閑話 竜人の女騎士ヘレナ・ブレナン 後編
文字数が増えて投稿が遅れて申し訳ないです
今日は無理なので
明日少し修正もあるかもです
封印の祠のある洞窟は山狩りを行なっていた山の中腹あたり、私たちのいた河原から少し山を登った場所にあった。
山狩り任務を受けた時に、皆から少し微妙な雰囲気を感じてたけど禁忌の地の事があったからなのかしら。それなら言ってくれればよかったのに……口に出すのも憚られたのでしょうね。
空を見上げれば、すでに陽も傾き時刻は夕暮れ時。陽が落ちて夜となるまであと少しの時間だ。
敵の正体、規模や数も、目的すらわかっていない。その中での山中での夜間行軍や野営など危険すぎる。
いったん麓まで全ての部隊を撤退させて、領都からの指示を待った方が良いのか。でも、他国の部隊、もし帝国の部隊であったなら危険だ。なおさら調査だけは急いだ方が良いかも知れない。
何を計画しているかわからないが、手遅れになって領都に危険が及んだら目も当てられない。
そんなことを思いつつ岩陰に隠れながら前を見ると、斜面となった山肌に大型馬車でも通れそうな穴がぽっかりと空いている。
「それで、あれがその洞窟なの?」
私の問いかけに、グラハムが表情を強張らせて頷く。
禁忌の洞窟。
私に言わせればいたって普通。嫌な雰囲気も感じられない。
長い年月の間に噂が誇張されただけで、それを皆が必要以上に怖がっているのだろう。まぁ、子供の頃から散々に聞かされたなら分からなくもないけど。
入り口には鉄製の門扉があるが、これも他でもよく見かける。廃坑なんかだと、危険だからと門扉をつけて閉鎖してるとこもあるからだ。ただし、門扉を止める鎖が切られ僅かに空いていた。
見張りはいないようね。
考えられるのはすでに拠点を移動したあとか、移動するために拠点内を慌てて整理しているが、もう見張りを立てる余裕もないほど人数が減っているか。
ここで迷って洞窟入り口を眺めているだけってわけにもいかない。もしかして拠点移動しているなら、ここで時間をかけて悠長にしている場合でもないだろう。
「とにかく、一度は内部を探索して確認しないと」
私の言葉に、またしてもどこか尻込みするような様子を見せる隊員たち。それだけ禁忌の地として、幼い頃より刷り込まれた意識が強いのだろうけど……私が鍛えあげた突撃遊撃隊としての胆力や誇りはどこにやった。
禁忌の地ということで領都にも伝令は出しているが、許可待ちしてる時間もない。とにかく陽が落ちて夜になるまでに、幾らかでも調査をするべきだろう。
そう考えて遊撃隊に指示を出す。
「グラハムとあと何人かは私と一緒に洞窟内に突入。スーリンは残った遊撃隊員をまとめて周囲の探索を継続しながら警戒と、この入り口で防衛を」
警戒と防衛は、まだ外で活動している工作員が帰ってくるかも知れないからだ。
私が指示を出し動き出すと、ようやくみんなも重い腰を上げて活発に動き始めた。
突入するメンバーは私とグラハムを含めた十人。
洞窟内は狭く、大勢で突入しても満足に動くこともできないだろう。もしトラップが仕掛けられていれば、こちらの被害の方が大きくなる事も考えられる。
だから少数精鋭での突入。隊内でも実力ある者での洞窟内を確認して、いけそうならそのまま制圧。無理であればいったん撤退してからまた考えれば良い。
と話は決まったが、スーリンは隊長の私が自ら突入部隊を率いることに反対していた。が、最後は諦めたような表情を浮かべていた。
安心して、今度は竜気も手加減して必ず尋問可能な元気な捕虜を確保するから。
なぜそこで私の顔を見てため息をこぼすのよ。
隊内で一番頑健頑強なのが私だからであって、決してグラハムみたいに頭の中まで筋肉が詰まってないから。
あっ、またため息ついた。
違うから、絶対違うから、そこは間違えないで……。
そんなわけで洞窟内に十人で突入したけど、敵らしい敵にも出会わない。確かにトラップは仕掛けられていたが、視覚、聴覚、嗅覚の優れている獣人部隊の部下たちにすぐ見つけられて解除されていく。
それに禁忌の地という事で、皆がいつもより緊張しているからなおさらだ。
私は竜人特有の暗視持ちで直感力にも優れているが、聴覚や嗅覚では獣人族には敵わない。
今も壁に空いた小さな穴を幾つも見つけて、松明の光を当てて仕掛けを解除していた。
どうやら知らずに前を通ると何本もの矢が飛び出す仕組みだったようだ。
解除はすぐ終わり、また探索をしながら前進する。
それにしても不思議な洞窟だ。
枝分かれした道があるわけでなく、ほぼ一本道。曲がりくねるでもなくほぼほぼ直線の道がずっと続いている。
暗視持ちの私には全てが昼間のように見えているわけだけど、この洞窟は一度全てが崩落して後からまた掘り進んだようにも見える。途中には幾つも崩落した跡があり、場所によっては枝分かれした道らしきものもあった。が、その全ては崩落したかのように瓦礫で埋まっていた。
そしてもっとも不思議なのは、この魔力の抜け落ちていくような喪失感。気のせいではないはず。極僅かな魔力量なので誰も気づかないようだけど、竜人族の私には直感力でそれがわかる。
少量の魔力ではあるものの、これが何人も集まれば結構な量になる。この洞窟は、現在他国の工作部隊が占拠し多くの者が出入りしている事を考えると、少し空恐ろしくも思える。
それとさっきから竜人族の特徴でもある喉元の逆鱗に、チリチリとした痒みのようなものを感じていた。
他国の部隊が何かしている影響ならまだ対処もできるけど…………普通の洞窟との考えは撤回。禁忌の洞窟……案外と馬鹿に出来ないかも。
そんな事を考えていると、「ヘレナ様、前方に灯りが見えます」とグラハムの押さえた声が聞こえてきた。
促されて前方を眺めると、遠くに微かな明かりが漏れているのが見えた。
「松明を消せ、瞳の反射も隠せ、焦らず慎重に行くぞ」
私も押さえた声で言うと皆も頷く。
獣人も私ほどでないが、暗闇でもある程度は見えている。
逸る気持ちを抑え、ゆっくりと慎重に進む。
暗闇の中遠くに見える明かりは案外と遠い。
随分と時間を取られたが、ようやくの事で辿り着いた。
その間、慎重に進む皆をほめてやりたいぐらいだ。
洞窟の先にあったのは入り口のような開口部。そこから明かりが漏れていたのだ。その開口部横の陰に隠れほっと一息つく。そして、こっそりと明かりの中を覗き込む。
中はちょっとした広間。周囲の壁には幾つもの魔力灯が掛けられて、その明かりが広間を煌々と照らしていた。
魔力灯……以前は古代遺跡から発掘されるものがほとんどで貴重な魔道具だったけど、近頃は帝国で開発が成功して数もそれなりには出回るようになったと聞く。でも、王都ならまだしも、私たちのいる辺境伯家が治める領都ではあまり見たことがない。
やっぱり帝国の兵士たちなのかしら。それとも邪神を崇めるような邪教徒の集団……その両方……あのよくない噂ばかり聞く帝国ならありそうでちょっと怖いわね。
広間の中央には、屋根と柱だけの小さな建物があって真ん中には石碑のようなものが置かれていた。
あれが……封印の祠か。
瞳に魔力を込めた竜眼で見ても、石碑には何か古代語で書かれているようだけどその詳細まではわからない。
というか、私には元々古代語を解読する知識もないから。期待するだけ無駄。わかったのは石碑からは何も感じられないという事だった。
封印の儀式も、長い年月の儀式にありがちな、年を重ねる間に意味や目的を失い形だけの儀式になってたのかも。
そして、敵の姿はというと。
いた……魔法使いらしき指揮官が一人に武装兵士が四人か。どうやら見張りを立てる余裕もなかったようね。それともこの洞窟なら見つからないとの自信でもあったのかしら。
敵と思しきその五人は、祠の後方、石碑から少し離れた場所で、何かごそごそと作業しているようだ。
ここからでは封印の祠が邪魔してよく見えない。
床に何か描いている……羽のような形にも見るけど……。
そこでふと気づく。私の直感力が囁くのだ。もしかして魔法陣? と。
私も里の長老であるおばば様から基本となる魔法陣の幾つかは教わっていた。その基本系の流れのどれにも属さない見たこともない形。
これは逸失魔法陣なの!?
逸失魔法陣は古代魔法文明の遺物とも言われるもの。何を画策しているのかはわからないが、どうせろくでもないものであることは確か。
敵は五人。問題は指揮官らしき魔法使いの存在だ。部隊を率いるぐらいの魔法使いなら実力もそれなりにあるだろう。
敵の人数がこちらより少ないからと、簡単に制圧できるなどと甘い考えは持っていない。魔法使いとは、それほど強力な存在でもあるのだ。
私も各地を流離っていた時に様々な魔法使いと戦った経験がある。
直接攻撃を仕掛ける属性魔法はもちろん、中には付与魔法や精神魔法など搦手から攻める厄介な魔法使いもいた。警戒するに越したこともないのだ。
最も良いのは、河原での制圧戦の時のように、武技の『縮地』でもって気付かれる前に距離を詰め一気に制圧したいところ。だが、今の私はそこまでの竜気がまだ回復していない。最大限に力を振り絞って、身体強化の魔法に竜気を合わせるぐらいか。
ここは、河原でも使ったいつもの突撃戦を仕掛けるしかないか。突撃戦といってもそれほど特別なものでもない。
私の鍛えあげている突撃遊撃隊では初撃をクロスボウで矢を打ち込み、敵が乱れたところに斬り込むのを常套手段としている。
今回もこれでいこうとグラハムに目を向けると、すでに私の意を察して背負っていたクロスボウを降ろして用意していた。他の隊員たちも同じくである。
これこれ、こういうのが私にとって心地良いのだ。戦時の暗黙の中、以心伝心で部隊が一体となり敵に対して立ち向かう。部隊の心はひとつとなり、隊員たちの士気もこれ以上ないほど燃えあがるのだ。
私が皆の様子に満足を覚え右手を上げると、皆はクロスボウを構えた。
「射て!」
声と同時に右手を下げると、矢がシュッと音を鳴らして一斉に放たれる。
「突撃! 制圧せよ!」
私を含めた全員が、封印の祠のある広間に飛び込むようにして駆け出す。
しかし、すぐに想定外のことが起きた。
武装兵四人には矢も刺さり倒れる者もいたが、魔法使いは別だった。魔法使いに迫っていた私の目の前で、放った矢が、カンカンカンと音を鳴らして弾かれたのだ。
いつのまにか、魔法使いの周囲に半透明の壁が出来あがっていた。
物理障壁か!
ひとりで障壁を張れる魔法使いともなればかなりの実力者。しかも、ほぼ無詠唱で魔法の錬成速度も速い。それこそ、王家直轄の宮廷魔法使い級だ。
「グラハム、武装兵は任せた。この魔法使いは私がやる」
「了解しました、ヘレナ様もお気をつけてください」
グラハムたち遊撃隊が殺到するのを横目に、私は魔法使いに相対する。
「お前たちは何者だ!」
「おや、下劣な獣人の中に野蛮な竜人も混じっていたか。だが、我らヒューマンに比べれば下等種であるのは間違いない。そうだな、お前は生かして俺の奴隷にでもするかな」
「何ぃ! きさまあぁ!」
大剣で攻撃するが、やはり魔法使いの手前で弾かれる。ならばと手を伸ばし掴もうとするが、それも阻まれ近寄ることもできない。
「無駄、無駄。俺の障壁がお前程度の竜人が破れるはずもない」
くそっ、竜気が全開で使えたらこの程度の障壁もわけなく潰せるのに。
魔剣に竜気を流そうとするが後少し足りない。
「帝国に竜人奴隷を連れて戻れば自慢にもなろう。だがその前に躾をしないといけないようだ」
「やはり帝国の部隊兵、何が目的でこの辺境伯領に来たんだ」
「それを教えることはできんな。少し切り刻んで大人しくなってもらおう。『集いし風よ、周囲に渦巻き刃と化せ、風刃乱舞』」
魔法使いの周りで風が渦を巻き始め、幾つもの風の刃を生み出し周囲を縦横無尽に飛び始めた。
まさか障壁に風刃の二つの魔法の同時展開だと……いや、障壁の展開速度から考えると迷宮産の高位魔道具に上級の風魔法か。どちらにせよ、かなりの魔法力。
しかも、この風刃魔法は敵味方関係無しに飛び回っている、無茶苦茶だ。
案の定、矢で傷付き動きの鈍っていた四人の帝国武装兵は瞬時に切り刻まれ倒れた。グラハムたちも、どうにか躱しながら致命傷は避けているが、それも時間の問題に見える。
そして私も……竜人の体が強靭だといっても限度がある。風刃で切り刻まれながらも、大剣に少しでも魔力と竜気を巡らせ障壁を破ろうとするが……。
くぅ、やはり無理か。
とその時だった。周囲を飛び回っていた風刃のひとつが奥の壁に当たったのだ。その瞬間、奥の壁が、いやこの広間全体が白い光に包まれた。そして、次の瞬間には風の刃が、展開していた風属性の魔法の全てが跳ね返されたかのように魔法使いに向かっていく。
そして、魔法使いの周囲に張り巡らされていた障壁がバリンと砕け散り、魔法使い自身も膝をつき口から血を流していた。
「げほっ、な、何が起きた……」
魔法使いが息も絶え絶えの瀕死の重症なのは明らか。杖を支えにして立ち上がろうとしている。
もしかして、これがシーリンの言っていた魔力の反転逆流……。
私も何が起きたか分からず、一瞬、呆けてしまったが、直ぐにこれは好機とばかりに近寄ると大剣を薙いで杖を持つ右手を斬り飛ばす。
「があぁ、きさまら下等種の分際でえぇ!」
魔法使いは叫び声を上げて床に転がる。
この魔法使いには今回の帝国の目的や作戦の全容も、まだまだ聞きたいことが山ほどある。だから追撃は控えていたが……。
「……ぐぅ、まだだ、まだ……下等な劣等種に……」
魔法使いが残った左手で懐から何か取り出し、床に描いていた魔法陣の中央にはめ込んだ。
あれは転移結晶石か。
転移結晶石は迷宮内でのみ使用できる古代魔法文明の魔道具。迷宮内と地上をゲートで繋ぐ脱出用のアイテムのはず。
でも、あの逸失魔法陣は……まさか。
たちまち膨大な魔力が魔力陣に内包されていく。
「くくく、これでお前たちも終わりだ。ここと帝国が時空ゲートで繋がる。すでに師団規模の準備も整っているはずだ」
「なにぃ! まさか、その魔法陣は地上での場所を繋ぐ空間ゲートなのか」
「直ぐにも、お前たち下等な亜人種を滅ぼすために帝国軍の精鋭がやってくるだろう」
床に描かれた魔法陣が輝き出す。が、またしても床全体が白光し、今度は奥の壁へと吸い込まれ、魔法陣自体が消えてなくなった。
「どうやら失敗したようだね」
「な、なぜだぁ、帝国で行っていた実験では何度も成功していたのに……」
転移魔法陣の失敗にホッとしたのも束の間。今度は奥の壁からとてつもない魔力波動を感じ、喉元にある逆鱗がギリギリと痛みだす。
何なに、今度は何が起きるのよ。
それでも、とてつもなく危険なことが起きそうなことはわかる。
グラハムたち遊撃隊を見ると、まだ辛うじて動けそうだ。
「撤収! 今すぐ撤収するわよ!」
もはや帝国の魔法使いとか構ってる場合じゃない。今すぐここから離れないと。
しかし、広間から出ようと駆け出そうとした時に奥の壁がガラガラと音を立てて崩れ、ぽっかりと穴が開いた。
驚き思わず穴を見つめると、穴から出て来る何かと目が合った。
「何あれ……スケルトンじゃないよね」
そこにいたのはぼろぼろのローブを身につけた全身骸骨の魔物。ただし漂う魔力は尋常なものでない。
直視してるだけで魔力酔いで気を失いそうになるほど。その骸骨がガチガチと大きく歯を鳴らしている。
スケルトンでなくリッチ……いえそれ以上の存在。
「に、逃げるよ」
震える声で、そう叫ぶのが精一杯。
だけど、目を離すこともできない。目を離した瞬間に何かされそうだからだ。
でも見つめあったのは数瞬。直ぐに骸骨から黒い靄のようなものがあふれ出て広間を埋め尽くし、意識が遠くなっていく。
あ、これは駄目なやつだわ
掠れいく意識の中で……。
大悪魔パラケ、本当にいたんだ。
そんなことを考えながら私は意識を失った。
ヘレナさんは死んでないからね
次回からも登場予定
本来の主人公視点ですけどね
そしてやっと本編が始まる(汗




