81 やらなきゃならないことならば
「トウル、ルリ」
「ひゃわぁっ!?」
「え、あ。ごめん。また気配消してた」
気まずいような居心地がいいような、なんとも言えない沈黙の時間を過ごしていると、急にラスロが背後に現れていつも以上に変な声が出た。こっちこそごめん!
ああ、ラスロもすごく驚いた顔になってる。トウルさんには笑われてるけど。くっ、恥ずかしい!
両頬を両手で抑えていると、ラスロが顔を下から覗き込んできた。
その顔は心配そうに眉尻が下がっている。
「顔が赤い。具合、悪いのか?」
「ええっ、えっと別にそういうわけじゃなくて……」
「でもすごく赤い。それに熱い」
「そ、それはぁ……」
ラスロはそっと私の額や頬に手を当てると、ますます心配そうな顔になった。
こ、この顔の赤さは別の理由なんだけど、それを言えるわけもなく……!
どうしようかと考えていると、スッとラスロの手首をトウルさんが掴んだ。
「あまりルリに触るな、ラスロ」
「なぜ? ……待って。トウルも赤い。病気? 感染症?」
「違う。いや……ある意味そうかもな」
「ト、トウルさんっ」
見ればたしかにトウルさんも顔が赤い。
そ、そんな態度見せないでよぉ……なぜだか心臓がキュウッてなる。
あれ、これって本当にラスロのいうように病気なのかな?
いやいや、そんなことないよね。トウルさんに思いを告げられて、動揺しているんだ、たぶん。……きっと。
「治療院に行くか?」
「行きませんっ! 本当に大丈夫ですから!」
「そうか? まぁ、トウルの顔色は戻ったみたいだし……よくわからない。けど、問題ないならいい」
「問題ないです! すぐに治まりますから! 心配してくれてありがとうございます、ラスロ」
「ん」
ふー、熱い。パタパタと手で顔を仰ぐ。
本当だ。トウルさんはもういつも通りになってる。なんだか悔しいな。
私も冷静にならなきゃ。ふぅ。
「で、ラスロは情報を掴んできたのか?」
「ん。報告する。……ルリも聞く?」
情報、ってことはマリーさんのこと、だよね?
気持ちを切り替えよう。
トウルさんのことは、また余裕のある時にゆっくり考えるとして。よし。
「聞かせてください」
「わかった。部屋を移動したほうがいい」
ラスロがそう言うので、私たちは話し合いが出来るよう使っていない部屋へと移動した。
◇
「聖女の加護についてだけど、最近、どうやら聖女の力が少し弱まっているらしい」
「っ、やっぱり……」
「聖女の加護は、魔を退ける。今の聖女はしっかり成長したのもあって、力もピークに達していたとか。王城にいたまま、国中に聖女の力が及んでいた」
そ、そんなにすごい力なんだ……!? もともとすごいってことはわかっていたけど、まさかそこまでだなんて。
でも、時々遠征に行くこともあるって聞いたような。
「最近、急激にその範囲が狭くなった。遠征が増えたのも、魔物の討伐依頼が増えたのもそれが原因」
「なるほどな……」
そっか、だから近くまで行って浄化する必要があったってことか。
神様から教えてもらった話と一致する……。やっぱり、マリーさんは自分のために力を使ってしまっているんだ。
「今はまだ対応できる。ただこのまま聖女の力が弱まっていく一方ならまずいんじゃないかって王城では噂されてる」
「聖女の遠征や、討伐でなんとかなるレベルを越えたらまずいってことだな」
マリーさんだって現状はわかるはず。人々のために力を使わないと加護が弱まってしまうってことくらい。
それでも、わかっていても、私の存在が邪魔だったのかな。
私、生まれ変わってこの世界に来ないほうがよかったの……?
「新しい聖女を呼ぶって声も上がってる」
「そ、それは無理です」
いけない、弱気になってちゃダメだよね。
後悔したって私はこの世界にいるわけだし、すでにマリーさんは動いてしまっている。
今しなきゃいけないのは、これ以上の悪化を防ぐこと!
「神様がおっしゃってました。当分の間はこの世界に他の聖女を呼ぶ力はないって。だから……マリーさんが力を失うことは、世界の危機だと」
私は、改めて神様との話を二人に説明した。
トウルさんもラスロも説明が進むにつれ難しい表情になっていく。そうなるよね、すごく難しい問題だと思う。
「自分のために力を使うと、加護が弱まるだったな。それを知る者は本人と俺たちくらいか?」
「そうだと思います」
「で、ルリは神から今の聖女を助けてほしいと言われた?」
「はい」
トウルさんとラスロの質問にそれぞれ端的に答えると、二人は同時にため息を吐いた。
「ルリにかかる負担がでかすぎんだろ……」
「同意。いくら神とはいえ、あまりに身勝手」
「えっ、えっ」
その後も二人の愚痴は続き、次第に神様への悪口へと変化していく。
ひ、ひぇ、神様に対してそんなっ! あまりにもヒートアップしてきたので慌てて止める。
「ストップ! それ以上は言っちゃダメですっ!」
「なんでだよ。お前は生まれた時から今までずっと被害者でしかないだろ。その上さらに負担をかけようっていうんだ。どう考えてもおかしいだろうが」
「そ、その点については神様も申し訳なさそうにしていらっしゃいました! でも他に手がないんですよぅ……あんまり責めらたダメ、です」」
そりゃあ私だって、「どうして私が?」って思う気持ちくらい、少しあるよ。
同時に、私に出来ることなんてあるのかなって。悪化させないかなって不安でいっぱい。それでも。
「私、この世界に来て、みなさんに会えて幸せなんです。この町に住む人たちも、皆さん親切で大好きです」
たくさんの人に助けてもらった。親切にしてもらった。
悪い人もいるけど……この世界がめちゃくちゃになってもいいなんて絶対に思えない。
「何もしなければ、そんな大好きな人たちが辛い目に遭う……嘆いていたって、文句を言ったって、事態はよくなりません。だから、私にしか出来ないというのなら、動かなきゃ」
と、カッコ良さそうなことを言ってはみたけど手は震えてる。あはは、情けないな。
「こ、怖くて震えますし、失敗して悪化したらどうしようって、そんなことばっかり考えちゃいますけ、ど、わっ、ラスロ?」
「ルリは、立派」
「ラスロ……」
ギュッと抱きしめてくれたラスロの体温が心地好い。ふふ、すっかりハグ友が定着したよね。
私も背に手を回してギュッと抱きしめ返す。
勇気をくれる言葉をありがとうね、ラスロ。




