ワシントン2
文治と貴族院の者達は、久し振りに風呂に浸かり体を洗った。
夕方7時迄には、それ程時間が長い訳では無かったが、文治は風呂の後、いつもの様に、書き物をした。記述する文字は、久し振りに日本語のみである。
待合室に、最も早く降りてきたのは文治だった。
受付の者や案内人と話をして、色々な事を訊いていた。
特に案内人は、様々な資料を机の上に広げ、文治に応えていた。最後には電話を掛けて確認をするといった対応にまでなっていた。
そこへ、實小路が降りてきた。
「おう、文治君。早いな。何か調べ物かね。」
實小路は、日本語で文治に語り掛けたが、案内人と英語で会話をしていて、文治は気付かなかった。
「申し訳ありません。それ以上の事は分かりません。」
案内人が対応に困っている様な表情を見せて、文治に謝った。
「文治君。」
實小路は、文治の肩に手を置いて、文治に話しかけた。
文治は、気付いて振り返った。
「あっ、實小路さん。済みません、気付きませんでした。」
文治は、英語で話した。
「何か調べ事かね。」
實小路も英語に変えた。
「はい。初めての町ですので、この町の事を、色々尋ねていたのです。色々、歴史が有って、面白いですね。」
「そうかね。だが、そろそろ集合の時間だその位にしておいてくれたまえ。」
實小路の言葉を聞いて、案内人は、文治から解放されると思って、安堵した。
明菜は、7時を10分程遅れて到着した。
「皆さん、早いのね。日本では30分は誤差だった筈なのに。」
明菜は、運転手を伴って待合室に入ってきた。
「明菜、恵美子ちゃんはどうした。」
藤神は期待して訊いた。
「お父さん。家政婦に預けてあるって言ったでしょう。多分、正ちゃんも一緒だと思うけど。」
「そうだ、正太郎は、どうしておるかね。」
實小路が訊いた。
「お義父さん。正ちゃんは、ニューヨークでイベントを計画しているらしいです。」
「明菜。恵美子ちゃんは、ニューヨークかね。」
藤神が訊いた。
「そうよ。あれ、言ってなかったっけ。今は、ニューヨークに住んでいるの。
お父さん達がワシントンへ来るというので、私が来ているのよ。・・・ふっ、嘘よ。
私も仕事でワシントンに来ているのよ。
さて、夕食に行きましょう。」
3台の車に分乗し、近くのステーキハウスへと出掛けた。
「文治さん。噂は聞いてるわよ。頭が切れるってね。」
明菜は、注文を済ませて直ぐに、文治に話し掛けた。
「そうですかね。色々体験をさせて頂いて、その経験を都度、ご紹介させて頂いているだけです。その後の御判断の大半は、皆さんがされていると思うのですが。」
「文治君。何を言っておる。我々は、君の提案には、全て乗っておる。
君の体験を引き合いに出した説明は分かり易く、非の打ちどころが無いのだから、了承するしかあるまい。」
神崎は、心から、そう感想を言った。
「いえ。未だ、その様に言って頂ける程には、学べていません。
今回の航海で、オウルさん達とご一緒して、世界には知らない事が山程在る事が、更に分かってきました。
この町、ワシントンについて、宿の案内人の方に伺ったのですが、その歴史、その裏にある人々の思いというものが、様々に交錯しているのだという事を初めて知りました。
人々の思いや欲求が歴史を作っていったという事ですので、そういった考え方を学んでいく必要が有ると、再認識しました。」
この文治の言葉の意味を理解できる者は居なかった。
丁度、飲み物が運ばれてきたので、誰も、文治に言葉の意味を問わなかった。
「長い船旅、お疲れ様。乾杯。」
實小路が乾杯の音頭を取って、皆は最初の一杯を口にした。
本来なら、實小路が文治に明菜の紹介をするべきなのだが、チャールストンで、正太郎と明菜に連絡を取った後に、ワシントンでの初日の計画を説明した際に、文治が二人について訊いてきており、實小路は、紹介を不要と判断していた。
また、明菜は、先の帰国時に散々文治の話を聞いていたので、初対面とは思えなかった。
「明日の予定ね。国防については、白井さんとお父さんが、チャーリー長官を訪ねて、五陵さんと姉尾の叔父様は、航空機を使った耕作について見学するために、ケロッグ氏を訪ねて、神崎叔父さんと佐々叔父さん、お義父さんは、自動車工場を訪ねてもらう事にします。
移動と会談、会食を考えると、白井さんとお父さん以外は、2日の予定ね。白井さんとお父さんには、明後日は、銃器工場を訪ねてもらって、土日は、お休みにしてます。」
明菜は、明日の予定について話した。
「
「私も、實小路さんとご一緒で宜しいですか。」
自分の名前が出てこなかったので、文治は、改めて訊いた。
「私と一緒に行動するというのは、どうかね。」
文治の後ろから声がした。
そこには、船で一緒だったカークが女性を伴って立っていた。
「カーク。驚いたな。お主、荷の処理は済んだのかね。」
神崎が声を上げた。
商人団の者ならば、船荷の確認作業完了を待つ為に、未だ、港に居る筈である。
「あぁ、私の荷物は、全てチャールストンで降ろしてしまったしまったからな。」
「ほう。ならば、ワシントンにまで、一緒に来る必要も無かったろう。」
「そうだな。チャールストンで降りて、飛行機で来れば、半日以上前にワシントンに来られた。
だが、私は飛行機が嫌いでな、一緒に乗せてもらう事にしたのだよ。」
「オウル達は未だ港か。」
「そうだな。あと1時間程は、荷卸しに掛かるだろう。」
「カーク。抜け駆けは許さんぞ。」
カークの更に後ろから声がした。
振りむいたカークは、ワオと驚きの声を上げた。
そこには、オウル達が立っていた。
「カーク、お主だけが文治さんの才覚を欲している訳では無い。私も、ドナルドも、ヨハンなどは、パナマの件で、惚れ直したと言っているではないか。」
カークは、苦虫を?み潰した様な顔になり、そして、諦め顔で両手を方の所で開いてみせた。
明菜は、彼等のやり取りを聞きながら、何の事か分からず、彼等が船の話を出したので、船で一緒に来た者達であろうという想像をした。
「おっと、レディの前で汚い言葉を使ってしまいましたね。失礼。」
オウルは、明菜の表情に気付いて、明菜に話し掛けた。
「私は、オウルと申します。日本から文治さん達と共に、船でご一緒させていただきました。
文治さんの商才を見せて頂いて、USAに滞在中も、連絡を取らせて頂きたい、相談に乗って頂きたいと考えていたのです。
入国手続きが終わった時点で、その相談をさせてもらうつもりだったのですが、早々と宿泊先に行ってしまったという事で、手を尽くさせてもらいました。
この夕食が、良い機会だと考え、お邪魔させてもらいました。」
「ふうん。そうなんだ。
カークさん。日本語が分かるのですか。」
明菜は、日本語で話した文治の発言に、割って入ってきたカークに、日本語で訊いた。
カークの横の女性がカークに耳打ちし、カークは英語で答えた。
「こちらの女性は、日本語が分かるので、通訳してくれるのですよ。」
明菜は、その女性に見覚えがあった。正太郎に連れられて議事堂に行った時に見掛けた。
議会で事務方の仕事をしていた。男社会の中で、次官や官僚達に指図している様に見えた。
「カークさん。そちらの女性を紹介してもらえるかな。」
明菜は、カークに要求をした。
女性は、カークを制して自ら話を始めた。
「自己紹介した方が早そうね。私は、リサ。ホワイトハウスで国務の次官補佐をしている。
明日、チャーリー長官と面会する日本人が居るということで、事前の確認をしに来た訳。」
「それで。カークさんとの関係は、何なの。」
明菜は、追加の説明を求めた。
リサは、カークを見て、微笑してから、言った。
「ホテルで、カークが貴方達の行き先を訊いていたので、ついでに来たという訳。夕食をおごってもらうのも有りかなって思って。」
カークはリサの言葉に何度も驚いた。
「いいわ。じゃ、一緒に食事をしましょう。お代は、カークさんにお願いするわね。」
カークは、二人の女性に面食らって何も言えなかった。
それを横で見ていたオウルは大笑いした。
「カーク。お前の負けだ。」




