学園の訓練場にて③
睨み合うデレクとシリル。
五人の中ではシリルがリーダー格なのか、他の男子生徒達は少し後ろから私達を見ている。
デレクは鋭い視線でシリルを見ながら口を開く。
「 シリル、由緒正しい子爵家の人間が、平民の生徒相手に威張り散らして⋯⋯恥ずかしいな 」
「 ⋯⋯なんだと、最近妙に田舎者とつるんでいる奴が偉そうに! 」
田舎者とは、第一王子派の貴族の子弟がユリアーテ家を馬鹿にする時につかう言葉だ。実際にはユリアーテ領はかなり発展しており、洗練された独自の文化を持つくらいで、とても田舎とは言い難い。
しかし、馬鹿にしたいだけの人達にはそんなことは関係ないのだろう。私もたまに言われるけれど、柔和な微笑みを送るだけで、特に相手に言い返したりはしない。私は争いを好まない性格なのだ⋯⋯。
話を戻して先ほどのシリルの言葉だが、最近デレクは担任であるコルマさんと話している姿をよく見かけるので、彼はそのことを言っているのだろう。
「 田舎者ねー。ぷっ、その田舎者の教師よりモテない奴らが笑えるな 」
デレクは笑いを堪えるように口元を手で押さえつつ、目の前の五人を順に見ていく。
リーダー格のシリルはともかく、失礼だが取り巻きの男子達は正直言ってモブ顔である。
「 ⋯⋯な、ふざけやがって! 」
「 モテるかどうかは今関係ないだろっ! 」
「 そうだ、そうだ! お前だってそんなにモテないくせに 」
「 シリル、このままにしていいのかよ。あいつら、少し分からせてやった方がいいんじゃないか? 」
「 そ、そうだな⋯⋯ 」
モテないと言われたことがよっぽど癇に障ったのか、後ろにいた取り巻き達が怒りを露わにしている。そのあまりの怒りぶりに、仲間であるはずのシリルも少し驚いているくらいである。イケメンのシリルは、“ モテるかどうか ”をあまり気にしてはいないようだ。
しかし、反応に驚きつつもシリルは取り巻きの一人に『 分からせてやった方がいい 』と言われた後、何かを考えるように私達の方を見てきた。
デレクやウィルを見た後、私( アリオン )に視線が止まると、彼は馬鹿にしたように鼻で笑う。
「 ふんっ、なら一対一の打ち合いを、それぞれ代表三人を出して、三回戦行おう。先に二勝した方が勝ちだ。二勝した時点で三回戦目をやる必要はない。戦いのルールとしては、地面に手をついたり倒れたりしたら負けとする。⋯⋯そうだな、俺達が勝ったら二度とこちらのやる事に口を挟まない、と約束してもらおう 」
自信満々といったようすでシリルが私達に提案をしてくる。
先ほど私を見て鼻で笑っていたので、私になら今いるメンバーで勝てると思ったのだろう。シリル自身がデレクかウィル青年に勝てば、彼の考えなら確実に二回は勝てることになる。
⋯⋯ふ、甘いな。砂糖水で煮たおはぎくらい甘い。あ、それはもはやぜんざいか⋯⋯。
話を戻して、自信満々のシリルは確かに強そうだが、他のモブ顔達には強化魔法を使わなかったとしても、私は負ける気がしない。小さい頃から自然の中やユリアーテ辺境騎士団で体を鍛えてきた私は、ゲームの攻略対象達に守られるヒロインとは違うのだ。
デレクは私を心配気にちらっと見たが、私が余裕そうなのを確認すると、ウィル青年にも頷きで承諾をもらってから、シリルに向き直った。
「 分かった、受けて立とう。ただし、俺達が勝ったら、お前達にはさっきの生徒達に頭を下げて謝ってもらう。今後、訓練場で無理やり割り込むのもやめろ 」
「 ⋯⋯いいだろう。約束しよう 」
お互いに勝負に勝った後の条件を決めた私達は、一対一で戦える場所へと移動をする。
一部始終を遠巻きに眺めていた平民出身の男子生徒三人も、見物をするためなのか後をついてきた。
考えてみると彼らからは、自分達は放置されて、勝手に貴族同士で勝負を始めたように見えるのではないだろうか。そう思って三人をよく見てみると、彼らはデレクに向けて、憧れを含んだ期待のこもった視線を送っていた。
良かった、私達を応援してくれているようだ。
一対一の訓練を行う試合場で、左右に分かれそれぞれ相談するシリルと私達。
相談の結果、私達の順番はウィル、デレク、私の順に決まった。二人は私にはなるべく戦闘をさせたくないようだ。何故なら、二人とも私が戦えることは知っていても、貴公子として令嬢である私を心配をしてくれているのだ。
どこぞの水色髪や俺様王子と違い実に紳士である。
「 こちらは一回戦ガッドを出す 」
「 任せとけ 」
一回戦目、あちらはガッドという中肉中背の生徒を出してきた。彼は訓練用の長い槍を持っている。
ウィル青年も同じものを持っているので、この戦いは槍対決になる。
「 行ってくる 」
「 頑張れ、ウィル青年 」
「 ごしゅ⋯⋯アリオン、この戦いに勝ったら俺のことを名前で呼んでほしい 」
「 今も名前で呼んでますよ 」
「 言い直そう、名前のあとに青年とつけるのをやめてほしい 」
「 分かりました 」
私が承諾すると、真剣な表情でウィル青年は試合場で構えているガッドの方に向かい歩いていく。
別に言ってくれたらいつでも青年呼びをやめたのだが、なにやらやる気に繋がったようなので黙っておこう。
「 はじめっ! 」
シリルの声で向かい合っていた二人が試合を始める。
生徒が訓練用に使う槍なので穂先は尖っていないし、切れもしない。だが、二本の先が交差しながらぶつかり合う音はなかなか迫力がある。
二人の実力は均衡しているかと思われたが、しばらくすると疲れが出てきたガッドの不意をつき、ウィル青年が一気に彼との距離を詰めた。そして、しなやかな動きで彼の足元をなぎ払う。
突然のことで避け切れなかったガッドは、そのまま姿勢を崩し、地面に手をついてしまった。
一回戦目はウィル青年、いや、ウィルの勝利だ。
やりきったようすのウィルがこちらに戻ってきた。
「 良くやったな、ウィル 」
デレクも彼の勝利を喜んでいる。
「 ウィルさん、おめでとうございます 」
「 ごしゅ⋯⋯アリオン、ありがとう 」
いい加減に“ ご主人様 ”と呼びそうになるのをやめてほしい、と私は思ったが、勝ったことを喜んでいるのに、水を差すのは悪いので口には出さなかった。
「 次はデレクですね 」
「 ああ、俺で終わらせてやる 」
少し緊張したようすのデレクが試合場に進む。
あちらを見てみると、シリル自ら前に出てきた。
どうやら二回戦目はデレク対シリルになるようだ。
「 ふ、デレクか。俺がこの試合に勝てば、お前達はあの弱そうな深緑頭しか残っていないからな。俺達の勝利は決まったようなものだ。⋯⋯なるべく早く終わらせてやる 」
「 はっ、言ってろ 」
お互いに睨み合う二人。両者ともに訓練用の木剣を構えた。
「 はじめっ! 」
ウィルの声で試合が始まる。
シリルが言っていた深緑頭って、もしかしなくても私のことか。確かに今の私は、見た目地味で弱そうな男子生徒だ。だが、前世の漫画とかだと、私みたいな地味なやつが意外に強いことはよくあることだ。分かってないな。
いや、そんなことより、今はデレクを応援しよう。デレク頑張れ。でも無理はしないでほしい。私という大将が後ろにいるのだから⋯⋯。
お読みいただきありがとうございます。




