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【完結】伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!~サファスレート王国の婚約事情~  作者: 咲楽えび@(旧 佐倉えび)
【SS】

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思い出のメニュー(ミユ→ジーク)

ミユ→ジークに視点が変わります。

前話のパンケーキとリンクしています。

 



 ジークハルトが帰って来るらしい!

 子どもたちを迎えに来てくれたカレン様から聞いて、慌ててキッチンで料理の仕込みを始めた。カレン様はひとまず家の子どもたちから連れて行ったけれど、いつものように後からナターシャの子どもたちも連れて行くのだと思う。


「これは張り切って料理しないとね!」


 わたしは嬉々として鍋に湯を沸かし始めた。

 メニューはもちろん、まるまる玉ねぎのコンソメスープとチキン南蛮だ。

 わたしたち四人の、思い出のメニューである。


「お昼はナターシャたちも呼んで食べるから、鶏肉は四枚!!」


 冷蔵庫から取り出したお肉に下味をつけるべく、塩コショウを持ったところでジークハルトが帰宅した。






 ジークハルトとヒースが留学してきたばかりのころ。

 昼食に誘うため、薔薇の宮へ電話を掛けた。とまどいがちな声を出すジークハルトの声は、それでも耳に心地よく響いた。朝から耳に心地よい声が聞けて最高だ。ジークハルトとヒースをお昼ご飯へ招待すると、すぐに了解の返事をもらえた。張り切って準備に取りかかった。

 百合の宮は、母の影響を受けた調味料が揃っている。ナターシャも母の料理を覚えてくれたので一緒に作ることにした。


「食材から何となくわかりますがメニューは何に?」

「茶碗蒸しと、肉じゃがと、海老真薯(しんじょ)のお澄ましと、照り焼きチキンと」

「多いですねぇ~ちょっと、多いですよ。真薯はいけません、晩餐じゃないんですから」

「そう? 得意料理だし、お父様の好物だし……そこから話題が広がるじゃない?」


 わたしがそう言うと、ナターシャはコテンと首を傾げた。


「話題なんて他にいくらでもあるじゃないですか。それより最初に得意料理を全部作ってしまったら、次が困るじゃないですか」

「……それもそうね!?」


 そんなことには、まったく気付かなかった。

 得意料理の全てでもてなす気満々だった。

 確かに、短期留学じゃないみたいだから、これから食事に誘うことも多々あるだろう。


「それに肉じゃがは渋過ぎます。ジークハルト殿下は確かに口調は古めかしいですが、味覚まで古めかしいかはわかりませんよ?」

「確かに」


 けれども、今朝運んでもらった材料の中で何とかしたい。時間が限られているし、ナターシャに取りに行く手間をかけさせたくないし、忙しい時間に皇城からもう一度食材を届けてもらうのは申し訳ない。


「チキン南蛮にしましょう」

「チキンしか採用されてない!!」

「採用されただけ良いじゃないですか。チキン南蛮ならボリュームが出ますから。ミユ様はタルタルソース用の玉子を湯でて下さい」

「わかったわ!」

「あとはサラダを添えて、スープは、まるまる玉ねぎのコンソメスープにしましょう。美味しいですから」

「そうね!」


 わたしはサラダやスープ、甘酢作り、タルタルソース作り担当になった。いつもはまるまる一個使う玉ねぎは、時間を考えて半分にしてベーコンと一緒にコンソメで煮る。

 チキン担当のナターシャは、チキンに切り込みを入れ、下味をつけると粉を振って卵液に浸して揚げ始めた。たくさんのチキンを揚げるのは久しぶりだ。

 部屋に揚げ物の匂いが充満して、玉ねぎが柔らかくなったところでジークハルトたちがやって来た。

 キッチン脇にある、母がダイニングテーブルと呼んでいたテーブルに案内した。四人で仲良く喋りながらご飯が食べられる小さめのテーブルだ。


 お客様なのでゆっくりしたもらおうとしたのだけれど、ナターシャとご飯を運んでいたら、すぐに二人が手伝ってくれた。最初は断ったけれど、どうやらヒースがナターシャにここでの生活様式などを詳しく聞いていたらしい。

 母も実は、この離宮で父にも手伝わせていたのだけれど。そして父も喜んで手伝っていたけれど……。


 ヒースはナターシャに慣れたのか、普通にナターシャと呼んでいてちょっとビックリした。ジークハルトも知らなかったようで目を見開いていて面白かった。わたしの視線に気付いたジークハルトが、どうなの? みたいな顔をしたのでとりあえず頷いておいた。

 よくわからないけど、仲良くなったのならいいかな?


「良い香りだし、このような料理は見たことがない」

「母のレシピなの。チキン南蛮っていうの。美味しいよ! ほとんどナターシャが作ってくれたけどね?」


 わたしはそう言いながらナターシャを見た。薄茶色の柔らかな髪を緩くお団子状に丸めて、ピンクの花のピンで留めたナターシャは今日も可愛い。


「味の決め手になるものは全てミユ様が作られていますよ?」

「まぁ、そこは母の味の再現があるからね。でも、ナターシャも作れるのよ? あのね、ジーク。本当はお米の方が合うんだけど、お米食べたことある?」

「いや、無いな」

「ヒースは?」

「私も無いです」

「そっか、どうする? 食べてみる?」


 サファスレートの主食はパンだから、米を受け入れられるだろうか?


「ぜひ、いただこう」

「私もぜひ」

「凄いですねぇ。ヒースもジークハルト殿下もデオギニアに馴染み始めてますねぇ」


 ナターシャは感心しながら何度も頷いた。確かに出会ってからわずか数日でこうも馴染んでいるとは。お国柄を考えると、この二人は意外と柔軟なのかもしれない。


「せっかくデオギニアに来ているのだから母国では体験できないことは全てやってみようと思ってな」


 ジークハルトは目を細めて笑った。

 うん、いい笑顔。


「ではお米の用意をしますね」


 ナターシャが立ち上がる。わたしも一緒に用意をしようと思ったらヒースが手伝うからいいと言ってナターシャについて行ってしまった。

 思わずジークハルトと顔を見合わせた。


「仲良しね?」

「あぁ」

「気が合うのかな?」

「そうだな。ヒースはナターシャ嬢から料理を習っていたし」

「あぁ、そういえばそうね? うちはサファスレートみたいに侍女がいないし、メイドも必要な時にしか来ないもんね」

「うむ。どうやら私の食事の管理までしようとしているらしくてな」

「お母さん……」


 思わず呟いたら、ちょうど二人がテーブルに戻ってきてヒースが困った顔をしていた。


「自分たちのご飯ぐらい作れるようにならないと、デオギニアではクズ扱いを受けるそうなので」


 ヒースはそう言いながらナターシャを見た。どうやらこれもナターシャに聞いて知っていたらしい。

 確かに、前世持ちの元の世界の多くが男性も料理や洗濯、掃除などもしていたらしく、いつの間にかデオギニアでも定着している。それもあって、皇族でも自分のことは自分でやれ、というのがシン兄様の方針のひとつになった。ちなみにその方針に逆らっているのがルイとララだ。


「お料理できる男性、素敵ですよねぇ~」


 ナターシャがのんびり言って、顔を綻ばせた。

 わたしが作った丸襟の半袖ブラウスにふんわりスカートはナターシャの優しい容姿にとても似合っている。白は汚れます~と言われたのでピンクで作ったら「そうじゃなくて」と言いながらも嬉しそうに着てくれた。ナターシャの色素の薄い髪や瞳にはピンク色がとても似合うのだ。紺色のスカートも清楚で似合っている。わたしには似合わない物が似合うのでついついナターシャにはたくさんの服をデザインして作ってしまうのだ。


 ジークハルトとヒースはお米を物珍しそうに眺めたあと、ひと口食べて、うん、と頷いた。お米は大丈夫だったようだ。チキン南蛮との相性も良かったらしく気に入ってもらえた。王族は舌が肥えてるだろうから少し心配したけれど、ジークハルトは基本的に好き嫌いがないという。玉ねぎのスープも喜んでもらえたし、出した物は残さず食べてくれて嬉しかった。


「食事が楽しいと思ったことは無かったのだが、今日はとても楽しいな」

「私もです」

「楽しくない食事って想像できませんねぇ?」


 ジークハルトとヒースは感慨深そうに頷き合っていたが、ナターシャは首を傾げていた。自分の意見をちゃんと言うメイドなのだ。


「このように近くで喋りながら食べることもないしな」

「家族と一緒でも食事中は砕けた雰囲気にはなりませんね」

「それは楽しくなさそうです」

「ほんとね……」


 思わず同意してしまった。サファスレートは三十年前のデオギニアより古いような気がする。デオギニア人はキッチリ、とか苦手だから。母がよくラテン系よね~と言っていた。


「いただいた料理は全て美味しかった。また誘ってもらえないだろうか?」


 母のことを思い出していたので、口をぽかんと開けてしまった。間抜け面だ。


「失礼、図々しかったな」

「そんなことない! いつでも食べに来て?」

「そうか?」

「うん! 今度はお父様お気に入りのメニューを紹介するから!」

「ほう。それは興味深い」


 ジークハルトのキラキラした王子顔から「ほう」なんて聞くと、ちょっと吹き出しそうになる。

 やっぱりちょっとお爺ちゃんっぽくてなんだか可愛い。



 そうしてわたしたちは四人で頻繁に食事を共にするようになり、仲良くなったのだった。




(ジークハルト視点)



 帰宅するとミユが鶏肉を前に塩コショウを振りかけるところだった。

 先ほどカレン様から「すごいハイテンションだったから徹夜したわね」と言われていたので覚悟はしてきたのだが。


「朝からそれを四枚は重くないか?」


 ただいまより先に、そんな言葉が出てしまった。

 キョトンとしたミユは「お帰り?」と言って小首を傾げた。

 無造作に結った髪はほつれて、首筋に幾筋かの髪が貼りついていた。

 作業用のピッタリとした小さなTシャツと、家の中だけ着用してもいいことになっているショートパンツ姿で、素足に何も履いていない。ペタペタと歩くたびに足音がしている。


「ただいま。その格好で揚げ物は危ないぞ」

「ん……そだね?」


 自分の格好をあらためて見分し、コクコク頷いていた。


「で、四枚も食べるのか? チキン南蛮であろう?」

「え、さすがにナターシャとヒースを呼ぶよ?」

「今からか?」

「お昼に」

「いや、仕込みが早すぎるし……」


 ヒースのあの表情からすると、邪魔はしないほうがいいと思うのだが。

 産後のナターシャを置いて帰国しなければならなかったヒースは、帰りの道中、ずっと落ち着かない様子だった。


「そうだ! 電話かけておかないと! ヒースが何か作っちゃいそうだしね??」

「いや、待て」


 あっという間に電話まで走ったミユを追いかけ、持ち上げた受話器を取り上げた。


「邪魔するな」

「電話するだけだよ?」

「カレン様が子どもを預かるって言ってくださっているんだから、二人きりにしてやれ」

「……そういう意味?」

「それ以外に何があるのだ」

「え、でもうちの子も連れてったよ?」

「だから、うちも二人で仲良く過ごせって意味だろう……ミュー、止めても無駄だとわかっているからいつもは言わないが、徹夜は思考能力を奪う上に体に悪い。できればやめてほしい」

「……うーん、寝たんだけどなぁ、たぶん」

「多分か」

「気付いたら二時間ぐらい経ってたから、たぶん、その時に寝てたと思う」


 いや、それを人は寝ていないというのだが。


「兄上からの依頼で、はりきったのだろう?」

「そうなの!! ヴァレンティーナ様の授乳用のドレスと、アリシア様のナイトドレス!! もうあれこれ浮かんじゃってひとつに絞るのが大変でさぁ」


 ミユは授乳用ドレスとナイトドレスがどういったデザインなのかをしきりに語り、デザイン画を見せ、興奮したまま布まで引っ張り出そうとした。


「待て、落ち着け。とりあえず一緒にご飯を食べて、その後は寝るぞ」

「え? ジーク寝不足なの?」

「私はこのぐらいは何ともないが、ミューはどう考えても普通の状態じゃないからな」


 創作意欲が爆発してしまうと興奮状態が続くミユに、慣れてはいるが今回は特に酷い気がして困ってしまった。

 どうしたらよいものか。


「アリシア様のナイトドレスは今度は総レースにするから、強度が気になってこんなの作ったんだよね~」


 勝手に話を変え、Tシャツを脱ぎだした。

 ぎょっとしながら見ると、上半身だけのレース状のシュミーズのようなものだった。

 黒のレースで肌の色とのコントラストが凄い。


「カップ付きだから便利! 普段使いできる。これは売れるかもしれない」

「……」

「え? 駄目? 売れなさそう? 売れないと困るけど値段はちょっと下げられないよね。強度を増すために工程がどうしても多くなるし。オーダーになっちゃうかもなぁ。でも普段からこういうの着たい人もいる……って、ジーク、ちょっと降ろして?」


 ミユを抱き上げ、寝室へ向かった。


「全く。そなたは私を試しているのか?」

「試すって何を!?」

「無意識か。いや、創作意欲のみが一番キツいぞ」

「なになにどうしたの」

「はぁ。やっぱりただの創作意欲か、くそっ」

「えええええ、ジークが変になっちゃった、すごい汚い言葉つかった!!」

「もういいから、一度ちゃんと寝ろ」

「やだよー。お腹空いたー!!」

「起きたら作ってやる」

「ホントに? チャーハン作る?」

「あぁ、作る作る」


 ベッドに放り込んで毛布を掛けた。いくらなんでも肌の露出が多すぎる。


「いい子だから寝てくれ」

「チャーハン」

「わかったから」


 結っていた髪を解いてやり、髪を撫でた。

 幾度かそうしているうちにスゥという寝息が聞こえてくる。

 やはり興奮しているだけで、体は疲れているようだ。毛布の暖かさにあらがえなかったらしい。


「全く、人の気も知らないで」


 困ったものだと眉を下げ、部屋を出た。


 前世持ちの人の料理の中で一番気に入ったチャーハンを極めたら、ミユの好物になってしまった。

 今日はチャーシューから仕込んだ極上のチャーハンを作ろう。


 キッチンへ行き、仕込み中だった鶏肉に塩コショウを振ってラップをかけて冷蔵庫へしまう。

 これは夕食の食材にすればいいだろう。沸かしていたお湯はチャーシュー作りで使うのでちょうどいい。

 冷蔵庫から豚肉を取り出し、チャーシューを仕込み始めた。







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