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闇の話

「…あなたが、闇の一つなのね?」維月は、さすがに一歩後ろに退いた多香子を庇うように前に出て、言った。「ルキアンに憑いていたの?どうしてこんなことを。」

ルキアンの中の闇は、答えた。

「…我は、たった一人で生まれた。生まれた時に側に居たのは霧達だけぞ。そのまま流され、回りの霧の中から聴こえて来る、他の神や人の話を聴きながら、ここが地上というものなのだと知った。回りの霧達と共に漂いながら、ただただ知識を集めて行った。我は、忌み嫌われる存在なのだとも知った。力を持たねばならぬ…なぜなら、同じように意思を持って、闇になろうとしていた霧は、己の意思で動くようになると、同じような力にいきなりに消されて存在しなくなった。それを見た我は、全てが敵で、自分は生きることを許されない命なのだと知った。気取られてはならぬ…そう、思った。」

多香子は、維月の後ろでルキアンを睨んでいる。

…霧の中でただ漂っていたから気付かなかったの…?

維月は、思いながら言った。

「…確かに、闇の王は面倒が起こらぬようにと、念のため意思を持つ霧は消しておったわ。でも、性質さえ良ければ、我らを手伝って生きることも可能なのに。」

相手は、答えた。

「そんなこと、話せる状況であったか。有無を言わさず殺される。主は己で闇を作り出し、それを愛でておったが我からしたら、いったいそれと我の何が違うのかと思うた。我だって、消されて行った意思を持った霧だって、その初めは何も分からず、何の思いもない命だった。生まれた場所が悪かったからなのか?…我には、分からぬ。が、我は回りの霧を取り込んで、段々に力をつけて行った。そのうちに、あちこちに散った何やら濃い霧を身の内に取り込んだ。それが我のように忌み嫌われて消された命の欠片なのだと知った。そこにはそれの、記憶があった。それが言うままに、人を渡り歩いて何とか存在を隠し通した。その欠片が、我に教えた。陰の月を、取り込まねばならぬと。しかし我は、陰の月など知らぬ。ゆえ、我が漂うあの場所に神が多くやって来るのを幸いと、待ち伏せてそれらの記憶を貪った。気が付くと、何人かは息も絶え絶えになっており、この我が憑いている、神だけがまともな状態で残った。我は、これらを隠さねば気取られると思い、他をその時得た知識を使って産み出した、術の膜で隠し、地下へと霧と共に放置した。霧はそれらに憑いて、恐らくあれらは死んだろう。とはいえ、神というものは目立つゆえ、月や他の闇に気取られる可能性がある。ゆえ、我はそれまでしていたように、人に憑くことにした。神の体に入っていても、人に憑くことは容易にできた。そして、我は霧達から情報を集めて、主の居場所を知り、連れて来たのだ。」

多香子が、言った。

「…ルキアンの、意識は。」

闇は答えた。

「先程まで話しておったのがこれの意識ぞ。今は我が使っておるから、眠っておる。己が何に使われておるのかも、これは知らぬだろうの。」と、上を見た。「…どちらにしろ、大きな闇に見付かった。月の嫌な気も近付いておる。主を取り込まねばならぬの。しかし、何やらそんな気にならぬのよ。」

維月は、警戒しながら闇を睨んだ。

「…どういうこと?どちらにしろ、私の同意がなければ取り込むことなどできないけどね。」

闇は、フッと笑った。

「別に、どうせ我とていつまでも逃げられぬと思うておったわ。生きるために霧を取り込んでおったら、ここまで大きくなってしもうた。もう、そうそう隠れてもいられぬ。ゆえ、主とそっちの女と一緒に、心中しても良いかと思うておった。が、気が失くなって来ると、なぜか膜を開いてしもうて。我はの、これと思うて人や神を殺したことはない。結果的にそうなっただけで。取り込んだ一部は、殺せ殺せとうるさいが、我はもう、命というものを知っておる。我とて生きたいとここまでやって来た。他の命が生きたい心地も、それを奪われる無念も分かる。今はせめて、何故に我は生まれたのか、その上で何故に死なねばならぬのか、それが知りたいだけよ。消される前に、答えてくれぬか。」

何故に生まれて、なのに、殺されるのか。

そう、闇が言った時、膜の遥か上にルシウス、十六夜、維心の姿が見えた。

…この闇は、恐らくルシウスと十六夜が消した闇の欠片を飲んだ闇なのだ。

でも、その問いに答えることは、私にはできない…。

維月は、そう思った。

目の前が、いきなりに真っ白になる。

十六夜の力が、膜を消そうと放っている浄化の光なのだと、維月は思って見ていた。


「…ダメだ!」十六夜が叫ぶ。「確かに何かに当たってるが、全く動じてねぇ!」

維心が、手を上げた。

「我がやる!」

維心からは、浄化の紫の炎が吹き出て、確かに何かに当たって、周囲に広がるが、全く手応えがなかった。

ルシウスが、脇からその浄化にやられないようにと膜を張って浮いて、言った。

「どうもそれでは無理なようよ!しかし抵抗も感じない…膜の中で、何が起こっているのかも見通せぬ!」

維心は、歯軋りして今通って来た洞窟を見た。

「…残して来た漸と志心もこちらへ来させるか。」

十六夜は、言った。

「力の問題じゃねぇ!オレとお前でやって無理なのに、あいつらが加わったところで同じだろうが!それにキリルを一人にできねぇ!」

維心は、手を振った。

すると地下水が、グワッと回りから集まって来て吹き出して来た。

「炎がダメなら水の浄化ぞ!十六夜、我と力を併せて、前へ!」

水が、激しく膜に当たっているのが分かる。

何故なら、膜の形に水が流れ落ちて行くからだ。

「…効果はない。」ルシウスが、目を凝らして言う。「面倒な!」

すぐそこに維月がいるのに。

維心が歯軋りして力を止めると、十六夜が言った。

「…こうなったら、親父の力を借りて地下から突き上げるか。」と、地に手を付いた。「少しなら、オレだって親父の浄化の溶岩を引っ張り上げられる。」

しかし、維心が首を振った。

「ならぬ!維月は良い、始めから型はないゆえ、焼かれることもないだろう。だが、多香子とルキアンが一瞬でチリぞ!落ち着かぬか、十六夜!」

だったら、どうしたらいい。

十六夜が維心のように歯噛みしていると、膜は目の前で波打った。

本当なら見えないが、水の流れが不自然に動いたのだ。

「…?」

十六夜も維心もルシウスも、固唾を飲んでそれを見つめたのだった。


維月が、何も答えないのを見て、ルキアンに憑いた、闇は言った。

「…答えはないか。」と、また上を見た。「…どうやら、この膜は思ったより強かったようだの。未だ破れる様子もない。どうやら月の浄化も、この膜には阻まれるようぞ。」

…やっぱりこれは、昔の仙術よりさらに進化した膜なんだわ。

維月が眉を寄せていると、相手は自分を包む、膜を消した。

回りの霧が、一気に膜がなくなった空間に落ちて流れて行く。

「…まあ、我は行く。次に会う時まで、答えを見つけておくが良い、陰の月よ。案じずとも、必ず会いに参る。答えを得られたら、我は消滅しよう。どうせ生きておっても、逃げ隠れするよりないのだ。今はただ、主に答えを聞かせてもらいたいだけよ。」

維月は、急いで膜の端に寄った。

「え、待って!どこへ行くの?!」

相手は、フッと笑ったかと思うと、霧の中に隠れるように消えて行った。

維月と多香子は、呆然とそこに取り残されて座り込んでいた。

…そうなのだ、あれらにも、生きる権利があったのに。生まれた時は真っ白で、何の思いもない命とてあったろう。それを、粗野だ粗暴だと知らぬのに、片っ端から消してしまってはあれらの命はいつ救われるのだろうか。

維月は、消されて行った罪のなかった命に、涙を流したのだった。

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