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第13回

 次に三人が一堂に会したのは、約束の二週間後であった。前回と同様に、私の家で開かれることになった。どうも二人の雲行きでは、今後も私の家が設定されているようだ。私としては別段、文句はないのだが、どうも二人は私が頃合いを見て出す食事に味を占めたようなところがある。まあ、それも仕方がないか…と諦念したが、二週に一度はその適当なるものを準備しておく必要に迫られた。二人に所長と(あが)め奉られては、それもやはり仕方のないことか…と、至極単純につまらなく思った。

  その日は寒かったので、鍋ものを準備した幸いにも電気販売店の展示会場で貰った荒巻(あらまき)鮭が一本あった。景品様々である。というのも、出費がかなり制限されたからだが…。鍋は身体を温める酒の(さかな)のつもりであった。しかし悟君に至っては、すっかり夕食を戴くといった趣で食い漁っている。“おいおい、いい加減にしろ、俺の家は食堂じゃないぜ”と喉元まで出かけていたが言えなかった。

  鍋が底を見せかけた頃、例会の開催となった。最初は観察帳の記録に基づいて、私が研究成果を切りだした。二人ともたらふく食った後で、今ひとつ乗りが浅い。それでも私は続けた。

「テーマにした“慣習”なんだけど、俺は八百半(やおはん)親子の確執を捉えてみたんだ」

「あのドラ息子でっか?」

「そう、…悟君はドラ息子というが、俺の観察したところ、(あなが)ち、そうだとは決めつけられない一面がある。そのことには、眼に見えない“慣習”が裏で暗躍しているんだ。それに精吉っあんは相当影響を受けている。俺は何度も足を運んで、(から)め手から精吉っあんに食いついてみた。それも、同じ質問を角度を変えて訊ねた。ここに書いた記録がそれなんだが…」と、私は記録帳のある部分を指し示した。二人の目が指先に注がれた。

「最初は…、といっても、探りを入れたときを含めば二度目になるんだけど、その辺りから読んで貰おうか。読み終えた段階で講評を承ろう」と、私は俎板(まないた)の上の鯉になった気分で言い切った。



                                 ○時間研究所○                                  

               観    察    帳                                   

                      記 録 者     村 越  正 夫


  〇期 日          二月十一日〔金〕  祝日

  ○時 間〔質問〕      十五時二十三分~二十八分

                ○1開  始   私→精吉っあん

内  容    隣組との付き合いの深さに関して

結  果    四、五軒の家とは親密な付き合いがあるが、他は一般的

         な世間の付き合い

                ○2一分後    私→精吉っあん

内  容    その四、五軒は広夫君が日本一周を試みようとしていたの

         を知っているか

結  果    二軒は知っている〔言ったから〕

         他は知らない〔言っていないため〕

                ○3二分後    私→精吉っあん

内  容    親密な付き合いなのに、知らない家があるのは何故か

結  果    世間話をして漏らしそうな家は、敢えて避けた

                ○4三分後    私→精吉っあん

内  容    貴方は世間の噂を気にするか

結  果    気にはしないが、商売上で影響がでるので困る

                ○5四分後    私→精吉っあん

内  容    世間を意識して、軽挙妄動した広夫君を叱られたということ

         だが、商売への影響がなければ、別に反対はしないのか

結  果    私も若い頃は随分と無茶もやったので、その事自体への反

         対はない

      ○質問での介入法〔相手の返答結果に対して〕

               軽  度〔質問と質問との間に別話を挿入〕

      ○観察対象者の態度変化

               余 り な し  ○1~○5 計 5分

      ○今後の観察への対応方針

               日を改めて、少し詳細に介入する〔○1~○5の

               間合いを、少し長くする〕


「やっぱ、商売する以上は世間体が気になるんやな…」

「そうみたいだね…」

 悟君と塩山は、読み終わってボソボソと何やら(うなず)いている。

「訊き方を変化させた記録は次のページ。精吉っあんの態度と言動が変わっている点に着目して貰いたい」

  そう私に言われて、塩山は次のページを(めく)った。そして無言で読み進める。悟君も(のぞ)き込む。


                                ○時間研究所○

               観    察    帳                                                            

                      記 録 者     村 越  正 夫


  〇期 日          二月十三日〔日〕

  ○時 間〔質問〕      十四時四十分~四十二分

                 ○1開  始   私→精吉っあん

内  容    広夫君は、その後どうしているか

結  果    余り話さなくなった。遊び仲間と過ごすことが多くなり、家

         にいる時間が短い

                           精吉っあん→私

内  容    何故そんなことを訊くのか

                           私→精吉っあん

内  容    知り合いが、広夫君と親しくしていて、心配していたからだ

         が…

                ○2二十秒後   私→精吉っあん

内  容    フリーターの広夫君が就職しないのは何故なのか  

結  果    あんたに言う必要はない

      ○質問での介入法〔相手の返答結果に対して〕

                重  度〔会話途絶となる〕

      ○観察対象者の態度変化

                硬 化 す る  ○1~○2 計 2分弱

      ○今後の観察への対応方針

                広夫君の方へ接触するしかない     


「プッツンでっか?」

「俺も少し介入し過ぎたかなあ…と思ったんだが、案の定、精吉っあんを怒らせてしまったんだ。やはり、じっくり攻めるべきだった。軟化させるまで一ヶ月はかかるだろう。で、(まと)を広夫君に変えようって訳さ」

「なるほど…、判断が甘かった、ってな訳ですね? 同じ人に対しても、質問の試行方法が変わると、結果はこれほど変わりますか…」

  塩山は得心したかのように(うなず)いた。

咄嗟(とっさ)の判断っていうか、反射的に下した行動した結果がその後を左右するって訳ですよ」

  私は塩山に解説を加えて語った。

「確かに、最初の観察記録と(ちご)うて、二度目のは途中で中断してまんな…」

 悟君がボソボソと吐いた。彼にも分かるのだろう。

                                                   続

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