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第19回

「塩山さんの観察は、我々の研究成果の一つとして残せるんじゃないですか? 俺にもそう思えてますし…」と、私は口にした。

「僕には難しいて、よう解りまへんわ…」

  ボソッと吐いた悟君の表情は、どこか曇っている。

「いいんだよ、別に解らなくてもさ…」と慰めたが、彼はやはり元気がない。

「少し学問的になり過ぎました、すみません。早い話、小さいことから地道にコツコツと、っていうことです。小さなことでも慎重に(こな)そうという心の準備がありゃ、間違いそのものが起きにくい。その小さなことが積み重なって大きな結果となる。で、その大きな結果が歴史を作っていくってことです。小さなことは物事も勿論そうですが、我々が研究しているゴフンという短い時間の出来事なんです」

「ちびっと解ったような気もしまんねけど…」悟君の表情が明るくなった。塩山は人の心も懐柔する(すべ)を身につけているのだろうか…と、私には思えた。

 酒を少し(あお)り過ぎて、私は眠くなってきた。伏し目がちにコックリする私を察してか、「続きは、次回にしましょう」と塩山が助け舟を出し、研究会は終了した。といっても、散会ではなく、(しばら)くの間は酒盛りと雑談を繰り返し、そのまま炬燵(こたつ)雑魚寝(ざこね)する羽目となったのだ。別に珍しいということでもなく、このブースでは常態的にそういうことになる。三人とも次の日が休日だったので、余計に気が緩んだのか、ことのほか酔いが早く、皆あっさり寝入った。

  次の朝、私が目覚めたとき、ブースは戦場の様相を呈していた。寝相(ねぞう)が悪い、に尽きるが、今始まったことでもない。二人が泊まると、決まって朝はこうなる。私は既に馴れてしまっている。枕だったところが足になる具合だ。

  皆が起きた頃、インスタントのラーメンに生卵を乗せて振舞った。ハムエッグに味噌汁にしようかなどとも考えたが、生憎(あいにく)ご飯が足りなかったのと、なんといっても手間を惜しんだ不精に尽きる。別に二人とも文句も言わず、有難く戴いている。だが、余り雰囲気的には盛り上がらず、食事風景はローテンションに終始した。昨日の中途半端な研究成果の影響もあるのだろう…とは思ったが、深く考えず、私もラーメンを啜り、新香を(かじ)った。

  食後、次に落ち合う日時と場所だけを決めて散会したが、もう九時過ぎだった。

  今までの観察成果を要約してみると、次のようになる。私が(まと)めた七か条である。


① 的確な瞬時の判断力を養うには、日々の鍛錬が重要である

② 判断力の機敏さは、コツコツと物事に取り組む、その積み重ねより(つちか)

  われる

咄嗟(とっさ)の正しい判断は、状況の把握を如何に迅速に思考できるか、によ

  る

④ ゴフンという時間は、一つの正しい判断をし得るには充分すぎる(相撲=サン

  プン)

⑤ 起点となる勃発の要因は、全てがそのゴフン前から見えぬ力で進行している

⑥ 既に勃発した後でも、その起点から後のゴフンという時間の対応により結果

  は自ずと変化するから、やはり冷静かつ沈着に勃発時以降を処さねばならな

  い

⑦ 自由で束縛がない一秒=一円という単純式が成立する可能性がある(時は

  金なりという発想による塩山案)


  など…である。ただ、この成果は、人に対しては当て()められない節がある。何故ならば、人に対しては感情の面の変化が要因として加えられ、相手の感情変化もそれにより変動要因となるからだ。これについては、対象を人から事物に変えた際にも述べた。

                                                  続

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