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サイラスの城

「ではお父様、今すぐにでも。」と、維月は維心を見た。「維心様、ご理解くださいませ。このようなことは、時を置いては拗れる可能性がございます。私は、ルシウスと共に闇に会って参ります。」

維心は、気が進まなかった。

とはいえ、今の流れから、否と言える状況ではない。

なので、言った。

「…仕方のない。ならば、我はとりあえずサイラスの城へ行って、そこで待つことにする。ルシウスの城へ参るのだろう?共に参ろう。」と、匡儀を見た。「匡儀、そういうわけなので此度は帰る。また、どうなったのか状況は説明しようぞ。慌ただしくてすまぬな。黎貴も、弓維には今はゆっくりしていられなくなったと申しておいて欲しい。また日を改めて参ると伝えて欲しい。」

匡儀は、頷いた。

「気を付けての。我も碧黎が申すように、こんな術は勘弁して欲しいし、早めに解決してもらいたいわ。頼んだぞ。」

維心は頷いて、立ち上がった。

志心が、言った。

「ならば、我も。多香子を連れて戻ることにする。漸も、一旦我が宮へ多香子を連れ帰るが良いか。それとも、婚礼の時の方が良いかの。」

漸は、答えた。

「我は別に良いが、まだ多香子は親族に挨拶もしておらぬしな。一旦我が宮に帰ってから、改めてそちらへ入った方が良いのではないか?このまま主の宮に行けば、恐らくもうなかなか宮に戻れぬだろうし。」

多香子は、頷く。

「はい。」と、志心を見た。「志心様、一度我が親族に挨拶をしてから、そちらへ参ります。今のままでは中途半端なことになりまするし。明後日にでも、全て整えてそちらへ参ってよろしいでしょうか。」

志心は、帰ると言うのだからまた少し待たねばならないと思っていたので、明後日と言う多香子に驚いたが、頷いた。

「ならば、それで。こちらも準備を整えておこう。」

そうして、維心と維月は義心を伴って北のサイラスの城へ向けて飛び立ち、志心は白虎の宮へ、漸と多香子は犬神の宮へとそれぞれ、目的地へ向けて匡儀の宮を後にしたのだった。


サイラスの城では、いきなりにルシウスが訪ねて来て驚いた。

基本的にルシウスは己の城から出ないので、用がある時にサイラスが向かうという方法で交流していたのだ。

それが、連絡通路を通って突然来たので、サイラスは慌てて居間で対応した。

「どうした、主から来るなど。何かあったか。」

ルシウスは、答えた。

「ベンガルの問題ぞ。解決に向けて動いておるのだが、それはこれから来る龍王から説明があろう。我は、共に連れて参る維月をここで待って、闇の対応に出なければならぬ。ゆえ、来たのだ。」

龍王が…?

サイラスは、眉を寄せた。

「維心が来るとは聞いておらぬが。」

しかし、そこへクリスが駆け込んで来た。

「王、先触れが!龍王が妃と友にこちらへ向かっておると…もうそこまで来ております!義心を連れて参りました!」

後ろから、義心が入って来て、サイラスに頭を下げた。

「サイラス様。我が王が、取り急ぎ状況などのご説明にこちらへ参るとのこと。我は先触れに参りました。」

この時間にか。

サイラスは、驚いた。

もう夕日は沈んで二時間ほど、本来あちらの神は外出しない時間帯だった。

サイラスからしたら有り難いが、そうなるとかなり緊急の用があるようだった。

「…何があった。龍王から聞けと?」

ルシウスは、頷いた。

「どうせ同じことを聞くことになるのだ。それよりは、我は行かねばならぬから。」と、顔を入り口へ向けた。「…来た。」

拒絶する暇もなかったわ。

サイラスは、相変わらずこちらの状況も聞かずにいきなり来る島の神に内心、穏やかではなかったが、滅多に出てこない龍王が来たのだから、追い返すわけにも行かない。

なので、クリスに頷いた。

「居間へ連れて来い。話を聞く。」

クリスは頭を下げて、下がって行った。

サイラスは、ルシウスと共にそこで膝をつく義心を横に、そこで待つことになったのだった。


入って来た維心は、維月の手を取っていた。

維月は、ルシウスを見て目で軽く会釈したが、サイラスには頭を下げた。

維心が、言った。

「こんな時間にすまぬな、サイラス。とはいえ主にはその方が良かろうし。火急の用で参った。」

サイラスは、頷いた。

「良い、何かあったのだろう?」と、維月を見た。「表を上げよ。主もルシウスとすぐに出るのだな?」

維月は、頷いた。

「ご無礼のほどはお許しくださいませ。これより、ルシウスと新たな闇に対応するために元不干渉地域に参ります。詳細はルシウスから聞いておられますか?」

サイラスは、むっつりと答えた。

「維心から聞けと申す。我とて寝耳に水であるのだ。」

維心が、言った。

「ならば、我が話しておこうぞ。主らは参れ。碧黎も十六夜も居るし、大丈夫だろうとは思うが、心しての。また囚われたりしたら大変なことになる。まだ、月と切れたままなのではないのか。」

しかし、それには碧黎の声が割り込んで答えた。

《我がそのままにしておくと思うか。地とも切れておったから、急いで繋いでおるわ。とはいえ、仮に繋いだだけであるから、どちらにも一度入っておかねばならぬのは事実。これが終わったら、戻るが良い。》

維月は、答えた。

「はい、お父様。」と、ルシウスを見て手を差し出した。「ルシウス。」

ルシウスは、頷いて進み出ると、その手を取った。

「参ろうぞ。我も維月を抱え込んでおくゆえ、次は我ごと膜に籠めることになる。ゆえ、術を放ったら維月が何と言おうと消す。問題ない。」

維心は、心配だったが仕方なく頷いた。

「我とて共に行きたいが、何もできぬだろう。頼んだぞ。」

ルシウスは頷いて、維月を引き寄せて腕に抱え込むと、その場から霧となって消えた。

それを見送ってから、維心は、サイラスに向き直った。

「…では、ここ数日に起こっておったことを話そう。主は知らぬ…というか、神のほとんどが何があったか知らぬだろう。主なら口が固いし、話しておく。心して聞くが良い。」

サイラスは頷いて、ベンガル失踪からこの方、何があったのか維心の口から聞いたのだった。


聞き終えてから、サイラスは言った。

「…またあの術か。我らが昔、どれ程にあれに煩わされたことか。ヴァルラムがいなければ、我らは今頃消えておったわ。そんな面倒になるのなら、碧黎が申すようにゆっくりと数を減らして、消した方が良いのではないのか。」

サイラスなら、そう言うだろう。

何しろ、一族全てがあの膜に囚われ、穢れを嫌う神であるのに、生き血を啜らねば命を長らえることができない状況に追い込まれたのだ。

ヴァルラムの浄化の炎で焼ききってもらって、一族は復活したが、確かに恨みは強いだろう。

それでも、イゴールには罪はないと、普通に接してはいたのだ。

だが、こんな時には思い出し、苦々しい心地になるのはわかった。

維心は、答えた。

「主の心地は分かる。だが、せっかく残したのだから、ここは何とか道がないかと考えるのだ。イリダルには、我とて迷惑を掛けられた。それは記憶に新しいし、複雑な心地になることよ。とはいえ、イゴールの代になってからは、特に問題なく過ごしておったのだし、ここは流れに任せて見ておるよりない。ベンガルの若者が、フラフラ元不干渉地域に出て行かねばこんなことにはとも思うしの。あちらも被害者だろうが、こちらもなのだ。闇と話がついたなら、我がベンガルに話しに参るつもりよ。文句は言わさぬ。とりあえず、こんな風に利用されることを考えて、あちらも若者が肝試しなどにフラフラ出て行かぬように対策を練るように申そう。」

サイラスは、ため息をついた。

「誠にの。イゴールには、文句を言う権利などないわ。とりあえず、ならば、ルシウスと維月が気に掛かるの。無事に和解できておれば良いが…ルシウスは、維月のように闇に温情などないゆえ、あっさり殺そうし。とはいえ、あやつは維月の言うことは絶対であるから、維月が否なら手は出すまいが。」

維心も、ため息をついた。

「誠に。時に維月の言うことがもっとも過ぎてどうしたものかと思うわ。命は平等ぞ。分かっておるが、我は平穏を望むゆえ、闇と対話など、ルシウスの時でも抵抗があった。今も…分かっておっても落ち着かぬのが本音よ。」

サイラスは、苦笑した。

「そうか。そうだろうの。我とてルシウスに最初に会ったのがあのような形でなければ、未だに心底信用してはおらなんだやも知れぬ。だが、今は分かる。主も、そのうちに心底分かる時が来るだろう。」

維心は、頷いた。

まだまだ、闇に対する神の気持ちは、そこまで溶けてはいないのだ。

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