結果
維心とサイラスが、いったいどうなったのかと案じていたところに、霧があちこちからグワッと集まって来て、目の前に柱となった。
サイラスはもう慣れていたが、維心には分かっていても、どうしても始め、構えてしまう。
霧は塊となり、目の前でルシウス、維月、そして知らぬ赤い瞳の誰か、そして金髪の神がそこに転がって出現した。
「維月!」維心が、手を差し出した。「戻ったか。」
維月は、頷いてルシウスから離れて維心の手を取った。
「はい、維心様。結果、この闇にルスランという名を付けて、共に共存することになりました。」
ルスランは、どう反応して良いのかわからないようだったが、黙ってそこに立っている。
ルシウスが、言った。
「では、我はこれを連れて城へ帰る。キリルを一人待たせておるからの。気に掛かるのだ。」
それには、維心が慌てて言った。
「こら、待たぬか。そも、そのルスランとやらの話を聞くことも、我らにはできぬのか。多香子と維月を拐われたのに?」
ルシウスは、答えた。
「これは、つい最近までたった一人で居て、何も分からぬのだ。これよりいろいろキリルと共に教えて育てるつもりよ。話したいのなら、それがそこそこ進んでからにするが良いぞ。今のままでは、面倒が起こる可能性があるからの。」と、足元に転がる、ルキアンを見た。「それより、そっちの神のことを頼んだぞ。神のことは神に任せる。闇のことは、我に任せよ。ではの。」
ルシウスは、一方的にそう言うと、ルスランに頷き掛けて、また霧へと戻って消えて行った。
サイラスが、それを見送って言った。
「…キリルのことは、うちの軍神達に面倒を見させておるから問題ないのに。」と、ルキアンを見下ろした。「ベンガルだの。どうする?主がこれを連れてイゴールに話に参るのか。」
維心は、ため息をついたが頷いた。
「行かねばならぬだろうの。とりあえず、維月に聞こう。あのルスランという闇は、問題なかったのだの?」
維月は、頷く。
「はい。他の闇とは違い、人や神が死ぬことに関しては悟っておって同情する様子もないので、どうかと思うたのですが、ルシウスが自分も同じ感覚だと言うので。デロイス以下の闇達は、デロイスが育てたので人や神のような反応をしますが、本来闇とはあのようなものらしく。ルシウスは、一々考え方が同じだと言って受け入れておったので、私はそれならと育てることを承諾しました。何より、ルスランは私達を殺さなかったし、ニコールの件にしても、ニコール自身が憤った結果犠牲を出してしまっておったようで。よく考えたら、闇がその気になれば町など壊滅しておりましたし、そもそも人の生気など知れておるので神の城を襲っておったでしょう。それをしなかったので、まだ教育次第で使えると思うたようですわ。」
維心が、言った。
「だが、そのニコール自身は?あれのことは殺したのだろう?」
維月は、答えた。
「はい。それはニコールが、死にたいと願っておったからであるようで。解放する時に、なのでせめてと殺してやったと言っておりました。知らずに闇の力で人を殺してしまい、他の人々に疎まれておりましたので…。」
では、ルスランはニコールの願いを聞いただけだと言うのか。
維心は、ため息をついた。
「そうか。人にはつらい記憶であろうし、生きておっても狂うたであろう。とはいえ、このルキアンをこのままにはできぬ。もう闇の気配はせぬし、霧にも憑かれておらぬよう。これを、イゴールに届けて来るよりないの。」
ルキアンは、服装はボロボロだったが、特に気に乱れもなく安定している。
長く闇に憑かれていたにしては、健康な様子だった。
維月は、頷いた。
「はい。これも、ルスランはどうやら考えておったようで。借り物だと言うておりました。長く憑くと狂うてくるので、そろそろ別の神を探さねばと思うておったと。最初から、乗っ取る気持ちはなかったのですわ。返すつもりで…なので、ルキアンは問題ないと思われます。」
維心は、頷いて義心を見た。
「義心。」
義心は、頷いて足を進めると、ルキアンを持ち上げた。
維心は言った。
「では、これよりは我の仕事。これを連れて参る。イゴールには、我が話をつけよう。主は月に戻って繋がりを戻さねばならぬだろう。地のこともある。先にこなしておくが良い。その後に、龍の宮か月の宮に戻っておれ。」
維月は、頭を下げた。
「はい、維心様。」
維心は、サイラスを見た。
「いきなりに押し掛けてすまなんだの、サイラスよ。我は行く。」
サイラスは、眉を寄せた。
「今からか?あちらはこちらより五時間ほど遅いとはいえ、もうそろそろ夕刻ぞ。良いのか?」
維心は、歩き出しながら答えた。
「良い。いつまでもルキアンを預かっておられぬだろうが。とりあえず、行って参る。後はまた、書で知らせる。」
サイラスは頷いて、出て行く維心と義心を見送った。
維月は、サイラスに頭を下げた。
「ではサイラス様、我はこれにて。」と、光に戻った。《お父様、今帰ります。》
地から、碧黎の声が答えた。
《参れ。》
そうして、維月の光は床へと消えて行った。
シンと静まり返った居間で、サイラスは大きくため息をついたのだった。
碧黎は、言った。
《見ておった。あれで良いと我は思うが、術の詳しいことをまだ聞けておらぬ。我はそこが気に掛かる。》
維月はそうだった、と答えた。
《そうでしたわ。ですが、いつなり聞けますゆえ。ご案じなさいますな。》
十六夜の声が言った。
《まあなあ、オレも話を聞いててあいつはあいつなりに、考えて行動してたのがわかったし、もうニコールのことも何も言わねぇよ。まあ、巻き込まなければ怒ったくらいで人を殺したりできなかったわけだし、そこは腹立つけどな。もう仕方ねぇと思うしかねぇ。術のことは、ルシウスに聞いたらどうだ?》
ルシウスが、割り込んだ。
《その件だが、やはり闇の力が加わったゆえ、ああなっておったようぞ。もとは、やはり仙術なのだが、同じ術も放つ者によっては効果は変わる。ベンガルの王族の血筋のルキアンの中に居ったルスランが、完璧に隠れたいとアマゾネスが作り出したという術を使った結果が、あれだった。つまり、同じ術ぞ。》
あれは、同じ術だったのだ。
十六夜が言った。
《マジか。同じ術なのに、ベンガルの王族と闇が隠れ仰せたいと念を籠めたらあれになったってことなのか。》
ルシウスは、答えた。
《その通りぞ。今ルスランに聞いたところによると、あの辺りに居た神の記憶をあちこちから取った結果、中にあの術のことがあったらしいからの。女…?》と、少し黙った。そして、続けた。《そう、女らしい。ルスランが言うておる。どうも隠れておるような様で、もう老いておったそうな。その女が死ぬ間際だったので、ならばもったいないので記憶をもらおうと掠め取ったと言うておる。それが、アマゾネスという種族なのだと記憶から知ったとか。》
碧黎が、言った。
《我には詳しくは言えぬが、まあアマゾネスの末裔はまだ細々と生き残ってはおるからの。ということは、ルスランはそれらの動きもその女の記憶から知っておるのではないか?》
ルシウスは、しばらく黙る。
そして、答えた。
《…それが、重要なのかどうなのかは知らぬが、知っておると申しておる。まずは、これに神世を教えねばならぬのよ。恐らく多くの神達の記憶が頭にあるが、何が重要な情報なのか、これには判断する知識がない。ずっとあの辺りで記憶を吸収して回っておったし、恐らく大概のことは知っておるのだろうがの。》
碧黎は、言った。
《…ならば必然。》維月が問うような気を発したので、碧黎は続けた。《我には言えぬが、これから面倒が起こってもルスランがその頭にある知識から、主らを助けることができるだろう。ならば、我にはもう何も言うことはない。これで良かったと申しておこうぞ。》
十六夜が、言った。
《それって、またアマゾネスがなんかやろうとしてるとか?》
碧黎は、答えた。
《だから言えぬと言うに。まあ、何年掛かるか分からぬが、対策を取れる情報は多い方が良い。これも必然と、安堵したわ。》
ということは、何かあるのだ。
維月は、言った。
《それで、解除するのは?その術は知らぬの?》
ルシウスは、また少し黙り、答えた。
《…知らぬようぞ。浄化の炎で何故に破れなかったのかもルスランには分からぬ。ただ、ルスラン自身か借り物の体のルキアンが死ねば、恐らく膜は消えたと思うということだ。》
ならば、やはりわからないまま…。
維月は、ため息をついて、今は元に戻る事だと今度は月との繋がりを復活させるために、空へ向かったのだった。




