星降りの町その八
「あ、ちょっと厠に……」
ずーっと静かなままだったので席を外す。二人にも決断の時間が必要だろう。
「なんてな!」
音も立てず僕はこっそり玄関から外へ出て小走りに石に向かう。まぁ二人にその決断をしろっていうのは無理だ。切っ掛けがあれば腹も決まるだろう。非科学的な話だけど、これまで犠牲になった人々の怨念が僕を引き寄せたのかもしれない。サクラダとデラウンで接触しなければ、師匠に師事しなければこの件に関与したりはしなかっただろう。
「運命だったんだなぁきっと」
「かもしれないね、けど余計な真似は止めて欲しいなぁ」
前に見つけた入り口から石に向けて階段を上り中腹まで来た所で意外な人物に会う。木と石で出来た階段のみの景色の中に、きらきらに輝くローブ、白を貴重とし豪華な装飾が施されたタキシードとふくよかな胸元……は置いといて巨大な星型の水晶の付いた杖を持った童顔の女性が居る。今日はベレー帽を横に広くした帽子を被っていた。
「これはこれはお出ましで星の使者。僕を連れて行ってくれる気になったのかな?」
周囲に冷気が漂う。今回はいきなり攻撃してこないらしい。
「……いつまでもボクが寛容であると思わない方が良い」
「理由があってね」
僕の言葉に眉を顰める。少しして冷気が晴れる。
「ボクを餌にしようとしたのか?」
「さぁ?」
感覚は石が反応したとは告げていない。となるとこの子の力は別の物なのか。色々ややこしいなぁ。まぁ魔術粒子も無い世界で魔術を発するのは無理だろう。等価交換だと思うけど何をもって成立させているのか。
「イライラするなぁ。兎に角帰りなよ」
「嫌だね。そっちが出てきたってなればこれはバランサーみたいなもので目的は人間の人口増加抑制? それともこの星に無い魔術の素を収集してるのか?」
氷柱が前方から飛んでくるので師匠の篭手をはめて迎撃する。砕いた氷柱は粉々に砕けて再生しない。だけど前方から再度生成される。良い肩慣らしになる。
「伏せろ!」
暫く氷柱を捌いていると、彼女の後ろに高速で迫ってくる者が居た。伏せるよう叫び直ぐに拳に力を溜めて鞭打つように素早く繰り出し引っ込める。拳の風圧は伏せた彼女の上を通り過ぎ高速で迫ってきた者に当たる。ひょっとするとお構い無しにそのまま来るかと思いきや、面食らったのか一歩下がった。
「へぇ器用じゃないか君」
「肉弾戦が得意ならそこにいろ」
僕の言葉を聴いてこちらへ飛んでくる。良いなぁ便利そうな能力持ってて。なんのチートなのかね。
「危ない危ない」
「お待ちかねだったんじゃないのか? あれ。そっちの技に反応したと思うんだけど」
「……それを狙って挑発したね? 君。後で覚えておけよ」
「知らん。それよりどうするんだ? この感じからして執拗に追ってくるだろうし、そうすると町の人間に目撃者多数だけど殲滅するの?」
思い切り睨まれる。ラティとは違う感じで戸惑う。
「何か考えは?」
「石に行く」
溜め息を吐かれる。でもそれ以外に無くね? 町には降りられないし直ぐに彼女が消えられないならそこまで追うだろうし。あの身体能力はこの世界の標準を大きく超えている。それに体も長く付いて来れないと思うんだけどな。食料……を考えると嫌だけどそれで補充してるのかね。
「先ず一手」
星の使者ことシュリーは杖をかざして大きく空に円を書くように回す。冷気が再度辺りを覆い、鬼っぽいのは徐々に体が固まっていき、最後には氷付けになった。
「君も少しは辛い感じにならないの?」
「ならないねぇ」
そらぁウルド様の加護があるんだから絶対零度下でも少し寒いくらいで何とかなるんじゃないかと思っている。神様の加護凄い。
「ホント嫌な奴だよ君は」
「素敵だと褒めて欲しいな」
煽る様に言うと、蹴りが飛んで来たので階段を下がり避ける。何故か次は杖を振り上げ振り下ろしてきた。癇に障ったのだろうか。
「まぁ当然駄目か」
暫くじゃれてきたのに付き合っていると、氷付けの鬼っぽいものの氷がひび割れて来た。溶かしている気配は無いから中で小さく動いて破壊しようとしているんだろう。
「中々しぶといね」
「初めてあれを見たの?」
「関係ないだろ。それより面倒だから砕いちゃお」
ふん、と鼻を鳴らし鬼っぽいのに近付き杖を振り上げる。
「っと!」
マジで狙いはシュリーなのかもしれない。近付くのを待って氷を破壊し出てきた。振り上げたシュリーは振り下ろすには遅い。僕はすぐさま間合いを詰めてシュリーを抱きかかえ飛び退く。
「さぁっ!」
シュリーを空高く放り投げ超接近戦に入る。長い爪はこの距離だと僕に当てるには窮屈になるし隙が出来ると期待したけど、便利な体なのか爪が引っ込んでいる。




