63 頭の中を整理します
聖女様を見送り、私たちも大聖堂を後にした。
私はさっきの話がまだまとまっていなくて、ぐるぐると考えっぱなしだよ。
そのせいかぼーっとしすぎていたようで、ラスロに心配そうに声をかけられちゃった。
「ルリ、大丈夫だったか」
「え、あ、うん……大丈夫、です」
「あまり大丈夫そうには見えませんねぇ。一体、どんなお話をされたのやら」
えーっと、うん。まぁ、大丈夫なのは本当なんだけど……ショックを受けたというよりは、よくわかんなくて。
「聖女、見張るか?」
「……えっ!?」
だけど、急に突拍子もないことを言われてハッと我に返る。
え、今なんて? 聖女様を……見張る? ど、どうして?
混乱する私を他所に、スィさんが冷静に言葉を返す。
「そうしてもらえると助かります。が、一度共にクランに戻りましょう。向こうもラスロの実力は知っているでしょうし、警戒されては困りますから。それに、ルリさんから話を聞いてからでも遅くはないでしょう」
「わかった」
なんか、よく、わからないけど……この二人にとって聖女様が警戒対象のままだということはわかった。私がろくに説明もせずぼんやりしてたからだ。
でもスィさんが私の話を聞いてから、と言ってくれてよかった。私も一度冷静になって頭の整理がしたかったからね。
二人に話しながら、よくわからなかったことを相談させてもらおう。そうしよう。
と、いうわけでクランに戻ってきた私たちは今は誰もいない食堂のテーブルに集まり、話をすることに。
二人が気になっているらしい、私と聖女様の話の内容を一つ一つ報告していった。
「えっと、それで……私が暮らしていた世界のこと伝えた時、少しだけピリッとしたと言いますか、空気が変わった気がしたといいますか。私、そういうのに鈍感なので、本当に気のせいかもしれませんけど」
「いえ、鈍感だという自覚がありながら不穏な空気を感じたということは相当ではないかと」
私が鈍感という部分は否定されなかった……! 事実だけどぉっ!
い、今はそんなこと気にしてる場合じゃないよね。えー、その後は……そうだ。
「私、一度声を出してしまったでしょう? 実はあの時、ミルメちゃんで聖女様を少し見ようとしたんです」
「ほう。どうでしたか?」
ミルメちゃんを使った話になった途端、スィさんが少し身を乗り出した。
やっぱり気になっていたのかな。私だって思わず使っちゃった、って感じだったし。
さすがに失礼かなとも思ったけど……今となっては試してみて良かったかも。
だって結果、不可解なことになってしまったから。
「それが、エラーが出てしまって」
「エラー? 貴方のその目は万能だったはずでは?」
「そうなんです。だから驚いて……それで、もしかしたら聖女様が本当はこの世界の人間ではないから、この力が及ばなかったのかなって」
「ああ……その可能性はありそうですね」
それしか考えられないよね。なんだか少し、寂しい気持ちになってしまうのは傲慢かな。
でも、だって、聖女様だけ仲間外れみたいだって思っちゃったんだもん。そんなの寂しいじゃない。
「他に気になることは」
「あ、そ、そうですね。私がこの世界に来た経緯を神託で聞いたから知っている、と。自分も亡くなれば帰れるのかな、とおっしゃってました。でもそういう願望があるわけじゃないって。この世界を愛しているからって」
「つまり、すぐにでも死んで元の世界に帰ろうとは思っていないということですか」
「は、はい。たぶんそうだと思います。それで、その……」
この後は、少し言いにくいな。私の勘違いかもしれないし、でも別れ際に言われたことはすごく気になってる。
……一人で考え込んで悩むくらいなら、このことも聞いてもらったほうがいいよね。どうせ私一人じゃろくな答えなんて見つけられないもん。
言ってて情けなくなってきた。
どうせポンコツだもん。だから頼るんだもんっ!
「どうかしましたか?」
「……お慕いしている人が側にいたらいいのにって。でも、聖女様は王子様と婚約しているんですよね?」
「ええ。それが何か?」
……そこまでさらっと流されると私が気にしすぎなのかなって思えてくる。気にするほどのことでもないのかなぁ。
言い淀んでいると、スィさんがふいに口角を上げて笑った。
「ふっ、もしかしてトウルがいてくれたらいいのに、とでも言いましたか?」
「ええっ!? な、なんで……」
「図星ですか。なるほど、なるほど。それでルリさんを牽制した、というところでしょうかね」
「え、あの、えっ、ええっ!?」
「ルリ、落ち着いて」
まるで目の前で会話を聞いてたんじゃないかってくらい当ててくる!
慌てる私を落ち着かせるようにラスロが背中をさすってくれた。あ、あ、ありがとう。
でも、どうしてわかったんだろう?
ラスロはわかったのかな?という意味を込めて視線を上げると、ラスロは意を汲んで「そういうのはわからない」と首を横に振ってくれた。だよね、わかんないよね、普通は。
「なんとなくそんな気はしていたのですが、これで確定ですね。聖女はトウルに恋情を抱いている、と」
「や、やっぱりそうなんですかね? でも王子様は……」
「ライル殿下も当然気付いていないでしょうね。隠すのがお上手なようですし」
「でもスィさんは気付いたんですよね? しかも、あまり会ったこともないのでは」
「ああ、初めてお会いした時、トウルに向けていた視線が少し気になった程度ですよ」
いやいや、鋭すぎない? 本当にこの人の前では隠し事なんて出来ないんじゃないかなって思えてくる。
優秀すぎる人って怖いんだね……。初めて知った。
「でも、そうなると……なんだか、複雑です」
「トウルが取られそうで、ですか?」
「なっ、なんでそうなるんですかっ! 違いますよ! ……聖女様自身もそうですけど、王子様も、気の毒に思えてしまって」
「哀れですよね」
「そこまで言ってません」
もうっ! スィさんはすぐにからかうんだからっ!
まぁ、その。ほんの少しだけ、トウルさんがお城に帰ってしまったらこのクランがどうなっちゃうのかなって心配というか、その。ちょっと寂しいのは本当だよ。
「まぁ、聖女と王太子の結婚は決まっていますからどうにもなりませんよ。それを理解した上でまだトウルを諦めていないとは。結婚後はトウルを囲んでただならぬ仲になりたいと狙っているのかもしれませんね」
「た、ただならぬ……!?」
「愛人なんて珍しくないですよ。まぁ、聖女のイメージ的にはダウンでしょうけれど」
ドキドキするようなことを平然と話すから、こっちがおかしいのかなって思っちゃうよ! ラスロも涼しい顔してるしさっ。
「なにはともあれ、今日はお疲れさまでした。トウルには僕から報告しますから、ルリさんは休んでください。ラスロは頃合いを見て聖女の見張りを頼みます」
「わかった」
えっ、えっ、あの。私だけ休んでいていいのかな?
そりゃあ、出来ることなんてないけど……あーっ、モヤモヤするぅ!




