↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/198

その性質

《…ニコールの遺体を見つけた時には、絶対に殺すって思ってたんだけどよ。》十六夜は、渋々といった様子で言った。《オレ達はって言うと、あっちサイドから見たら有無を言わさず大量虐殺してたわけだから、もっと酷い事をしてたって言われたらそうなのかって思えて来て。オレ…何か何が正解なのか、分からなくなっちまった。でも、ニコールが死んだのは、今でも理不尽だったって思ってる。》

維月は、頷いた。

「その通りよ。分かってる。私だって、真面目に生きている人が理不尽に殺されるのは許せないと思うわ。でも、そういった風に殺されてしまう、人っていったい何人居るのかしら?人同士は殺し合うわ、それこそ自分の欲のためにとか、感情のためにとか、そんなことで。そんな人々の全てを、私達が助けてあげて来たわけじゃない。霧に憑かれた人々が、多すぎるという理由で全てを救って来なかったのも事実。結局は、目についた人が殺されたから、理不尽だって憤るけど、他のもっと理不尽に殺されてしまった人々のことは、深く知らないままで通り過ぎてしまっているの。ニコールには哀れだけれど、巻き込まれてしまって申し訳ない、次は平穏にと願うしか私にはできないわ。」

そうなのだ。

たまたま見ていた人がそうなったからと憤ったが、これまでだって多くが神や闇の争いの煽りを食って犠牲になって来た。

神世と人世は連動していて、人世が乱れたら神世も乱れてお互いに影響し合ってきたのだから、お互い様と言ったらそうだった。

神だって、人の穢れのせいで己も穢れ、祟り神になったものも居る。

何も今回だけが特別なのではないのだ。

十六夜は、ため息を付いた。

《…そうだな。つい、見てた奴だから怒ってたけど、その通りだ。わかったよ、その闇の、話を聞こう。だが、どうするかはそれからだ。今回お前達を無事に返したからって信頼してるわけじゃねぇ。もしかしたら、それも闇の策略かも知れねぇしな。》

ルシウスが、口を挟んだ。

《まあ、膜に入ってさえ居なければ、我には相手の考えが手に取るように伝わる。同じ闇同士、謀ることはできぬ。膜から出た一瞬、少しその闇を気取ったが、それほど大きな力を持ってはいなかった。問題ない。今の居場所は…我らが、昔に潜んでおった辺りの近く。あそこは闇にとり居心地が良いからの。自然そこへ行ったのだろう。我が、行って参る。》

維月が、慌てて言った。

「待って、話すなら私も。私も共に行くわ。十六夜には私の目から見てもらって…二人きりではダメよ。拗れたりしたらいけないから。」

維心が、割り込んだ。

「待て。ならばとにかく落ち着いてからぞ。今はやっと戻って参ったのだ。匡儀にも話さねばならぬし、志心とて多香子から状況は聞いておろうが、結論は知らぬ。本日はこのまま。主らも、闇に対峙して何を話すか落ち着いて考えておけ。今はこれまでぞ。」

維月は、今すぐにでも話しに行きたいようだったが、確かにいろいろ迷惑を掛けたのだ。

志心に至っては、維月に多香子を連れて来られたばかりに、こんなことに巻き込まれてしまった。

維月は、渋々頷いた。

「はい。分かりました。では、また日を改めて。」

ルシウスも十六夜も、同意したのかそれからは何も言わなかった。

維月は、とにかく多香子の様子も見てこなければ、泣いている場合ではなかったのに、と、気を引き締めたのだった。


日は暮れていたが、戻ってしばらく、維月は維心と共に匡儀の居間へと向かった。

弓維が会いたいと言っていたようだったが、今はこの事件のことを収めてからだと会うのを後にし、居間に集まったのは匡儀と黎貴、それに志心と多香子、漸、維心、維月だった。

志心は多香子から、ことのあらましを聞いていたようだったが、黙って多香子の隣りに座っていた。

維月は、多香子を見て特に問題ないようだったので、声を掛けるのはやめにして、おとなしく維心の隣りに妃らしく座っていた。

匡儀が、言った。

「それで。その初めから、何があったのか聞こう。」

維心が、頷いて言った。

「維月から聞いたことをかい詰まんで話す。主には聞く権利があろうしな。」

維心は、匡儀と黎貴に維月から聞いたことを、まとめて話した。

匡儀は、考え込む顔をした。

「…そうか、命の意味か。そう言われてみたら、ルシウス他闇達が各地に散って面倒を見てくれるようになってから、こちらも霧に煩わされることもなく、皆結界外とて楽に見回れるようになった。ここに来ておるエンシオとマキシミリアンは、性質も愛らしいし、皆に可愛がられておる。維月が来たゆえ、本来会いたかっただろうに、神の妃として来ておるのを知っておったから、無理を言わずに、時が空いたら面会しよう、と、神世の理を守ろうとする気持ちもある。誠によくできた闇なのだ。あんな闇を見ておると、あれらも闇に生まれただけで、本当に一つの命に過ぎないのだなと思い知らされる。維月と多香子を拐った闇も、やり方は気に食わぬが、心地は分かる。何よりそれは、二人を殺せたのにそうしなかった。我は、話し合うというのも分かると思う。だが、イゴールよな。あれが何と申すか。」

維心は、ため息をついた。

「その通りぞ。恐らくは、責任云々申して来よう。何しろ己の眷属を殺されておる。心地は分かるだけに、我とてどう、対応したものかとは思うておる。」

志心が、言った。

「何にしろそこは、その闇と話してからであろう。多香子が申すに、気温も調整されておったし、痛め付けることもできたのに、配慮されておったようぞ。ある程度話は通じる闇のはず。本来闇が9つ生じておって、それが必要だからと申すなら、その一つがその闇であってもおかしくはない。維月が産み出した、キリルもその一つになれるだろうし、空いた一つの枠を、その闇にしたら良いのでは。」

維心は、頷く。

「何にしろ、それも話し次第と維月は申す。ルシウスもなのでそれに同意して、話して素質があるのかどうか、聞くつもりのようよ。此度、結局我らではあの膜を破ることが叶わなかったのだから、あの闇が解放しなければ、これらはまだ戻っては来られなかった。その意思を汲んで、話し合いの場を設けようというのも道理であると我も思う。」

そこへ、碧黎の声が割り込んだ。

《…一つ、話し合いに当たり、言うておかねばならぬことがある。》皆が、いきなりのことに黙る。碧黎は続けた。《あの膜の組成ぞ。話し合うならば、それをどう構築しておるのか、解くにはどうするのか、その情報の開示を求めておかねばならぬ。我にすら見えぬ膜など、あってはならぬものぞ。そもそもが、ベンガルのイリダルが悪用し始めた頃、もうあの能力は継承されぬようにと思うて調整しようとしたが、血にハッキリ刻まれておる能力であるから、我には皆殺しの他、それを消し去る術がなかった。ゆえ、とりあえずイゴールは悪意のある王ではなかったし、仕方なく放置しておったのだが、こうなって来ると誠に面倒。どうしたものかと案じておる。最悪、ベンガルには子を減らし、ゆっくり消滅の道を歩ませるべきなのかとまで考えておる。あれらが悪いのではないが、それを利用する輩が出ないようにするためぞ。》

確かに、イリダルの事件の時に、碧黎はもうこれ以上、王族にその能力が継承されないようにすると言っていたのだ。

だが、まだこうして残っているのだし、それを利用されてこんなことになっているのも事実だった。

だが、それで一族を滅ぼされるのもさすがに哀れだ。

そもそもが、イリダルのせいでその能力が公になってしまったのだが、そう思うとベンガルにとってイリダルはかなり罪深い神だということになる。

維心が、言った。

「心地は分かるが、イゴールの心地になるとの。一族をそれで滅ぼされては、あれもベンガル達も哀れ。とにかく闇にはこのことを、しっかり話してそれからぞ。まあ…イゴールには、その後我から話そう。元はあれの父親が面倒を持ち込んだことが発端であって、あれには憤る権利はない。そこのところ、話して矛を収めさせるように持って行く。主がそう申すのならば、そこは我に任せよ。まずは、あの闇との対話ぞ。」

碧黎は、答えた。

《ならば、急ぐが良い。対話を今すぐにでもするべきぞ。ルキアンを解放させ、ベンガル城へ返し、然る後に主が話を。闇が孤独に今、何を考えておるのか分からぬぞ。命は、狂う。長く置けば置くほどそのリスクが伴う。あの闇を助けたければ、早い方が良い。》

維心は、それを聞いて維月を見た。

維月は、頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。