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私の出番



 デレクとシリルが木剣を打ち合う音が試合場に響く。

 一見互角のように見えるが、全力のデレクに比べてシリルの動きと表情はまだまだ余力のある感じがする。最初から自信ありげだったが、彼は本当に強いようだ。


「 デレク・アスリース。お前の動きは確かに鋭い、だが⋯⋯それだけだ 」

「 ⋯⋯っ!! 」


 シリルの動きが今までとは明らかに変わる。

 速さもデレクを上回り、一回いっかいの攻撃が重くなった。向かってくるデレクの攻撃を、まるで扇を仰ぐかのように軽々と弾き返す。

 そして、追い詰められ怯んだデレクの真正面に、今までで一番力強い一撃を振り下ろした。


 ガンっと重い音が響く。


 その一撃をデレクはなんとか木剣で防いだが、それが精一杯のようで、完全に力で負けシリルに押されている。


「 く⋯⋯ぐうっ!! 」

「 最近まで遊び歩いていたお前とは違って、俺は生まれてから今まで一日も戦う訓練を休んだことはない!!」


 高い音とともにデレクの木剣が弾き飛ばされた。姿勢を崩したデレクはそのまま地面に手をついてしまう。

 疲れを感じさせない余裕のある表情で、シリルはデレクに自分の木剣を突きつける。


「 俺の勝ちだ。⋯⋯今度戦うことがあるかは分からないが、それまでに少しでもましになっておくんだな 」


 そう言うと、シリルは自分の仲間がいる場所に戻っていった。戦いを後ろで見ていた彼の仲間達が、まるで自分が勝ったかのように盛り上がっている。


 私とウィルは地面に座るデレクのもとに駆け寄った。

 彼は視線を落とし、唇を固く結んでいる。


「 ⋯⋯デレク、悔しそうですね 」

「 ああ、あいつの言っていたことは当たってる。俺は訓練不足だ。⋯⋯でも、悔しい 」


 服を手ではたきながらデレクは立ち上がる。

 最近まで呪いのせいで彼は家族とすれ違って、家から距離をとっていた。つまりグレていたのだ。その間、家での剣の稽古や戦いの訓練をあまり出来てはいなかったのだろう。

 呪いの話など知らないシリルにとっては、デレクは怠けてサボっているようにしか見えなかったに違いない。だが、真実だとしても、ああ言われてはデレクも悔しいだろう。

 弾き飛ばされ地面に転がっているデレクが使っていた木剣を、ウィルが拾う。そして彼は空いている方の手でデレクの肩を軽く叩いた。


「 シリルは学年でも上位の強さだ。あのライル殿下ともいい勝負をするらしい。俺が相手でも勝てなかっただろう 」

「 励ましてくれてるんだったらありがとな。ウィル、良かったら今度一緒に訓練してくれ 」

「 ああ、喜んで 」


 デレクとウィルがいい感じに仲良くなっている。私としても嬉しいことである。


「 それはそうと、次はごしゅ⋯⋯アリオンの番だな。大丈夫なのか? 」

「 そうだった。俺で終われなくて悪い 」


 二人が私に心配そうな視線を向けてくる。


「 ⋯⋯任せてくだ⋯⋯いや、任せろ 」


 忘れていたが、アリオンはクールな男という設定だった。

 口調を切り替えて私はアリオンになりきる。キリッとした目で二人を見る。そして、次にシリル達の方を見た。

 果たして私の対戦相手はあの中の誰だろうか。今から楽しみだ。

 ふと、周りを見ると、平民出身の男子生徒三人も心配げにこちらを見ていた。いや、訂正する。心配げというよりほとんど諦めた表情である。私に対して少しも期待をしていないようだ。

 大丈夫、私は見た目より頑丈だし強いから。という気持ちで彼らに視線を送ったが、哀れなものを見る目で見返された。⋯⋯悲しい。


「 大丈夫か? 棄権したほうが良いのではないか? 」


 試合場に立ち、ナックルを装着した手を構えている私を見て、シリルがそう言ってくる。心配しているというより、とても馬鹿にした言い方だ。

 ふふふ、だが私はそんな簡単な挑発には乗らない。強者は常に落ち着いているものである。


「 ⋯⋯⋯⋯ 」


 私は何も言わず、ただ不敵な笑みを浮かべておく。


「 ⋯⋯き、気味の悪い男だな 」


 シリルが少し嫌そうな表情をして身を引いた。

 あいかわらず失礼な奴め。小さな呟きだったが、私にはしっかり聴こえているのだ。


「 よし、ワゴッツ。あいつの相手はお前だ。いけるか? 」

「 わっはは、任せとけ。あんなひょろいの一発で終わりだぜ 」


 一人の男子生徒が私の前に進み出てくる。ワゴッツと呼ばれていたその男子生徒は、背が高く横にもでかい。まさに重量級である。

 対比的に見て、今の私は周りから小さく見えているだろう。


「 怪我させたら悪いな 」


 訓練用ナックルを大きな拳に装着したワゴッツが、笑いながら謝ってくる。

 私は完全に舐められているようだ。


「 ⋯⋯⋯⋯ 」


 私はまた何も言わず、ただ不敵な笑みを浮かべておく。


「 やはり気味の悪い男だな。俺の対戦相手ではなくて良かった 」


 離れた場所でシリルがまた失礼なことを言っている。彼は一度咳払いをした後、私とワゴッツの準備が整ったことを確認し、始まりの合図をだした。


「 はじめっ! 」


 その瞬間、なんの躊躇いもなくワゴッツが私に殴りかかってきた。力任せの一撃だ。動きは遅い。

 私はその攻撃をひらりと躱すと、彼の懐に飛び込んだ。


「 ⋯⋯恨まないでくれ 」


 お腹に一発、手の平で攻撃をする。


 ──バチーン


 何故手の平かと言うと、彼は確かに体は大きいが、丈夫さでいえば絶対ロドア・ガモフの十分の一にも満たないだろう。すなわち、普通に拳で攻撃してしまったらロドアのように気絶だけでは済まず、命の危険があるかもしれないのだ。気に入らないからといって学園の生徒を傷つけるわけにはいかない。


「 ぐわっあ!! 」


 痛みに悶えたワゴッツが地面に倒れ、ひーひー言いながら転げ回っている。めくれ上がった服の下に見える彼のお腹には、私の手の形をした赤いあとがくっきりとついていた。


「 痛いか⋯⋯それが先ほど無理やり場所を奪われた生徒達の、⋯⋯心の痛みだ 」


 最後にカッコ良さげな決め台詞を言って、私はデレク達のもとに戻った。

 それと同時にシリルがワゴッツに近づいていく。


「 大丈夫かワゴッツ!? 」

「 いてー、腹がいでー 」

「 誰か魔法で腹を冷やしてやれ。⋯⋯それにしてもあの動き、気味は悪いがなかなかやるな、あの男 」


 シリルが私の方を見て呟いている。

 彼の中で最後まで“ 気味が悪い ”という私に対する評価は変わらなかったようだ。深緑色の髪が悪かったのかな?


「 アリア、良くやったな 」

「 流石ご主人様だな 」

「 二人とも、僕はアリオンだ 」


 喜びのあまり普通に名前を呼び出した二人に鋭い視線を送る。いや、ウィルに関しては普通の呼び方ですらない。

 慎重に他の生徒達を気にするが、特に聞かれてはいなかったようだ。シリル達はワゴッツの手当てに集中しているし、平民出身の生徒三人はハイタッチをして喜んでいる。

 しばらくするとワゴッツも落ち着いたのか、シリル達五人がこちらに向かってきた。


「 俺も男だ。約束は守る 」


 平民出身の男子生徒三人の前で、一列に並びシリル達は頭を下げた。


「 割り込んで済まなかったな 」


 シリルが謝ると、周りの四人も口々に謝罪をする。ワゴッツだけはお腹を気にしながらだったが、それは仕方がない。


「 い、いや。順番を守ってもらえるなら僕達も気にしないよ 」

「 ああ、そうだな 」

「 はい 」


 三人は貴族の子弟達に頭を下げて謝られ、少し困った様子だ。

 謝り終わったシリルは、私達に向き直る。


「 約束は守った。これからは例え使っている相手が平民だろうと訓練場での順番は守る。⋯⋯デレク、次に戦うかは分からないが、精々鍛えておけ。それと⋯⋯ 」


 デレクに嫌味を言った後、シリルは私の方を見た。


「 お前、名前はなんと言う? 」

「 ⋯⋯アリオン 」

「 そうか、気味が悪いがなかなかの実力者のようだな。機会があれば相手になってもらおう 」

「 ⋯⋯気が向いたら 」

「 ふっ、ではな 」


 イケメンオーラを出しながらシリルが立ち去っていく。仲間達も慌てて彼のあとを追いかけて行った。ワゴッツはお腹を撫でながらである。


 なんだろう、シリルからロドアと似た空気を感じた。奴も戦いで語り合う系男子か⋯⋯。


 彼らが去っていくのを見届けたデレクが、ウィルと私の方を見る。


「 良し、じゃあカカシ訓練に戻るか 」

「 そうだな 」

「 あ、そうだった 」


 色々あって忘れていたが、私達はカカシ訓練をしようとしていたのだった。もとの場所に戻って訓練を始めなければ。


 そのあと、私達は平民出身の生徒三人とカカシ訓練場に戻った。

 しかし、私が一発目で初心者用カカシを粉砕してしまい、一瞬で周りがおかしな空気に変わった。私が「 ろ、老朽化かな? 」と半笑いで誤魔化したところ、上級者用を使っていた三人が無言で場所を代わってくれた。

 私はとても申し訳ない気持ちになったのだった。



お読みいただきありがとうございます。

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