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友の章

ついに最終章。あらすじ。とりあえずサタンをフルボッコにした龍二達。でもまだなんかあったりなかったりでふんがむんが。


ってなわけで、どうぞ。

〜龍二視点〜



「……終わったか。」

「そうみたいですね。」


二刀を鞘に収め、感慨深げに呟くと和也が頷いた。


今目の前に横たわっているのは、真っ黒こげとなったサタンが乗ってたロボットの残骸……一応原型はかろうじて取り留めてはいるが、下半身はもうダメだな。足がぶっ飛んでやがる。


だが今は、この長い戦いにようやく終止符が打たれたことによる喜びの方がでかくてそんなんどうだってよかった。


「さて、それじゃあここ来た目的を果たさせてもらいましょうか。」


拳で右の掌を叩き、見上げる。


そこには、気色の悪い十字架に磔にされている優貴が気を失ってグッタリしている。下にあったはずのステンドグラスは、さっきの攻撃で吹っ飛んで跡形もなくなりました。後少しで優貴を吹っ飛ばすとこだった。あっぶねーあぶねー。


「んじゃあ、葵。」

「了解♪」


警察官の如くビシっと敬礼した葵は一歩前へ進み出た。


「……とう!」


そして異空間の穴を開き、そこに入って消える。



【シュ】

「到着!」


で、現れたのは十字架の上。つまり十字架に乗っかっちゃってるわけ。


「葵ー。それ取れるのかー?」


結構高い位置にいるため、声を張り上げた。葵は優貴を引っ張ったり、十字架を叩いたりした。


「う〜ん……取れないこともないけど、ちょっと時間かかりそう。」


なるへそ。


「じゃとりあえず救出頼む。」

「オッケー。」


そう返事して、剣を取り出して逆手に持ち直す。


「よっと。」

【ブシュ】


優貴の腕を拘束している肉に剣を突き刺すと、何か血が出た。


「みぎゃあ!? 血!? 血が出た血!?。」

「ファイトー葵ー。」

「頑張れよー。」


血を浴びて軽くパニくってる葵を、俺らはまるで他人事のように下で応援した。











〜ライター視点〜



ここは、城の証明や施設の心臓とも言えるボイラー室。所々に備え付けられたメーターの針が動き、時々高温の蒸気がパイプから噴き出している。



『グオ……ガァァァ……。』



そこで、一匹のリザードマンが足を引きずりながら歩いていた。


このリザードマンは中庭で龍二達と戦闘を交え、蹴散らされたのだが、かろうじて致命傷は免れた。だが、服はすでにボロボロ、脇から血が夥しい量で流れ出しており、歩くたびに血が滴り落ちる音がする。時々跪きながらも何とか立ち上がってゆっくりと歩き出す……。


『グォォォォ……。』


赤い目をぎょろつかせながら、血を口から噴き出しつつ呻く。出血多量で、刻一刻と死の影が迫っているのを感じながらも歩き続けた。


『ググゥ……。』


やがて、ボイラー室の奥の扉の前に立ち、ゆっくりと開ける。


中には、天井まで届きそうな巨大な柱のような装置が金網の向こう側で震えるほどの轟音を上げながら稼動していた。金網には『DANGER』と書かれた看板が二枚掲げられ、その二枚に挟まれるように一台のコンピューターが置かれてあった。


コンピューターは装置と連結しているため、金網はその部分だけ空白となっている。


『……。』



【カタ……カタ……】



そして、必死に足を引きずりつつコンピューターの前まで来たリザードマンは、血に濡れた爪でゆっくりとキーボードを押していった。



リザードマンというのは、見た目は化け物だが本来は普通の人間であり、サタン、もとい日下部の手下だった者達である。だが、プロフェッサー・玄の魔導実験により、見た目を爬虫類にされ、脳までも改造して人間的思考を無くし、代わりに殺意と闘争心のみしか頭にない完全な量産型生物兵器となった。いわば、人間の成れの果て。



だが実験ミスなのかはたまた意図的なのか、かろうじて人間だった頃の知識があるこのリザードマンは的確にコンピューターに文字を打ち込んでいく。


『…………。』


しばらくの間、キーボードを叩く音が装置の稼動音に混じる。


『グォォ……。』


やがて力が無くなってきたのか、キーボードに触れながら膝を着く。そして、キーボードに置いた手をゆっくりと上げ、エンターキーへと爪を持っていった。





『ミチ……ヅレ……。』

【カタッ】





発せられた言葉を最後に、キーを押してからゆっくりと倒れこむ。




コンピューターの画面に大きく映し出されたのは、『20:00:00』という数字。そして、魔力が蓄積されたこの城の心臓、『魔導原子炉まどうげんしろ』から蒸気が大量に吐き出され、稼動音をさらに大きくさせた。










〜龍二視点〜



「それぇ!!」

【ズボッ!】


十字架を切り裂いていくこと数分、ようやく葵は優貴を十字架から引きずり出すことに成功した。


ただし、葵と優貴の服は血でドロドロだったけど。


「おー、ようやった葵。」

「ナイスファイト。」

「うえええん! 血は洗濯してもなかなか落ちないんだよー!?」


ズタズタになって血が滴り落ちる十字架の上で優貴の両脇を抱えながら泣く葵。さも血が服にかかったことがある言い方だが別に疑問には思わない。大体誰の血かわかってるから(マーくんのこと)。


「…そーゆー問題かよ…。」


横で零時が呆れてツッコミ入れるが気ニシナーイ。


「よし、降りてこい。帰るぞ。」

「え、これはどうするんですか龍二さん?」


文一がロボットの残骸を指差して聞いてきた。


「ん? ああ、大丈夫だろほっといて。くたばってるっぽいしこの鉄くず。」

「…………さり気なく毒ですね。」


うん、自覚してる。


「ともかく行こうぜ? 叔父さん達が心配だし。」

「あのオッサンならくたばらねぇんじゃね?」

「……反論できねぇな。」




【ズゥゥゥン…】




「!?」

「うわ、何だ!?」

「ひゃあ!?」


突然、床が大きく揺れだして俺らは体勢を崩した。


「うわ、うわ、うわ、うわ……。」

「葵!」


十字架の上に乗ってる葵がただでさえ危うい場所でバランスを崩し、優貴を抱えたまま必死に耐えようとしてるが、


「わひゃあああああああ!!!」



落ちた。



「和也!!!」

「はい!!」


一番近い位置にいる和也が葵の落下地点目掛けて走り出す。二人の距離はわずか一メートル。だが若干葵の落下スピードの方が速い。


間に合うか…?




【ドォン!!】




「……。」

「……。」

「……。」




「か……間一髪……。」

「ふにゃ〜……。」


和也が滑り込みの要領で葵をキャッチしてギリギリセーフ。びっくりして葵は目を回している。それでも未だ目を覚まさない優貴を抱えていた。


うむ、立派立派。


「ようやった和也。」

「ええ……ダメージくらいましたけど。」


うん見ればわかる。見事に葵の背中が和也の鳩尾にスマッシュヒットしとるし。



【ドォォン……】



「!? また!?」


再びの地震に零時が身構える。葵も起き上がったけどまだ目ぇ回してフラフラしてる。座ってろ危ないから。


「何でいきなり地震が……。」

「……ねぇ、何か嫌な予感がするんだけど……。」


戦闘が終わって一息ついて人の姿になった茜が、文一の服を引っ張る。


それと、さっきから地を這うような轟音がして、床が小刻みに揺れてる……つかこれ、城全体が揺れてね?


「なぁ、龍二……これってまさか……。」

「……。」







【魔導原子炉ニ異常発生。総員速ヤカニ避難セヨ】







どこからかアナウンスが聞こえ、警報のサイレンが鳴り響く。


「…………。」

「…………。」

「……これはつまり……自爆?」

「お決まりって奴?」

「んな言ってる場合か!!」


零時にツッコまれた。いやだって親玉倒したら基地が爆発するのって結構ベタじゃね?



【爆発マデ、残リ20分】



「……のんびりしてられんな。」


ご丁寧に残り時間を教えてくれたアナウンスを聞き、表情を引き締める。


「脱出するぞ。」


優貴は零時が背負い、俺らは走り出した。揺れが大分激しくなり、時々瓦礫や柱が崩れてくる。


「うわ!? うわわわわわぁ!?」

「葵ちょっと黙って走れ!」


横でやかましく騒ぐ葵を叱りつつ、大聖堂を出てとにかく走る。長ったらしい廊下も揺れのせいで壁のところどころに亀裂が入り、床も割れて危うく足を踏み外しそうになった。


やがて、ダンスホールに出た。が、地震のせいで天井が崩れ、降ってきた巨大な瓦礫が豪華な床に亀裂をいれ、さらに小さな瓦礫のせいでその模様は最初見た時からかけ離れていた。


「うお、危ね!?」


頭上から瓦礫が落ちてきて和也は咄嗟に横へ飛んで回避した。頭ほどでかかった瓦礫は、床に落ちると真っ二つに割れた。


「止まるな、走り抜けるぞ。」


目の前にあるでかい瓦礫を蹴り飛ばし、出口を目指した。







〜ライター視点〜


龍二達が去った後、とても神に祈れる状況じゃなくなった大聖堂の中央の床。周囲は振動で瓦礫が落ち、または柱が崩れ、崩壊の時が刻一刻と迫る中、床に倒れ伏している黒い物体、もといロボットはピクリとも動かない。



『…………。』



だが、徐々にその黒い体が小刻みに揺れ始める。振動のせいではなく、ロボット自身が揺れている。



『………ズ。』



【グヂュグヂュグヂュ……】



しばらくすると、体に入った亀裂や関節部分の隙間から赤黒い液体が漏れ始めてきた。やがてそれは、不快感を与える音を出しながら泡立っていく。



『…ロズ…。』



そしてもはや光が消え失せたカメラアイに、赤い光が宿り始める。ただ、それは機械的な光ではない。



『ゴロズ……ゴロズ!』



底知れぬ不気味さを放つ、禍々しい光。残された左腕がゆっくりと動き始めた。









〜龍二視点〜



「…………。」

「?龍二くんどしたの?」

「あ、いや何でもねぇよ。」


どうやら難しい顔したまま走ってたみたいで、横を走る葵が心配そうに覗き込んできた。


……何だ?この妙な胸騒ぎ……。




「龍二!!」

「!」


廊下を抜けると、俺らが入ってきた出口から龍乃達が血相変えて駆け寄ってきた。


「お前ら?」

「あー龍乃ちゃんに零時くんのおじさん!後その他。」

「「「その他!!??」」」


見事に葵にその他扱いされた影薄三名は同時に叫んだ。


「ハッハッハ、どうやら無事だったようだな!」

「無事じゃねえよ!!」


愉快に笑うオッサンに零時の見事なツッコミが炸裂した。つーかよくこんな状況で笑えんな。


「いやそれより! 龍二、一体どういうことだこれは!?」

「知らん! アイドンノー!!」

「英語で言う必要あるのか!?」


かくいう俺も何か余裕っぽいけど。でも龍乃なんか顔色悪いけど大丈夫か?


「それより、龍乃。ホラ。」

「!? ゆ、優貴!?」

「心配すんな。気絶してるだけだ。」


和也の背中に納まっている優貴を親指で指し、一瞬でさらに顔面蒼白になる龍乃に付け加える。じゃないと次は発狂する。間違いなく。


「とりあえず、とっとと逃げるぞ。おいオッサン、ヘリとの連絡は?」

「さっき電話しておいたぞ。それと私はオッサンでは」

「行くぞ。」


オッサンを華麗に無視し、俺らはますます振動が激しくなってきた城から脱出するべく駆け出した。







【ドォォォォン!!!】

「な!?」

「おっと。」



突如、俺と龍乃の前の床から炎が直線状に吹き上がり、行く手を遮った。咄嗟に俺らは後ろへ飛び退き、炎を避ける。


「な、何だ!?」

「龍二さん!! 龍乃!!」


炎のせいで和也達と別れてしまい、壁から壁にまで伸びた炎によって行く手を遮られた。


「な、何だこれは……。」

「…………。」


横で龍乃が呆然と呟き、俺は炎をじっと見つめる。


『? リュウジ?』

「…………。」






<逃ガズガむじゲラドモ!!!!!!>

「!?」




炎の壁が吹き上がった亀裂から、黒い何かが這い上がってくる。そして淵に手をかけたと思うと、一気に飛び上がって俺らの前に地響きを響かせながら着地した。



かつて頑丈だったであろうアーマーはすでにボロボロで、ところどころが凹んでいて歪な形へと変貌していた。傷口から赤いオイルが溢れ、血のように流れ出ている。背中が大きく盛り上がり、右側の翼も半分に切れていて、左側のも切れてはいないがもはや動くことはないと思わせるくらいボロボロだった。


ただ、一番変わったところといやぁ所々からはみ出ている赤黒い肉みたいな触手……腰から下は完全に無くなっていたが、その切れた部分から血管が脈打つ肉が長く伸び、尻尾のようになっている。切られた腕からも新しい肉質の腕が形成され、筋肉が盛り上がった不気味な腕と俺の身長ほどもある長い爪が三本生えていた。


頭の部分は、右の角は折れて左目のカメラアイが毒々しく赤く光っている。だが、破壊された右目からは人間と思わせる丸い眼球が見開かれ、充血していながらもその瞳には憎しみや怨み、怒りが込められていた。


「な、何だこの物の怪は!?」


龍乃が腰から懺悔を抜き、構える。


俺は何て言うか、もう呆れてものも言えねぇ。


「ったく、しっつけぇなお前はよ………



『サタン』。」



目の前にいるのは、サタンが乗っていたロボット……だった物・・・、とでも言えばいいか? 体中から溢れ出る膨大なエネルギーが、今のこいつの動力源になっとる。


絶対ぜっだいニ、逃ガザナイ……貴様ぎざまモ、貴様ノ仲間ながまモォォォ!!!!>


どっから声出してんのか知らないが、明らか怒りが含まれた声で唸った。


『り、リュウジ!? こいつはさっき倒したはずではないのか!? それにこの変わりようは……!!』


腰からエルの驚愕の声が上がり、俺は体を引いて構える。


「……言ってなかったけどよ。」

『?』



「あの技、『龍王乃理』……実は未完成。」



『……何だと?』


何言ってるのかわからないと言った感じのエルに、俺はさらに続ける。


「さすがに俺のルールを作り出すっつったって、あんな短時間で完全に作り出すことなんて出来るわけねえだろ? 最大は3時間かかる。それを五分に大幅に短縮したんだ、効果は薄いに決まってんだろ? だから俺のルールが効くのは、最大でもたったの一分だけ。おまけに完全に使いこなせていねぇときた。


その間にぶっ倒そうと俺らが攻撃を全て叩き込んで最後に一発かました……んだが、最後の攻撃が当たる前にジャスト一分経ったみたいだな。おかげでトドメをさしそこねたわけ。わかった?」

『………えー、うー……え?』


イマイチよくわかってねぇなこの野郎。


「そんでもって、今のこいつは……。」

<マズハ貴様ガラアノ世ニオグッデヤルワワワワアアアアアアアアアア!!!!!>


っと、いきなり右腕の爪が来た。


「よっと。」

「く!」

【ズゥン!!】


俺と龍乃はそれぞれ左右に側転して回避、爪は俺がいた場所を大きく抉った。


「……ロボットと融合してやがる。」


……おそらく、俺らの攻撃によってサタンの魔力が暴走し、日下部の肉体は破壊されてそのまま


「龍二くん!!」

「龍二!!」


炎の向こうから葵と零時が呼ぶ声が聞こえるが、それどころじゃねえ。


「お前ら、先に行け!」

「な!? んなことできるわけないじゃないっスか!?」


和也が慌てるが、んなもん気ニシナーイ。


「いいから行け! 時間ねえし、こいつは俺ら殺さない限りしつこく追い掛け回すぞ!」



【爆発マデ、残リ十分】



証明するかのように、アナウンスが鳴り響く。揺れもますます激しくなってきて、瓦礫がさらに落ちてきた。


「…………。」

「師匠……どうするんですか?」


炎の音と轟音のせいでかろうじてだが、文一の声が聞こえる。表情までは見えないが、多分躊躇ってる顔してると思う。



<オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!>

「じゃかましい!」


俺はというと、サタンが爪を振り下ろしてきたから逆に殴り飛ばしてやった。


「…………。」

「和也くん…。」

「和也。」



<ニガズガアアアアアアアアアア!!!!>

「!?」


サタンは悩んでいる和也達に向けて、グロテスクな腕を伸ばして突き刺そうとする。


「させっかああああああああああ!!!」


それより先に龍刃とエルを腕に叩きつけて軌道を逸らし、和也達斜め上の壁に爪が当たって炸裂した。


<ガアアアアアア!!! ヨグモオオオオ!!!!>

「お前の相手はこっちだろうが! 余所見してんじゃねえぞこのデカブツ!!」


炎を背中に挑発し、注意をこっちに逸らす。出来れば龍乃も逃がしてやりたいが、炎の勢いが尋常じゃなく、向こうに投げ飛ばそうにも炎に包まれてそれこそ灰になっちまう。


「……クソ、しょうがねえ。」

「師匠!?」

「後で迎えに来る! 二人とも、待っててくれ!!」

「おお、頼んだ。」


炎の向こうで苦々しげに叫ぶ和也にこっちも答える。爆発までもう猶予はないが、何とかするしかねぇわな。


「行くぞお前ら!」

「クソ! …龍二、待ってろよ!」

「死んじゃダメだよ!?」

「死なねえっての。俺を誰だと思ってんだ。」


ちょっと振り返って葵と零時に向かって不敵に笑う。何かピンチなのにこの余裕とはこれいかに。


<ザゼヌ!!!!>

「“させぬ”だろ。ちゃんと喋れバカ。」


飛び上がろうとしたサタンの胴体を蹴り飛ばし、階段にめり込ませる。土煙が立ち昇り、サタンが見えなくなった。


「…皆行ったか。」

「ああ。」


煙を睨みつけながら龍乃に問い、全員逃げたか確認する。これでオッケー。


「……龍二。」

「あ?」


ふと龍乃が呼んで思わずぶっきらぼうに返事する。いや別に機嫌悪いとかそういうのじゃないかんね? これ俺の性分だから。


「私はさっきの戦いで、体力をほとんど消耗した。」

「うん、それで?」

「…………正直な話、今こうやって懺悔を構えてるだけでも精一杯……振りかぶっても、素人程度の太刀筋でしかない。」


ふむ。


「だから、お前に足手まといになることは間違いない……すまない。」

「…………。」


ん〜……。


「……まぁなるようになんじゃね?」

「……。」

「……。」

「…………そうだといいな。」

「だろ?」


互いにニヤっと笑い、ひと時のリラックス。その間にも揺れは激しくなっているにも関わらず、だ。


「…さて。」

「だな。」


そして再び、キっと前方を見据える。



<ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!>



土煙が晴れ、そこには両腕を左右に大きく広げて雄叫びを上げるサタン。体中の穴という穴から赤黒い液体、臭いからして血が漏れ出し、それはやがて俺らの足元にまで来た。


「うるっせんだよこの鉄クズ。大人しくスクラップになってりゃよかったもんをよ。」

「蘇った時点で、貴様は私達によってスクラップよりえげつないことになるということを覚悟しておくんだな。」


対し、俺らは臆することなく挑発的な口調でサタンに言い放つ。特に龍乃なんかは、優貴をひどい目に合わせたことですでにカンカンだ。


<ホザグナアアアアアアアアアアアアア!!!! アアアアアアアアアアアアア!!!!!>


真っ直ぐ振り下ろされてきた爪攻撃を龍刃とエルを交差させて受け止める。受け止めた衝撃で俺の足場が凹んだが、俺自身は大したこっちゃねえ。


「エル!!」

『御意!!』


横へ受け流し、サタンの体勢を崩した隙を逃さず体を回転させる。


「『龍破雷鳴蹴りゅうはらいめいしゅう』!!!」


足にエルの力を流し込み、膨大な雷エネルギーを溜め込んで音速の回し蹴りを繰り出し、横へ大きく吹っ飛ばす。何か壁にでかい絵が掛けられていたが、その絵をブチ破って壁を破壊した。あーもったいない。



【ズゥゥゥン!!!】

「うぁ!」

「おっと。」



一際大きな揺れが俺らを襲い、龍乃が体勢を崩す。が、咄嗟に俺が手を掴んで転倒を防いだ。



【爆発マデ、残リ五分】



「!? 五分だと!?」

「もうホント猶予もねぇな。」


和也らは逃げれたかな?


「龍二、ここはもう危ない!」

「ふぅむ……。」


龍乃の言う通り、このエントランスはダンスホールよりもひどい有様で、設置してあった天使像やらツボやら柱やらがドンドン破壊されていき、壁にも他の床にも亀裂が走り、炎が噴出している。


「…ここにいてても、ヘリの救助は期待できねぇからな。移動するぞ。」

「え、移動ってどこに…。」

「決まってんだろ。この城、高い塔がいくつかあったからそこ行くぞ。」


このエントランスには、他にも大きな扉が二つ、入ってすぐの左右にある。つまりはそっから塔へ行ける道があるはずだ。つっても左の扉は崩れちまってもう通行不可能。よって右側の扉に行くしかない。


<ウゥゥゥゴゴゴゴゴ……。>

「あ、やっとお目覚めか。」


見れば、山積みになった瓦礫からサタンが起き上がろうとしている。復活まで時間がかかっていたのは、多分蘇ったばっかでまだ体がついてけねぇんだな。


「龍乃、走れっか?」

「な、何とか……く!」

「あかんがな。」


一歩踏み出した瞬間、限界なのかガクリと膝をつく。


「……しゃーないの。」

「え、何が……うあ!?」


エルと龍刃を収めて、有無を言わさずどっこらせっとおんぶした。


「飛ばすぞ!! しっかり掴まってろ!!」

「ちょ、ま」

「待たへん!!!」



<マアアアアアデエエエエエエエエエエエエエ!!!!>



大絶叫を背に、まだ戸惑っている龍乃を無視して走り出す。右の扉の向こうも廊下になっていて、すでに辺りから炎が上がっている。


「うりゃああああああああああああああ!!!!!」


風圧と衝撃波で炎に包まれた廊下を粉砕しながら思いっきり走る。スポーツカーなんざより速く走る。走る!


「り、りゅ、じ、はや」

「喋るな舌噛むぞ!!」


つか何言ってんのかさっぱりわかんねぇぞお前。



<逃ガザン!! 逃ガザン!!! 逃ガザン!!!!>

「チッ、意外と速ぇな。」


チラっと後ろを振り返れば、サタンが体の至る所から大量の血を流しつつ、両腕を使ってハイハイの要領で俺らに迫ってきていた。捕まれば俺はともかく、体力を消耗している龍乃の命が危ねえことは確かだ。なもんで、若干スピードを上げて引き離す。


『リュウジ、塔の位置は把握しているのか!?』

「ああ、上空からの突入時に塔の位置を確認しておいた! そろそろ着く!!」


もっとも、これは勘でしかない。ひょっとしたらこの道は塔へ繋がってない可能性だってあるわけだが……。


「ここか!?」


キキーっと急ブレーキ。目の前には鉄で出来た頑丈な扉があった。


「うらああああ!!」

【ドォォン!!】


思い切り蹴破り、中に入る。



ビンゴ。



「この上だな。」

「あ、ああ。」


中は吹き抜けになっており、遥か上まで螺旋状に伸びた階段を見上げながら呟くと龍乃が何か気のない返事をした。



<ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!>



チッ、もう追いついてきやがった。


「飛ぶぞ。」


返事を待たず、その場で一足飛び。足場となる階段の淵を手で掴み、引き上げる力を利用してまたジャンプ、その繰り返しで上まで飛んでいく。


<ウゴオオオオオオオオオオオオ!!!!>


階段に手をかけて宙にぶら下がりながら眼下を見ると、サタンが階段を破壊しながら壁に両手をついてグングン登ってくる。結構狭いから腕を曲げて窮屈そうだが、なかなか速い。


『何て奴だ……体中から殺意と怨念が溢れ出ている……。』

「そうだな。」


再びジャンプをして上を目指し、サタンから逃れる。


『……リュウジ、あいつをこの城の爆発に巻き込ませて倒すつもりか?』

「ん? 一応それも案にあるけど何でだ?」

『あいつ、今はお前達を殺すという執念によって突き動かされている上、あの頑丈な体だ、この城が爆発しても生き永らえるだろうし、いつまでもお前達を執拗に付け狙うぞ。』

「ああ、そうだな。」

『なら何か手を打たねば。この上は行き止まりだぞ?』


……ったく。


「お前なぁ、エル。俺が何の策も無しに上を目指すと思うか?」

『何?』


今のあいつは……




「っと、ご到着だ。」


そうこうしてるうちに、塔の天辺まで到着した。


「ここは……見張り塔か。」


出口から飛び出して周囲を確認する。天井がなく、人が十人くらい入れる程度の広さのある空間。相当高いため、風がビュービュー唸っている。


オマケに遥か眼下には、俺らが着地した、炎に包まれて燃え盛るかつての中庭がはっきり見える。遥か向こうに見える山がほんのり明るいのは、おそらく朝が近いからだろう。


「ヘリはまだか?」

「そのようだな。」


背中の龍乃を降ろし、目を凝らして周りを見てみる。ヘリの影どころか、音さえしない。


「まずいぞ……もうじきあいつが……。」


隣で龍乃が慌てるが、俺はいたって冷静に。


つか、今ヘリが来てもらっちゃ困る。


「龍乃。」

「? 何だ?」


いきなり声をかけられて、若干驚いたらしく肩が一瞬ピクっと揺れた。


「頼みがあるんだが……………。」

「? ……………!? そうなのか?」


耳元で龍乃にしてもらいたいことを伝えると、驚愕した。


「ああ。ただチャンスは一回。しっかりやってくれよ。」

「………わかった。全力を尽くす。」




【ドォォォォォォン!!!!】

「『!?』」




突然背後から爆音が響き、龍乃はさっと身構えた。


<ウグアオエアああああああああああ!!!>


案の定、すぐに追いついてきたサタンが入り口を破壊して大穴を開け、上半身だけ出して唸り声を上げた。つか体中から気色悪い触手みたいなもん出すな。何か蠢いてんじゃねえか。


<グゲゲゲ……追イ詰メダゾ、下等生物がとうぜいぶつガ……。>


くぐもった声が聞こえた。判断しにくいが勝ち誇ってるんだろうな多分。


「…………はぁ。」


俺はそんなサタンの姿を見て、無意識のうちにため息が出た。


「……一つ、言わせてもらおうか。」


相手が攻撃してくるのを恐れず、俺は一歩前へ出る。


「……下等生物なのは、オメェだろ。」

<ア゛ァ゛!!??>


よし、動揺した。



チラっと振り返り、龍乃をアイコンタクトを交わす。



「お前さぁ、そんな哀れな姿になってまで神になりたいつもりか? こっちはありがた迷惑なんだよ。こんなきんもちの悪い神様いてたら世の中誰でも神様になってるって。大体お前みたいなのが神様になれるわけねぇだろバァカ。」


ふと後ろを見れば、龍乃が気付かれないようジリジリと塔の手すりを背にしたままサタンの背後へ回っていた。


今の龍乃は、俺が背負ってる間にわずかながらの氣を送り込んでおいたからしばらくの間は普段通りに動ける。


「大体、地獄の底で幽閉されてたお前が俺らに勝てるわきゃねぇだろ? そりゃお前あれだ。この世界に来た時点で飛んで火に入る夏の虫って奴だ。」


おお、体中からさらに血を噴出させていい感じにキレてる。よし、そんじゃとどめ。


「だから、とっととくたばってくんね? この【自主規制】が。」



はいドーン。



<…………ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!>


ブチ切れ、右腕を大きく振り上げた。


<ギザ、ギザ、貴様ぎさまアアアアアアア!!! 神デアルワダジヲ愚弄ズルガアアアアアアアアアアアアア!!!!!>

「神ならもっとちゃんと喋れバァカ。」


うし、うまい具合に俺に注目している………。


ネネネネネネネネえええええええええええええ!!!!!>


真っ直ぐ、爪が俺の頭上に迫る。


『リュウジ!!!』

「……。」


エルが叫ぶが、俺は動かない。まずあの爪を食らったら俺は間違いなく吹っ飛ぶだろう。





だが、こいつは一つ大きなミスを犯した。


「今だ龍乃おおおおおおおおお!!!!!」

「はああああああああああああああ!!!!!!」





【ズブリ】





<!!!??? ア、アアアアアアアアアアアアアアア!!!???>


サタンの背後に回っていた龍乃が、思いっきりサタンの背中の盛り上がった部分、翼の付け根部分に思いっきり懺悔を突き刺した。


鉄で出来ているとは思えないほどあっけなく、簡単に懺悔は深く突き刺さり、その部分から血がさらに溢れ出す。サタンは俺に振り下ろそうとした爪を振り上げ、激痛に悶えた。その隙をつき、龍乃はサタンの背中から飛び降りて俺の横に着地する。


<ウグゲアアアアアアアアアア!!! 何故ダァ!? 何故ゴノ鎧ガアアアアアアア!!!!>

「お前、今の自分の体のこと理解できてねぇだろ。」


叫ぶサタンをよそに、俺は龍刃とエルの柄を腕を交差さえつつ手を添える。


「大聖堂で戦った時、お前の核となる部分はその屈強な鎧のおかげで守られていたから、俺らは手も足も出なかった……だが。」


スラリ、と龍刃とエルを抜き、構えを取らずに仁王立ちする。


「魔力が暴走し、肉体が不安定になった今、お前は核を俺らの前にさらけ出すこととなった………



そう、その背中にな!! エル!!!」

『行くぞリュウジ!!』


刃を交差させ、氣を高める。


「『二重共鳴』!!!!!」


鋭い音と共に、エルと龍刃が合体して槍となる。


「落ちろ、天空の雷!!!!」


槍の矛先を漆黒の天空に向け、高らかに叫ぶ。


「『ジャッジメント』!!!!」


何も無い頭上の空間が突然光り、そこから特大の雷が落ちる!



<グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!>



サタンに刺さった懺悔に。



懺悔は、さながら避雷針の如く雷を受け、電流をサタンの中に流し込む。


「チェストーーーー!!!!」


痺れて動けないサタンの背中目掛けて、槍で棒高跳びの要領で飛び上がる。


「ふん!!」


すかさず懺悔の柄を手に取り、力を込める。


「おんどりゃああああああああああああああ!!!!!」

【ブジュジュジュウ!!】


一気に振り上げ、背中の核を切り裂く。肉が裂ける不快な音をたてつつ、一際大きな血飛沫が上がった。咄嗟に俺は飛び降りて回避。


<オゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオ!!!!!>


のた打ち回ろうにも体が穴にはまっていて動けないサタンは体をクネらせることしかできず、苦しげに悶えていた。



人はこれを、絶好のチャンスと言う。



「龍乃!!」

「ああ、やろう龍二!!」


龍乃に懺悔を渡し、俺は槍から太刀へと変化させて持ち替える。龍乃も残された力をフルに使って、懺悔を受け取った。


「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「はあああああああああああああ!!!!」


二人同時に刃を振り上げ、氣を溜めていく。


「「はぁ!!!」」

【タン!】


宙高く飛び上がり、その間にも力を溜めていく。眼下には、サタンが顔を上げつつ逃げようともがいている。


<ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!>


逃げれないと悟ったらしく、爪を落下してくる俺ら目掛けて突き出す。




だが、もはや悪あがきでしかない。今の俺らにとっては。




「クロスオーバー!!!」

「奥義!!!」



真っ直ぐ振り下ろされた刃は、まるで紙を切るかのように爪を、腕を真っ二つに裂いていき、





『荒ぶる双龍・降臨!!!!』





サタンの核をそのでかい図体ごと、氣を、力を、想いを込めて縦一文字にぶった切った。





<う、ぐ、アグアアアアァァァァ…………馬鹿バガナ……。>




体を三つに分割され、噴水の如く血を噴射しつつサタンは呻く。


<ワダジハ……神ナノダゾ……コノ世ヲ……統ベ……オ前達、ヲ導ク……神……。>

「いつの時代も悪が栄えた時代なんてない。」


懺悔を振り下ろしたまま膝をついた龍乃がポツリと呟く。


「ましてや、貴様のような輩が神になどなれるはずがない。私達に勝てる道理などもないのだ。」

<アリ得ン……神ノ……存在ハ、絶対ダ……神ハ……負ケヌ……。>

「神なんて、俺らにはいらねえ。」


ゆっくりと立ち上がり、俺は太刀を肩に担いだ。


「俺達は、自分達の力で歩く。導きなんていらねえのさ。」

<マダ……マダ、負ゲヌ……ワタジハ……ワダジハ、がみ……ワダジバ……ワダジバアアアアアアアアアアアアア!!!!!>


一際大きな血を噴出し、俺らはため息をついた。


「ま、とりあえずぅ……龍乃?」

「ああ……そうだな龍二。」


立ち上がった龍乃は左足を、俺は右足を高く上げる。目標は、俺らの腰の高さにあるサタンの顔。




「「じゃあな。」」




一気に踵を振り下ろした。




【ズドォン!!!】




<ワダジゴゾガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!>


踵落としを食らって、大絶叫を上げながら先ほど通ってきた塔の底へと真っ逆さまに落下していくサタン。右肩と左肩が落下途中でお別れし、血を撒き散らしながら落ちていった。






【ズズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン】





塔の底に叩きつけられたと同時に、爆炎が吹き上がってきた。



「っとっとい。」


覗き込んでいた俺らは慌てて後ろへ下がり、吹き上がってきた炎を避ける。炎はいつまで経っても消えず、蝋燭の如く燃え続けていた。


「うっは、こらスゲェ。」

『いや感心してる場合か!? そろそろマズイぞ!!』


共鳴解除したエルが切羽詰った声で叫ぶ。


あ、そういやカウントダウン忘れてた。





【4.3.2.1.0.爆発シマス】





ありま。




【ダァン!!!】




「うわわわ!?」

「おぉっとっとっとい。」


今までで一番でかい揺れが塔を揺らし、バランスを崩す俺ら。見れば、城のそこかしこから炎がまるで風船を割ったかのように炸裂し、壁や他の塔を崩している。


「く、そ!! 優貴に会うまで、こんなところで死んでなるものか!!!」

「そりゃ同感。」

『貴様は落ち着きすぎだ!!!』


いやこれでも結構慌てて……ってうおぉっと?


「ま、まずい!」


龍乃が叫ぶ。無理もないね。何か塔ゆっくり傾き始めてるし。このままだと俺ら二人とも落ちる。


……どうすっかねぇ?







「龍二さーーーーん!!!」

「龍乃ちゃーーーん!!!」

「「!」」


おお……向こうから来るのは、俺らが乗っていたヘリ。ローター音と爆発音で聞き取りにくいが、この声は和也と葵。


「皆ぁ!!!」


負けじと龍乃も叫び、手を大きく振る。ヘリはゆっくりと俺らがいる塔へ接近し、手すりギリギリのところで旋廻する。


「二人とも、早く飛び乗ってください!!!」

「爆発すんぞ!!!」


文一と零時がヘリのハッチを開け、手を差し出す。距離としては十分届く。


「よし龍乃。先行け。」

「わ、わかった。」


別にレディーなんちゃらとかじゃない。体力が消耗している龍乃を先に行かせないと、トラブルがあったらえらいこっちゃになるからな。


「よし、引っ張るぞ!」

「せーの!!」


文一の手を取って、全員で龍乃をヘリの中へと引き込んだ。


『龍二、行くぞ。』

「わぁってるっての。」


俺は零時の手を掴もうと手を伸ばした。





【ドォォォォン!!!】





「うおっと。」

「!? 龍二!!」


爆音が轟き、塔が急速に傾き始める。零時の手が遠のき、俺の手が空を掴んだ。


「龍二くん!?」

「龍二さん!!!」


皆が叫ぶが、塔は無常にもドンドン傾いていく。


「……しょうがない。」


一か八か……。



「は!」


傾いたことで、徐々に平行になっていく塔の外壁に足を付けて立つ。


「おんどりゃああああああああああああああ!!!!!!」


そしてそのまま塔の外壁を一気に駆け出し、勢いを付けてから、




「とりゃああああああ!!!」


ジャンプした。


『む、ムチャクチャすなああああああああ!!!!』


エルにこれしか方法ねぇんだよーーー!! っと叫びたかったが、今はそれどころじゃねえ。


「龍二!!」


もうちょっとでヘリに手が届くところで零時が手を伸ばし、俺も手を伸ばしてその手を掴もうとする。





が、高度が足りず、また空を掴んだ。





「あ、やべ。」


さすがの俺もヤバイと思い、また手を伸ばすが意味はなし。


俺は重力に引かれて眼下に広がる炎に向かって落ちていった。






【ガッ!】



と思ったが、落ちずにそこで空中停止した。つーか誰かに手首を掴まれた。


「おお、龍乃。」

「く…………落とさせてたまるか……!」


見上げれば、龍乃が身を乗り出してギリギリのとこで俺の手を掴んでいた。


だが、すでに体力を消耗している龍乃に引き上げる力はなく、オマケに片手なもんだから顔を顰めていた。これでは二人一緒に落ちる。


「く、あああああああ!!!」





「ったく、最後で世話焼かせますね龍二さんは。」



叫ぶ龍乃の手を、苦笑しつつも同じく身を乗り出した和也が掴む。



「ホント、しょうがないなぁ♪」



葵が何か嬉しそうに和也の反対側から身を乗り出し、龍乃の手を掴んだ。



「いいとこ取りですね、龍二さん。」



やれやれと言った感じに、文一が中腰になりながら龍乃の腕を掴む。



「まったくだな。」



和也と同じように苦笑しつつも、零時は文一と並んで龍乃の腕を掴んだ。



「……うるせえよ、テメェら。」



俺は、そんなコイツらを見上げてぶら下がりながらも笑う。不敵に、ではなく、楽しげに。





城が一番大きな爆発をし、城を爆炎で包み込む。俺らを乗せたヘリは、山から顔を出した輝く朝日に向かって真っ直ぐ飛んでいった。



















「オラオラァ! もっと飲め影薄!!」

「ちょ、やめ、グブオエエエエエエ!!??」

「ちょ、待て和也!? その酒って鬼殺しじゃんかよ!?」

「んなもん恭田さんに飲ませんな!!」

「キャハハハ! いいぞーもっとやっちゃえー!」

「止めろやこの死神娘――――!!!!」

「ガハハハハ! いい飲みっぷりだぞ恭田!」

「ハッハッハ! 見習いたいね!」

「そこのオッサンs黙れ!!」

「「オッサンじゃねえええええ!!!!」」

「「ぎゃーーーーーーーー!!!!」」



「マーくん、そのプリンちょうだい!」

「お前な、さっき散々食っただろうが。これは私のだ。」

「むぅ! 何さ、私頑張ってたのに一人だけグーグー寝てたくせに!!」

「あ、あれはしょうがないだろう!?」

「そーれキャッチ!」

「あ! クルル殿、コラ!!」

「ナイスクルルちゃん!」

「さっきチョコくれたお礼♪」



「……なぁ、舞歌? 香奈先輩?」

「何だ零時?」

「なぁに零時くん?」

「二人ともさ、何でそんな腕にしがみついてくるわけ? 俺ものすっごく食べにくいんだけど?」

「何を言う。愛しい人が生還してきたんだ。これくらい当たり前だろう?」

「そうよ。ずっと心配してたんだからその分私達を安心させてもらわないと。」

「……なぁ、アルス助けてくれ。」

「……すいません、ボクには無理です……。」

「ちょ、誰か僕も助けて」

「優兄ぃ〜。」

「皐月ちょっとストーップ!!!」



「主ぃ〜うにゃ〜♪」

「待て茜。お前酒の臭い嗅いだだけで酔うってどうなんだ?」

「文一〜♪」

「待て湖織。お前まで茜と同じ理由で酔ってどうするんだ?」

『ヒャハハハ! これがホントの両手に花って奴かぁ! つーわけで、エルさん、我と』

『くたばれ折れろそして溶けろイザヨイ。』

「アンタすんごい毒吐いてるわね。まぁ弁解はしないけど。」

「それはそれでひどいと思うよフィフィ?」



「まぁまぁ、いつになく騒がしいわね。」

「まったく、人の家を何だと思っとるんじゃこいつらは…。」

「あら? アンタが先に宴会しようって言い出したんじゃないの。」

「ああそうだ黒鬼組も壊滅したことだから祝杯を挙げようと企画したのはワシだがここまで騒ぐとは思っておらんかったわごおおお!?」

「あ、ごめーん。酒瓶当たっちゃった♪」

「アオイさんやり過ぎです!! ちょ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫よアルスちゃん。いつものことだから。」

「いつものことって!?」






「…………。」


龍崎組の大広間にて、組員一同プラス俺らが飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。今現在夜の八時にも関わらずだ。


そりゃまぁ、騒ぐのも無理はない。黒鬼組は組長を失ったことで、各所の組員は全員刑務所行き。日下部も死亡と見られ、黒鬼組は壊滅となった。今まで敵視されていたこの組にしちゃあ一番でかい重石が取れたんだし。


でもってまぁ、俺らは龍崎組に帰ってきて早々、目覚めて元気一杯なアルス達はもちろんのこと、組員総出で俺らを出迎えてくれた。アルスとクルルとフィフィは俺に抱きつき、和也にはレナが抱きついていった。湖織は普通に文一の無事を喜んでいて、葵は逆にマーくんに抱きつきに行って本人を混乱させ(横でオッサン笑ってた)た。で、特にひどかったのは龍乃と零時。


体力ボロボロだった龍乃は親父さんに抱きつかれた勢いで後ろへ転倒、激痛で悶えたところをお袋さんが思い切り親父さんの横っ腹を蹴り飛ばして事なきを得た。


で、零時は舞歌と香奈のWクラッシュをモロに食らい倒れて気絶、二人はそれに気付かず頬ずりしていた。バカだと思った。


で、まぁさすがに俺らも疲れたし、優貴も眠っていたこともあってお袋さんに頼んで寝室に案内してもらって全員グッスリ……というところまでは覚えている。



で、目覚めたのが夜の七時。そん時には宴会の準備が整っていたから、もう流れに任せていっちゃおうというわけでこんなドンチャン騒ぎ。



でも、俺は皆から離れて外の縁側に座り、寒空の下でラーメンを片手にのんびりまったり、皆が騒いでるのを眺めて寛いでいた。中身はすでにスープのみ。


「……ふぅ。」


ふとため息を一つ吐いた。つっても、うんざりとかそういう憂鬱な気分で出すため息じゃない。何て言ったらいいかわからんが、何かこういうの見てて安心する。まぁようは安堵のため息ってわけで。



「龍二。」

「? あぁ龍乃か。」


そんな気持ちでボーっとしていると、皆から離れて龍乃が歩み寄ってきた。


ケガも大したことじゃないらしく、目立つところと言えば頬に貼られた絆創膏ぐらい。丈夫だねぇ。


「混ざらないのか?」

「ん〜、何か気分的に一人でいたくて。後外が寒い時にラーメン食うとメッチャうめぇんだよコレが。」

「…相変わらずマイペースだな。」

「ごもっとも。」


龍乃がクスリと笑い、俺はフっと微笑を浮かべた。


「……。」

「……。」


で、互いに無言になる。空気が悪いとか、そんな理由じゃなくて、互いに喋るのを待ってるだけ。


「……龍二。」

「何だ?」


沈黙を破ったのは龍乃だった。


「……その、今回の件はいろいろ世話になったな。」

「んだよ畏まって。」

「いや、今回は礼を言わずにはいられない。お前達のおかげで、皐月殿も、優貴も、そして私も救われた……この恩は一生忘れないぞ。」

「……。」


恩、ねぇ。


「別にいらねー。」

「な!?」


アッサリ言ったら一瞬龍乃は唖然とした。


「だってよ、




ダチは助け合うもんだろ?」


別に、今回の件に加入した理由は見返りが欲しかったわけじゃない。ただ流れに身を任せていたわけでもない。



今回の事件は、ダチが危ない目に合ってるのを指咥えたまま見てなんていられなかった……それだけ。



「…龍二。」

「ホラ。」

「?」


龍乃に向かって右拳を突き出し、ニっと笑う。


「俺らの挨拶。忘れたか?」

「…………フッ。」


しばらく黙ってから、龍乃も左拳を突き出して互いの拳を合わせた。


「忘れるわけないだろう?」

「な?」


チョン、と互いに小突き合った。


「まぁまた何かあったら呼べや。総出で駆けつけてやる。」

「フ、そんな事件が起こらないことを祈っておくよ。」


さよで。





「リ、リュウジさーん!!! 助けてえええええ!!!」

「うふふーかーわいー♪」

「龍乃さんヘルプーーー!!!」

「ホラホラもっと飲めー!!!」


………何か向こうでアルスが酔った香奈に絡まれて、優貴が酔った和也に絡まれていた。もうカオスだった。まさしくカオスだった。漢字だと顔酢。いや漢字いらねえか。


「コラ和也!! 優貴に何をしている!!」

「……やれやれ。」


龍乃は一足先に和也に飛び掛ってったし、俺も後で宴会に混じるとするかな。


「…………いい月だな。」


ふと、空を見上げると見事なまでの綺麗な満月。その月を眺めつつ、俺は丼に残っていたスープをズズっと飲んだ。









こうして俺達の戦いは、騒がしくも、笑顔が絶えないまま幕を閉じた。


クロスオーバー、超大長編いかがだったでしょうか?


まぁ中には気に食わない、という方も多いでしょうけど、書いててすごく楽しかったです。許可をくださった飛焔さん、コニ・タンさん、伊藤さん、イヌ教官さん、そして髭伯爵さん、本当にありがとうございました!!


……で、いきなりなんですが……えー、実はまたクロス作品作っちゃいまして……ええ、文句は受け付けません。

クロスした作品は一つだけ。めろん先生の力作、『学校日和』です。大好きな小説ベスト5! に入るあの小説です。もっかい言いますが、文句は受け付けません。


まぁ、掲載すんのはまだ先ですが……とりあえず宣言しておこうと。


ともかく、今回の大長編はこれにて終了です。読んでくださった皆さん、そしてご指摘してくださった皆さん、キャラを提供してくださった皆さんに感謝して!!


シーユー!!



後本編もよろしくお願いします。

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