1 晩飯
「ただいま」
「おっ帰りー!!」
塊が心底嬉しそうな顔で出迎えてくれた。片手に汚れの無いお玉……。もしかしなくとも夕飯の準備をしていたのかもしれない。
無言で視線を注いでいると、空いている方の手で私の手を握る。
「今日はねー、シチューだよ。紅葉ちゃんと別れた後、スーパーで具が安く売っててー」
それでお玉か……。塊は私の手を引っ張るようにして、キッチンまで連れて行く。鍋を覗くと火は消えているものの、ふよふよと灰汁が浮いていた。
なる程、丁度灰汁取りを開始しようとした所で私に捕まった訳か。
「手伝う」
「いーよ。紅葉ちゃんは座ってて」
そう言いながら私を此処から追い出そうとする。塊の趣味が灰汁取りであるなどと聞いた事が無いが、まぁ、好きにさせておこう。
面倒だからといって全て押し付けるのは申し訳ないと思いつつ、今日は彼に任せる事にした。私はテーブルに突っ伏してチャンネルをかちゃかちゃ回す。
えっと……岩悪……、レクイエム……まだ未放送だったか? 最近のアニメとは困ったもので、放送を予告して六、七ヶ月後に放送するのはざらである。前にも幾つかはまったものがあったが、今年放送となったら、その年の十二月三十一日まで含まれる。
極端に言うならば、一月一日に放送を予告し、十二月三十一日に放送開始するのも有り得ない事では無いと言うことだ。
「まだだよ」
塊が私の心理を見切ったように答えてきた。バケットの中には幾つかスライスされたフランスパンが入っていて、テーブルの上に置く。またキッチンに戻ってごそごそと戸棚を漁り始めた。そろそろ手伝う事にしよう。
「はい」
塊の横に立つと、彼は棚から見つけ出した深めの皿にシチューを盛り、私に手渡してくれた。“配給制”という単語が一瞬脳裏をよぎった。
黙って席に着いてチャンネルを回す。在り来たりなバラエティ番組が出てきたところで手を止め、前方に座った塊を見る。私と目が合うと僅かに首を傾け、スプーンでシチューを掬った。
「食べないの?」
「食べますとも」
フラットな声音で返し、私も黙って食べる事にする。ジャガイモが溶けてスープにとろみを付けている。味は濃厚。どういう訳だかチーズのような味がしないでもないのが特徴である。だからと言って嫌いな訳ではない。端的に言って好きである。
塊はテンポを崩す事なく一定のリズムでシチューを口に運ぶ。その様子は宛ら絡繰り人形のようだ。私にはまだ熱いので、スプーンで掬ってからおよそ五秒待つ。
「熱い?」
黙って頷き、空いてる方の手でフランスパンを一口かじる。そしてスープを啜る。旨い。
塊はもうシチューを食べ終えたようで、フランスパンを片手にちまちま千切っている。その小さな破片を口に入れ、退屈そうに咀嚼した。
そのまま黙って食事をし、キッチンに持って行く。塊は塊でフランスパンが入っていたバスケットを片手に下げている。私の横に立つと、中に敷いていたキッチンペーパーを取り、ゴミ箱へ。
「今日は私が洗う」
「そう?」
振り向き様に此方を見て、リビングへ移動する。
私はゴム手袋を着用し、スポンジ片手に洗剤を出す。軽く揉むと白いぶくぶくした泡が立ち込め始めてきた。それを皿に擦り付け、汚れを落とす。なんとも無心な時間。
塊はチャンネル片手にテレビを変える。やはりどうでも良い話題が飛び交っており、見ても面白くない。塊は結局テレビを消し、ソファでごろごろと横になる。
「先、風呂入っちゃって」
「ふあぁー……い」
面倒臭そうに起き上がると、渋々脱衣所へ。ふむ。時間は有効に使うべきである。
何故かうちのホワイトシチューは、一晩おくとチーズみたいな味がします……。
(そう言うものなのだろうか……?)
因みにこの現象を自宅限定で、『発酵する』と言ってます(・∀・)




