夜の過ごし方
これで第三章も残すところ現実だけですね
第二十七の旅「カプセルコンフューズ」
レイスと瑛は暗闇の中、草原を歩いていた。簡単に言えば暗いために外にいけずうろちょろしているだけなのだが。
今日の夜をどこで過ごすかを見定めようと探し回っていると、草原の中でも広く平たい場所に沢山のテントが張ってあった。
どうやら宿場区に泊まれなかった旅人の多くがここで一夜を過ごすらしい。
若者から年寄りまで皆火を囲みながら、会話に花を咲かせている。
何ともいい雰囲気だ。
やはりこの世界にも色々な役割というか、ロールがあるのだろうか、冒険者については詳しくは分からないが、今日はここに紛れることに決めた。
「なぁ、レイス。お前もあんな感じのテントもってないのか?」
彼女は腰につけれるタイプの軽いベルトポーチ以外に大して持ち物を持っている様子もないため、期待せずに聞いてみた。
「はい、多分ありますよ」
(あるのかよ)
レイスがポーチの中から小さなケースを取り出し開くと、そこからいくつかのガシャポンの入れ物みたいな小さい物が沢山現れた。
「ん、何だそれは。ガシャポンか?」
「え、収納式カプセルですよ。もしものためにってドグが預けてくれたのです。まぁ何が入ってるかは私も分かりませんが、種類は豊富みたいですね」
(あいつも本当に悔やまれないな…)
「そんな物があるのか。それなら、その中にテントのような物はあるか?」
「えぇっと、ちょっと待ってくださいね。あ、あります!三つほどテントと書かれています!」
「おぉ、とりあえずどれか使ってみよう。ここの皆のような物が出るかもしれない」
「はい、それではこれを使います!」
レイスは赤、青、緑の三色のカプセルの中から赤を選びそれをまだ開けた場所へひょいっと投げた。
すると地面から煙が立ち、そこには巨大な一軒家のような物が建った。
「わぁ、凄いです!これなら二人分入りますね」
「いや、待て待て、これはどう考えてもテントじゃなくて…」
(コテージだろ。ふざけるな滅茶苦茶目立つじゃないか忍びに来たんだぞ。あのイヌは非常時にバカンスでもさせる気か!!)
「すっげぇ…」
「何だあれ、金持ち冒険者か?」
「あの今まで見たこともない目に付ける装備、きっと最上級クラスに決まってる」
「きっと強い奴らに違いないぜ、お近づきになっとくか?」
「あたしもあんなのに住んでみたいなぁ」
これは関心を持たれているが、どう考えたって悪目立ちしている。不味い。
「どうしたのですかアキラ、早く入りましょう」
そんな周りの視線に気付かず、レイスはすぐにコテージ内へ入ろうとした。宿場区での察しの良さはどこにいったんだよ。
「いや、これは普通に考えてテントじゃないから別のにしよう。これを一度閉まってほかのカプセルを試すんだ」
「え?えぇっと、よく分かりませんが、アキラが言うのならそうします。えいっ!」
レイスはカプセルへコテージを戻すと、二人は顔を見られぬようよそよそと動きながら、また少し広い場所へ移動した。
「ここなら良さそうだな」
「はい、とても居心地が良さそうです」
瑛達が見つけた場所は先ほどと同じく快適そうな場所であった。
「よし、じゃあ頼んだぞ」
「はい、今度は緑を使いますね!」
そう言ってレイスがカプセルを使用すると、今度はとても小さな犬小屋のようなものが出てきた。ドグと書かれたピンクの看板がつけられている。
「まぁ」
「……お前のかよおおおおおおおおおお!何でこんな可愛い感じの犬小屋なんだよ、てか非常時でもお前付いてくること前提かよ!嫌だわこれは流石に住みたくないわマジもんの犬だろこれだと!!」
「プークスクス、何あの家」
「二人で楽しむには小さ過ぎっしょ」
「まぁあの冴えないひょろっちい男にはお似合いなんじゃね?」
「いや、待ってくれ、これは違っ」
「貧弱パーティがこんな所にねぇ」
「見てよあれ、女の子連れてるよ」
「おいおい、ちゃんと野宿の環境くらい整えてやれよ…」
「え、待て、もうそういう空気なのか?俺は何も悪くっ」
「おいおい何かぶつぶつ言ってんぞ」
「うわぁみみっちい」
「私運が良かったんだなぁ、あの子可哀想、こっちに入れてあげようよ。あ、男はなしで」
「それも良いかもしんないな」
「……」
「え、えっと。わ、私はこれでも構いませんよ。ひっつけば入れそうですし…」
「いや、入れるとかの問題じゃなくてまず見た目がっ」
「女の子可哀想…」
「あの小さい所で何されるんだろう」
「おい見ろよ、ドグとか言うらしいぞあの男」
「マジかよ最低だな…」
「変態…」
「アキラ、ほ、ほら何とか入れそうですよ」
「やめてもう無理しないでこれ以上不味いから、なんか勘違いされてるから優しさを見せないでくれ」
「で、でも、アキラとなら私は不安じゃありませんよ」
レイスはにこやかに笑う。
「いや、本当、そうじゃなくて……」
「あの子も健気だな…」
「ああいう男には捕まらないことね」
「クソガキが」
「女の敵」
「男失格」
「生きる価値なし」
ついにネジが外れたのだろう、瑛は突然発狂した。
「ああああああ違いますからねええええ!?うわ何だろこの家くっさいなぁ!犬の臭いするんだけど嫌だな間違えてどっかで拾っちゃったのかな早く撤去しないとなぁ!!ほら、もう行こうじゃないか!」
「え、え?でも、ドグの家が…」
「知るか、あいつは地べたにでも寝かせとけ!!」
そう言いながら瑛は犬小屋をボコボコに破壊し、レイスの手を連れてその場を猛スピードでと去っていった。
「くそ、あいつら、見た目で、態度変えまくりやがって。だから誰も、信用、できないんだ…」
瑛は息が切れている。
「ごめんなさい、私のせいで」
「いや、レイスは、悪くないさ。全部、あのクソイヌが、残念すぎたせいだ。アホかよ、普通にコテージで寝ろよ…」
「ドグは犬小屋でないと落ち着かないそうです。あの看板は多分誰かのいたずらかと」
「そうであって欲しいな、よし青を使おう。もう望みはそれしかない。流石に一個はまともなのがあるはずだ。場所なんてもうどこでも良い」
「そ、そうですね。早速使ってみましょう。よっと!」
レイスが三度目の正直に青いカプセルを投げると、そこには他の冒険者より少し大きく、でもあまり目立たない風貌の立派なテントが現れた。
「あぁ、これだ、これなんだよ。こういうのを求めてたんだ」
瑛は感動で涙が流れそうになった。
「やりましたね、瑛!」
「よし、やっと休めるぞ!」
テント一つで何故こんなにも感動しているのだろうか俺は。
冷静さも忘れ、レイスと共にテント内へ入ると、中は思った以上に綺麗で、ベッドに加え簡易キッチンやテーブルもある。人が座れるスペースも十分だ。四人用といったくらいだろうか。ホテルのように綺麗だ。
「おぉ、これは何とも予想以上に広いな」
「ええ、ゆっくり疲れも取れそうです。お風呂とトイレもありますね、こちらの扉の先に」
「本当か!?ありがたい限りだ」
「他にもポーチには着替えや食料など生活に必要なものは入っているので、安心して過ごせそうです」
「流石、王家の非常用だな。テント一つでここまでとは」
「私も正直ビックリです。ドグに感謝ですね」
「あぁ、さっきの羞恥も忘れられそうだ」
ベッドもきちんと二つ用意されている。これは安心だ。とりあえずは靴を脱ぎ中に入るか。
そう思っていたのだが、玄関などというものはなく、どうやら靴のまま上がるらしい。
(これは慣れるのに少しかかりそうだ…)
風呂はどうするのだろうと思ったが、そこの前だけでは靴を脱ぐようだ。面倒なものだ。
「では、お先に入らせていただきますね」
「あ、あぁ。ゆっくり入れよ」
男女が一つ屋根の下二人…。俺はゆっくり休めるのだろうか。
そんな贅沢な不安を持ちながらも、明日以降のことを考え、地図を広げて、この世界の道筋を考えることにした。
こんな生活少ししてみたい




