国王様、もとい。
「瞳ちゃん?」
「へっ!?」
急に前世での名前を呼ばれてはっと我に返り国王様、もとい加藤さんを振り返ってみる。
イタズラそうな笑みを浮かべてすっかり普段の「国王様」風な威厳を取り払っている様子が少しばかり憎らしい。
「いきなりその名前で呼ばないでくださいよ加藤さん!」
「いやいやごめん。つい、ね。日本での生活を知っているのは君だけだからさぁ」
「もう……」
お互い、普段の国王と隣国の姫君という立場を離れて日本人同士に戻る。
「公式の場じゃちゃんと言えなかったけどさ、無事魔王が消えてくれてお互い本っ当に良かったね」
「ですね。結局、私はなにも解決策を見つけられなかったですけど……」
「うん。俺も。ルリジオンが一人で解決してくれて、なにもしてやれなかった」
「はい……」
沈黙。自分が無力だったことを思い出し、情けなく思って。きっと加藤さんも同じだろう。
「でもさ、ルリジオンが魔王にタダで喰われなかったのも、君がいてくれたからなんじゃないかな」
「……」
「君がいて、ルリジオンを想ってくれて。そういう事があの子にとっていい方向に働いたんだと思う」
「そうだと嬉しいです」
「きっとそうだよ。父親として息子の命を救ってくれたこと、お礼を言うよ。それから国王として、魔王から世界を救う大きな鍵となってくれたことも」
「そんな大層なものじゃないですよ!」
「大層だよ!やっぱりヒロインの力は大きいんだろうね~」
「それ、今のこの世界に作用するもんなんでしょうか?」
「するんじゃない?攻略対象の子を選ぶことになるセリフとかもう出てきてないの?」
「あ……ありました」
ルフレ様と最初の選択肢に繋がる会話はあった。
「おお!で、誰か選んだ?」
「まさか!」
選ぶわけがない。勿論これからも警戒して全力で好感度を上げないようにするつもりだ。
「そっか。真面目だね~。適当に遊んじゃうことも出来るのに」
「そんな、ルリジオン様を傷つけるようこと出来るわけないじゃないですか!そもそも他の方には正直興味がありませんし」
真面目もなにもうっかり誰かと火遊びしてその人と強制的にストーリーが進行して逃げられなくなってしまったらどうするというのだ。そもそも、そんな不誠実な事をするつもりは全くないのだけれど。
呆れる私と対照的に加藤さんは含むような笑みを見せている。仮にも息子の恋人に、この人はなんて事を言うんだろう。ジト目で見る私に動じることなく加藤さんは話を続ける。
「ルリジオンもいて光のプリンスとは違う話になってるし、これからどうなるのかなぁ」
「それなんですが……」
ヒロインである私が誰を選ぶのかは今は別に問題じゃなくて。それより気になるのはあれしかない。
「ルフレ様はご婚約していらっしゃらないのですか?」
性悪イヴェールと。
「それだよねえ。なんでだろうね?」
なんでだろうね?じゃないです。そのせいで私がどれだけ嫌な思いをしたか!
「多分だけどさ、ゲーム上でルフレの婚約者を決めたのは国王なんだよ。でも今の俺は別に国王として婚約者を強制することはしてないからかと思う。ルフレの気持ちを尊重したくて本人に任せていたらなにも動きがなくてねぇ」
「そうだったんですか」
出来たら存分に国王の権限を発揮してさっさと決めちゃって下さい。とはさすがに言えない。
「ルリジオンとさっさと婚約しちゃいたい?」
「なっ!」
なんてはっきり言うんだろう!そんな身も蓋もない言い方、てか、わかってるなら待たせないでくださいよ。
「魔王退治であの子の株が急上昇だもんね。不安にもなるよね」
「……そうなんです」
急上昇で彼に近付く存在が怖いんです。例えばイヴェールとか、あとはイヴェールとか、それかイヴェールとか。
「ルフレがまとまるまではちょっとだけ我慢してね。さすがに、第一王子を差し置いてまだ子供みたいな年齢の第三王子が早々に婚約しちゃうのもどうかと思ってさ」
「承知してます。でも、ルフレ様は心に決めた方とかいらっしゃらないんですか?」
「君じゃない?」
「そんなはずは!……ないと思います」
二年ほど前にルフレ様の正直な気持ちを聞いた。その時の晴れやかな表情を見る限り、私への気持ちは過去の事として割り切っているように見えた。今でも私を想っているという事はきっとないだろう。ただうっかりするとヒロイン機能が発動してストーリーが進みそうなのは怖いところだが。
「そう?うーん、ルフレを気にしてる子はいるようなんだけどね。あの子はどうなんだか」
「はぁ……」
「ま、良さそうな姫君令嬢は調べてこっちは把握してるからさ。ルフレとセッティングしてみて様子見てみるから」
「うまくいくといいですね」
ほんとに。




