いきなりのゴング
目を覚ました直己。なぜか上半身裸でリングの上にいた。向こうサイドには見たことのある顔。見れば見るほどマニー・パッキャオである。直己が頬っぺたをつねった瞬間、あのおっさんがリングサイドから話しかけてきた。
「夢っぽいけど夢じゃないよ。君は今からマニー・パッキャオと戦うんだ。ここはラスベガスね。」
直己は驚いた顔をしながら、
「はあっ!?」
と一言だけ言うと、
「ファイ!!」
とレフェリーは試合を始めてしまった。おっさんは、
「さあ行け行けぃ。」
とだけいい、なんとアジアの英雄マニー・パッキャオと冴えない大学生直己のなんとも形容しがたい世紀の凡戦の火蓋が切って落とされた。
マニー・パッキャオはアジア人初のボクシング5階級制覇チャンピオンにして、フライ級からウェルター級くらいまで階級を上げたので事実上の7階級制覇とか9階級制覇と言われ、現在世界で最も強いボクサーと言われている一人だ。そのパンチを出し続けて相手を圧倒するスタイルが直己は好きなのだ。
「か、敵うわけないだろぉ!」
と直己が叫ぶと早速パッキャオは猛攻に出る。上下に打ち分け手が止まらない。直己はこれまで負ったどんな大怪我よりも痛い思いをしていた。倒れたくても倒れられない。パンチが痛すぎて気を失いたくても失えない。そんな直己を支えていたのは「もし倒せたら俺、すごいよね。」という、叶わぬ願いをともなった下心だった。レフェリーは笑いながらサンドバッグ状態の直己を見つめる。そのまま袋叩きにされること12ラウンド。もちろん大差の判定負け。しかし、その後おっさんから信じられない一言が発せられた。
「次行ってみよう。」
直己はボロボロの体をいたわりながら、
「ドリフかよ・・・。」
とつぶやいた。
次とはそもそも何なのか。パッキャオが去ったリングに上ってきたのは、60億分の1の男、エメリヤーエンコ・ヒョ-ドルだった。いつの間にか両手につけられたボクシンググローブはオープンフィンガーグローブに付け替えられ、体中を支配していた痛みは引いていた。しかし直己はやはり、
「いや、無理でしょ、ねえ!皇帝陛下に敵うわけないでしょ!!」
と、もはやセコンドと化したおっさんに言ったが、おっさんは嬉しそうに、
「行け行けぃ。」
と言い出し、直己は、
「ちょ、ちょ、まっ、おい!!」
というも虚しく、レフェリーは、
「ファイ!!」
というもんだから、冴えない大学生直己と人類最強の男ヒョードルとの世紀の凡戦その2がはじまった。ヒョードルのパンチはパッキャオよりも痛かった。PRIDE以降、無敗をひた走るその男の猛攻に直己は悶絶した。しかし痛くて気を失えない。レフェリーは笑って見ている。悪夢のような3ラウンドを終え、直己はとても家に帰りたくなった。しかし、非常なおっさんの一声がまたもや直己を苦しめる。
「次行ってみよう。」
「このエセいかりや・・・。」
もう返す言葉もないくらい、切れのない突っ込みを直己は放った。
その後もバダ・ハリ、ペトロシアン、BJペン、ジョルジュ・サンピエール、アンデウソン・シウバ、メイウェザー、全盛期のロイ・ジョーンズなどにサンドバックにされた直己。まさに終わることのない拷問を受けるに等しかった。しかしながら少しずつ、直己は強くなっていた。ちょっとやる気が出た頃合になって、おっさんは言った。
「もう、格闘技に用はない。」
すると突然、直己の目の前は真っ暗になった。
「また、ポケモンか・・・。」




