episode 4
着任の朝は驚くほどあっさりで。
「じゃー先にあっちで待ってるね! やっぱ行きたくないは無しだよ?」
「分かってるって」
「それじゃ行ってきます!」
元気に手を振る姿は、いつもの朝と同じだった。俺も今日、ソルジャー専用施設のパレスに移る。これからはパレスが俺達の家だ。本来なら朝の出発だったが、無理を言って昼にしてもらった。それは
「あんた、もう帰ってこないんだって?」
タバコを吹かしながらそう俺に聞く、母親と話をするためだ。
「……さあ。まだ分かんねぇけど、当分帰ってこれなくなる」
「あ、そ」
下着姿のままテレビをつけ出し、ウィスキーを口に運ぶ。パーマと寝癖でグチャグチャに乱れた髪を掻き分ける仕草が、俺の記憶を呼び起こしていく。何度、この家を出て行こうかと考えただろう。妹と2人で母親が帰って来るのをずっと待っていた。「ただいま」って声が聞けるのを、ドアを見つめて待ち続けた。いつからかそんな自分が、まるで主人を待つ犬のように思えてきて、子どもながらになんて惨めなんだと……心が締め付けられた。母親を憎む気持ちはなかった。むしろ呆れていたんだ。母さんは男に頼らないと生きていけない母親で。俺はそんな母親にすがらないと生きていけない子どもだった。そんな自分が嫌で、高校からは働いて稼いで、自分が食えるようにはなれた。でも働いて気づいたんだ。母さんが男に頼らなかったら、今住んでる家だってなかったかもしれないって。学費だって俺達2人分をずっと払い続けてくれていた。母さんはこうしないと俺達を育てられなかったんだ。
「あの子はどこいったの」
「俺と一緒にパレスに行くことになったんだ。もう、先に行った」
「そう」
真紀は母さんを怖がってる。でもいつか分かるんじゃないだろうか。俺が気づけたように、あいつも母さんの子だから。
「母さん……今までお世話になりました。育ててくれて……ありがとう」
「なに。そんなこと言っても何も出ないわよ」
こんな風に母さんに会えるのも最後になるかもしれないなら、いつもの憎まれ口にも笑顔が漏れる。
「そんじゃ行ってくっから」
「翔太」
「え」
「……母さんより先に死んだら許さないからね」
驚いた。滅多に名前なんて呼ばないのに。しかも死んだらって……死ぬ前提かよ。
「……簡単に死ねるほど俺は脆くねぇわ」
母さんを背に、玄関のドアを開けた。快晴が続く空が光って見えて、思わず目を細める。もう後戻りはできない。俺は、ソルジャーとして生きていかなきゃならないんだ。




