食撰の前に:前置き
「そう、義妹の紹介なのね。それならもっと丁重にもてなさないと」
「ぶー!」
すいません天様、いきなり爆弾発言止めてもらっていいですか? がっつりお茶を噴き出してしまったんですが……?
「今夕餉を用意してるから少し待っててね」
「わ、わかりました…………」
天様の住まう屋敷に案内された。広さはイネさんの住んでいた屋敷と同じくらいだが、こちらはきちんと手入れがされている。従者さん……いや、天様に仕える者達ということは私と同じ巫女、もしくは神職に連なる者だ。同じ立場の者として仲良くしたいところです。
それはともかく……とりあえず関係を整理しましょう。イネさんと天様が義理の姉妹、つまりはイネさんの夫と天様が姉弟。イネさんの夫はミコトさんに殺され、そのミコトさんは天様の村の一員と……んんんんんんん?
え? どういうこと?
「す、すいません……イネさんから聞いた話も考慮した場合、実の弟を庇護下の子が殺したってことになりますが」
「かい摘んで言うとそういうことね、白兎ちゃん。でも、その時からミコトは帰ってきてないの。いえ、倒れたオトをこっそり運んで来た時に一度だけ帰ってるのかな?」
「えぇー……」
分からん。分からんとです。私にはもう何が何だかさっぱりですよ……。
何処からです? 何処から聞けばいいですか? ろくな経験のない私にはこんな複雑な関係なんて処理出来ません。助けておかあさん……ん?
「……白兎?」
「あれ、違った?」
「天様、彼女はミカンという名のれっきとした人間ですよ。兎の垂れた耳に見えるのは髪の毛かと」
「あら、それはごめんなさい?」
「あはは……」
天様から見ると私の外見は兎を連想させるようなものだったらしい……確かに私は白髪赤眼でちょっとくせっ毛ですけど、兎を連想させるほどのものではなかったと思うんですが……?
それはともかく、聞きたいことは山ほどある。最低限重要な部分だけでも聞いておかないと。
「その、ミコトさんのことは恨んでないのですか?」
「恨んでないわ。いや、恨めるはずがないのよ」
恨めるはずがない? まるで恨んじゃいけない理由があるという口振りだ。
「もちろん弟の戔が死んだことは悲しいわ。それでも、あの愚弟がイネちゃんにしたことを考えるとミコトとオトを恨む道理は私に無い。それだけの話よ」
「……オトさんも?」
言葉は無い、ただ投げかけた疑問には頷いて肯定する。天様の弟様、戔様を殺したのはオトさんとミコトさんの二人によるものらしい。そしておそらくだがヒエさんはこの件には関わっていないらしい。
……イネさんは私に何をさせたいんです? このねじれにねじれた関係に私を巻き込んでどうしろと? 無理ぞ?
うーん……。
考え込みドツボにはまる最中、オトさんが私に話しかけて来た
「ところでですがミカンさん」
「……あ、すいません。どうかしました?」
「いえ、私ではなくて横の……」
オトさんは少し気まずそうに私の横を見ている。横? 横ってアルコンさんしか………………
「あ。」
「…………」
さっき噴き出したお茶がアルコンさんにかかっていた。しかもがっつり
恐る恐るアルコンさんを見ると、顔にこそ出ていないが明らかに怒っている。なんというか冷たい怒気がアルコンさんを纏っているようにすら思える。
「あー!!!ごめんなさいごめんなさい!私の袖くらいしか拭けるものがありませんがどうぞ使ってください!」
「…………別にいらん。ただツケてたもんをまとめて払ってもらうだけだ」
そう言って私の頭を掴み……まぁあとはいつも通りですね。はい
「あ、ちょっとまっ」
私が悪いのは認めますけど! だからって人の事をすぐ動物に変えるのはどうかと思います! だからその大きな手で私を掴むのはやめ……あー!
「……はぁ、遮って悪かったな。続けてくれ」
「…………え? その白兎がさっきの子なの?」
「気にするな、すぐ元に戻る」
「ぷー……」
また私は動物に変えられた、今回は兎である
……はい。またですね
この人天様の勘違いから閃きやがりましたね! 兎に勘違いされてたから実際に兎にしてやろうってことですか! 思い付きで人を動物に変えるんじゃねぇですよ!
変えられる原因を作ったのは私? …………そうですね、ごめんなさい
私が動物に変えられている状態で話を進めるわけにはいかず、結局元に戻るまで話は中断ということになった。
とはいえ一分もせずに元に戻るのでちょっとした小休憩みたいなものだ。私は兎と化したこの体を動かせるのか試してみたりオトさんに頭を撫でられたりしていた……撫でられるとちょっと心地いいですね。
そうこうしているうちに私は元の姿に戻り、本題を再開する……とはならなかった。
「ミカンさんを貴方に渡すわけにはいきません。村で保護します」
「なんでそうなる」
「それならヒエを婿に貰っちゃう?仲良さそうだから良い考えだと思うけど」
「なんでそうなるんですか?」
「冗談よ、冗談。もうこんなことする必要も無いしね」
どうみてもオトさんは本気で言っているように見えますが……? そもそも私達はこの世界の者ではないのでここに留まるわけにはいきません。私も、アルコンさんも、元の世界に帰らないといけませんから。
……まぁ、帰り方はともかく帰り道が分からないので絶賛迷子みたいなものですが。
ところでヒエさんは何処に行きました? ここに来てから一回も見ていない気がするんですが。
「……そういえばヒエさんは?」
「ヒエは帰らせました。彼は人や妖が多い場所は苦手ですので」
「なるほど」
もしかしなくてもアレですか。心を読めると人が多いところは苦手になるっていう漫画とかでもよくある奴。それなら仕方ないです、無理に辛い所に居続けるのは肉体的にも精神的にも良くないですからね。
「それと…………これ以上貴方と共にさせると共鳴……いえ、貴方の思考に浸食されそうでしたので私が強引に帰らせました」
「え」
なんですかその物騒な単語は。私は何もしてませんよ?
「あの子、高い所に居ないとすぐ弱気になってしまうのですが、弱気な状態だとすぐ他の方に影響を受けてしまいまして……」
なるほど、誰かが近くに居ること自体が良くないと。それは確かにこの場に留まらせるのは良くないですね。
あとその低所恐怖症みたいな習性すごく気になるんですが……いや、あんまり本人に追及するのは良くなさそうだしどっちにしろ心読まれてバレるので知らない方が良かった気がします。
なんというかこう……そこに触れるのもちょっと申し訳ないというか……。
というかいい加減話を戻しませんか?




