女神ウルドとの再会
「やっほぉ~、元気してた?」
心の篭もらない気だるい感じの挨拶に目を開く。目の前には赤い髪をしたショートカットの女性が居る。顔は傷だらけで肌は綺麗な小麦色。茶色の布の服の上に白金の軽鎧に身を包み、篭手と脛当ては少し大きめに作られているものを身に着けていた。
「御蔭様で」
「まぁアンタが死にたいと思わなきゃ死ねないんだけどね。最もそれで死ねるかどうか」
ニヤリとする歴戦の勇者ぽい女性。久し振りに見てもそのドSっぷりが変わらなくて安心した。
「で、それを教えに来てくれたんですか?」
「……ったくアンタも相変わらずねぇ。でも少し変わったか」
顎に手を当てて僕の全身を見回し頷く。
「お褒め頂何よりです。そちらはもう片付いたんですか?」
「いいえ全っ然。末妹も居なくなるわシルフィードも居なくなるわで大変なのよ! まぁそれでもアタシは諦めないけどね。過去を司る身としては時を戻ってでも奴をとっちめないと」
「あまり無理しないでくださいね? 消滅したら何もならないでしょうから」
そう言うと女神ウルドは微笑む。
「アンタとは向こうの星でも共闘した仲だしね。個人的には成長を見守りたいし、奴の尻尾が出てくるまで少し休憩だから暫くは見守れる。で、それを言いに来ただけじゃなくて、例の石の話よ」
「あれですか」
「まぁアンタの勘通り、あれはこの星の物じゃないしタダの石でもない。物質的な意味だけじゃなくね。アンタも見ただろうけど、魔術を使う奴は結構執念深い人間が多いのよ。神様でもヴィーザルとか特にその代表格って感じ。長い年月人の出す生命エネルギーをこっそりこそこそ溜め込んで、それを元手に陰湿なのをしてたりするわけ」
苦虫を噛み潰したように言う女神。ヴィーザル……どこかで聞き覚えがあるような無いような。
「ああ御免ね。アタシの転移魔法もこの性格だからちゃんとしてなくて。アンタの記憶が途切れてるのもその所為よ。ユグドラシルから救援依頼が来なきゃ行かなかったんだけどさ。流石に世界を司るユグドラシルには逆らえないし」
「何か良く分からないっすけど、その御蔭で今があると思うんで多少の欠落は許容範囲っす」
そう僕が言うと、女神はケラケラと笑い始めた。一頻り笑った後
「やっぱりあっちに出張して良かったみたいね。人を強くするには先ず人との出会いからだと、原始的なアタシみたいな女神は思うわけ。例えこんな世界で仮初の人間同士だとしても、魂は本物だから」
――こら、余計な話をするでない。消滅させたいのか?――
どこからともなく優しい御爺さんの声がした。戒めを促す言葉に女神は舌を出して、おどける。
「ミシュッドガルド先生に怒られてしまったからそれは置いておくとして、今のアンタなら私が過剰に干渉しなくても大丈夫だろうけど、それでも見守るわ。ヤツがこの星を何を思って作ったのかアタシには分からない。女神を分散させる為だけだったのか。まぁ星の意思に会えば多少は分かるのかもしれないけどね」
僕には分からない話をしてる気がするくらいしか分からないけど頷いておいた。
「っと、御免御免。取り合えずあの石は予想通りだから、近付く時は戦闘になるってのだけ教えておく。それとアンタは分かっているだろうけどアタシの加護マシマシだからヤツで無い限り汚染されようが無い。それでも無理しないように。後ラティの体調には十分気をつけて。嫌でなければ受け止めてあげなさい」
「受け止めてあげなさいってどういう」
「嫌ねぇ朴念仁!」
何か良く分からないけど殴られた。
「竜でありながら体を人に化かしている。それだけでもとてつもない消費をしてるわけ。あれは龍族でも知恵が高く龍として徳も知識も収めた物にしか出来ない。だからどうしてもエネルギーを補充しないといけない。それも食べ物じゃ全然足りない」
「僕の手が電源に?」
ラティの御凸に手を当てたのを思い出す。あれがエネルギーの補充?
「察しが良いわねその通りよ。アンタから発せられる気と私の加護のエネルギーで補充してる。他の人間には影響ないだろうけど、あの子にはあるわ。あー、それと」
凄い速度で近付いて来て耳に顔を近づけて来た。
「手じゃなくてもっと凄いのならめっちゃエネルギーを補充出来るわよ」
そう囁いた後耳に息を吹きかけられたので全力で距離を取る。むずむずする!
「ったくどこまで朴念仁なのかしらね。引き篭もってた時散々見てたじゃないのさ」
「あー! あー!」
何て話をするんだこの駄女神! 引き篭もりの時をつい思い出し頭を抱える。辛みしかないぴえん。
「んじゃま、頑張って頂戴よ。この一戦アタシも楽しく見守ってるから!」
「楽しまないでくださいよ……」
「ラティにぶっちゅーってして来なさいよぶっちゅーって!」
「……っざけんなよ駄女神が」
煽られて頭に来たので聞こえないようにぼそっと吐き捨てたのにマッハで距離を詰められ胸倉を掴まれて持ち上げられた。
「次言ったら絶妙に嫌らしい嫌がらせを一週間掛けてするぞ?」
「す、すいませんごめんなさい許して欲しい心から謝罪します」
女神な上にドSであるのをつい忘れていた。マジで絶妙に嫌らしい嫌がらせをしてくるのは間違いないから謝るしかない一心不乱に。
「……ワンペナね」
「はい……」
ワンペナで済むなら喜んで受け入れます何か分からないけど一週間やられ続けるより絶対マシ!
「一緒に戦った仲だし、アンタにこの星の未来は託したからしっかりね。それじゃあまた!」
「はい!」
下ろされて乱れた服を直されると両肩を軽く叩かれた。徐々に意識が遠のく。
「あ、ワンペナしっかり貰うからねー!」
……最悪な言葉を最後に聞いて意識は無くなった。




