けじめの戦いその三
「はあっ!」
僕の間合いまで詰めて拳を繰り出す。腕を掴まれない様素早く引く。余裕で避けられるし動かない。連続で行っても同じ。掴めば相手の土俵、どうする?
「こないならおらから行くぞ?」
するっと入ってきて右手首をあっさり掴まれ、ここから暫く時間が止まった。動こうとしても掴まれた腕で制される。右に動こうとしたら微妙な加減で右に掴まれた腕を動かされ、左に動こうとしても同じ。流石達人だ。それだけ場数を踏んで多くの人を相手にしてきたからこそ出来る技だと思う。何しろこれに逆らって動いて勝てるイメージが全く湧かない。
「投げるぞ」
「どうぞ」
経験の無さから打つ手が無い。挑発のように思われたのか眉間に皺を寄せられる。これが師匠ならにこやかに吹っ飛ばされるだろうなぁ。達人の域に達しても性格は違うんだな。ひょっとすると悟りを開いてもそうなのかな。
「さっ!」
取られた右手首を軸に右肩を肘の関節部分に、右足の裏を右脛に当てられる。体を寄せるも何も出来ずに吸い込まれるように地面に叩き付けられ、流れるように右足が僕の首を押さえようと下りて来た。取られた右手首を逆に利用して転がりながら起き上がる。その隙を見逃す筈も無く、再度投げられる。地面なので当然痛いし投げて終わりじゃない。不完全な体勢を取ったら負け確定みたいになっててループ状態だ。この局面を打開するにはやっぱり情けない話だけど力技しかないよなぁ。
「でやっ!」
「よっ!」
踏ん張るのも計算の内なのはこちらも承知。更に足も体も顎も使ってしがみ付いて見る。
「なるほど、これなら足も動かせねぇし投げられねぇな」
「是非お願いします」
そう、僕はここからどう投げるのかを知りたい。このまま後ろに倒れる以外の方法があるのかを。ヤグラさんは溜め息を付いた後、小さく細かく体が動き少し屈んだ後右手首を上下に動かされ前に投げ捨てられた。さっぱり分からんかった。
「おめぇ師匠に渦を教わってんじゃねーのか?」
「ああ……」
摩擦や回転を用いて拘束の隙間を作り最小限で重心を動かし投げる。これを師匠は渦と言った。これは全てに言えるらしく、相手の攻撃を受け流すなら渦を意識しろと言われていた。
「ヒント有難うございます」
「ヒショウならヒントすらやらず倒されてたと思うがな」
それを聞いて小さく笑う。それはきっとない。ヤグラさんと同じくあの人も冷徹に見えて優しい人なのは間違いない。でなければ娘の為に地獄に共に落ちようなんて気にはならないだろうし、父や息子のしたいようにもさせない。希望を抱いているに違いない。
「じゃあそろそろ本気でお願いします。ヒショウさんはその技にパワーも兼ね備えてる。技だけでも対抗出来るところをお見せしないと」
「言うじゃねぇか」
はっきり言えばヤグラさんは本気を全く出してないし、出す気も無いだろう。ヤグラさんの間合いに入って投げられない可能性はゼロだと思う。それくらい凄い達人なのは僕でも分かる。だけど本気でやってもらわないと希望を託してもらえない。
僕は立ち上がり再度構える。ヒントまで貰ったからには確実に返す。
「行くぞ!」
僕は頷く。そして即間合いを詰めに行く。
「何やってんだ!」
サクラダの声が聞こえた。この期に及んでヒントだけでなく先に攻撃を仕掛けてもらうなんて、あまりにも情けない。
「その意気や良し!」
ラグビーのタックルのように前のめりになり身を低くした後、腰目掛けてヤグラさんは来る。即座に両足を横に広げ相撲の立会のような形を取り、互いの額がぶつかった。ヤグラさんの両手を潰す為に組み合う。暫く見合うだけのような形になるも、小さな牽制をずっと繰り返しぶつけ合う。
「シッ!」
ヤグラさんには申し訳ないなと思う。若い僕に付き合わせて体力を消耗させてしまった。でもその御蔭で可能性が増えた。
「すまんが後を頼む」
「名もない冒険者の方がやりやすいですからね」
ヤグラさんは僕の懐に潜り込み、重心を捉えて渦を使い投げようとするも僕はそれを読んで逆方向に体を流す。そして拮抗した瞬間溜めていた力を一気に解放し持ち上げた。ヤグラさんのバトンを受け取り、僕とラティは神社へと向かった。




