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時空のMRI(仮題)  作者: 紺知起翔


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Episode 0:静寂の破綻

【場所:大学病院 放射線科・MRI室】

静寂の中に響く、規則的な**「カン、カン、カン」**という高い金属音。

MRIの巨大な筒の中に横たわる榊功一郎、七十歳。病院指定の検査着を纏い、無機質な空気に包まれている。騒音防止用のヘッドフォンをつけていても、まるで頭蓋骨をたたき割るような騒音が耳をつく。

「カン……カン……カン……」

外では、廊下越しに家族の声が聞こえていたはずだった。功一郎が一代で築いた企業の跡継ぎ息子、その妻、そして孫娘。三世代が、モニタールームのガラスの向こうでそれぞれの事情を抱えて立っている。しかし今、筒の内側にいる功一郎の耳には、何も届かない。

規則的な磁気共鳴の音が、やがて反響を増し、金属の冷たさを失っていく。

功一郎「……半鐘でもたたいているような音だな……」

功一郎の意識の中でふと思った。

功一郎「火事と喧嘩は江戸の華。なんてね……」

そんな連想をしていると音はますます、江戸時代の「半鐘」へと音色を変え始める。同時に、その隙間から江戸の「町」の喧騒がノイズとして混じり込む。遠くで叫ぶ男の「火事だ!」という声が……

「カン! カン! カン! カン!」

それは心臓の鼓動よりも速く、鋭く、功一郎の脳を物理的に揺さぶる。MRIのモニタールームで、家族たちが叫んでいるような口の動きが見えるが、その声は聞こえない。聞こえるのは、江戸の街を焼き尽くす炎の咆哮と、絶望を告げる半鐘の音だけだ。

功一郎「……違う。これは半鐘そのものだ。俺の脳が、この磁場でおかしくなっている……た・す・け・て・くれ!」

視界が激しく点滅する。MRIの白い壁が、一瞬ぼやけたと感じた――

視界が少しずつ焦点を取り戻してゆく。

煤けた家屋の木の柱。着の身着のまま逃げ惑う人々。

「カン! カン! カン! カン!」

最後の強打と共に、MRI室の白い光は、黒煙の渦巻く江戸の闇へと完全に飲み込まれた。


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