表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊魂管理局 地縛霊回収課  作者: わしお
2章 - 天に溺れる罪

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/60

第54話 届かない距離

 生きた人々と共に、沙斗琉は展望台へ向かう大きなエレベーターに乗り込む。中は外観とは裏腹に和の空気を感じさせ、上部に黄金(こがね)色の稲穂のような、鳳凰(ほうおう)の羽のような彫刻が入っている。エレベーターを待っている間に彫刻の解説を聞いた気がするが、内容はぼんやりとしか覚えていない。


 沙斗琉がエレベーターの奥に入ると、一人の女性が沙斗琉に近づき、沙斗琉と全く同じ位置で停止する。隣に立った男性は、おそらく彼氏か夫だろう。

 きっと男性は、女性に笑いかけているのだろう。しかし女性と重なっている沙斗琉の視点では、自分に話しかけているように感じられる。男性が恋愛対象ではない沙斗琉には、甘い顔で話しかけられることは少し苦痛に感じた。

 沙斗琉が死してから、既に七年が経過している。しかし未だに、他人と重なるこの感覚には慣れていない。自分が死者であるという事実を、まざまざと見せつけられるような気がするのだ。


 思いのほか早いエレベーターは、あっという間に地上三百五十メートル地点に到着する。期待に満ちた人々を見送り、沙斗琉は最後にエレベーターを出る。扉に挟まれるのではないかと思ったが、エレベーターを操作する女性はすぐに扉を閉めなかったので、それは免れた。

 辺りを見渡すと、二十時を回ったというのに結構な人数がいる。この日は天気が良く、皆夜景を見に来たのだろう。こんなところで蓮の扉を開いたら、間違いなく数人は誤って冥界に入ってしまうだろうと沙斗琉は思う。


(置いてきて正解だったかな。観光ついでに来てもよかったと思うけど、蓮は夜景に興味なさそうだなぁ)


 沙斗琉は窓ガラスに近づき景色を見下ろす。冬が近く空気が澄んでいるためか、地上の光が強く感じられる。光の中を黒い筋が走って見えるが、あれは川だろうか。

 沙斗琉は遠くに向けていた視線を、タワーに近い位置に下ろす。そのときふと目に入った姿に、沙斗琉の思考が一瞬止まった。

 豆粒よりも小さく、歩道を人が歩いているのが見える。真っ白な姿は電灯とは異なる輝きをまとい、不思議と周りの景色から浮いているように見える。


「夕樹……?」


 気のせいかもしれないと思い、沙斗琉はガラスに近づき目を凝らす。人であることがぎりぎり認識できる程度の大きさにもかかわらず、沙斗琉にはそれがかつての相棒だと確信できた。

 沙斗琉は動揺する心を抑え、なんとか接触する方法を考える。夕樹は霊魂管理局の捜索対象であり、元相棒であることを抜きにしても追わなければならない存在だ。


(すぐ降りて追いかけ……いや無理か? 見かけより絶対遠いよね。蓮に連絡もできないし……)


 見下ろしていると近そうに見えるが、実際にはそれなりに距離があることが、周囲の建物の縮尺からわかる。今から降りて追いかけても見失ってしまうだろう。霊魂管理局から支給されている携帯電話から、蓮のスマートフォンに直接連絡を取る方法もない。ここで夕樹を見ながら蓮に指示することは不可能だ。


(あとは飛び降りるか、だけど……)


 霊体で何ができるかは想像力次第。通り抜けるイメージができれば壁をすり抜けることができ、宙を歩くイメージがあれば飛ぶこともできる。沙斗琉が想像さえできれば、目の前のガラスをすり抜け、夕樹の元へ降り立つことも不可能ではないだろう。

 しかし沙斗琉は、どうしてもそのイメージを持つことができない。すり抜けるイメージができたとしても、その後は床を失い落ちていく未来しか見えなかった。


 悩みながら一瞬目を離し、再び外を見たとき、夕樹の姿はなくなっていた。

 慌てて近くを見渡してもそれらしい姿はない。建物の壁で見えなくなったか、彼の持つ門の能力で移動したかのどちらかだろう。


「……クソッ」


 沙斗琉は両手の(こぶし)を強く握る。普段は言わないようにしている悪態(あくたい)は、誰の耳にも届くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ