似た者クラブ
「以上で午前のプログラムが終了しました。ただいまより一時間の昼休憩に入ります」
やる事を終えた達成感か、友人たちの活躍を見れた満足感か、理玖の心は軽かった。木陰で息を吸って晴れやかだと思っていると、古森がトートバッグを肩にかけてやってきた。
「おまたせ~」
荷物を取りに教室に向かいながら、理玖はバッグを指して「何持って来たの?」と尋ねた。
「弁当! 友達にもって家族がくれた」
教室に到着して、理玖もロッカーから弁当の包みを取り出した。古森は朝見たカメラを持ち出して二つ鞄をさげることになり肩が沈んでいた。
「どこ行く~?」
「当てがある」
古森を連れて、理玖は理科室の扉を叩いた。すぐに振り向いたのは部長だったが、扉を開けてくれたのは副部長だった。理玖が弁当をぶら下げているのを見て、彼は昼食の場所を探していると察してくれた。
「俺らもここで飯。みんなで広げて食べよーぜ」
副部長はテーブルの上に新聞紙を広げてそこに二人を招いた。理玖と古森が着席すると、副部長に袖を引っ張られた部長も座った。理玖の弁当にはアルミホイルにくるまれたおにぎりが六つ入っていた。隣の古森弁当はサンドイッチが詰まっている。
「いーねシェアしやすい」
そういう副部長の弁当もスーパーの冷やしそばに小ぶりなミートオードブルと分ける気持ちが感じられた。部長はペットボトルサイズの水筒に焼きそばパンだけテーブルに並べて、横の椅子にお菓子で膨らんだビニール袋を置いた。
「少なくないですか?」
「足りる」
古森の質問にぶっきらぼうに答えて部長は水筒の蓋をくるくると外した。ボトルからは白い湯気が立っている。あったかいお茶かな、と理玖がみていると部長と目が合ったが、彼はただ中身を飲んだだけだった。
「中身これ、スープだろ?」
察しがいい副部長の問いかけに部長が頷いた。ゴクゴクもぐもぐと食事を進める部長の横で、三人は互いの弁当を分け合いながら食べた。
「二人はもう競技出終わった?」
「はい!」
古森が返事をすると、副部長は「いいね~」と続けた。
「俺は午後から本番みたいなもんだよ。後輩たちはあと、応援合戦くらいかな。出番」
あ、と言葉に詰まって間が開いた。古森が泳いだ視線を理玖に向けたところで、副部長が笑った。
「なるほど、サボり希望ね」
先輩を前にハイそうです、とは言えず二人で曖昧に笑い返した。それに「いいよいいよ」と言って副部長は隣を見た。
「そっくりな子が集まってくるねぇ~」
「知るか」
眉をしかめる部長をニコニコと見てから副部長は「言い出しっぺはどっちかな?」と尋ねてきた。理玖は控えめに手を挙げる。
「そっかあ網村なんだ」副部長は古森に視線を移した。「古森も一緒に?」
サボるのか、という問いに古森は「うっす!」とハキハキ答えた。食事をしながら開き直ったらしい。
「いいねぇ。ねっ?」
この呼びかけに部長は答えなかった。副部長はそれを受け流して「じゃあ」と手を合わせた。
「ごちそうさま! 俺、次の応援合戦で役あるから早めに行くけど、ゆっくりしてていいから。楽しくサボれよ~」
副部長はゴミを袋に集めて立ち上がると、「よろしく」と部長の元にチョコ菓子の箱を置いて理科室を出ていった。
一人減った途端、会話が極端に減った。おにぎりの包みを剥く音がやけに大きく聞こえて、理玖は古森と部長の様子を伺った。
「部長はずっとここにいるんですか?」
「お前らは追い出すぞ」
「エッ! 今すぐですか?」
「食ってからでいい」
合間で食事を挟んだのんびりとしたテンポの会話で、食事後に退室することが決まっていった。「行く場所ないんですけど……」と古森がごねてみたが、弁当が空になったとみるや早々に敷いていた新聞紙を片付けられた。あれよあれよと部屋の外まで押し出される。
「俺はサボり非推奨だ。一ミリでも気持ちが動くなら行け」
ガラガラと扉が閉じられた。鍵をかける音がしないので、理玖が引手に指をかけて動かしてみると隙間が出来た。同時にドアの向こうから部長の視線が飛んでくる。後輩たちが立ち去るのを扉の前で確認するらしい。
「ありがとうございます。いろいろ」
小さく残った隙間からそう伝えて、理玖たちは理科室の前を離れた。廊下を曲がれば、部長も窓辺に戻れることだろう。
「どこ行く?」理玖が尋ねた。
「方角的に三階の廊下かな~窓からグラウンドが撮れるはず」
進んで行く古森に着いていく。
「部長と副部長、反対のこと言ってたな」
「ね~。本当でこぼこコンビなんだね」
階段を登り切ると、日差しが伸びる廊下に出た。古森は大きめの窓に駆け寄って行って、鞄を床に置くとカメラを出して構えた。
「あッいいかんじ~」
ゆるゆると口角が上がっていく古森の姿と、体に当たる日光で理玖の顔も緩んだ。カメラを構えた古森の横に並ぶ。
「カメラあるなら写真部でも良かったんじゃない?」
「え~うん、でもさぁ」ボタンをカチカチ押して古森はまたカメラを構え直す。「怖かったんだよね、あそこの部長。ちょっとだけ」
「へぇ」
一か月越しに初めて聞いた。一度しか行っていないので理玖の印象には残っていなかった。
だんだんとグラウンドに生徒が戻り始めた。アナウンスがまだなので始まってはいないと思うが、古森は何度かシャッターを切っていた。理玖もポケットからスマホを取り出して構えてみる。
豆粒を拡大してみると赤いハチマキ集団が見えた。もっと大きくすると、なんとか顔が分かる。肘でレンズが揺れないように固定してゆっくり動かし、やっと玉乃を見つけた。近くにいるだろう雫を探そうと思った時、「ただいまより」と校舎にも響き始めたアナウンスで体が動いてしまった。
「うわ、見失った……」
「友達? 地道に探すっきゃないね」
「だよね」
はっぴを着て前に出てきた玉乃はすぐに発見、撮ってすぐにメガネに送った。雫を探している最中に「ありがとう~」と泣いた絵文字のメッセージ通知が届き、カメラ画面が塞がれた。
長袖のジャージを着ているはず、と色味の違う生徒を順番に拡大していく。見慣れた顔を見つけて写真に撮った時、雫は欠伸を噛み殺した顔と眠そうに目をつむった顔をしていた。
はっぴを着た生徒たちが座席に戻っていく。「続きましては」というアナウンスで、ぱらぱらと窓から見えないところへ移動していく人が出はじめた。古森はカメラで撮った写真を確認しながら問いかけた。
「そろそろ戻る?」
「そろそろ戻るか」
時間を見るために理玖がスマホの画面をつけると、どこか分からない波打ち際に十三時二分と表示された。横から古森がのぞき込んできたので、そちらにスマホを傾けた。
「戻る前に写真とろっか!」古森が言った。
「なんの?」
「俺たちの」
持っていたカメラをしまって、古森はスマホを取り出した。カメラアプリを起動すると、画面を自分たちに向けて背景にグラウンドが映りこむよう腕の位置を調節した。
「網村くん、この辺」
カメラ目線の古森が指さした場所に入る。「もうちょっと」と何度か調整され、互いの肩がめり込んだところで止められた。カシャカシャと何度も撮るので三つほどポーズを決めてみた。
「いーね、あとで送るよ」
「いいの? ブレてね?」
古森は満足そうに微笑んで写真を確かめているが、理玖はポーズを変える瞬間に自分の手元がぶれているのが目についた。他にも目を閉じていたり、撮りなおしてもよさそうに思えた。
「俺はいいと思う! それに俺、撮るの上手くないからさ」
そう言いながら古森はスマホを操作し、理玖の手元で何度も通知音が鳴った。送られてきた写真は笑い顔ばかりで、保存しながら中々いい写真かもと思った。
「思い出自撮りすぎるな」
「ね、ロック画面に使わないでよ? めちゃめちゃ証拠写真だからね!」
先生に見られたらおしまいだからね? と釘を刺されて、理玖は「分かってる」と頷いた。写真アプリの中に無題のアルバムを作って、今日撮った写真を入れるだけにしておいた。
「よし、戻るぞ~!」
荷物を担いだ古森に着いて教室に寄り、弁当をロッカーに戻して手ぶらになった。観覧の家族たちの後ろを縫うように歩いて、次に出場する選手たちとすれ違いながら席に戻った。黄色の鉢巻をした副部長も通りかかり、ニコニコしながら理玖と古森の肩を叩いていった。




