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女神の勘違いで女の子に転生した俺、ギルドで測定不能と言われたけど普通に無双してました  作者: 夜華カナタ
第五章 鎖の少女、選ぶ

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第九十四話 街道の先

久しぶりに、王都を出ます。

 ギルドの受付で、アルトが一枚の依頼書をテーブルに置いた。


「国境近くの町、ラーレン。そこの領主から、正式な調査依頼が届いた」


「ラーレン……」


 セレスは、地図を思い出した。以前アルトが指した、廃教会の候補地よりさらに先、国境に近い町だ。


「旅商人が言ってた『本丸』の線か」


「断定はできないが、無関係とも思えない距離だ」


 アルトは、椅子に深く座り直した。


「今回は、俺も同行する。王都を長く空けるのは初めてだが、この件は現場で判断が要る」


「珍しいな、お前が動くのは」


「たまにはな」


 アルトは、苦笑した。それから、少しだけ声を落とした。


「――正直に言うと、旅商人の話が引っかかってる。リンに近づくものが出てくる、って言ってたな」


「ああ」


「王都の中でなら、俺にも打てる手はある。だが、外に出るなら話が別だ。せめて、判断できる人間が近くにいた方がいい」


 その言葉に、セレスは少しだけ意外そうな顔をした。


「――お前らしくない心配の仕方だな」


「柄じゃないのは分かってる」


 アルトは、肩をすくめた。


 ◇


 翌朝、八人と一頭の荷馬が、王都の門をくぐった。アルトが同行するのは、珍しいことだった。


 セレスにとって、これほど長く王都を離れるのは、久しぶりのことだった。石畳の道が途切れ、土の街道に変わる。両側に広がる畑と、遠くの山並みが、ずっと同じ景色だった王都の空気とは違って見えた。


「――外って、こんな匂いなんだ」


 リンが、馬車の窓から顔を出して呟いた。


 馬車の後方では、ミュゼが薬草の束を仕分けていた。


「道中用の傷薬、多めに持ってきました。この先、王都のお店みたいに便利じゃないので」


「準備がいいな」


「レイフィアさんに言われたんです。『足りなくなってから後悔するのは一番格好悪い』って」


「その通りよ」


 レイフィアが、御者台近くの荷物に寄りかかりながら答えた。手元には、地図と一緒に、細身の予備の剣が二振り置かれていた。


「国境近くは、盗賊も出るわ。念のため」


 イリスは、それには何も言わず、ただ剣の鞘に軽く触れて、周囲に目を配っていた。彼女の視線は、景色よりも、道の先に向いていた。


「――何か、気になるか」


 セレスが尋ねると、イリスは短く答えた。


「まだ何も。だが、静かすぎる街道だとは思う」


「珍しいか」


「うん。ずっと、狭い場所か、王都しか知らなかったから」


 リンは、風に目を細めた。その横顔に、今までにない柔らかさがあった。


 ノアも、隣で外を眺めていた。


「私も、久しぶりです。こうやって、知らない土地に向かうの」


「そうなのか」


「はい。試作として作られた時から、ずっと同じ場所に置かれていたので」


 その言葉に、ガロンが御者台から振り返った。


「行きたいところがあるなら、今のうちに考えとけ。この依頼が終わったら、少しは融通利かせてやる」


「――いいんですか」


「俺が言い出したことじゃねえ。あの木彫りが、お前にそう言ってるんだろ」


 ノアは、目を丸くしてから、小さく笑った。


「……考えておきます」


 馬車は、緩やかな丘を越えていく。


 その途中、リンがふと、自分の手首に触れた。


「――どうした」


「ん、ちょっと」


 リンは、袖をずらして手首を見た。黒い線の名残が、王都にいた時よりも、わずかに色濃く見えた。


「気のせいかも」


「言え。気のせいでも」


 セレスの言葉に、リンは少し迷ってから答えた。


「王都から離れるほど、こっちに近づいてる気がする。方角、っていうか」


 アルトが、地図を広げた。


「――ラーレンの方角か」


「分からない。でも、そんな感じがする」


 馬車の中の空気が、少しだけ張り詰めた。


「予定通り進む。だが、警戒は一段上げる」


 セレスの言葉に、全員が頷いた。


 ◇


 日が傾き始めた頃、街道の先に、崩れた馬車の残骸が見えた。


「――襲撃の跡か」


 ガロンが、大剣を引き寄せながら馬を止めた。


 残骸の周りには、争った跡が生々しく残っていた。だが、人の姿はない。連れ去られたのか、逃げ延びたのかは分からなかった。


 その時、残骸の陰から、影が動いた。


 黒ローブではない。全身を鎧で覆った、見覚えのない一団だった。数は五。動きに、これまで相手にしてきた敵とは違う、明確な統率が感じられた。


「――質が違うぞ、これ」


 ガロンが、低く唸った。


 ノアが、鎧の胸元に刻まれた紋章を、目を細めて見つめた。


「あれ……見たことない紋章です。黒ローブとは、系統が違う気がします」


「別勢力ってことか」


「たぶん。旅で噂を集めてた時も、こういう紋章の話は聞きませんでした」


 アルトが、地図をしまいながら低く言った。


「――なら、俺たちが追ってきた線とは、別の何かが、この先にあるのかもしれない」


 先頭の鎧の男が、静かに剣を抜いた。


「この先は、通行証がなければ通せない」


「ただの街道だろう」


「今は違う。ラーレン周辺は、我々が預かっている」


 男の声には、これまでの黒ローブたちのような饒舌さも、動揺も無かった。ただ、淡々とした拒絶だけがあった。


 セレスは、剣の柄に手をかけた。


「――押し通る。悪いが、時間がない」


「セレス、油断するな」


 アルトが、珍しく緊張した声で言った。


「動きの質が、今までの敵と違いすぎる。統率された部隊の動きだ」


「分かってる」


 セレスは、荷馬車の方を振り返った。


「ミュゼ、イリス、レイフィアは馬車を守れ。ノアはアルトと一緒に後方から様子を見ててくれ。ガロン、俺と前へ」


「了解」


 ミュゼが、すでに治癒の杖を構えていた。イリスとレイフィアも、無言のまま馬車の前に立ちはだかる。


 鎧の男たちが、無言のまま、じりじりと間合いを詰めてくる。


 これまでとは違う何かが、この先で待っている。セレスは、そう確信した。

第九十四話「街道の先」をお読みいただき、ありがとうございます。


久しぶりに王都を出て、街道の景色を書きました。リンとノアが並んで外の景色を見る場面、二人の距離が少しずつ近づいているのを感じてもらえたら嬉しいです。最後に出てきた鎧の一団、今までの黒ローブとは毛色が違う相手として書いています。


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