第30回
「すんまへん。それでは本題に……。まず、犯人ってのが極度の人間不信に陥っていたと…、これが第一でんにゃ。犯人はリストラされ会社を恨んでいたんでっけど、まあこれは、ようある話ですわな。これは、事件には直接、関係してまへん。問題はその後でんにゃ。犯人はリストラされた後、就職活動は一応しとりました。そらそうですわな。若い身空で隠居しとる訳にもいかしまへんよってな。ほやけど、僕らの町と違うて、都会では結構こういう類が多いんでっけどな。フリーターとかニートとか聞こえのええ名で呼ばれとります。その点、犯人は感心なもんで、職安にも通っとったそうで…。ところがですな、なかなか色よい返事が貰えん。で、会社巡りが嫌になってくる、職安へも顔を出さんようになる。結果、アパートに閉じ籠る、これといった話し相手もない。すると、ストレスが溜まってきよる。それでも、こんな話はまだようあります。さて、ここからでんにゃ。第二の原因らしいもんが起こりましたんや。犯人の生活は荒んでいきますわなあ。襤褸っちい格好で辺りをブラついていた、と思おとくれな。全てが面白うないっちゅうフラストレーション状態になって、ほの吐き場がない。ブラッと出た状態で目的もなしに辺りを徘徊しとる。ここで第二の警官による職務質問ですわ。警官に訊かれて、“怒り心頭に発す”っちゅうやつで、口論となる。警官も恐らく売り言葉に買い言葉で、いらんことを、ゆうたんでっしゃろな。結局、交番へ連れて行かれる羽目になる。散々に説教され返されれば無性に腹も立ちますわな。で、陰に籠ってしまう。心は益々、荒みよる。要するに悪循環するってこってすわ。段々と世の中の自分以外の人間が全部、敵に見えてきよる。ほんで遂に、第三の事件勃発となりまんにゃ。心の憂さも鬱積すると怖いもんでんなぁ…爆発しよる。無差別殺人ですわ。そいでも第三の事件勃発には、何かの引き金っちゅうか、誘因があるように思えまんにゃけどな。そこんとこは僕等にも訊けまへなんだ。なんせ、警察の取り調べ事項でっさかいな。まっ、そんなとこでしたわ」
やっと悟君が口を閉ざした。語りだすと止まらない彼の会話には、私も塩山も、なす術がない。ただ、悟君の話が講談っぽく上手いので、茫然と聞いていたことも事実である。
「……、ご苦労さん」と、私は漸く口にしたが、それ以上のことは話せなかった。すると塩山が、「篠原さん、今の話は[時]にとって、かなりの研究材料になると思う」と褒めた。
「おおきに…、そうゆうて貰たら、態々(わざわざ)、足を運んだ甲斐があったっちゅうもんですわ」
素直に喜びを顔に出して、悟君はニンマリと悦に入っている。彼には隠しごとが出来ないように思えた。
私自身も悟君が語った内容を少しずつ咀嚼して、大まかに理解した。そして考えてみる。すると、やはり何らかの誘因が精神構造に影響を与えていると思える。これを学問的に裏づけたいが、私にはまだそこ迄の知識がない。もう一度ゆっくり悟君に訊ねながらメモ書きし、それを教授連中に話して意見を求める以外に手段はない。その為には、如何に教授達へコネをつけるか、このひと言に尽きる。
「塩山さんの方は、どうなってますか? 先生の方は」と徐に尋ねる。
「まあ、今のところは啼かず飛ばずってとこですかねえ…、コンタクトをとるのが、なかなか難しいです。私も多くの学生の中の一人に過ぎませんし、きっかけ、というんですか? なんか、それがですねえ、今ひとつ…」
私と似たり寄ったりだ、と思った。コンタクトをとるのは簡単なようで実に難しい。とれるとすれば、講義が終わった後で質問するってなとこだが、教授の機嫌を損ねないためには、余り時間は取れない。まあ、この場合は、サン~ゴフンも戴ければ有難いと思わねばならない。そうなると、他の戦略を講じる必要に迫られる。せめて作戦上、サンジュップンは欲しい。
続




