冒険者生活
「お兄様! 東側!」
砂漠を砂煙を上げながら走る馬車の荷台でボウガンを構えている僕は、ラティの声に反応し東に即ボウガンを向けて弦を離す。地面すれすれを弾が飛んで行き、暫くして着弾し砂煙を上が上がる。少しした後、砂の中を何かがこちらに向けて近付いてきた。
「グォオオオオオ!」
砂の中から蟻の頭に胴体は蛇みたいなのが飛び出てきた。その間に左膝をボウガンに当てて弾を変え大きな口を開けてくれたのでそこにぶち込む。吸い込まれた弾は数秒後喉辺りで破裂音を発生させ、その巨大生物は砂の上に勢い良く倒れこんだ。
「よいせっ……と」
馬車にあった大きな針を取りそれを投擲する。口を開けて倒れこんでいる巨大生物の口を突き抜けて止まった。ラティの運転する馬車がUターンしそれに近付いていく。
「これ引っ張れるかな」
「無理でしょうね。この子たちも頑張ってくれてましたし」
ラティは運転席を下りて二頭の荷台を引く馬の首を撫でる。二頭はラティの手に頬を寄せる。そりゃそうか。荷物もあったし僕らも居るのに全力疾走だったからなぁ。
「なら解体して持ってけるだけ持ってこうか」
「お兄様が引き摺っては?」
……これはマジだ。あの顔は微笑んでるけど無言の威圧感。そして拒否する間もなくラティは馬車に乗り込み走り出す。
「つ、疲れた……」
町に着くと先にラティがギルドに連絡してくれたので、ギルドの皆が来てくれて解体所に運んでくれた。何一つ無駄にせず使わせてもらう為だ。
「ご苦労様。今回の報酬も凄いわよ」
「首都などにも売りに出してそこから取り分を頂くんですもの。安かったら殴りこみですわ」
ギルドのカウンターにつんのめりながらミレーユさんとラティの話を聞く。ヴァンパイアの騒ぎから半月。何か大きな事件が起こるのかと思いきや、大人しくドラヴは博士とパフィーに連行され首都へと旅立った。その後町長に今回の件の褒美として町の西側のエリアへの立ち入りを許される。
この世界ではレベルに応じて立ち入れる場所が増える。レベルといっても僕たちがギルドに登録した時からこなした依頼の達成による積み重ねであがるレベルである。通称ギルドレベルというんだけど、それが町長にも認められたので今は上がった分プラスで強めのエリアに入り狩りをしている。
前とは稼げるお金の額が違うし、何より貢献度が高いので喧嘩を売られるなんてのは一切無い。寧ろ胡散臭い話を持ちかけられたりするのが多くなった。
「よう康久さん、順調で何よりだな」
「ごきげんよう。お兄様は今疲れてらっしゃるのでまたの機会に」
僕には優秀なマネージャーがついているので、あっさり追っ払ってくれる。
「なぁなぁ少しで良いから例の奴の素材を俺に任せて見ないか? 首都で高く売ってくるからよ!」
「幾らで?」
「結構取ったらしいじゃねーか、少しくらい分けてくれても良いじゃねーかケチくさい!」
「貴方は冒険者じゃなくて? 命を張って稼いでいだものを寄越さないからケチくさいとは?」
と言う様に冒険者ではなく、ただで物を貰おうとか騙そうとする詐欺師紛いの人間まで擦り寄ってくる始末。ただこういう人間は他の冒険者からも当然疎まれるので、そう何度も見なくて済むのが有り難い。何よりこの町に入れた素材に関しては解体所でしっかり解体し、その後幾らでどれだけ売って手に入れたかで税金も変わる。だからリュクスさんたちも目を光らせている。勝手にそんなのをすると違法行為になるのでやる必要もない。
「ミレーユさん、皆に一杯奢りたいんだけど」
うつ伏せになりながらそうミレーユさんに言うと、笑顔で頷きカウンターからどんどん飲み物が出てきてギルドに居る冒険者たちに振舞われる。こうなればもう胡散臭いのもギルドの中に居れなくなる。持ちつ持たれつの関係だ。
「そういや最近、山の方に見慣れない連中がうろついてるって話を聞いたが」
髪も髭もボサボサでボロボロのマントに身を包んだ三十後半の百七十センチ位の男が僕に近付いて来てそうボソっと言った。
「それじゃあ一円にもならないね」
「分かってるさ。どうだ、前金でネタが良かったらお前さんの機嫌で上乗せってのは」
「必要経費?」
「そうそう」
僕はラティを見るけどラティは追っ払いが済んでのんびり機嫌良くお茶を飲んでいる。触らぬ神に祟りなしだ。
「良い情報を期待してますよ」
「任せてくれ。アンタみたいな新進気鋭の冒険者には名を売って置きたいからな」
金貨一枚こっそり渡すと、彼は足早にギルドを出て行った。マドラン・ディオというこの町の情報屋で、最近僕のレベルが上がったので近付いてきた人間だ。




