12 柔らかく暖かな場所
年が明けた。
最近のコウは、ジロウから提案されたカクテルを造るのに挑戦している。
『レディー・ドラゴン』の名前を冠したものだ。
(ジンジャーエール、スパークリングワイン……シェリー酒なんてどうだろう)
透明で黄金の輝きを持った液体を造ろうとしている。
「なんでもかんでも混ぜてみるってのは、どうかな」
めずらしくヨウジが辛口の批評をした。
「もっと原点に戻って……難しいけど、リキュールの使い方を工夫してさ」
「……社長はねぇ」
「ん? なんだ」
「もう、現場の感覚じゃないんじゃないかなぁ」
ヨウジは、コウの意外な反撃に驚いた。
「あたし、なんていうか、ばきーんっていう感じが欲しいんですよ」
「ばきーん、か」
コウのそういう感覚が引き出されてくれば、それも面白いなとヨウジは思った。
サンジは新年から仕事ということもなく、自分の部屋にいる。
イチさんの店でうだうだと過ごすこともできなくなって、智佳も帰ってきそうにない。
新年の挨拶でメールがきていたが「A Happy New Year」の綴りが違っている。
(向こうに行ってもう一年になるのに……意外ときっちり書くのは日本人くらいだったりするんだけどさ)
男一人で正月の料理もないが、パスタを茹でたりしている。だいぶコツがつかめてきた。
外に出て酒場に行くのも何か大げさな気がしてきた。
(もう若いとはいえないけど、隠居を決め込むトシでもないし)
手持ち無沙汰もいいところだ。
それでもまだ盛り場情報を見ている。
(隠れ家パブ、ね……おれなんかが行って場違いにならないかな、新橋なんてオヤジの街だったはずだけど)
朝、起き上がった明子は「寝違えて首が痛い」と言う。
偶然、ヨウジも一昨日の夜に寝違えていた。
ヨウジは向かって右、明子は左側が痛い。
鏡合わせのように、ふたりは首をかしげる。
明子が少し真顔になって、いつもと違った表情になる。
笑っていない時の顔も、ヨウジは好きだ。
明子の手が差し出されて、指先だけでそっとヨウジの顔を触る。
「あんた、きれいな顔してるよ……」
肌が滑らかだといつも言うのだ。
(ねえさんだって、ほんとに若いよ)
そう言い返すとわざとらしくなるかと思って、言えない。
もう年齢の差もほとんど気にならなくなっているけれど。
どちらかのお腹がきゅうっと鳴って、どっちだろ?とお互いに言った。
わからなかったのだ。
「きょうは、外へ食べに行こうか」
「GGがあったとこの向かいにさ、洋食屋があったじゃない」
店の前の椅子に横たわったまま、置き物と間違われる猫。
まだ寒いこの季節には、どこか柔らかく暖かい場所に行っているはずだ。
(まだ生きてるよな……)
「ナポリタンとかハヤシとかさ、昔風のがあるよ」
「そういうのもいいかもなあ」
二人は身支度をして外へ出た。
知らないはずなのに懐かしい、未来へと、歩きはじめる。
(了)
Phaseいくつまであるんだと思われた方、これで『夢の更新』シリーズは完結です
『ファレノプシス』は複数の人物の後日譚となっています
前作までを読んでいないとわからない構成になってしまったのは申し訳なしw
そして数年後に『新橋クレイジーソルト』へと続いていくわけです
最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございました
自分でも何を書き出すのかわかっていませんが、今後ともよろしくお願いします!




