星降りの町その九
鬼はその身体能力の高さを生かし、こちらを捕らえようと素早く攻撃を仕掛けてくる。この速さはヤグラさんレベルの人じゃないと捕らえられないだろう。サクラダもこれくらい動けるのだろうか。
「ほいっ」
大振りになったところで両手で鬼の両肩を突き飛ばす。距離が離れたのを確認して落ちてきたシュリーを受け止める。重い。
「降ろして!」
「はいはい。さてさてどうする? まだやる?」
鬼に問いかける。予想だけど埋め込まれた物への拒否反応とそれの要求によって無理やり動いているのだろう。だけどまだ元の人間の部分がある。ただ襲い掛かるだけじゃなく状況を考えられている。だから襲ってこない。
「君余裕だね」
「全然。だって、ねぇ?」
言い澱んで周囲を警戒する。とても嫌な予感が凄くする。全身の毛がそれを告げていた。
「思ったよりあの石の防衛本能が強いのか」
「となるとシュリーの魔術っぽいのは餌にすらならないのか」
「やっぱり君、僕を餌にしようとしたね……?」
顔を背けて周囲の警戒を続ける。殺気を感じたのでしゃがむと頭の上を杖が通り過ぎて行く。怖い。
「逃げよ」
不意に木々の隙間から声がする。何か鎧を来た人物が見えた気がした。
「シュリー、ここは一旦引こうか」
「なんでボクが君の命令を聞くんだよ」
「じゃああれと戦う?」
僕は鬼の先の木々を指差す。シュリーはそれをジッと見て後ずさりする。戦闘力的にはシュリーの方が上かもしれないけど、中々にこの画は壮観だ。何しろ木々の間にかなりの数の鬼が顔を出している。ホラーだ。
「じゃあな!」
大きく飛び退くと、そのまま階段を加速して降りていく。
「女の子を置いていくなんて紳士じゃないな君は!」
「いやだって人が親切にアドバイスしてるのに命令する気かとかいうからさ」
急ぎ降りて商店街まで出て振り返ると、そこに鬼は居なかった。
「じゃあね。ボクを餌にしようとした借しはいつか返してもらうから」
バシンと背中を叩かれ素敵な捨て台詞までプレゼントしてシュリーは去って行った。彼女がここに出て来たというのが調査なのか相手の援護なのか。向こうにはシュリーと手を組む組まないは無いだろう。ただあの石。どうにかしてあの石に近付けないかな……。鬼が偶然出てきたのか僕を警戒しているのかそれとも別のが居るから待ち構えていたのか。別のと言うともうサクラダしか居ないと思う。久々にここに帰ってきただろうし。
「妹さんが呼んでるかもしれない、って話なのかね」
そうなると益々やりにくい。こっちとしては鬼退治じゃなくてあの石に近付きたいんだよね先ずは。
「ただいまぁ」
宿に入るとシーンと静まり返っていた。中に入ると居間の方に人の気配がする。見ると皆がお茶を飲んでいた。
「ただいま帰りましたー」
一応声を掛けてそのまま二階に上がる。畳の上に寝そべって考える。発症した人間は多く、更に無軌道に見えて何かに対しては統率が取れている動きをしてくる。何がキーになってるんだ? そう言えば現頭首に会ってないな。この町のギルドの先にある大きな石畳の上、石とは離れた所にあった神社みたいな建物に居るんだろうか。
まぁ聞いても止められるだろうし、こっちには紹介状もある。明日朝一番で乗り込んで話を聞いてみるか。でもなぁどっち側か分からないし手が出し辛い。ヤグラさんもサクラダも今となっては現頭首の真意を知らないはず。発症してないとも限らない。ギルドにでも顔を出して、それとなく世間話でもしてここの状況を探ってみるか。
「お兄様」
「あ、ラティただいま」
部屋にラティが入ってきた。起き上がりラティに近付くと、御凸に手を当ててみる。これに何か意味があるのだろうか。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ?」
何か効果があるらしく、ラティは顔を赤らめて飛び退いてしまった。何だろうまさか神の手が! とかそういうのなのかしら。
――生きてるー?――
急に頭の中に久々に聞く馴染みのある気だるそうなドSぽい声が飛んできた。
――ドSって失礼ね。まぁまぁ良いわ。今夜少しだけお話しましょう?――
愉快な話なら良いんだけどなぁと思いつつ小さく頷く。結局その後は何事も無く雑談しつつ夕方になり、ヤグラさんたちは黙ったまま食べて就寝となった。




