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アルベリオ魔法学校



「ここがアルベリオ魔法学校よ」


「すげえ!これアルガードよりもでっけぇんじゃねえの?」


学校の門をくぐり、まず目に飛び込んできたのは大きな噴水だった。俺達が飛び込んだ噴水の倍以上の大きさはあるだろう。そして噴水を挟んで左右対称に一定の間隔をあけて花壇がずらっと並んでいた。噴水正面奥に見える大きな建物は多分校舎だろう。その校舎まで花壇が並んでいた。


アルガードは大学のキャンパスって感じだったが、ここはまるで欧米の国立公園や記念公園のようだった。所々に置いているベンチには制服を着た生徒が座ってお喋りをしている。この公園のような場所にいる生徒は殆ど女子生徒だったが、アベックも何組か発見し、嘸かし楽しいスクールラブを送っているのだと妬ましい視線を送る。


制服はアルガードとほぼ一緒だった。男子はネクタイ、女子はリボンの色が変わったぐらいだった。ちなみにアルガードは緑でアルベリオは赤だ。


「アルガードに行ったことあるの?」


「野暮用で1回だけ行ったことあるんですよ」


「それってその…レイラちゃんだっけ? その子に用があったの?」


「そうそう。あの時は本当にビビったね。男子生徒に追いかけ回されたんだよ!」


「一体何したのよ…。まぁ大体は想像つくけど」


「多分というか確実にその想像通りで合っていますよ。あ、あれが馬小屋ですか?」


門の壁を伝って100m程歩いたところに木造の馬小屋があった。馬は最初の内はひょこひょこと歩いていたが学校へ着く頃にはもう普通に歩けるようになっていた。馬小屋の扉を開け、中へと入っていく。動物臭独特の臭いが鼻を突いた。


「この馬に名前ってあります?」


「メリーちゃんよ。よしよし、いい子にしてるのよ」


サラはメリーちゃんの顔を撫でた。メリーちゃんは気持ち良さそうにそれを受け入れる。


「じゃあな、メリーちゃん」


ブルルン!


「おわっ!」


俺も撫でようとしたら何故か威嚇された。鼻息が荒く危うく噛まれる所だった。巨体の動物にここまで威嚇されると恐怖を感じるものがある。馬に後ろ足で蹴飛ばされて内蔵が破裂したニュースがあった事を思い出し、余計に近寄り難い存在となった。


「たはは、嫌われちゃってるっぽいっすね」


「それは仕方ないわよ。じゃあ行きましょう」


何が仕方ないか分からなかったが多分仕方ないんだろう。自分なりに適当に納得して、俺はサラの後をついて行った。


「今日って授業は休みなんすか?」


時間帯はまだ昼過ぎだ。普通なら授業をやっていてもおかしくないだろう。多分休みだと思うが、念の為聞いてみた。


「今日は週末だから学校は休みだよ」


「へぇ。ちなみに今日は何曜日なんすか? 曜日の感覚が無くて…」


「そうだったわね。今日は日曜日よ」


2000年経っても曜日と7日サイクルは変わっていなかった。この学校もアルガードと一緒で月曜から金曜までが授業らしい。


「あ、サラ先生こんにちは!」


「こんにちは~」


ベンチに座っていた2人組の女の子達がサラに挨拶をする。1人は金髪ブロンドの長い髪の女の子でもう1人は紺色のショートカットの女の子だった。2人ともとても可愛らしい。本当にこの世界は可愛い女の子のオンパレードだった。


「こんにちは。2人とも今週は実家には帰らなかったのね。何かあったの?」


「えっとですね、今日街で新しい服屋がオープンするんですよ。前から2人で行こうって約束してたので今週は帰りませんでした」


「あと1時間程でオープンするのでそれまでここでお喋りして待ってるんです!」


「へ~、それは知らなかったわね」


サラの問いに2人とも元気よく答える。ニコニコ笑顔で服の事について話している姿を見るからにとてもお洒落が好きそうだ。


「ところで先生、やっと彼氏できたんですか~?」


ブロンドの女の子が俺の方をチラっと見て、サラへ向き直る。その顔はとてもニヤついた顔をしていた。


「え? 俺? 悪いが全然違うぞ!」


俺は慌てて反論する。変な噂が立てばこれからこの学園で薔薇色ライフを送れなくなる。なんとか場を繋いで欲しいとの意を込めてサラに視線を送る。


「そうよ。明日から私の助手で働いてもらうの。名前はユウよ。2人ともよろしくしてね」


なんとかフォローしてくれたついでに、俺の事を2人に紹介してくれた。


「どうも。ユウです」


「え~てっきり先生にやっと春が訪れたと思っちゃったじゃい。初めまして。アルベリオ魔法学校5回生のケイト・ルビナスと言います。ケイトと呼んで下さい」


ブロンドの女の子が立ち上がり、制服のスカートの裾を持ち上げ上品にお辞儀をする。サラに話かけていた感じからは上品さというものは感じなかったが、こうして所作一つ一つ改めて取って見てみると、このケイトと言う子はお嬢様の出なのだろうと思った。親の目がない所で砕けているような感じだ。


「私はフローラ・カトレーナ。フローラって呼んでね!」


紺色の女の子はベンチに座ったまま俺に手を振ってそう自己紹介をした。こちらはケイト程の上品さは無い。これが普通なんだと思うが、この子を見ているとキョウちゃんと似たようなフランクさを感じる。


「フローラ・カトレーナって言い難くねえの?」


「え? そこいっちゃいます? 昔っから言ってるのでもう何とも思わないですよ!」


フローラはとても良い笑顔で答えてきた。やっぱり思った通り絡みやすい。可愛すぎてその顔をぺろぺろしたくなったのは内緒の話だ。


「ユウ…先生もフルネーム教えて下さいよ」


ケイトが一歩近づいて前屈み&上目遣いで俺を見る。わざとやっているのではないかと勘ぐってしまうが、そんなアングルを目の前でご披露されると自然とカッターシャツの膨らみを凝視してしまう。


これはC、いやDぐらいあるんじゃね?つか今この子先生つったよな?俺が先生か…ぐへへ。


「ちょっとユウ先生!なんでニヤニヤしてるんですか!」


にやけが顔に出ていたのがバレたようでケイトがからかいに来る。


おっと危ない危ない。先生という単語を聞いて変な妄想をしていた。何を妄想していたと聞かれても妄想する事は一つでしょう。よくある放課後の特別授業ってやつだ。


「フルネームか? 俺の名前はユウ・ルビナス」


「絶対に嘘!」


「当たり前だ嘘に決まってるだろ」


「まじで意味分かんな〜い。しかもなんで私の名前なんですか!」


「あはは!ケイトからかわれてる!」


フルネームを聞かれる時は本当に困るな。適当にナカタって言っておくべきか。しかし今の適当な感じで答えても特に問題は無さそうだ。フローラに結構ウケたようで腹を抱えて笑っている。


「じゃ行くわよ」


サラが早く手続きを済ませようと言ってきた。もう少し話をしたかった気持ちもあるが、ここはサラの言う事に従っておこう。


「え~もう行っちゃうの?」


「もうちょっと喋っちゃダメ?」


「そんな事言って、フローラのちょっとは全然ちょっとじゃないでしょ?」


「あらら、バレていましたか」


フローラは舌を出して笑っていた。そして自然と俺達も笑顔になる。また明日会いましょうとサラは言って、2人に手を振った。俺も手を振ってサラの後を追って校舎へ向かって行った。さっそく2人の魔法美少女と仲良くなれた事は素直に嬉しい事だと歩きながら思った。


「仲良いんですね。先生と生徒と言うよりかは友達みたいですね」


今さっきのサラ達のやり取りを見て思った事がこれだ。俺の通っていた学校はここまで教師との距離は近くなかった。剣道部の監督なんかは独裁政治者で、団体行動の輪を乱すような者や舐めた態度を持つ者なら即刻''地獄巡り''という公開処刑を行われていた。今思い出しても吐き気がする。ケイト達が教師に対してフレンドリーに接している事を少しだけ羨ましく思ってしまった。


「楽しいでしょ? それに年もそんなに離れていないしね」


「サラさんって何歳なんすか?」


「何でさんづけなの? サラでいいよ。歳は最近27になったばかりだよ。そういやユウは何歳なの?」


「俺は22ですよ」


「結構近いのね。というかさっきからずっと思ってるんだけど、何で敬語なの?」


「いやぁ…あはは」


ボコボコにされたら誰だって敬語になっちゃいますよ。とは言えないので苦笑いで返す。


「敬語もいらないわ。これからは友達感覚で話してよね!」


サラが人差し指を立てて俺の鼻に近づけて言ってきた。サラ自身、あまり堅苦しい関係は嫌なのかもしれない。ケイト達が気軽に話しかけれる理由もサラ自身の性格が大きいのだと思う。


「あ、はい。わかりました」


「もう!」


「わかったよ。これでいいのか?」


「上出来!」


敬語を崩すとサラは満足したようで、再び歩き始める。


「そうだ、サラって何の教科を教えてるんだ?」


「数学と実戦格闘術よ」


実戦格闘術か。なるほどあの流れる様な技のキレはここからきているのか。


「数学か。結構助かったかも」


「あら、文系苦手なの?」


「あまり得意な方ではないな。数学なら結構いけるよ。多分」


「多分て。もう、しっかりしてよね!」


多分と言ったのはまだこの学校の数学がどれぐらいのものなのか全くわからないからだ。俺のいた時代からより進歩しているのだろうか。そうなればもうお手上げだ。


それから他愛な話しをしながら校舎へ行った。校門から校舎までは歩いて10分程かかる。校舎は上空から見下ろすと、横の線に縦棒を何本も繋げた様な形だった。分かりやすく言うと、Eを左90°回転させて横に何個も連ねた感じだ。


俺達は校舎の玄関から入ってすぐ左の教務係と書かれた部屋へ入った。その部屋では事務員的な人が何人か資料を作ったり整理していたり、仕事に追われている姿があった。休日なのにご苦労な事だなと他人事のように吐き捨て、小部屋へと入っていった。


そこで俺は色々な書類を書かされた。内容は給料の事だったり、秘密厳守の事だったり、武器は持ち込んでOKだけど非常事態が起こらない限りは自分の研究室に保管する事だったりと至って普通の事だった。だけど困ったのが1つあった。身分証明の書類だ。身分を証明するものは1つも持っていないし、ましてや今の俺は身分なんて証明出来やしない。


事情を知っているサラはその事は分かっていたので、サラの親戚という設定で後はサラの言う通りに書いた。


30分程で書類を書き終わり、事務員から学校について簡単な説明を受けた。校内禁煙とか、教務専用の昇降装置を使ってくれとか正直どうでもいい内容だったので、途中からぼけぇと聞いていた。専門用語なんて右から左だ。説明が終わった後でサラが研究室まで案内してあげると言ってきたので、俺は二言で返事する。


「広すぎぱねえ。どんだけ儲かってんだこの学校」


「そんな悪徳商売みたいに言わないの」


そして俺達は教務室から出て右方向にずっと真っ直ぐ歩いていた。サラの研究室は1番右端の棟の最上部のそのまた1番奥らしい。しばらくして右端の棟まで到着したが、玄関付近から5分ぐらいかかっていた。これは迷いそうだ。遅刻しないよう多めに時間を見ておくべきだろう。


それから教員用の昇降装置で5階まで上がってサラの研究室へ向かった。奥に向かって左側が教員の研究室、右側が第○○講義室というような感じになっていた。研究室の隣にはその人専用の資料室みたいな部屋があってそれが5つ並んでいた。講義室も5つだ。ちなみに1番奥の講義室は第500講義室だった。


そして第500講義室の向かいにはサラの研究室と資料室があった。研究室は10畳ぐらいの広さで結構スペースがあり、部屋の本棚には資料やら参考文献がびっしりと詰まっていた。窓際には観葉植物が飾ってあり、自分の机の他に入り口付近に皆でお茶できるような机とソファーがあったりとなかなかお洒落な研究室だった。部屋は綺麗に整理されていてホコリ1つ落ちていない。


それから研究室にかけてあった鍵を取って隣の資料室へ入った。資料室は研究室の半分ぐらいの広さで資料などがびっしり詰まった本棚と小さな机と小さなソファーしかなかった。


「ユウが明日から使ってもらうのがこの部屋よ。じゃ、明日からしてもらう事を説明するわね」


「ういーす」


「まあ、基本的には私の補助ね」


「えっと?」


「例えば次の授業で欲しい資料の用意とか、生徒に配る資料の準備とか、答え合わせとかね」


「それ、なんかもう専属秘書みたいだな」


「あんな事したんだからそれくらいはやってよね!」


「やっぱ怒ってる?」


「これが怒ってないように見えるの?」


サラは腰に手を置いてしかめっ面をする。


「怒っているというか、かなり可愛らしい」


「ちょ、何言ってるの!反省していないでしょ!」


やべ。無意識の内に声に出してしまっていた。


「反省してますよ!頑張りまーす!何でもお申し付けて下さいませ!」


「はぁ…。調子だけは良いのね。まあ、最初のうちは私に付いて回って少しずつ手伝ってくれたらいいわ。2週間もすれば全部できるようになると思うから」


「了解しましたあ!」


「それと、私の研究は邪魔しないでね?」


「了解しましたあ!」


「返事は良いけど本当に分かっているの?」


「勿論でございまあす!」


兵隊さんもびっくりするぐらいの背筋と敬礼で答える。


「じゃあ何を理解したのか言ってみて」


「おやつは500円まででございまあす!」


そのままの格好で元気よく答えた。


「えーと、スライスとローストどっちが好みかな?」


「じょおおおお!じょじょじょ冗談だって!サラについて回るのと研究の邪魔しない事だろ!分かってるからそれを早く消して下さい!」


サラは右手に風の刃の塊を、左手に炎の塊を出していた。表情は笑顔だったので余計に怖かった。


「あはは、冗談よ!」


サラはニカッと笑って両手の魔法を消した。


「まったく…心臓止まるかと思ったぜ」


「ユウが最初に冗談言うからだよ? 仕返し仕返し!にひひ」


何この子。物凄く可愛いんだけど。


「今日はもうこの辺で帰りましょうか。あ、帰りに下着を買うからついてきてね!」


「え? 俺が?」


「他に誰がいるのよ」


「ですよね…」


女の人と一緒にパンツを買いに行くのか。ぐへへ…試着室プレイ…。


「ちょっと何ニヤニヤしてるの? また変な事考えていたでしょ!やっぱ連れて行くのやめようかな…」


「ちょおおお、ちょちょちょちょちょおお!何もしないって!何なら店の外で待ってるよ!」


「本当に?」


疑り深い顔で聞いてきた。そんなに信用できないのだろうか。


「本当だって!俺の信頼係数は95%だよ!ただし母分散が既知の場合に限る!」


「一体何の事かわからないんだけど」


うん、俺だって適当に言ったから自分でも何を言っているのか訳がわからない。


「あーたまに訳わからない事言うのでスルーし…」


スルーしてれと言いかけた時、何かおかしいと思った。信頼係数95%という文言は確か統計数学だ。数学の研究者なら違う分野でも少しかじったぐらい知っていてもおかしくない。一体何の事かわからないんだけどという返しはおかしいと思った。もしかして…。


「どうしたの?」


急に話を止めて考え事をしだした俺を不思議そうに見てきた。


「なあ、統計数学って知ってるか?」


「え? 何それそんな数学ってあるの?」


やっぱりだ。


「サラ、今5回生が使っている教科書を見せてもらってもいいか?」


「いいけど、どうしたの?」


「まぁ、まぁ、すぐにわかるから見せてくれよ」


「わかったわ。確かこの資料室にもあったはずよ。えーと、……あったわ」


サラは本棚から数学の教本を取って俺に渡してきた。俺はすぐにそれを開いて内容を確認する。 


ぐふ。


内容を確認するにつれて俺はにやけが止まらなくなってきた。


「なははは!」


「ちょっと!何で笑ってるの!」


これが笑ってられずにいられるものか。この教本に載っていた5回生の最高レベルの数学は、俺達の時代の高1か高2レベルの数学だった。やはり俺の知る数学よりもかなり退化していた。さらに誰が考案したか知らないが結構変な方程式を使っていた。一言で言うと効率の悪い解き方が公式となっていた。


そういや1000年前に1回文明が滅んだんだったな。いや、視点を変えるとたった1000年でここまで築き上げられたのは大した進歩じゃないか。これは…俺1人でこの時代の数学界、いや全世界的に革命を起こせるんじゃね?だったら俺は大金持ち確定じゃん!ぐへへ。


「ねえ!ニヤニヤしていないで教えてよ」


「ごめん、ごめん。この問題ってさぁ、この解き方が1番早いんだよな?」


教本に載っていた1つの問題をサラに見せる。


「ん? そうだけど。これがどうかしたの?」


よし、確定した!俺の名前が公式になる瞬間が訪れた。


「ちょっとペン借りるね~」


俺は机の上に置いていたペンを取って教本にサラサラ~っと従来の解答を書き込んだ。サラはそれを目で追う。


「え!? うそ!!」


サラが驚くのも無理はない。今まで10行ぐらいかかっていた問題がたった2、3行で解けてしまったのだ。


「え!凄い!これはこれで…これは…ってこれにも使えるじゃない!」


サラは俺が使った平凡な公式に釘付けとなった。


「こんな公式知らないわ!アルガードでもこんな公式習わないし…。ていうかこの系列の学校が世界最高水準よ!こんな高度な数学一体どこで習ったのよ!?」


サラの表情からはもはや好奇心しか読み取れなかった。興味津々な態度を見るからに、数学者の血が騒いだのだろう。


「それ、俺が作った公式なんだ!実は俺、旅する数学者なんだ!」


ガハハ。うっそだぴょーん。これは世界の為になるんだ。嘘なんていくらでも吐いてやる。


「嘘つかないで!いくら私でもそれは信じられないわ!」


ご名答でございます。だがそんな事で引き下がる俺ではない。


「じゃあ、この問題解けるか?」


俺はニヤニヤながら部屋の端に散らばっていた紙に結構難しい問題を書いてサラに渡した。


「………………………」


サラはその紙と数分間睨めっこしていた。痺れを切らした俺はその紙にササッと模範解答を書いてどや顔で再びサラに渡した。


「何これ…。これも数学なの…?」


サラのその紙をもつ手が震えていた。古代数学の恐ろしさに打ちひしがれた瞬間だった。


「俺さ、言ってなかったけど、世界中にまだ残っている遺跡を探す旅をしているんだ。そのある1つの遺跡の最深層に数学に関する事が書いてあってな、それを元に自分で研究するうちにそこまでたどり着いたんだよ」


「何で…何で学会で発表しないの? こんなの、今までの歴史が変わるわよ…」


「サラも言った通り最初は信じてくれなっただろ? こんな産まれも出身もわからないチャラチャラした若造がそんな事発表して信じてくれるわけねぇじゃん」


「う……でも…」


今のはかなり信憑性がある言葉だっただろう。つーか、よくもまあこんな嘘八百が俺の口から言えたもんだ。詐欺師になれるんじゃのねぇの俺。


「はい。この話はもう終わり。早くパンツ買いに行こうぜ!」


これ以上話を伸ばしすぎると言い回しができなくなってボロが出てしまうので、とりあえず話を変える事にした。


「ユウは外で待機でしょ」


「お、そうだったそうだった。じゃあ行こうぜ!」


「帰ったらさっきの続き聞かせてよね?」


「気分が乗ればな!」


俺達は資料室を後にした。資料室の鍵を研究室の壁にかけてそれから研究室の鍵を閉めて1階に降りる為の昇降装置へ向かって歩いて行く。


「あ…」


昇降装置はどうやら誰かが使用しているみたいで、丁度5階に上がってきたみたいだ。開く扉から男の人が1人降りてきた。その姿を見たサラが小さな声を上げる。嫌そうな表情を作ったのを見逃さなかった。


「これはこれは。サラ教授じゃないですか」


そう言って歩いてくる男は身長が結構高く、灰色のスーツに赤色ネクタイのただのイケメンだった。緑色の髪の毛をオールバックに流している。風格と声の太さから推定して年齢は30前半ぐらいだろうか。ただ、第一声からいけ好かない奴だって事は理解した。


「どうも…」


サラはぺこりと一礼する。後ろから見ているとその背中は凄く小さく感じた。コイツに何か弱みでも握られているのだろうか。


「こんな日まで学校で研究ですか? 頑張りは認めますがそろそろ成果を出してくださいよ…教授」


緑頭がサラの横に立ち、肩をぽんぽんと叩く。なかなか嫌みったらしい男じゃないか。


「はい、すみません、タイラー教授…」


「謝るぐらいなら早く…ってやつですよ。こんな若造と遊んでいないでね」


タイラーと呼ばれた奴がが俺を見下しながら言ってきた。


なんだこいつ。見下しやがって!くっそう!俺も後15cmぐらいあれば!つかサラも何でこんな奴にペコペコしてるんだよ!しかもタイラー教授ってなんだよ!もうこいつの名前なんかミドリムシでいいだろ!よし、いっちょ言ってやるか!


「あんさぁ…」


「ユウいいの!すみません頑張ります!」


サラが何故か俺の言葉を塞いでミドリムシに謝った。


「そう、それでいいんだよ。それじゃあ僕は忙しいので失礼するよ」


ミドリムシは俺達を鼻で笑って1番手前の研究室へ入って行った。その間ずっとサラは頭を下げたままだった。


「行くわよ…」


サラが昇降装置のボタンを押して中へ入って行った。俺もそれに続いて乗り込む。1階に降りている間、サラは一言も話そうとせず、中はしーんと静まり返る。その空間に耐えれなくなった俺はサラの心情に踏み込む事にした。


「何か弱味でも握られているのか?」


「違うの…。私が悪いのよ…」


「んー? 何が悪いんだ?」


「私ね、昔から勉強が大好きなの。勉強して勉強して、知らない間に最年少で教授にまでなっちゃってたの。それが5年程前の話ね」


「ふんふん、それで?」


「そこでこの学校の理事長が声をかけてくれてね、ここで研究しなが働かせてくれたの」


「おお!良かったじゃん!」


「でもね…それから今まで何の成果を出せていないの。タイラー教授は理事長の息子でね、最近教授になったんだけど、どんどん色んな事を発表しているの…本当に凄い人なのよ…」


俺に背を向けたまま話をするサラ。表情は見えないが悔しそうな顔をしているのだと想像してしまう。


「なる程な。実の父親の理事長に何の関係ないサラが良いようにして貰ったのに、今まで何の成果を出していないのが奴にとって気に食わないわけだ」


「だから嫌みとか言われても仕方ないのよ…」


「そんな事ないぞ!研究とかな、一生かけて一つの事を追い求めてる人だっているんだ。そんなのサラに対する侮辱でしかない!」


「え……」


サラが驚いたような顔で振り返った。


「何か変な事言った?」


「ふふふッ」


そしていきなり笑い出した。


「何笑ってるんだよ!」


「ごめんなさい。まさかユウの口からそんな言葉が出るとは思わなかったの。ふふふ」


「やっぱり俺って真面目なセリフ言うの似合ってない?」


「あら? 自覚あったの? ふふふ」


「ちょっとぉ、いつまで笑ってるんすかぁ」


はぁ。誰か俺のビジュアルを誠実な青年に変えてくれないかな。


そうするうちに1階に降り着いた。扉が開くとサラが外に出てこちらに振り返る。


「ありがとう!私、もう少し頑張ってみるね!」


向けた顔は純真無垢な幼い少女のような満面の笑みだった。27歳とはとても思いがたい。


「あ…」


こんな笑顔は今まで見たことがあるだろうか。なんというダイヤモンドなんだこのサラという女性は。こんな女性と仲良くなれて俺は…俺は…。


「感激です!」


ガチャン


「「あっ」」


小さな幸せをかみしめていると昇降装置の扉が閉まってしまった。慌てて開のボタンを押すがもう時すでに遅し。どんどんと上へ上がっていった。


「あちゃ~。やっちまったな。しかしなんだあの笑顔。物凄い破壊力だったな。アリンを癒し属性だとするとサラは青春属性てな感じだな」


あの笑顔を見ると、中学や高校時代に何かに打ち込んでいた時のどこか懐かしいようなそして切ないような気持ちになった。


「俺もまだまだ頑張ろう!」


ここでしっかりサラの役に立ってレイラに、皆に会いに行こう。そう決心した瞬間、昇降装置が止まった。階を確認すると5階だった。


「げっ」


鉄格子のような扉の隙間からあのミドリムシの姿が見えた。思わずげっと言ってしまったが、聞こえていないか心配になる。


「なんだ君は、降りないのか?」


扉が開いても降りない俺を見て怪訝な表情になる。


「ミスって1階で降り損なったんですよ~」


「ふん、さすがあのダメ教授の知り合いだ。頭が悪いんだな」


最上級の嫌みを臭そうな口から放って中に入ってきた。俺の目の前に背を向けて立つ。


「おい、ミドリムシ。お前何の研究しているんだ?」


「ミドリムシね…。やはり頭の悪い人の話す口調だな。物理学だよ。もうこれ以上は君と話したくないね。脳細胞が破壊されそうだ」


なんだこいつ!リオンよりもムカつく奴だな!今すぐにその頭を破壊してやろうか!


「だったら頭の良い話をしようじゃないかよぉ~」


「………」


ミドリムシは俺の挑発に乗ってこなかった。ひたすらシカトを決め込む。余計に腹が立って腹が立って仕方がなかった。




ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーー



「あー、行っちゃったな…。本当におっちょこちょいだね」


サラは1階のエレベーターの前で降りてくるのを待っていた。


「5階まで行っちゃったよ。もしかしてタイラー教授が乗っていたりして…。はぁ、嫌だなぁ」


サラはタイラーに会う度に毎回嫌みを言われていた。タイラーという名前を聞くだけで気分が落ち込むようになるまで拒否反応が出るようになっていた。


「ん~~~ッ!もういいや!私は私のしたい事をすれば良いだけだよね!自信持とう!」


一生かけて一つの研究をしている人もいる。ちゃらんぽらんの青年から言われたその言葉は、何故かサラの心の中にすとんと落ちてきた。今まで自分を縛っていた鎖を断ち切るような、そんな一言だった。一本の強い芯になるように、サラの心の中に根付き始める。


「でも、タイラー教授がこんな休みの日に学校へ来るなんて珍しいわね。忘れ物でもしたのかな? あ、きたきた。うわっ…」


色々な事を考えているうちにエレベーターは1階に到着したようだ。格子の隙間からタイラー教授の姿が見えたので少し顔をしかめる。


「あれ? ユウは?」


タイラー教授の姿は見えたがユウの姿は見えなかった。トイレにでも行ったのかなと思った瞬間、タイラー教授の後ろから両腕が出てきてひらひらと翼のように動かしていた。


「ぶッ」


タイラーの澄ました顔に手の翼はあまりにもシュール過ぎたのでサラは吹き出してしまった。


「何を笑っているんだ?」


開いた扉から出てきたタイラーが害虫を見るような目で聞いてきた。


「あはははは。ダメ!だめッ」


タイラーの後ろではまだ腕の翼が羽ばたいていた。


「サラ教授…。頭がおかしくなったのかね?」


タイラーがそう聞いた時、今度はタイラーの頭の後ろで手のひらのお花が咲いた。


「ぶぶッ!あははははは!もうやめて!お腹が痛いよいひひひひひ」


「どうだった? なかなか面白かっただろ?」


そろそろタイラーにバレそうなので俺はタイラーの後ろからひょこっと出て行った。


「あはは、ただのガキじゃない!でも最ッ高!」


「あいて。良かった良かった」


サラが俺の肩をポンと叩いた。涙を溜めて大爆笑しているサラを見るとさっきのイライラなんかどこかに飛んでいった。


「はぁ…。君たちには付き合いきれないね。おままごとは家に帰ってやりたまえ」


ミドリムシは溜め息を吐きながら俺達の横を通っていった。


「にひひ!すっきりしただろ?」


「あーぁ、思いっきり笑っちゃったね」


「笑った方が可愛いですよ~」


「もう!そうやってすぐに調子乗るんだから!恋人に怒られるよ?」


「怒られるというか半殺しにされるんだぜ!」


「だったら尚更じゃない。それじゃ行くわよ!」


「ういーす」


俺達はすぐ近くにあった扉から外に出て花壇の楽園を越えて馬小屋へ向かった。


しかしここで問題発生。


メリーちゃんにサラは普通に乗れたが、俺はなかなか乗らせてくれなかった。サラがメリーちゃんに何回も言い聞かせると、ようやく大人しく乗せてくれた。その時のメリーちゃんの目は、「しゃあなしだぞこの野郎」と言わんばかりの目だった。


馬に跨った俺達はゆっくりとした速度で学校を後にして街へと向かって行った。


街に着くと、女の子が好きそうなお洒落な感じの店に着いた。よく見ると下着専門店だった。綺麗なおなご共がふしだらな格好に合法的になれる聖域へ足を踏み入れようとした時、サラから店の前で待ってるように命令された。本気で待たされると思っていなかったので口をとんがらせて不貞腐れる。ここで暴れても仕方ないので、店の壁を背もたれにして外で待っていた。


店の前で座りながらボケーッと座っている俺を好奇の目で見ていく人から、俺を見てクスクスと笑ってる人や、俺を指差して変態扱いしている人がいた。一番酷かったのが俺に向かって石を投げてきた人だ。確かに俺は変態だから仕方ないと思うが、まさか石を投げられるとは思っていなかった。店の中を覗いて可愛いパンツの群れに鼻の下を伸ばしていたのが原因だったのだろうか。


30分ぐらい待つと袋を何個も抱えたサラが出てきた。そしてサラはそれらを俺に持たせて今度は町の市場へ食料の買い物に出かけた。


そこでお酒やら食べ物をどっさり買った後、サラはまた俺に荷物を持たせた。俺の腕には前がかろうじて見えるぐらいに荷物が積み上がっていた。


一通りの買い物を終えて満足したサラはメリーちゃんを引いて家に向かって歩き出した。俺はぷるぷる震える腕に鞭を打ってサラの後を着いていく。


「ちょ、もう無理、休憩…」


町の門から出て数10m歩いた時点で限界がきたので、俺は地面に荷物を置いてその場に座り込んだ。俺の腕には袋の持ち手のめり込んだ後が沢山ついている。


「えー、だらしない。そのくらい15歳の女の子でも持てるよ?」


はぁ?現代人はどんだけ怪力っ子なんだよ。そういやレイラやナミさんの力は強かったな。レイラに肩を粉砕されそうになった事や、ナミさんにデコピンで吹き飛ばされた事を思い出した。いや、あれは奴らが化け物なだけかもしれない。


「俺、さっき特殊な力があるって言っただろ? それの副作用で力が弱いんだよ…」


「んー、だったら仕方ないわね…」


俺の口車に乗せられたらサラが近寄ってきた。


ぐはは。我ながらこの口から出るデタラメの数々には感服する。よし、そうだ、早く荷物を持ってくれ!


サラは手を伸ばす。


「え?」


しかしその手は荷物に行かず、俺の肩をポンと叩いた。


「精進あるのみよ!頑張りなさい!」


そして満面の笑顔でこんな事を言ってきた。


「ええええええええ!なんでえええええ!持ってくれるんじゃなかったのぉぉおおおおお!」


「大声で叫ばないの!ユウは男の子でしょ!それくらい根性見せなさい!」


「ふえぇ」


サラから出る先生のオーラに、俺はもう何も言えなくなった。俺は完全に説教されたと理解する。先生の言葉は何でも正しく聞こえ、そして有無を言わさずに実行させられるアレだ。小学生の頃を思い出す。


「それじゃ、私は先に行ってるから。早く追いついてきてよ!迷っても知らないからね!」


サラはメリーちゃんを引いて歩き始める。メリーちゃんの俺を見る目はザマアミロと言わんばかりだった。


「くそう。鬼め。何で俺がここまでしなくちゃならねーんだよ。つか買いすぎだろまったく。一体パンツ何枚買ったんだ?」


腕が完全に回復するまでサラの買ったパンツでも物色しようと思い、俺は下着ショップの袋を開けた。


「おおおお…。すげぇ…」


その袋にはありとあらゆる可愛いパンツとブラが入っていた。


「何でこんなに買ってんだ?」


赤色のひもパンを手にとって日にかざして眺めてみる。


「あぁ、なんという良い眺めなんだ…」


パンツの生地の隙間から漏れる日の光がとても美しい。これぞパ漏れ日。俺はパンツを直に目に当ててもっと太陽を見ようとした。


「あれ?」


しかし何故か真っ暗で何も見えなかった。


「何してんのよ…」


「おわわわッ!」


急に目の前からサラの声が聞こえてきたのでびっくりして後ろへこけてしまった。


「いたた…。びっくりしただろ」


「またパンツ被ろうとしていたの?」


怒られると思っていたのにサラは普通のトーンで喋ってきた。恐る恐る見上げると完全に呆れ顔だった。


「違う!パ漏れ日を見ていただけだ!」


「パモレビって何なのよ…。ほら、これ持ってあげるからさっさと行くわよ」


サラは片手で袋を4個ぐらい持った。その袋は確か飲み物とか入っていて結構重たいやつだ。


「ありがとうサラ!マジ怪力天使!」


俺はサラのパンツを袋に入れて立ち上がる。


「何か変な言葉入ってなかった?」


「気のせい気のせい!早く行こうぜい!」


かなり軽くなったのでスキップしながらサラの家方面へ適当に向かっていった。


「うひょひょひょ~~!軽い軽い!いええええええい!」


「ふふ。ほんと見てて飽きないね。あ、ユウ!そこ右だよ右!って、こら聞きなさい!もう!何で聞こえてないの!ユーウ!ユーーーウ!」


サラはメリーちゃんを引き連れて後を追いかけていった。







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