けじめの戦いその二
「さて次はおらとやろう。おらを何とか出来なきゃあれはなんとも出来ねぇぞ? おめぇも知っての通り、おらたちの一族は崩しを一番に考えているし、その後あらゆる角度から投げるよう鍛錬する。今の頭首、おらの息子でサクラダの親であるヒショウ。あれは我が家コウイ家の傑物。技のキレだけではなくその強靭の肉体により、全盛期のショウをも超える人材と言っても過言ではない」
「何でそんな人が何もせず……」
そう言い掛けて止めた。最強の男の弱点こそ囚われの鬼、か。
「あれにもう悲しみは無い。娘一人逝かせぬと言う覚悟を決めている。故に強いぞ? おらにはあれを倒せる気はしない」
そんないじましい覚悟をされたらって話なんだな。ヤグラさんもサクラダも、家族だからそれ以上何も言えない、そういう話。
「だったら余計に負けられない。そんなお涙頂戴には付き合えない!」
これは僕のお気持ちだ。迷惑以外の何者でもないし絶対じゃない。だけど助かる可能性が少しでもあるならその道を切り開く。この世界に来て元の世界より酷い環境なのに懸命に生きる人ばかり見てきたから、僕もそんなノリになってきた。以前ならスルーしてただろうし、死ぬのもいつか死ぬから別に良いと思っただろう。
「抜かしたな小僧!」
当たり前のように懐まで入られる。でも見えている。照準はぶれてない!
「くっ」
その崩しはとても早い。だけど見えていればこちらも引けを取らずに済む。うちの師匠の教えで相手をしっかり糸の解れまで見るよう言われている。それこそ物の置き方フォークなどの持ち方食べ方、そのどこにもヒントがある、と。ヤグラさんの武術家で無い自然なところ。そこに癖が出ていた。
「シッ!」
食事の時、ヤグラさんは魚を食べるのに骨に付いた小さな肉まで落として、骨を片付けてから一切無いくらいになるまで確認し、食べる前にお茶でしっかりと箸に何も付いていないのを確認してから食べていた。
「くっ!」
細心に細心の注意を払ってから確実に投げる。その為に状況を確認しながら確実に相手の隙が出来たのを見て不意を付く。ならそれ以外は確実に攻めてこない。あの手この手で崩すのも、決して雑にはならない。雑なものは完全なブラフ。切り捨てられる。そうすると雑なものはより正確になり雑ではなくなる。となると
「てあっ!」
「っと」
じっくり時間を掛けさせ雑な攻撃をしていた意味を忘れさせた時、こちらがわざと隙を作れば食いつく。年を取ると時間が掛かるのを待てなくなる、体力は若い人には劣るから、というのが師匠の言葉だ。最もあの師匠に体力負けが想像付かないんだよなぁ。それに比べるとヤグラさんは体つきからもそこを気にする人だというのが、ヒショウさんの説明にも現れていた。そうなれば確実に焦る。
「どうします?」
ワザと空けた右脇、サクラダにも腕を取られ肘を打たているところだから大好物目掛けて飛んでくるペットのように素直に入ってきた。で、投げようとしたところ羽交い絞め。
「何が?」
「捕らえました。足も浮いてるし」
ヤグラさんは御爺さんだから背が低めの僕よりも低い。だから羽交い絞めして少し引けば足が浮く。
「ショウはちゃんと教えているんだな、おら感心したぞ?」
「是非師匠にそう伝えてください自分で。お互い若くないんだか……ら!?」
ヤグラさんはするりと僕の高速を逃れ、両足で僕の膝を蹴り僕の頭を抱えて叩きつけようとする。僕は自分から先に回転してダメージを減らしつつ、頭の拘束を外そうとヤグラさんの手を掴もうとした。が、あっさり放棄して元の位置に戻っていた。
「爺だと思って甘く見るなよ? 小僧。おめぇの師匠じゃねぇけんど、おらも研鑽を積み続けている。お前より長生きしてる武術家を、孫と一緒にしてくれるな」
「失礼しました」
笑顔で謝罪を口にし仕切り直す。とは言え方針は変わらない。残念ながら技のキレや経験は話にならない。唯一対抗できるのは若さと力のみ。自分で言うのもなんだけど情けないが受け入れてそれを生かしていかないと勝てないだろう。




