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最終回?

「う~ん…、だとすると、辻褄(つじつま)は合うな。しかし、私がつままれる、っていうのもねぇ、そんな憶えがありませんから…。悪さをしたとか、何とかいうねぇ…」

「いや、その狐かナニかですが、別に村越さんを怨んで、ってことじゃないと思うんです」

「ふ~ん、じゃあ何故?」

「そこら辺のところは分からないですが…。篠原さんにこの(あと)、電話してみて下さい。たぶん、身に憶えがないって言いますよ、きっと。じゃあ、そのことは(いず)れ会ったときに…。それじゃ、今日はこれで…」

 塩山の声が途絶えると、すぐ私は悟君へ携帯をかけた。彼が言ったように、悟君は昨日(きのう)の件を全て否定した。私の家など訪ねていないと言う。(しばら)くそのことについて語り合ったが、結論の出ない話なので長電話になりそうだった。で、一端、切って考えてみた。すると、一つだけ思い当たる節がないでもない。[時]で観察のテーマを探していたとき、いろんな所を調査のため徘徊(はいかい)したことがある。その日は三人が別行動をとっていたので、私は一人あちらこちらと動いていた。その道すがら、稲荷社の(ほこら)を通ったことがあった。そのまま通り過ぎるのも何なので、[時]の所長として研究の成功を祈願した。賽銭箱(さいせんばこ)があったから千円札を一枚、奮発した。思い当たることといえば、そのこと以外にはない。だが、何故、三年前なのか?

 研究所は三年前には立ち上げていない。とすると、“あなた方の研究は無意味ですよ”というお告げなのか? とも思える。深く思慮に及べば、「無意味なことは、やりなさんな…」と、告げられた気にもなる。私はこれ以上考えるのが嫌になった。一人でいるから、いらぬ妄想にかられるのだ。都合よく悟君は(ひま)だということだったので、私は彼の家へ行ってみようと思い、グルニエを出た。

「悟君、研究所なんだが、暫く中断、いや…閉鎖しようと思うが、どうだろう?」

「なんででんにゃ? つままれたさかいゆうて、ほんな弱腰にならんでも…。正夫はんらしいありまへんでぇ」

「そりゃそうなんだけどね。どうも無意味っていう“お告げ”のような気がしてさ」

「ファイト、ファイト! よう分かりまへんけどな、無意味なことを研究すんのが[時]やおまへんか。…と、違いまんのかいな?」

「ああ…、それは悟君の言う通りなんだが…」

「三人とも、これでケッタイな体験をした訳でっしゃろ? 霊的なモンの存在は確かにあると分かっただけで、研究したのは成功と違いまっか?」

「そうなんだろうが…」と私は守勢、一方になった。

「そうでっせ。焦ったら、あきまへんでぇ~」

 彼にしては珍しい、奢りのコーヒーを啜る。それも彼にしては奮発した焙煎である。いつもなら、インスタントが関の山だ。

「今日の君は、本当に悟君なんだろうな?」と、私はそのコーヒーを飲みながら、シゲシゲと彼の顔を(のぞ)き込む。

「やめとくんなはれ、正真正銘の篠原だす」

 悟君はゲラゲラと笑って否定した。

「でも、昨日(きのう)の君は、やはり君だったぜ」

「なかなかのモンでんな、そのお狐さんちゅうかケッタイなモンは…。ええ化かす腕しとりまっせ」彼にかかっては、何者も勝てないだろう…と、思えた。

「やはり、不思議なことはこの世にあるってことなんだろうなぁ」

「おっしゃるとおり…」

「実は、俺の校了した“時間研究所”で書いたプロットと、君が今さ、話してることが全く一致してるっていう寒気のするようなこの事実、これって、どう思う?」

「ほんまでっかいな? 信じられまへんけどね…」

「ほんと、ほんと。嘘じゃないって」

「ほなら、この(あと)は、どうなってくんで?」

「それが恐ろしいから、帰ったら書き直そうと思ってたところさ」

「ちょびっと、聞かしとくんなはれ」

「聞いたら悟君、君も恐ろしくなって、今晩から眠れないぞ」と私は怪談調で真剣に話した。

「そんなに怖いんでっか?」悟君の笑顔が、いつの間にか消えている。

「うん、怖い。世界が霊に支配されるんだよ。人間は霊のロボットになって働く、っていう筋さ」と、私は(わざ)とおどけて悟君の様子を(うかが)った。彼は真顔(まがお)になってしまった。

(はよ)う帰って書き直しとくんなはれ。なあ(はよ)う…」

 そのとき、塩山が入ってきた。蒼白い顔で精気が消えている。

「あなた方は私の家で何をしてるんです? 警察を呼びますよ、早く出てって下さい」

「なに()うてまんねん。ここは僕の(うち)でっせ!」

 悟君にしては珍しく、少し切れている。私は慌てて悟君の家を飛び出した。そして、一目散に我が家へと走った。息が切れて苦しいが、そうもいっていられない。緊急を要する、と思った。私は300枚にも及ぶ“時間研究所”と名付けた校了の原稿を机から引き出した。そして、末尾90枚程度を引き裂いた。人間が霊のロボットと化し、支配されるプロットの部分である。

 ペンを震える指先に持った。やがて末尾約15枚が新たに書き加えられ、原稿はふたたび校了した。皆さんが見ておられるこの原稿である。

                                                  了


 ところが、この物語には、まだ続きがあるのだ。それは時研が解散もせず続いているという事実がその一.である。その二.としては、続いている理由がまた不気味で、続けないと何かソラ恐ろしいことが起こるのではないか、との結論に至ったからだ。で、()えて、この原稿は“了”とはせず、“続”で終えることにする。“了”なのだが、“続”? なのである。時間研究所、時研の活動は今後も続く。

 ということで、原稿は新たな削除、修正を加え、ふたたび稿を継続して加筆することにした。皆さんが見ておられるこの原稿は続くのである。

                                                  続


   《あ と が き》


 皆さんには、私の拙い小説を飽きもせず御読み戴いたことに、まず感謝を申し上げたい。

 世の中には、興味を抱かせる映画、TV・ラジオ番組も制作されてはいるが、偶然起きたことは別としても、確かに不思議な出来事はある。それが科学で説明できない以上、やはり何らかの見えざる力が存在するのではないかと私には思え、この小説を書いた次第である。異次元の存在は我々の未知に対する夢ではあるが、NHKの某TV番組でも流れたように、事実、ハーバード大学の理論物理学者、リサ・ランドール博士が、素粒子の消滅による多次元(五次元))存在説を唱えられ、それを実証された。博士の理論及び実証はフィクションではなく、(まぎ)れもない事実なのである。

 この小説を介して、皆さんが不可思議な事象に幾許いくばくかの興味をもって下さり、人生そのものを真摯にお考え願えたとすれば幸甚の極みである。


                                              水本爽涼

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