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無能扱いされた俺、辺境で神々に愛され世界最強  作者: 妙原奇天


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【第8話】北門決戦

 王都の夜明けは、かつてのように荘厳ではなかった。

 霧のように立ち込める煙が街路を覆い、鐘の音は濁り、民のざわめきが不安を映し出している。


 北門にはすでに兵が集められていた。槍を構える手は震え、鎧は油も塗られず鈍く曇っている。飢えた眼差しが並び、誰もが口を閉ざしていた。

 遠くで太鼓の音が響く。それは王都のものではない。低く、規則的に打ち鳴らされる異国の戦鼓。


「……魔族だ」

 誰かが呟き、全員が息を詰めた。


     ◇


 城門の上に立ち、俺は北の地平を見渡した。

 黒い波のように広がる軍勢。槍を掲げた巨躯、翼を持つ獣、炎を纏う影。数は千を超える。

 王都の兵は三百に満たない。普通ならば一撃で蹂躙されるだろう。


「救世主殿……本当に、勝てるのですか」

 背後で兵士が声を震わせる。

 俺は振り返らず、ただ胸の奥の文字に意識を重ねた。


 ——《護域》。

 ——《泉出》。

 ——《糧生》。

 そして《審判》。


 神々の力が体を巡る。

 ここに至るまで、俺は何度も思った。なぜ自分が選ばれたのか、と。

 だが今、はっきりしている。


 ——この瞬間のためだ。


     ◇


 太鼓が止み、魔族の咆哮が空を裂いた。

 黒い波が動き出す。地面が震え、城壁が軋む。

 兵士たちの心が折れかけたそのとき、俺は声を張り上げた。


「恐れるな!」

 全員の視線が俺に集まる。

「俺は追放された無能だと呼ばれた。だが、神々は俺を選んだ! 昨夜までの敗北は忘れろ。今日、ここで勝利を刻む!」


 その声は魔族の咆哮をも押し返した。兵士たちの瞳にわずかな光が戻る。


「——《護域》!」


 俺の足元から光が走り、城門を中心に半透明の壁が広がる。魔族の槍が突き立っても弾かれ、炎がぶつかっても拡散する。

 兵士たちから歓声が漏れた。


「守られている……!」

「これなら戦える!」


     ◇


 だが、守りだけでは終わらない。

 俺は手を掲げ、次の文字を呼んだ。

「《泉出》!」

 光が地面を穿ち、澄んだ水が湧き出す。それを兵士たちは貪るように飲み、乾き切った体に力を取り戻す。

「《糧生》!」

 光が大地を覆い、瞬く間に穂が育ち、実を結ぶ。握りしめたそれを口にした兵士たちの顔に驚きと涙が広がった。

「う……嘘だろ……! 体に力が戻ってくる!」

「これが、救世主の力……!」


 兵士たちの槍が震えを止め、足が大地を踏み鳴らした。


     ◇


 最前列の魔族が壁にぶつかり、火花を散らす。

 俺は深く息を吸い、胸の奥に眠る最後の文字を解き放った。


「——《虚言灼》!」


 炎が槍の形となり、空に突き上がる。

 その光は嘘を暴き、虚勢を焼き払う神の裁き。

 炎槍が魔族の列を貫き、黒い巨体が倒れる。翼ある獣が炎に焼かれ、悲鳴を上げて墜ちた。


 兵士たちの声が揃った。

「勝てる……! 勝てるぞ!」


     ◇


 戦いは長かった。

 魔族の群れは次々に押し寄せ、壁を揺らし、空から炎を落とす。だがそのたびに《護域》が防ぎ、《泉出》が兵を潤し、《糧生》が力を与えた。

 兵士たちはもはや絶望に沈んだ敗残兵ではなかった。

 守られていると知ることで、彼らは立ち上がった。


 やがて、魔族の将が姿を現した。

 二丈を超える巨躯、漆黒の鎧、握る斧は城門を一撃で粉砕できるほどの質量。

 その咆哮が空気を裂き、兵士たちが息を呑む。


「救世主殿……あれを、どうにか……!」

 声は震えていたが、もはや絶望ではなかった。

 俺は頷き、前へ出た。


「俺が行く」


     ◇


 巨将が斧を振り下ろした。大地が裂け、土煙が舞う。

 俺は槍を掲げ、炎を纏わせる。

「《審判》!」

 光が走り、巨将の斧を受け止めた。衝撃で腕が痺れ、膝が沈む。それでも退かない。


「俺は無能と呼ばれた男だ! だが今、神々は俺を選んだ!」

 叫びとともに、炎槍を突き上げた。

 巨将の胸を貫き、黒い血が噴き出す。咆哮が途切れ、巨体が崩れ落ちた。


 沈黙のあと、兵士たちが一斉に叫んだ。

「勝った……! 勝ったぞ!」

 歓声は城壁を揺らし、都全体に響いた。


     ◇


 戦いの後。

 王城の大広間に集められた民と兵士の前で、俺は立っていた。

 勇者アルバードは震え、聖女リュミエルは蒼白な顔で膝をついている。

 民衆の視線は俺に注がれ、その声は一つに重なった。


「救世主……! 救世主だ!」


 王都は俺を追放した。

 だが今、俺なしには生き延びることすらできない。


 俺は静かに告げた。

「忘れるな。俺が救ったのは“民”だ。王族でも、偽りの勇者でも、聖女でもない」


 その言葉は、大聖堂の壁に深く刻まれた。

 真のざまぁは、ここから始まる。

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