう。明日の昼頃でどうだろう?」
「分かりました。みんなも良いか?」
「「「ハイ!」」」
皆の同意を得られたので、それぞれ家に帰ると身支度を整えた。僕とサフィは急いで魔女の庭に帰ると、
「ラプラス、ちょっとの間王都に行ってくるから森の仕事は出来ないんだ」
「ええーッ!?王都?なんでまたそんな所に行くのさ?番人のお仕事が嫌になっちゃった?」
「そんな事無いよ。でも、セクレスからの刺客がアラドに現れて、王家の関係者から保護を申し出て貰ったんだ」
「ふーん、王家ね・・・じゃあ、私も一緒に連れて行って」
「ラプラスも行くの?」
「だってサフィもシズちゃんもそれに、カレラも行くんでしょ?猫一匹紛れても変わらないよ。それにクロウ君って荷物って言う荷物無いでしょ?」
そうして次の日の昼。ギルドの前に集まった僕等は、
「シズ?シャルルを持って行くのか?」
「うん、ちょっと大きいけど、背負ってきたの!シャルルを置いては行けないもん!」
「はははっ!元気でなによりだ。クロウはその猫だけか?」
「にゃーお!」
「う、うん。僕はマジックバックに必要な物は入っているからさ」
「そうか。よし、準備は良いか?馬車を待たせてある。あの馬車だ。王都行きの特別車だから乗り心地は保証するぞ。さあ乗った乗った」
グレイブさんの用意した馬車に各々の荷物を載せ乗り込むと、ギルドの面々に見送られて王都へと旅立った。
「サニーさん見送りに来てなかったな・・・まあ、帰ってきたら挨拶に行けばいいか。な、ラプラス?」
にゃ~んっと鳴いたラプラスを膝の上で撫で廻すと、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らすのであった。




