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その闇と

維月とルシウスが次に出現したのは、あの不干渉地域の地下深く、ルシウス達が、長く潜んだ場所だった。

真っ暗だったが、1ヵ所だけ小さく丸く、霧のない場所があった。

そこに、膜があるのが維月にも分かった。

維月は、それに向かって言った。

「話に参ったの。あなたが求めた問いへの答えを持って参ったわ。」

すると、その場から霧のない場所が消えた。

ルシウスが腕を振って霧を払うと、そこにはルキアンが立って、こちらを見上げていた。

「…よう来たの、陰の月。そして闇の親玉よ。主と我は、同じ命なのだそうな。何やら実感も湧かぬ。」

ルシウスは、言った。

「まずは、その神を解放せよ。主は死を覚悟しておるのだろう。答えさえ聞けたら良いのなら、その神はもう必要ない。」

闇は、答えた。

「答えが先ぞ。解放した途端に殺されては、結局知らぬで無念のまま死ぬことになる。」

維月は、ルシウスを制して、言った。

「…結論から申すと、命は皆平等。同じよ。」相手は、眉を寄せる。維月は続けた。「分かっていたはずなのに。私達が間違っていたわ。あなたが言うように、話す暇も与えず、ただ意思を持ったからと消しておったのは理不尽なことだった。ここらの霧の質は、最近こそましになっていたものの、以前は酷いものだったわ。そこから生まれた闇は、粗暴でこちらの教育すらまともに受けぬ状態で、ルシウスは消すよりなかったの。だからこそ、期待もしなくなり、生まれたハナから消していた。それは、間違いだったわ。これからは、生まれた闇とは話を聞いて、性質が良いのならルシウスの教育の下、育てて共に地上を守る務めを果たしてもらうことにしたの。だから、今日はあなたの話を聞きに参った。あなたが共に地上を守るに値する命なのかどうか、あなた自身が私達に証明して見せて欲しい。そうでないなら、消えるしかない。神や人に害なす命は養えないから。」

闇は、それをじっと聞いていたが、頷いた。

「…主らは主らの間違いを認め、我のことを精査しに参ったということか。これで我の運命は、我自身が握っておるということだの。」

維月は、頷く。

「その通りよ。ルシウスにも私にも、膜のない今、ルキアンをあなたから解放する力があるけど、あなたの自主性に任せるわ。どうするの?」

闇は、ルキアンの手足を見て、顔をしかめた。

「段々に面倒になっておったところ。長く憑いていると、狂い始めるのであるな。ゆえ、そろそろ出なければと思うておったのだ。」と、いきなりにルキアンは、その場に倒れた。《…人型になれば良いか?》

目の前には、まだそれほど大きくはない真っ黒な塊が浮いている。

維月は、頷いた。

「そうね。その方が私には話しやすいわ。」

《ならば、そのように。》

闇は、言うが早いか、目の前で緑掛かった黒髪に、真っ赤な瞳の、年の頃は人で言う成人直前、高校生か大学生ぐらいの姿に変化した。

これが、恐らくこの闇の本来の精神的な年頃なのだろう。

生まれたのはつい最近でも、取り込んだ霧の核になった部分の生きた年齢で、変わって来るのだ。

ルシウスが、言った。

「…主の核は恐らく300年ほど前からあった霧。闇となったのはついつい最近だの。」

相手は、顔をしかめた。

「よう分からぬ。主には分かるのだの。」

維月は、言った。

「では、あなたに聞きたいの。今、そろそろ面倒になって来たと言っていたわね。どうしてルキアンを取り込まなかったの?その方が楽でしょう。」

闇は、答えた。

「借りておっただけであるし。我だって、己の体を誰かが長く間借りしておったら鬱陶しいわ。いつかは返そうと思うておったが、その折これが狂うておったら本末転倒であろうが。また代わりの神を見つけて憑かねばと考えておったが、主らが追って来るし外へ出るのも難しいとどうしたものかと思うておった。」

そもそもが、乗っとるつもりはなかったのだ。

ルシウスは、言った。

「主が膜に籠めて放置した神、4人は死んだ。それについてはどう思う。」

相手は、答えた。

「別に何も。人や神はいつかは死ぬ。愚かな行為で死ぬものも多い。そんなものに一々思いを馳せておったら、キリがないわ。運が悪かったの、とだけ言うておこう。そも、あんな所へ来たのが悪いのだ。我は、神の棲家へわざわざ出掛けて憑くことはせぬ。来たから憑いた。霧とて同じではないか?我だけが特別ではない。」

維月は、眉を寄せる。

だが、ルシウスは息をついた。

「…我も同じ。」維月が驚いた顔をしてルシウスを見ると、ルシウスは続けた。「それが闇の正直な感想ぞ。誰が死のうと、別に何も。それが理であるし、いつかはどうせ死ぬ。まして、わざわざ霧の多い場所に出て参って憑かれたなら自業自得ぞ。これが言うたことは、我から見て間違っておらぬ。主は我がどれ程に清廉な命だと思うておるのか知らぬが、我らの意識などそんなものよ。」

維月は、そうだった、と思った。

そもそもが、ルシウスは闇であり、不死だ。

長く営みを見て来て、そんなものと悟っているし、神が霧や闇の犠牲になったと聞いてもそれが何だというのだろう。

なにしろ、これまで散々同じ人や神を見て来たのだ。

ルシウスが良く見えるのは、維月に従っているからだ。

だが、根本的には考え方は違うのだ。

維月は、渋々頷いた。

「…そうね。その通りかもしれない。私は長く人や神と共に生きて来たから…価値観が違うわね。」と、闇を見た。「でも、あなたは基本的に自分から、神や人の棲家へ行かないと言っていたわね。それはなぜ?」

闇は答えた。

「なぜ?我が行って、あちらが無事だと思うか。それこそ大騒ぎぞ。今回は神に憑いて、その神の能力で人に憑き、隠れ仰せておったからまだマシだったが、我の力が外へ漏れるからの…憑いた人が誰かに憤ったりしたら、無意識に力を勝手に使いおってその生気を吸い取ったりしておった。我は別に良かったが、人の中でそれをしたら面倒になる。現に、その人は己がしたことが分からぬで、しかし回りに忌み嫌われて病んで死にたいと願っておった。なので、せめてと最後にあれから出る時に、あやつ自身を殺してやった。あやつも…誰かを恨むことも憤ることもない、誠にできた命であったら回りに迷惑を掛けることもなく、我が抜けても元の生活を淡々と続けられただろうにの。そこは、哀れに思う。」

あれは、そういうことだったのか。

維月は、思った。

闇が生気を欲しいと思っていたのなら、回りの全てから遠慮なく吸い取っただろうから、大惨事になっていただろう。

それが、ピンポイントに母親、行き付けの店主と数が少なかったのも、結局ニコール自身が腹を立てたことから、無意識に力を使い、相手の気を奪ってしまったからだったのだ。

だいたい、人の気など神や闇から見たらたかが知れているのだ。

力をつけようと考えて、気を奪うのなら神の宮にでも行った方が余程効率が良かった。

闇の破壊力は、単発ではなくそこら一帯に影響するので、よく考えたらベンガル4人だけ、とか、人3人だけ、とか非効率過ぎてあり得なかった。

維月は、それに気付いて困ったようにルシウスを見上げた。

ルシウスは、言った。

「…まあ、これが言うことは一々もっともぞ。何より、我が知る8の闇と9の闇は人や神のことなど考えてもいなかった。道具扱いで、いたぶることを楽しみにしていた。これとは根本的に違う。これは、我が思うにきちんと教えれば、まともに機能する闇になるだろう。我らと、考え方と感じ方が似ておるからな。」

維月は、またため息をついた。

「…あなたが王よ。あなたの手足となる闇を選ぶのは、あなたの責務。あなたが決めて。」

ルシウスは、目の前の闇を見た。

闇は、特に構えることなくルシウスを見返している。

ルシウスは、言った。

「…これには何も嘘はないのだ。嘘というものを、付かぬで良いで生きて参ったのだろうの。もちろん、人に憑いておったから、その時にその人からそれを学んでおったのだろうが、それは人や神のものである感覚で、己は闇であるからそういう命ではないと思っている節がある。つまりは、そういう概念がないのだ。」

維月は、驚いて目の前の若い闇を見つめた。

たった一人で生きていたわけだし、嘘などつく必要がなかったのはその通りだろう。

謀る相手すらいなかったからだ。

ルシウスは、続けた。

「…ならば、主を我の8つ目の眷族して迎えよう。」ルシウスは、その闇に手を差し出した。「ここまで虐げられておったのに、よう自暴自棄にならなんだの。まあ、我も同じではあるが、我は面倒で関わることをやめておった。主は同じ闇に狙われ続けておったのに、生きる事を諦めなかった。参れ。共に地上を守るのだ。それができぬと申すなら、ここで消滅して一度黄泉へと参っても良いぞ。どうするのか、己で決めよ。」

相手は、少し考えたが、ルシウスの手を取った。

「…何事も、学ぶ。今はなぜに地上を守らねばならぬかと分からぬが、主から全てを学んで参ろう。」

ルシウスは、頷いた。

維月が、言った。

「ならば、あなたに名を与えましょう。」と、闇の頭に手を置いた。「そうね…ルスラン。どう?」

ルスランと言われた、闇は神妙な顔をした。

「よう分からぬが、ではそれで。」

ルシウスは、苦笑した。

「我らの間では、長く番号で話しておった。我が一の闇、そこから二、三、となり、不在だったのは八と九での。八はキリル、主は九となる。我の8つ目と申したのは、二から数えたからなのだ。まあ、最近はもう適当につけた名で呼び合っておるから、主はルスランと名乗れば良い。」

ルスランは頷いて、足元に倒れているルキアンを見下ろした。

「こやつはどうする?運ぶか。」

ルシウスは、頷いた。

「サイラスの城に。」と、手を振った。「霧で運ぶ。主は我と共に参れ。我が運ぶ。」

そうして、回りの霧が渦巻いて、気を失ったルキアンと共に、維月、ルシウス、ルスランの三人は、その場から消えて行ったのだった。

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